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いざ、西洋剣

「ん〜〜……」



ナンブ・リュウゾウが納得いかないかのように唸った。



「そもそもがよ、そんなにすげぇのか、西洋剣術ってのはよ?」



おう、サル。

お前今まで何見てたのよ?



「あんなんチャカチャカポイって剣振り回してよ、なかなかクリティカルのひとつも取れねぇモンだべ?」



アホの言葉に立ち上がったのは、やはりカエデさんだ。



「それでしたらナンブさん、ひとつ手合わせしてみますか? 私は片手剣の丸楯無し。ナンブさんは手槍でもなんでも、お好きな得物をどうぞ」



あ、怒ってる。私以上にカエデさんが怒ってる。



「おう、参謀のお姉ちゃんよ。柔の道のナンブ・リュウゾウだって、戦さ事にゃぁ手加減はできねぇぜ。吠え面かくんじゃねぇぞ?」



手槍をとって立ち上がる。

両者稽古場の中央に立って、ハッキヨイ!

サクサクサク、ナンブ・リュウゾウがいいように斬り刻まれる。



「あ、チャラチャラ攻撃して来るんじゃねぇよ! この、クソッ!!」



カエデさんは華麗な剣サバキ、ナンブ・リュウゾウの突きを反らしていなして、軽妙な太刀をドンドン入れてゆく。

そしてまずダメージの蓄積で、右手が使えなくなった。

次いで右足。ゴロリと横たわったナンブ・リュウゾウを、さらにカエデさんは攻め立てる。


そして身動きが取れなくなったところで、心の臓へトドメのひと突き。

先輩たちが止めるのも聞かず出撃したナンブ・リュウゾウ、敢え無く撤退となった。



「チッキショー!! なんだよアレ!? へのへの逃げて、チョコチョコの攻撃!! 男らしく堂々と撃ち合えってんだ!!」



憤懣やるかたないという雰囲気で、ナンブ・リュウゾウが復活してきた。



「そこを撃ち合わずに、一方的な攻性を支配するのが西洋剣術なんです」



いわばアウトボクシング、いわばヒット&ラン。

正面衝突上等主義のナンブ・リュウゾウでは、卑怯と罵ることしかできないだろう。

だがボクシングに例えたので、御理解いただけよう。


西洋剣術というのはまさに、蝶のように舞い蜂のように刺す。アウトボクシングのスタイルなのだ。

決してケチくさい、チョコチョコ戦法などではない。

果たしてそのことに、何人の人間が気づけるだろうか?



「それじゃあ他に、誰かやってみたい人は?」



はい、と手を挙げたのはユキさんと白銀輝夜さんの剣術コンビ。



「しかし君たち二人じゃ、西洋剣術の良いところを潰してしまう。……そうだね、近衛咲夜さん。君でいこう」



この場面は、まず西洋剣術の優位を知らしめるべき場面だ。

日本剣術が圧勝してはいけない。

そこで輝夜さんの相棒である咲夜さんにお願いしたという次第。



「う〜〜ん、難物じゃねぇ〜……」



素直にそう取っていただけて嬉しい。

のだが、咲夜さんは腕をピンと伸ばし切っ先から一直線。

そのうえで切っ先をゆらゆらと動かした。



「天神一流剣術、目録の技。『柳刀』……」



そう言って昆虫の触覚のように、切っ先でカエデさんの気配を探る。

これにはカエデさんも警戒、簡単には飛び込もうとしない。

ただ、片手剣をそっと差し出して切っ先を合わせた。


チリ……チリ……金属同士がこすれ合う、かすかな音。

シャリッ……先に仕掛けたのはカエデさん。

咲夜さんの刀を押しのけて、それから片手剣を回転させる。


咲夜さんはこれに素早く対応。

横薙ぎの片手剣をこちらも片手で受け止めた。

胴狙いだった。咲夜さん反撃、日本刀を片手で引っこ抜き両手で縦回転。


狙うはカエデさんの袈裟。

それをカエデさんは受け流し、またも反撃。

こうして両者は三合四合と撃ち合い、どちらもかすり傷ひとつ負わせられなかった。



「オーケイ、そのくらいで良いだろう」


私は二人を止めた。

これ以上はただの消耗戦でしかないからだ。



「どうだったかな、咲夜さん。西洋剣術のお味は?」

「ん〜〜っと、殺意はあまり感じられんかったねー。その分どこから来るか見えにくいし、柔軟な『柳刀』でなかったら、やられとったかも知れんねぇ」



そう、そこだ。

今回の敵は見えにくい、なにしろ殺気立っていないから。

いや、一般人からすれば十分に恐ろしい気配を帯びているのだろうが、日本古武道に馴れた私たちにとっては、平常心にしか見えない程度なのだ。



「ほいでの、リュウ先生。カエデってば私が殺気立つのを待っちょったようなんよね」

「そうだね咲夜さん、よく殺気立つのを我慢した」



すると今度はカエデさん。



「咲夜さんってば、なかなかその気になってくれないんだもん。力みさえ生まれてくれれば……」

「あ、やっぱり待っちょったんね?」



ここで結論だ。



「W&Aがこれから先、出くわす相手というのがこれさ。私たちが得意な殺気だ気迫だ精神力だ、というのを前面に押し出せば押し出すほど敵の思うツボというヤツだ」



そして、西洋剣術の慣れない動き。これもネックになってくる。



「では、どうしましょうか?」



プロ選手のヒカルさんが訊いてくる。



「まずは西洋剣術に慣れることかな? すべてはそこから始まる」



ということで、私も片手剣をとってみた。



「ヒョッヒョッヒョ、この齢になって新技術かい。これだから剣はやめられんのぅ」



翁も西洋剣を手にして、士郎さんとフジオカさんも従う。

さあ、全プレイヤーたちから蛇蝎の如く嫌われる、我ら『手加減シロヤーズ』。

いつもとは違う得物を手にしてその業前はいかなるや?

まずはヒカルさんを相手にした士郎さん。



「……なるほどな、相討ちの剣には丁度いい」



そう、ヒカルさんが「斬った!」と思ったタイミングで受け流し。

彼女の体勢を崩したところで手首を効かせた大車輪。

手傷を負わせる程度に留めておかなければならない稽古で、脳天唐竹割りのワンショットワンキル。


さすが気合いと気迫の草薙流、片手でもあっさりと命を奪う。

フジオカさんは器用だ。

中国武術のように華麗な剣さばき、サッサッサッとプロ選手のさくらさんをいなしてしまう。


さくらさんは手槍の使い手、しかし長得物は内懐へ入られると弱い。

何かをしようとしてもすべて無効にされるので、後退を余儀なくされてしまった。

翁こと緑柳師範は、さらに酷い。


薙刀使いのヨーコさんが、何かしようとすればキル。

何もしようとしなくてもキル、良くて部位欠損のクリティカル。

ヨーコさんは何もできない状態だった。


で、私。

相手はトヨムの実姉、斬馬刀のライである。



「ヘヘッ、リュウ先生。トヨムの馬鹿がいつも世話になってるね」

「実姉の目にはそう映るのかい? トヨムは天才だよ」

「喧嘩事の天才なんて、自慢にゃならないねぇ」



などと言いつつ、このライの才能もタダではない。

が、ベテランにして剣術家の私に喧嘩殺法は通じない。

そんなものは、切紙のときに卒業した。


ザンザンザンザンザンッ!

ライは剣も抜かずに迫ってきた。

良い度胸だ。


だが度胸というのなら日の本一、私は草薙士郎というアホを相手にしたのだ。

喧嘩師レベルの気迫では、微塵も揺るがない。

スコン……。

眉間に突き、ライは死人部屋へ。



「へっ、やっぱ本物の剣士さまは違うね」

復活してきたライは、トヨムのような口を利く。

そしてまたもやザンザンザンッ、肩を怒らせて迫ってくる。

またも眉間に突き、なのだが……。


1ミリずらしてきたか。

これは……? フン読めたぞ、このリトル士郎め。

復活してきたライは、三度目のザンザンザンッ。


一直線に進んで来る。

私は業を煮やしたように歯ぎしりしてみせた。

そして怒声を放つ。



「進歩が無いのかっ、この馬鹿タレがっ!!」



そして片手剣を頭上に振りかぶる。



「待ってました!」



ライの右手が走る、斬馬刀は鞘の内を疾走る。

逆手抜刀、私は上からライは下から。

鞘引きを十分にしているから、抜刀までの所要時間は半分だ。


そろそろ疲労っぷりがシャレにならなくなってきました。少し更新をお休みさせていただきます。次回更新は19日月曜日8時とさせていただきます。更新休んでも、仕事は休めないのよね。

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