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ネタばらしと御前会議

さてさて、カエデさんが嫌倒れしてしまったのでネタバラシといこう。



「カエデさんはガンスピンというのを知ってるかな?」

「へ? あのカウボーイがピストルを指でクルクル回して、スチャッと仕舞うアレですか?」



そう、あのガンスピンだ。



「あの曲芸そのものには、意味は無い。無いけど『俺は愛銃にこれだけ馴染んでるんだぜ』という意味では、なるほどよく馴染んでいる」

「そうですね、坂本龍馬顔のリュウ先生がやったら、シュールなのか史実なのか判断に迷いますが」

「あれを日本刀でやるとどうなるか。武術的意味合い無く、ただ格好良く刀を扱う動画があるんだけど」



カエデさんは「あ」、という顔をした。



「はい、知ってます! 術理や理合は置いておいて、ただ華麗に刀を抜いて振って納めるアレですよね?」

「アタイも知ってるけどダンナ、アレが西洋剣術とどう関係があるのさ?」



トヨムも興味を持って、口を挟んできた。



「わからないかな? 斬るつもりの無い……一撃必殺する気の無い剣術。一刀両断を狙わない西洋剣術と、相性が良さそうだろ?」

「リュウ先生は〜〜、そんな曲芸みたいな技まで稽古してたんですかーー?」

「そうだねマミさん、稽古の必要があるとは言い難いけど結論は斯くの如しさ」



曲芸全開の太刀、一撃必殺や一刀両断を捨てた太刀こそが、カエデさんを倒したではないか。

もっとも、これは曲芸剣術が西洋剣術に勝るということではない。

まして西洋剣術を曲芸などと揶揄しているのでもない。


一撃必殺病を治せと言っているのだ。

そしてあの『未知の技術に馴れろ』とも言っている。

一撃で相手を葬るなど、簡単にはいかないだろう。


相手だって必死なのだ。

そんな場面で一刀両断にこだわっていると、たちまち後手後手。

見るも無惨に斬り刻まれてしまうだろう。


そしてもうひとつ、未知の技は怖いものだ。

日本のサムライという文化はあまりにも有名になりすぎた。

そして時代劇や様々な文化のおかげで、日本剣術というものがどのようなものなのか、おおよその情報が漏洩してしまっている。


ところが西洋剣術はどうだ。

日本人では一部の好事家を除いて、その闘いがよく分かっていないではないか。

……負ける。


この条件では、世界に誇る日本剣術は苦杯をなめることになるだろう。

そして『西洋剣術最強』が謳われるようになり、日本やサムライという文化はリスペクトを失い、見向きもされなくなるだろう。

私たちが何を言っても聞く耳を持たれない、そんな風潮が蔓延ってしまいかねない。


サムライは強い。

サムライは凄い。

読者諸兄にもそんな信仰と願望があるはずだ。


しかしその強さ、凄味というものは不断の努力によって維持されているものである。

学ばなければ敗れ去る。

努力を怠る物凄いは一敗地に塗れる。


よく学び、よく励むからこそサムライは世界の尊敬を集めたのだ。

新たに台頭してきた勢力に、その座を譲る訳にはいかない。

Vtubeさんたちによって、今や世界中の注目を集める『王国の刃』である。

この場で私たちは負ける訳にいかないのだ。



「意気込んでいるところ申し訳ないのですが、リュウ先生」

「なにかなカエデさん?」

「どれだけ意気込んでも、リュウ先生はこの西洋剣術家と闘うことはできません」

「ほう、そりゃまたどういうことかな?」

「彼女たちはプロ選手の成長株です。おそらく『W&A』が春くらいに対戦することになるかと」

「なにーーっ!?」



なんてこったいルークコンタイ、なんたるチーアのサンタルチーア。

石頭の優等生とトンパチが極端な、全然バランスの取れてないあいつらが試合をするのかっ!?



「どうしましょう、リュウ先生?」

「……まずは、総裁に報告だっ!!」



あの一撃必殺病重篤患者どもでは、西洋剣術の餌食になるだけだぞ!






ということで、御前会議。

2MB(陸奥屋まほろば部屋)会長の天宮緋影を筆頭に、スポンサー兼陸奥屋総裁鬼将軍。

当事者のW&A、そして各小隊参謀と上級参謀。


さらにさらに、災害先生四名と陸奥屋まほろば連合構成員たち百五十名。

ダラダラと述べてしまったが、要するに総員集合である。

その眼前で巨大スクリーンに映し出される、西洋剣術の使い手。


片手剣をクルクルと回して敵を斬り刻み、ダメージが重なり部位欠損。

弱ったところでトドメの一撃。

軽妙なトリックスターも屈強なファイターも、果ては正統派プロチームも、みな手も足も出せずに敗退している。


そんな映像を見せつけられて、全体が嫌な雰囲気に包まれた。

それは道理だ、これまで『気合い・根性・精神力』の一本槍だった構成員たちだ。

華麗シュガーで洗練された技術を目の当たりにして、憤懣やるかたない思いなのだろう。


そしてそれは、総裁鬼将軍も同じようであった。

アゴの先に梅干しをこしらえ、なにか言いたげなそれでいて口にすれば不満にしかならないことを堪えているような。

しかもそのとなりで天宮緋影が、「なかなかに華麗な戦い方もあるものですね」などと感心したものだからたまらない。



「嘆かわしい」



鬼将軍は熱くなった目頭を押さえる。



「闘魂を全開に、なおかつ心屈することなく闘い抜く『王国の刃』において、勝てば良いとばかりにかくの如き姑息な振る舞い。実に嘆かわしい!

このような者どもがプロを名乗るとは、道に外れている!!」

「ですが鬼将軍、勝ちは勝ちですよ?」



天宮緋影も譲らない。



「しかしだね、ひ〜ちゃん。このような戦法、男子たる者は決して……」

「彼女たちは女性です。非力で体格にも劣り、そのような女性が知恵を絞って大兵を相手に奮戦しているのです。構わないじゃありませんか」

「だが……」

「鬼将軍、私はジムオーナーで貴方は提供タニマチ。口を出さずにお金を出すのが、タニマチのお仕事ですよ?」

「むぅ……」

「力士がお昼寝していたら、枕元にお小遣いを置いていくのがタニマチです」



まったくその通り。

タニマチが口を挟んでいては、ロクなことにならない。



「それでは鏡花、われらがプロチーム、だぶりゅ&えーは勝利できましょうか?」



イベントではないので、どじょうヒゲはつけていない出雲鏡花が答える。



「負ける要素の方が少ないかと」



ほう、門外漢の軍師が言うようになったものだ。



「頼もしい限りですね。それでは私は大船に乗った気分でお昼寝に入ります。鬼将軍、枕元にはお小遣いよりもプリンを置いておいてくださいね。あのなんとかプリンというものではなく、スーパーマーケットで売っている三個百円のプリンですよ、分かってますね?」



天宮緋影、早々に退場。

鬼将軍も苦い顔で退場。

それを見送ると、参謀長出雲鏡花は私たちに向き直った。



「緋影さまにはあのように申しましたので、先生方あとはよろしくお願いします」



おうっ、ちょっと待てやデコ助!!

手前ぇ上にはいい顔しといて、あとは下に丸投げかよ!



「え? ですがヤハラさんがいますし、カエデさんもいらっしゃるでしょう? 妙案は湧き水の如くという環境ですわ」



それは分かるが、だからって手前ぇ。



「あ、そうそう。もしも緋影さまがお嘆きになるような結果となりましたら、身に覚えのない借金が返せないくらいに降り掛かって来ますので、お忘れなく」



最後の捨て台詞がそれかよ!!

戻って来やがれ責任者、いや二度と戻って来んなっ!!

その背中に散々呪いの言葉を吐きつけたが、出雲鏡花はどこ吹く風。

むしろ称賛の声を浴びているかのような顔で去って行った。


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― 新着の感想 ―
[一言] 全ての作品と更新に感謝を込めて、この話数分を既読しました、ご縁がありましたらまた会いましょう。(意訳◇更新ありがとな、また読みに来たぜ、じゃあな!)
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