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その実力

カエデさんおすすめの新たなる敵。

その正体は、私の見立てでは西洋剣術である。

手傷を負わせて動きを鈍らせ、最後にひと太刀とどめの一撃を入れる剣術。

うん、よく分かる。大変に効率的であり合理的である。



「どうでしょう、リュウ先生?」



どう? どう? と私の返答を期待の眼差しで、カエデさんは待っている。

過去にどこかで、この手の西洋剣術を見ていたような気がするが、その時の剣士とは格段の腕前と言えよう。

しかし、だがしかし。



「申し訳ないがカエデさん、彼女の太刀にはロマンが無い」



上手が下手をいたぶるようにやり込める形? そこが気に入らない訳ではない。

余裕綽々な姿が気に入らない訳でもない。

そう、以前私は断じたはずだ。



『すべての日本人は一撃必殺病、あるいは一刀両断病を患っている』と。



かく言う訳でもないもご多分に漏れず、その病を患っているようだ。

やるなら嬲り者にするまでもなく、一撃必殺。

もしも可能ならば、一刀両断。


それこそがこの国の男子の心意気であり、見果てぬ夢。

あるいはロマンなのである。

だがしかし、西洋剣術を学ぶ少女にとって私の答えは不満なようだ



「え〜〜? でもいくらリュウ先生だってこんなスケベったらしい剣術、手を焼くんじゃないんですか〜〜?」



ハハ、此奴こやつめ。



「ところがね、カエデさん。このくらいの技は、私もできるんだよ」



ギョクッ!!

変な音がした。カエデさんが生唾を飲む音だった。



「え!? えっ!? うぇえぇっ!? 一刀両断主義、一撃必殺病重篤患者のリュウ先生が、これをできるんですか〜〜っ!?」



カエデさん、君が私のことをどう見ているか、よく分かったよ。

それはさておき。



「いや、私も稽古の一環として様々な刀法を練習したことがあるんだ。ちょっとそれを試してみようか?」



稽古場でカエデさんと対する。



「まずはカエデさん、君の西洋剣術を見せてくれるかい?」



カエデさんは軽い片手剣。

スラリと抜いて手首だけで縦回転させてみせる。

ふむ、出会った頃に比べれば随分と上達したね。


だが、私はより重たい日本刀を抜いて、同じように振り回してみせる。

居合の初手は大抵片手の斬りだ。

この程度の真似ができなくて、なんとしよう。


今度はカエデさん、片手剣を横に振って最後に背後から振り抜いてみせる。

私も水月の高さから横振り、首の高さで横振り。

そして背後に回した刀をこめかみの高さで振ってフィニッシュ。



「じゃあそろそろ、立ち合ってみるかい?」



私も剣を構えた。通常の握りではない。

刃は手の甲側、中指と薬指の間に柄を挟んでいる。

つまり、西洋剣術以上の変手なのだ。


これで斬る、剣を回す、そして突く。

両手で操作している訳ではないので、一撃必殺一刀両断とはいかないが、それでも片手操作くらいは可能だ。

あの重たい日本刀を片手で扱うなど、絶対に不可能だ。


うん、その意見はごもっとも。

いや、それでも二刀流があるんだできないはずがない。

ハイハイそれもその通り。


どちらの意見も正しい。

そしてこれが、私なりの解答だ。

さらに持ち替えをする。今度は刃を順当に。


しかし峰は床向き、顔の高さへ。

垂れ下がりそうな切っ先は、親指と小指で外側から支えている。

中指の一本拳のような形だ。

柄頭は鼻の前に。切っ先は当然カエデさん狙いだ。



「う……」



カエデさんもさすがにたじろぐ。

まあ、そうだろう。

日本のサムライが日本刀でフェンシングのように構えているのだ。


私を知らぬ者なら、「おじちゃん、大丈夫?」と訊いてくるだろう。

仮にも私を知るカエデさん、そしてトヨム小隊のメンバーだからそんなことを言わないだけだ。

狂気の日本刀フェンシング。


ではその効果は?カエデさんが片手剣を合わせてくる、私は軽く突いた。

刃の向きが上から左、左から下へと方を錐揉みさせながら突いた。



「クッ……!」



カエデさん、防御。

しかし刀には反りがある。

カエデさんの剣は大きく正中線を外れ、また戻ってきたところで私の切っ先が届く。


旨の革鎧に刺さった。

しかしキルにつながらず、クリティカル判定もいただけなかった。

ただ、革鎧のダメージは大きい。


私としては『まあ、こんなものか』というところだ。

今度はカエデさんが攻めてくる。

大きく剣を振り回し、手首だけの回転で振り回し。


私の身体のどこでも良いからと、果敢に攻撃をしかけてくる。

しかし軽い。私は刀を少し動かすだけで、十分に対処できた。

そしてカエデさんが大技に出てきた。


剣をそれこそ背中から回し、腕から身体からすべてを使い、大きく振り回してきたのだ。

間合いもばっちり、私の目を横薙ぎにするつもりだ。

カエデさんの剣に、私も刃を向ける。


カエデさんの剣は刀の棟に乗り上げ、跳ねるようにボヨンと弾け飛んだ。

大きく体勢が崩れる。

そこへ燕返し、逆にカエデさんの頭を目の高さで斬る。


兜無し、浸透剄を使うまでもなくカエデさんは即死判定。

まあ、今回は日本刀を使っている

。普段の木刀では、ここまでの判定はもらえないだろう。


復活してきたカエデさん。



「もう一丁いこうか」



意地悪ともとれるかもしれないが、私は宣言した。

そしてカエデさんも、「はい、お願いします!」と果敢に応じてくる。

私は片手中段、カエデさんは剣を立てて構えて間を詰めてくる。



「ほい」



間抜けな掛け声でカエデさんの脚を傷つける。

カエデさんは苦い顔。

何ひとつ反応できなかったからだ。


だって日本刀を片手持ち、振りかぶった一刀両断など望めない。

ならばノーモーションで斬りつけるだけだ。

つまり彼の西洋剣術の正体というのがコレだ。


一撃必殺をしないのは、しないのではなくできないからということ。

必殺を望むならばとにかく痛めつけて痛めつけて、動けなくなってから大技を繰り出すしかないのだ。

西洋剣術を卑しめる言い方になったので、フォローもしておこう。


いたずらに西洋剣術を女々しいなどと蔑むことなかれ。

我が国の剣道剣術使いの中で、彼らに対応できる者がどれだけいよう。

半端な剣術家剣道家では、ナマスのように斬り刻まれて絶命することであろう。


何故なら剣道家も剣術家も、技量至らぬままいたずらに一撃必殺などという夢想を抱いているからだ。

彼ら勝つためには最低限、彼らと同じことができること。

その上で日本剣術の特性を見せつけること。

これ以外に勝機は無いものと思われる。


革手袋を傷つけて、コンビネーションで革鎧も傷つける。

カエデさん、状況不利。



「ヘイヘイ、どうしたどうした」



カエデさんを煽る。キリッと歯を食いしばるが、その脚、小手、面に斬りつける。



「なぁダンナ、もう許してやろうよ」



勝敗の行く末を見切ったトヨムが忠告してくる。



「いや私もそうしたいのだが、カエデさんにはカエデさんの矜持があるようだ。徹底的にお相手しないと納得しないだろうさ」

「頭悪いなぁカエデ、何がそうさせるんだよ?」



それは私にも分からない。だが明らかにカエデさんはムキになっていた。



「そんな余裕もそこまでです! 行きますよ、必殺雲龍剣……」

「遅いよ、カエデさん」



私はスコンとカエデさんの眉間に刀を突き刺した。

カエデさんの必殺技と私の技、どちらが勝利するのかは興味深いところではあるが、今回の目的はそこではない。

とりあえずカエデさんをキルに追い込むことなのだ。


そこからチョンチョンチョンチョンチョン、と傷を与える。

するとカエデさんは大の字になって寝転んだ。



「あーーもうっ!! 好きにしてくださいリュウ先生っ!!」



いやカエデさん、スカートがめくれてスパッツ丸出しだぞ?



「なんでこんなことまで万能にできちゃうんですかっ!! 口惜しーーっ!」



仕方ないでしょ、私は剣術家であり、君は一般人なんだから。


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