アイドルゲームから、新たな敵
可愛らしいアイドルさんたちを相手に立ち回る、武将にチャレンジ♡アイドル版。
しかしいかにアイドルさんたちのキャラクター性を活かすとはいえ、爆発物や短銃、被り物が大口開けてくるというのはいかがなものか。
これではゲームの世界観が崩壊するぞと、純和風な装備の私がホザいてしまう。
そこへこれまた世界観を捻じ曲げてしまいそうな、ニンジャアイドルのクノイチさんが登場だ。
彼女のフィジカルはアイドルさん中でもピカイチである、のだが……。
「一人目、二人目っ、三人目っっ!!」
立て続けに三人葬った。
フィジカルピカイチ。そこが彼女の弱点だ。
何故ならフィジカルがピカイチとは言っても、それは現代体育に沿った動き。
つまり、ねじりと溜めが大原則。
ねじっている間、溜めている間に一撃を入れさせていただいたのだ。
以前申し上げただろうか。現代体育がリズムとビートであるならば、古流はメロディーであると。
その中でも古流は、いつ始まっていつ終わるかわからない、クラッシック音楽に極めて近いのだと。
たとえば空手家の宇城憲治氏という方がいる。
彼と腕相撲をした者は、いかに屈強であろうともあっさりと敗れてしまうらしい。
これこそがいつ始まっていつ終わるか分からないというモノだ。
宇城憲治氏の対戦相手は、いつ来るかの準備ができず簡単にひねり倒されてしまっているに違いない。
もしも読者諸兄が宇城憲治氏と腕相撲をしたとしよう。
もちろん貴君は「さあ来い!!」と腕に力を入れて構えているだろう。
だが、レディーGOの合図で、貴君はあっさり倒されてしまうのだ。
これを少し説明しよう。
「さあ来い!!」と構えている君は、物凄い仕事量をこなしているように見えて、実は仕事量ゼロの状態なのだ。
そりゃそうだろう。レディーの態勢は敵を押し倒していない。
ブレーキがかかっているのだ。
そう、アクセル筋肉を働かせている反面、ブレーキ筋肉も使ってレディーの態勢を保っているのだ。
そこからわざわざブレーキを解除してアクセルを踏み込もうとしても、最初にからブレーキを踏んでいない宇城憲治氏がアクセル筋肉をいきなり全開で踏み込んで来るのだ。
それも予備動作の無いクラッシック音楽の動きで。
勝てる道理が無いのも当然だろう。
まあこれは極端な例だが、クノイチさんの動きは私からすれば無駄だらけ。
「そのままスコンと入れれば良いのに」という動きの連発なのだ。
これではどれだけ身体能力が優れていても、無駄な努力でしかない。
現実のクノイチさんではないCPUではあるが、猛省していただきたい。
考えて考えて考えても答えは見つからず。迷って迷って迷って、なおラビリンスから逃れ得ず。
それが修行というものであり、稽古というものなのだ。
がんばれ、クノイチさん。
ただし私は武術家であり、君はアイドル。
日本中から注目され、世界から称賛と愛を浴びる者だ。
身分の差は大きい。
だからもし君が答えを見つけたいという欲求にかられて、フリーの身であったなら、我が門を叩いていただきたい。
臨終のときを迎えるまで、永遠に正解の無い旅を、一緒に楽しもうではないか。
だが今の君はまだ現役。
さらにお仕事に励み、世界中に幸せをばら撒く義務がある。
約束のときは、今しばらく先延ばしになりそうだ。
タンブリング、バック転。
様々な手段でクノイチさんはアプローチを試みるが、私はそのことごとくを打ち払いラスボスへと挑む。
……知ってはいた。彼女たちのボスはちんちくりんであると。
もしかしたら株式会社オーバー所属アイドルの中でも、もっともチビっちゃいのではないか。
そんなことは私も知ってはいた。
しかし実際に相対してみると、そのミニマムな姿はより引き立って小さい。
「不満ですかなリュウ先生。吾輩がチビスケなことに」
「いや、そんなことは無いさ」
これまで爆発物だ短銃だと、散々やらかしてくれているのだ。
もう何が来ても驚かない自信はある。
そもそもがこのちんちくりんボス、身の丈はチビチビなのだが立派な角を生やしている。
これで突いてくるか、はたまた外して投げつけてくるか。
すると彼女はだぶだぶの袖をめくり、重手甲の左拳を見せつけてきた。
その拳をこちらに向けて。
「必殺、ロケットパン……」
「読んでるわ、そんなモン!!」
脳天唐竹割り、真っ二つに斬ってすてた。
「さ、さすがリュウ先生……昭和生まれ、独身……」
最後は余計だ、最後は。
しかしここで、武将にチャレンジ♡・アイドル版の1stステージはクリア。
控えに戻される。
「いかがでしたでしょうか、リュウ先生?」
開発からの質問だ。
「アイドルさんたちの解像度は上々でした、非の打ち所がありません。ただ……」
「ただ?」
「爆発物に短銃、ロケットパンチはやりすぎなのでは?」
これでは世界観が変わってしまう。
このゲームはバリバリの肉体派、脳ミソまで筋肉で仕上がっているようなゲームである。
「むしろ今までの武将のように、刀剣と槍で襲ってくる方が良いのではないかと」
「ご意見ありがとうございます」
ということで、次はフジオカ先生が2ndステージに挑む。
なんともかんとも、刀剣による攻撃もあったのだが、それでも爆弾に火炎放射。
果ては目から怪光線などという冗談ステージの展開だ。
「ときに士郎さん、あんたはこれをどう思う?」
おふざけステージ未体験の士郎さんに訊いてみる。
「確かに、おふざけが過ぎているというなら、過ぎている。だが新規さんが求めているのが、『王国の刃』ではなく『アイドルさん』だったら?」
ほう、そう考えるか。
「どつきあいそのものよりも、いかにアイドルゲームをクリアするか?
俺はどこそこのステージまで行ったとか、誰それの攻撃がエグいとか。そんな楽しみ方を目指した番外編というのなら、有りかもしれない」
願わくば不正者諸君よ、どうか不正ツールを解除してこのアイドルゲームに入り浸ってはもらえないだろうか。
可愛らしいアイドルさんたちが、笑顔で君を迎えてくれるはずだ。
そして士郎さんもアイドルたちと闘い、緑柳師範もネコ耳さんの登場するステージをリクエストして、テストを終えた。
私の意見がどれだけ採用されるか、そしてこのコンテンツがどのように影響してくるか、それは私にも分からない。
「リュウ先生、新たな敵です」
二月に入って、カエデさんが目を輝かせながら教えてくれた。
「今度の敵は、ちょっと歯ごたえがありそうですよ」
いや、難物はカンベン願いたいのだが。
トヨム小隊の全員で、カエデさんのモニターを覗き込む。
少々長い両刃剣の女性だ。
ほぼ半身になって構えている。
相手は最近流行の軽装である。
足軽装備とも呼ばれるものだ。それに対してスイスイと突き技を入れてゆく。
足軽くんは軽い手傷を負いながらも、メイスで果敢に防御。
そして反撃に転じようとした瞬間。
「危ない!」
トヨムが反応した。
剣士さんは手首も柔らかく、クルリと剣を一回転。
遠心力を存分に活かした打ちを、足軽くんの小手に。
クリティカルだ、片手が使えなくなった。
「上手いね」
私は一言だけ。
足軽くんはメイスを捨てて、サイドアームの片手剣を抜いた。
がむしゃらに打ちかかってゆく。
しかし剣士さんはクリンクリンと手首を効かせ、ことごとく受け流してしまう。
そして受けると同時に上からのしかかるような突き技。
大ダメージだ。
うん、いやらしい相手ではあるが、浸透剄……つまりワンショットワンキルにはつながらなそうだ。
つながらなそうではあるが、いやらしい。