続く縁
ようやく【】無しで私の視点に戻って来ました。
貴女のリュウ、ハート泥棒キス泥棒、恋の狩人いまだ独身。
全世界の乙女の恋人、リュウが帰ってまいりました。
松も取れて仕事始め。
そんな折、陸奥屋本店から連絡が届いた。
株式会社オーバーが設立した特別稽古場。
これがそのまま存続、維持されるそうだ。
もちろん一般のプレイヤーたちは入室できない。
そんな場を維持するということは?
「アイドルさんたちが『王国の刃』を、配信に使ってくれるそうです」
アイドルさんたちとすっかり仲良くなったカエデさんが、説明してくれた。
「年に一度、株式会社オーバー最強トーナメントまでしてくれるそうですよ」
もちろんこれは機密事項だそうだ。
「そしてバトルの希望者があれば、他団体のVTuberさんたちとも交流試合を開催するとかなんとか」
「ほう、王国の刃もずいぶんと有名になるねぇ」
「他人事みたいに捕らえてますね、リュウ先生?」
「そりゃまぁ、他人事だからね」
「ところがどっこい、世界配信で強いところを見せつけた株式会社オーバーとしては、簡単に負けることはできません」
「なるほど」
「ニブいなぁ、リュウ先生。引き続きリュウ先生たちに御指導いただきたいって、株式会社オーバーからオファーが来てるんですよ?」
「私としては令和の御世に、人斬りなど生み出したくはないのだが……」
「プロチームの六人は、すでに立派な人斬りでは?」
「あれはプロレスラーだ。エンターテイメント性のある肉体派パフォーマーさ」
「認めたくは無いのも察しますけど、リュウ先生?」
「なんだろう?」
「古流の影響をハンパに受けた者は、すべからく人斬りになります」
「……………………」
「責任持って、人斬りを真人間に戻してください」
それではカエデさん、まるで私がヤクザものみたいな言い方では……。
「そんなことは言ってません。ただ単純に、先生方は人間兇器だとは言ってますが」
「どこがどう違うのかな?」
「ヤクザものは金銭のために動くだけ。人間兇器は事態を金銭に替える前に殺害しちゃいます」
「それはカエデさん……」
著しい誤解だ、と言いかけたが、「では最終兵器だと呼んで欲しいですか?」という言葉に潰されてしまった。
「あるいは歩く核弾頭とか?」
「御免被りたい」
「それではリュウ先生、アイドルさんたちへの御指導、お願いしますね?」
「引き受けよう」
……どうしてこうなった。
私はただ一途に剣を追い求め、後世にこの素晴らしい文化を引き継いでもらおうと願っただけなのに。
なにがどうすれば世界を相手のアイドルたちに、人斬り技を仕込む羽目になるのか。
ちなみに、セコンドというかアイドル軍参謀長は、やはりカエデさんが務めるようだ。
もうすでに株式会社オーバーから、給金が出ても良さそうな勢いである。
マミさんだってミッドナイト・ラジオとかやって遊んでいるのだから、カエデさんも番組のひとつも持ってはどうだろうか?
「あぁそれでしたら私、アイドルさんたちの番組で『必勝!! 王国の刃講座』を帯で持ってますんで」
持ってるのかよ!?しかも帯!!
「あ、明日はリュウ先生にもゲスト出演していただきますから」
あんたナニ言ってんの!?
「素人でもできる巻藁斬りっていうタイトルですから」
カエデさん、君はいつ悪魔に魂を売ったんだい?
すると私にメールが届いた。
ウィンドウを開いてみると、士郎さんからだった。
『よ、世界配信にまたまた出演おめでとう。アイドルのひとりもコマして来いや、独身』
うるせえよ、お前も絶対ぇに巻き込んでやっかんな。
「あ、士郎先生には来週のゲストで出ていただきますんで、話は通ってるんですよ」
手回し早すぎだろ、カエデさん。
そして、翌日。私はトヨム小隊と『迷走戦隊マヨウンジャー』の六人。
さらにユキさん白銀輝夜さんを率いて特設道場に入った。
巻藁斬りのお手本は私ひとりがいればそれで良し。
しかし非力な女性が鮮やかに斬ってこその技。
ということで剣士二人にお越しいただいた。
そしてカエデさんからのリクエストで、六人制試合のちょうどいい相手ということで、マヨウンジャーの六人も参加している。
稽古会参加者のアイドルさんたちの顔ぶれを見る。
AチームBチーム、その他のチームを組んでいない数名。
では、Aチームのメンバー紹介。
年末の本隊とも言うべきメンバーたちだったが、若干の入れ替えがあった。
まずは隊長さん。
彼女は私の見立てでは剣道経験者。
というか三段くらいは持っていそうだ。
その相方か、前衛の壁役をまかせられそうな新顔。
つまりキキさんではない。
ショートカットのデキる女系、鷹崎メイさん。
そして中堅、「ちゃ〜〜っす!!」の声も高らかな御存知カモメさん。
フィジカル番長の忍者でゴザルさんもいる。
さらには腕相撲チャンピオンのソナタさん。
後衛の相方はメイドのミナミさんではない、スレンダーな体型でキビキビ動くハツリさんだ。
続いてBチーム。
筆頭として立つのは艦長さん。
その陰に隠れてミナミさんがいる。
さらには始祖アイドルの相川海さん。
トロいと言っては失礼だろうか、巫女さんとシャープな立ち姿の歌姫、流星お嬢さん。
さらにはなんでここにいるのかと問いたくなるような、巫女さん以上のトロ臭さ、メカニカルパーツを身に着けた奈保子さんがいる。
さらに個人参加のウサギさん、ワンニャンコンビにピンクのオオカミ? 遠吠えがのてないにないあるいは金狼ヨミさんにキツネさんなどなど。
キツネさんなどは、「いやぁ、公式アニメで刀を使ってしまってるので。少しくらい使えた方が良いと思いましてー」と、なかなかに殊勝な心掛けでの参加。
では、稽古に先駆けて私から。
「本日の稽古はすべて日本刀を使用する。理由はひとつだけ、私が得手とするのは日本刀を使用した剣術だからである」
もちろん槍なども使えることは使える。
しかし餅は餅屋だ。
ここは全員に日本刀を揃えてもらう。私の腰の物も木刀ではなく、今日に限っては胴田貫なのだ。
「そして本日の稽古目標は、全員に巻藁斬りを成功してもらうので、覚悟のほどを」
「それって巻藁斬るまで帰れまテンって奴ッスかーー?」
カモメさんが訊いてくる。
「それでも私は構わんよ? やってみるかい?」
「おい、聞いたかみんな!! リュウ先生が今夜寝ないで付き合ってくれるそうだぞ! 気合い入れて行こうぜ!」
「艦長さっさと巻藁斬って、サッサと寝たいんですけど!!」
周囲に笑いが起こる。
全員が日本刀を購入、さらには角帯を締め込む。
そこに刀を差し込んで、いよいよ稽古の始まりだ。
アイドルさんの衣装は様々、しかし角帯に刀を落としている。
私からすれば、それだけで充分。
「剣を抜くときは、まず親指で鯉口を切る」
雰囲気たっぷりに親指で刀の鍔を押し出した。
チャキッ……命のやり取りを始めるためのゴングだ。
「気をつけろ、親指を切るぞ」
そう、これは地球上でもっとも鋭利な刃物、日本刀なのだ。
うかつに扱うな、と釘を刺しておく。
全員の顔に、緊張が走った。
「ゆっくりと抜いてください。そのとき左手で鞘を腰の後ろまで引き込んで……」
私は目を怒らせた。
「鯉口を握る左手!! 指の固さを緩めるなっ!!」
刀を抜くときには、親指と人差し指の接触を固く固くキメる。
そうして刀身を挟み込んでやらなければ、刃が暴れてコントロールが効かなくなる。
我が身を傷つける結果になってしまうのだ。刃で指を傷つけたくなければ、ガッチリと刀身をはさみ込め。
fまるで虎の前に立たなければ、虎子を得られないという例えのような話だ。スラリ、と私は熟練した動きで刀を抜く。アイドルさんたちもまた見様見真似でぎこちなく刀を抜いた。