全滅への経緯
【アイドル・ハツリ視点】
必殺・雲龍剣。カエデ参謀の必殺技だと聞いている。
その原理は不明だけれど、どうしても説明してくれというなら『雲龍剣、敵は死ぬ』というところ。
そこに挑むトヨム小隊長。
原理のわからない技に、どう立ち向かうのか? トヨム小隊長は左前のオーソドックススタイル。
いや、極端なくらい左を前に、右は後ろに引いている。
引いた右拳は高く、頭の横につけていた。
手甲には鉄を仕込んでいるようだ。
それなら右から……抜き付けによる初太刀は受け止められる。
面はそれで良い、では胴を狙われたら?左の拳、グローブに何を仕込んでいるか? そこにかかっている。
トヨム小隊長、左腕を垂らしてL字に曲げたヒットマンスタイル。
対するカエデちゃんは? 直立、いや一番最初に習った常の構え。
左手で腰の鞘をグイと引きつけている。
いつどのような仕掛けにも応じられるように、という構えだ。
さあ、どうなる? 剣の柄に手がかかる。
トヨム小隊長はすでに剣の間合いの中。
静かに、囁くようなカエデちゃんの声。
「必殺、雲龍剣……」
発動、剣が鞘走る。
小隊長の拳も飛んだ、左だ。
カエデちゃんの右小手を打った。柄から手が離れる。
そしてカエデちゃんの顔面に右。
驚くほど間合いは詰まっていた。その間合いが急に開いた。
小隊長、後退。カエデちゃんが逆手で剣を抜き出し、切っ先を跳ね上げたからだ。
【白銀輝夜視点】
小隊長は極端な半身で急所の銀座通りを隠して構えた。
さらに細長い腕でガードを固め、強固にブロックしている。
これを外せない訳ではない。しかし、二手かかってしまう。
ガードを破壊してから、トドメの一撃だ。
おそらくゲーム内浸透勁を放っても、ガードの腕を破壊するのみでキルには至らないだろう。
それからの急所攻撃となれば、どうしても二打必要になる。
その隙を許す小隊長ではなかろう。
なにしろ腕は二本あるのだ。
小隊長がジリジリと間を詰めて、剣の制空権に足を踏み入れた。
「必殺、雲龍剣……」
カエデどのが、鞘内の剣をスタートさせる。
その右小手をジャブで弾く。
上手い。
というか、あの間合いでよく拳が届いたものだ。
それだけ小隊長の踏み込みが鋭く、厳しいものだったのだ。
すでに間合いは拳のもの、小隊長は躊躇なく右の拳を発射した。
が、後退を余儀なくされる。
左足を大きく引いての逆手抜刀。
これで小隊長の腹、アゴを狙ったのだ。
しかしカエデどの、それでは死に体、もう次の手は無いぞ。
小隊長突進、カエデどのの懐に飛び込んだ。
しかし、足がもつれる。カエデどのの右拳が、小隊長のアゴ先をかすめたのだ。
どういう身体能力をしているのか、カエデどのは。
あの野獣小隊長に一発を打ち込むとは。
いや、カエデどのは以前公式戦で、士郎先生から百回に一回の勝ちを得ている。
そのときは確か、『必ずそこに来る士郎先生の足』に手裏剣を打ち込んで、動けないところを雲龍剣で仕留めたはず。
となれば、今回は雲龍剣をエサにして小隊長を誘い込み、ここぞという一発を決めてみせたのだろう。
小隊長は必ずそこに来る、と信じて。
よろめく小隊長、カエデどのはその背中目掛けて、剣の切っ先を……。
突き込めない。
よろめく小隊長が、カエデどのの太ももにしがみついたのだ。
カエデどのは振り払おうともがく。
小隊長は必死にしがみつく。
お? 小隊長が太ももの外側に耳をつけたな。
効かない脚を励まして、カエデどのの太ももへさらにからみつく。
無理繰り遮二無二のプロレス技、ドラゴンスクリューでカエデどのを投げ飛ばした。
空中で強く錐揉み、強烈な回転のままカエデどのは地面に叩きつけられた。
鈍く湿った肉の音、即死状態の死人部屋送りである。
この一戦、同門対決は辛くも小隊長の勝利となった。
とはいえ小隊長のダメージも深い。
まだ戦闘を再開できる状態ではなさそうだ。
そんな小隊長に、アイドルたちは刃を向けた。
私とユキどのは小隊長をかばうように立ちはだかった。
……のだが、その必要は無かったようだ。
アイドルたちを背後から襲っていたシャルローネどのが、最後の一人まで葬っていたからだ。
【トヨム小隊長視点】
おのれカエデめ、飛び込んだところに右を合わせてくれるなんて、味な真似をしてくれるぜ。
死人部屋送りこそ免れたものの、身体が上手く動かせなくなっちまったじゃねぇか。
切っ先を向けてくるアイドル軍団。
幸いなことに白銀輝夜とユキがアタイをかばってくれている。
そしてさらに幸いなことに、アタイに刃が向けていたアイドルたちは、シャルローネが全員片付けてくれたみたいだ。
「敵軍は全滅しましたわ。最後の最後にビリー将軍も討ち取ったみたいですわね。みなさま、ダメージ等々がリセットで戦闘再開ですわよ」
おう、ビリーの大将も討ち取ったか。これでスコアは2ー1で優勢だな。
で、出雲鏡花よ。また全軍突撃でもやらかすのかい?
「続く三戦目はジャスティス隊長にポイントマンをお願いして、ネームドプレイヤーさんたちは防御の位置についてくださいませ」
ほう、また当初の作戦通りかい。
なるほどな、あくまでアイドルさんたちの奮戦を主題に置くってことか。
よし、イイぞ。
思いっきりかかってこい!
「あら、カエデさんったら。今度は右翼から攻め込んでくるおつもりのようですわ。ネームドプレイヤー・レディースのみなさま、右翼に集まっていただけませんこと?」
簡単に言ってくれるな、お前……。
武器を担いで西から東へ、とにかくカエデたちの動きに合わせて、アタイたちも大移動。
しかも今度は「出番を均等に」との指示で、誰が矢面に立つか具体的な指示がされていない。
さらに悪いことに、どいつもこいつも出たがりな連中ばかり揃っていやがる。
「やあやあ、ここはまほろばの飛車角、私と瑠璃の出番じゃないかな?」
「いえいえ芙蓉さん、ここはウチのいずみに見せ場を譲っていただきたいですね」
「このままではお姉さまが、非道技の極悪グラップラーなのですよ。葵お姉さまに、ぜひとも出番を!」
このままじゃ議論に決着がつかない小田原評定って奴だ。
誰かが鶴の一声で決定お出してやらなくちゃならない。
「いいじゃん、出たい奴はみんな前線に出な!! ケツはアタイが持ってやるよ!」
そう決めつけてやると、自薦他薦を問わずゾロゾロと前に出ること出ること。
お前ら、本当にこういうの好きなんだな。
……って、ユキに白銀輝夜!! お前らもか!?
「ははは、なんだかんだで今日この日のために稽古してきたようなものですから……」
「私ももう少し敵を斬っておきたいのでな」
この好き者どもめ、どんどん行きやがれ、後方はアタイが背負ってやるからさ。
さあ来たぞ、カエデ率いるアイドル軍団だ。
【カエデ視点】
あわよくば追加点、あわよくば逆転劇を目論みましたが、なんでもかんでも上手いこと行くほど人生は甘くありません。
逆に突き放されて、簡単に追加点を許してしまいました。
ですがそんなことでめげるアイドルさんじゃありません。
「簡単にポイント取られちまったが、ここは地道にコツコツと基本に帰ろうじゃないか!!」
カモメがリーダーシップを発揮する。
そしてその方針は、私の考えと同じだった。
そしてここまで温存していた秘中の手、いよいよ出すときが来たようですね。
「まずは基本の二人一組、三人一組を旨とします。その上で、ナイショで稽古してきたアレを使いましょう!!」
「アレか……」
「いよいよ使うんですね、アレを!?」
「まずは敵軍を揺さぶります!! アイドル軍、敵の左翼へ進軍!!」
進軍、今の私たちには、特に服装にはその言葉がよく似合う。
陸奥屋まほろば連合の男性プレイヤーたちは、私たちに気づかいしてくれるように道をあけてくれた。
アイドルたちの中には、男性との共演NGな娘もいる。
男性プレイヤーたちはがかくにすら入らないようにしてくれた。
そしてネームドプレイヤー・レディースたちが大移動しているのが見える。
その布陣は……。
最前線にオールスター総出撃ですか……。