天王山
【カモメ視点】
敵陣営から忍者とトヨム小隊長は外すことができた。
だが『まほろば』から六人の女の子。
その他にもシャルローネちゃんにユキちゃん。ボクサーのアキラくんのフィー先生と、まだまだ強豪が顔を並べている。
人数では勝っているけど、質は低い。
これをどうするか? そこは軍師どのの策略をうかがおうじゃないか!
「二人しかけずれなかった、二人しかけずれなかった、二人しかけずれなかった……」
ちょっと軍師どの!? 二人も削ったじゃないっすか、もう少し頑張ろうよ!
「カエデ参謀、しっかり行こう!!」
後方の本隊に陣取るヤハラ参謀長からも檄が飛んだ。
「そうなのらよカエデちゃん! 二人しかけずれなかったなら、ムニたんが三人引きつけるのよさ!」
「それじゃあ私も……四人五人と担当しよっかな?」
始祖の相川海ちゃん先輩まで!?
「そうだよカモメ、達人先生に導いてもらった今ここが天王山! なんとしても鬼将軍の前に、ソナタんたちを送りつけるんだから!」
今日何度目の誓いの言葉か。
そうは言うけど、いよいよここが正念場なんだ。
そのことを思い知らされる。
「行くぞ」というカモメの声に、「おうっ」と応えてくれたみんな。
その期待を、スタッフさんたちの期待を、そして世界中の期待を背負って、カモメたちは征くんだ。
「さあさあ、陸奥屋のみなさん! 女の子たちがかかってこいって言ってますよ! 誰が出てくるんですか、ヘイヘイ!!」
気を取り直したカエデ参謀が敵を煽る。だけどまだ顔色が悪い。
だけどとにかく敵の人数を削るんだ。
アイドル軍はそれ以外に勝機が無い。
「それじゃあ、ムニたんのお相手はボクたちがしよっかな?」
拳闘士のアキラくん、グラップラー葵ちゃん。
嘘かホントかしらないけど、かつて葵ちゃんはトヨム小隊長の目をえぐったとかなんとか。
そして三人目は、葵ちゃんを『お姉さま』と慕う妹分の歩ちゃん。
「それじゃあ海ちゃんのお相手は、私らが出ようか?」
巫女剣士の近衛咲夜ちゃん、ワンコニャンコたぬきのアニマルな三人。
そして薙刀の比良坂瑠璃ちゃん。
豪勢に五人も出してくれた。
残る敵は、かなめさんに執事さんと実力未知数なメイドさん。
剣士のユキさん白銀輝夜さん、薙刀からはフィー先生と御門芙蓉さん。
アイドル軍は撤退1と人柱が3。残る人数は三〇ってとこか……。
敵も絶妙な割り振りしてきたな。
この陣地を突破できるかもしれない、できないかもしれない。
ほんとうに絶妙な割り振りだ。
【剣士ユキ視点】
ん、カエデさんもここを山場と踏んだんだね。
そして小隊長……というかかなめさんもそれを汲み取っている。
味方の人数は減らされちゃったけど、それでも致命傷にはなってない。
この面子なら、絶対に守り抜かないとね。
たとえ敵が三倍の人数でも。
お、葵さんが動いた。お姫さまの目に親指突っ込んで、強烈な足払い。
宙に浮いたムニたんは風車のようにブンブンと回転。
その顔面にアキラくんの右! 地面に叩きつけたところで、歩ちゃんがマタギ刀で胸を突く。
ワンショット・ワンキルどころか、三人掛かりの瞬殺劇。
「またのお越しをお待ちしております」
さすが茶房店主、惨殺劇を演じておきながらニッコリ笑顔でムニたんを見送った。
「え!? えっ!!?? ぅえぇっ!? 艦長もあんなことされちゃうのっ!? ちょっと聞いてないんですけど!!」
「仕方ないさ、艦長さん」
「あぁ、艦長さんはアタイたちにとっちゃ天敵だからな……」
「え、なにそれ!? もしかしてこの美貌!? あふれ出る色気が、同性の反感を買っちゃうのかしら!? 美しいって罪なことだわ!!」
「おう、そのデカすぎる乳がアタイたちの反感を買うのさ!」
「往生せぇやぁっ!!」
忍者も小隊長も、残念な胸のサイズでしかない。
そして始祖アイドルの相川海ちゃん。
セミからロングのサラサラ髪で、絵に描いたような美少女(スタイルも良し!!)。
そんな海ちゃんに、まずはたぬきが突っかかる。
「海さんなんかに、丸顔で生まれた悲しみが分かるもんかーーっ!!」
たぬき、何言ってんの?
「え〜〜? たぬきちゃん可愛いじゃない♡」
「え、ホントですか? デヘヘ……」
「隙あり、エイッ!」
「キャッ、まな板鎧がやられましたっ!!」
意外と姑息ですね、アイドル。
「こうでもしないと、たぬきちゃん強いから……」
「いやぁ、強いのがバレちゃうのって、悪い気がしませんねぇ」
「隙あり、エイッ!」
「し、しまった撤退です〜〜!」
いや、たぬき。それは無いんじゃないかなぁ……。
「やった海ちゃん、一人撤退させたよ!!」
カモメさんなんて大喜び。
あの、君たち本陣へ乗り込むのがお仕事でしょ?
お仕事しようよ。
「ん〜〜……ニャンコとしては、温かいお部屋でぬくぬくしてたかったニャ……」
モーニングスターを片手に、二番手のニャンコ。
だけどこの得物、片手持ちの短い間合いしかなくって、あえなく撤退。
アイドル海ちゃんの二人抜き。
「あ〜〜これ以上の蹂躙は、この私がゆるさんぜよ……!」
セリフ棒読みの咲夜さん登場。
腰の刀を抜いたけど、全然迫力が無い。
あ、そっか。上の方で海ちゃんに傷をつけないように取り決めがあるんだね?
「それではユキどの、そろそろ参るか」
「そっですね、輝夜さん♪」
やっぱり見てたんだね、輝夜さん。
みんなが海さんの立ち回りに気を取られてる隙に、カエデさんがアイドルさんたちを引率して、こっそり防衛線の脇を抜けようとしているのを。
もちろん気づいている私たちは、気配を消してその正面へと移動する。
先んじて配置することに成功、カエデさんとアイドルたちが私たちを見止めると、「あちゃ〜〜」という顔をした。
「カエデどの、そのような顔をされては私もつらい……」
「そうはいいますが輝夜さん、今この場所でツワモノの顔は見たくありませんでしたよ」
「なるほど、見たくなかったのはユキどのの顔か……」
「ややや輝夜さん、私なんかより輝夜さんの方が」
「ご謙遜めさるなユキどの、同じ目録だとしてもユキどのは卒業間際の目録。私は入門したての目録」
「ややや輝夜さん」
「いえいえユキどの」
こんなやり取りをしていると、カエデさんがこっそりすり抜けしようとしていた。
そんな貴女にぬるい抜き付け。
カエデさんでも受け止められる程度に。
実際、カエデさんは間一髪で受け止めた。
「釣れないですね、カエデさん。カエデさんのために二人で言い争いしてるのに」
そのままこっそりすり抜けだなんて、そりゃ無いぜセニョリータ、ですよ?
「どうしても行かせてはもらえませんか?」
「えぇ、とくにそちらのぺったんこ小隊の六人は」
「そうか、ならばこの場でぺったんこさんたちを斬れば良いのだな、ユキどの」
抜けば玉散る氷の刃、大人型プレイヤーを斬るところから惨殺劇ははじまった。
「ぺったんこを守れーーっ!!」
「そうはさせぬわっ!!」
輝夜さんの刃がさらに冴える。
そして残るネームドプレイヤーたちも騒動に気づき、抜け駆けアイドルたちに襲いかかった。
「なんの負けるな、押し返せーーっ!!」
超接近戦の大乱闘、カエデさんが何か指揮を取っている。
こちらで指揮を取れるのは……かなめさん!! 状況をお願いします!
「アイドル軍からニ名、総裁の元へ! 手空き……誰もいないのっ!?」
しまった、もう誰もいないなんて!
「輝夜さん、ここをお願いします!」
「わかったユキどの、頼んだぞ!!」
間に合うか、間に合え私、間に合わせるんだ。
「えぇい邪魔だっ! 道を開けてください!」
「クッソユキちゃん、ここはカモメが通さないぞ!! ここが今日イチ、カモメの見せ場なんだーーっ!!」
あ、知ってる……これが特攻だ。
「カモメ先輩が逝った世界に、隊長はいないんだよっ!! ユキちゃん、覚悟ーーっ!!」
参ったなぁ、特攻二人がかりだって。
老いた元空母乗りが告白してたっけ。
『特攻隊は恐ろしかった。お前を殺してやるという殺気を、直接ぶつけられるんだ』
その殺気を二人分、私は浴びせられている。