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大乱

ジョージ中隊、征く


「中隊メンバー、揃ったかっ!?」



俺は全員の顔を見回した。

全員死に帰りを果たしている。

つまり俺たちは、またもや阻まれ全員が撤退させられたのだ。

全員が揃っている。



「今回はどこまで攻め込めたんだ!?」



相棒のハギワラに問いかける。



「前回が65%、今回は70%まで食い込めました!」



よし、確実に乗り込めている。敵陣を食い破るのはもうすぐだ。



「ジョージ隊長に提案!」



ヒナ雄隊長が手を挙げる。



「ただ闇雲に突撃しても勝てません。ここは長物の『情熱の嵐』が先鋒を務めます!」

「勝機はあるか!?」

「次鋒中堅のフォローがあれば!」

「では、最後のオオトリ、決勝は誰が決めるか!?」



俺が言うと、視線が集まってきた。



「もちろん、ジョージ隊長!! お願いします!」

「それでは我々カツンジャーは、『情熱の嵐』が開く突破口を拡大しようじゃないか」



海賊キャプテンが力強く約束してくれた。



「ならば我々マヨウンジャーは、ジャスティスの六人を最後まで守ろう」



マミヤさん、すまない。

詫びは腹の中だけで。

なぜなら俺は隊長だからだ。湿っぽい話は許されない。

だから景気のいい掛け声を出すんだ!



「ジャスティス中隊、今度こそ敵将を討ち取るぞっ!!」




ハツリちゃん視点


先生方がいないからって、それが何だって言うの?

男山大学剣道部のみんなが守ってくれないからって、出来ないって言うの?

それはちょっと舐め過ぎなんじゃないかな?


アタシたちを誰だと思ってんの? 株式会社オーバー所属、バーチャルアイドルなんだよ?

毎日毎日配信配信、歌を歌うんだったらボイストレーニングに通わなきゃだし、ダンスのレッスンもしなきゃいけない。


雑談するなら雑談のためのネタ探し、ゲーム実況だってゲームの腕を上げないといけないし、ゲーム中のトークの話題も必要。

とにかく毎日努力、毎日必死。

それが日常のアタシたちだよ?


運営やファンの無茶振りだってこなしてきたんだ。

みんな知ってるかな? アイドルってのはね、ファンが期待してくれたなら、万人のツワモノをも泣かせることができるんだ。


ファンが応援してくれたなら、剣豪だって打ち負かしてみせちゃうゾ☆

ファンのみんなが背中を押してくれるから、怖い怖い鬼にだって立ち向かえるのさ♪


だからお願い、みんな。


ハツリの背中を押して。


ガクガクとヒザなんか震わせてないで、打ちのめしてやれって応援して。

そうでなきゃあんなおっかない鬼を相手に、戦いなんて挑めないからさ……。

すごい、殺気って言うの? そのおかげで目が遠近感を失って、この出来事が現実じゃないみたいに感じる。


まずは薙刀の鬼三匹が立ちはだかる。

ポニーテールとボブカットの巫女さん、そして童顔の女の子フィー先生だ。

これに挑むのはアイドル長得物小隊の六人。


つまりカエデちゃん参謀による二対一作戦だ。

そしてアタシたち刀剣部隊にも指示が飛んでくる。



「衝突した瞬間から乱戦になりますから、後衛のみなさんも油断しないでください」



二人の鬼巫女さん、薙刀をゆったりと構える。



「さあ、行きますよ……三……二……一……突撃ーーっ!!」



六人の突撃兵がゆく、アタシたちも後に続いた。

まずは初太刀を得物で受け止める、二番手が鬼巫女に一撃……は受け止められた。

三の太刀、これは一人目の再攻撃だが、




鬼巫女の袖をかすめた。


押している、武の専門家を相手に押している。

あっ、ウチの長物兵に敵の剣士これまた巫女の白銀輝夜さんが襲いかかった。

ハツリちゃんガード!!


ふおっ、ディフェンス成功!? やった、専門家の太刀を受け止めたよ!



「ハツリちゃん、危ないっ!」



うぇ?輝夜さん、アタシを見ている?

そんな熱い眼差し向けちゃ、イヤン♡

だけどその必殺の太刀は、始祖ちゃんが受け止めてくれた。ナイッスー♪

助かったよ、始祖ちゃんありがとー。



「二人一組です、側の人を相棒バディにして、二人一組編成で戦ってください!」



カエデちゃんの指示も必死だ。

数名を指名して左へと移動させる。

それに続かせるのは、決戦部隊の十二人だ。



「させないぞ、カエデ!!」



ベリーショートの赤い髪、チビっこくてやせっぽちの褐色肌。

アイドルたちも思わず推している娘が多い、名物小隊長のトヨムさんだ。



「邪魔しないでよ!!」



手にした剣で護衛が斬りかかる、けど同時に消滅。

消滅!? あっという間の死人部屋送り!?

そっか、ネームドプレイヤー級だと、ワンショット・ワンキルの技術があるんだっけ。



「ハツリさん、護衛の位置に移動してください! ってゆーか、ウチの小隊長止めてーーっ!!」


おお、そうだ。

あのままトヨム小隊長の好き放題を許したら、決戦部隊が全滅しちゃうもんね。



「ハツリちゃん、行くよ!」



始祖ちゃんが先に飛び出した。

その間にも、十二人のうち一人が撤退。

早い、早すぎるよトヨム小隊長!



「それ以上の蹂躙は、この相川海が許しません!!」



始祖ちゃん、この期に及んで名前公開。

って、ンなこと言ってる場合じゃない。

海ちゃんの攻撃に合わせて、アタシも小隊長さんを妨害しなきゃ。


海ちゃんは腰だめの突き、アタシは八相からの斬り込み。

だけど小隊長、そのふたつをヒラヒラと躱す。

すごい、武器の攻撃が怖くないの!?



「やんのかコラっ! 覚悟してんだろうなっ!?」



小隊長さんの怒りの声。

だけど海ちゃんは平然と応える。



「覚悟ができてなきゃ、小隊長さんにケンカなんて売りません!!」



だけど切っ先は小隊長さんを狙っている。



「よし、そのケンカ買ったっ!!」



ゲンコツ固めて、小隊長さんが詰めてくる。

その足を止めたのは、よくやった白ギツネ! 小隊長に切っ先を伸ばして、一瞬その足を止める。

前屈みで突っ込もうとしていた小隊長、後ろへ身を仰け反らせた。



「もらったーっ!」



海ちゃんは果敢に突き技、だけどカウンターを取られて一撃撤退。

アタシも同時に攻め込んだけど、軽く足でさばかれる。

さばかれた先で、殊勲の白ギツネが撤退させられた。


え!?

残るはアタシひとり!?

アタシが小隊長と闘うの!? どうしよどーしよ!!



「頑張れハツリちゃん!!」

「小隊長なんかぶっ飛ばせーっ!!」

「ハッちゃんハッちゃんしっかり!! 俺がついてるぞ!」



肉声の声援。

今はチャット欄なんて見る暇無いから、ゲーム内で届く声。



「なんだコンチキショー! お前らやっぱアイドルの味方かよ!!」



小隊長が怒りをあらわにする。

だってこの声援って、陸奥屋の男衆。

ハツリのファンのみんなだから。


嗚呼、あんなこと言わなきゃ良かった。応援があればアイドルは無敵だなんて。

もうこれ、行くしかないでしょ。

ファンのみなさんゴメンナサイ。お父さんお母さんゴメンナサイ。



ハツリは今日、産まれて初めて命を粗末にします。



「お祈りは済んだかい、お姉ちゃん?」

褐色の殺人鬼がアタシを見る。

やば、目が合っちゃった。

途端に世界が現実味を失ってゆく。


のしかかる殺気、手に慣れない武器。

そう、アタシが普段手にしているのは、マイクなんだ。

武器じゃない。つまりこのゲーム世界は、アタシにとって非現実で非日常。


ましてや刃物で斬った斬られたなんて、生まれてこの方遭遇したことのないシチュエーション。

だけど、トヨム小隊長にとってはお手の物。

慣れてる、というかここはすでに、小隊長の世界。トヨム・ザ・ワールド。

飲み込まれちゃってるんだ、アタシ。



「じゃあ、始めるよ」



来る、鬼がアタシの喉笛を噛み切りに、来る!



「あ〜〜ハツリ先輩〜〜。一人で闘うのは、無謀なのね〜〜」



おっ巻毛、生きとったんかいワレっ!! ってアンタ、なんでこの殺気が重油タールみたいに泥つく空間を、当たり前に歩けるのよ!?

鈍いの、アンタ鈍いんじゃないの!?



「それじゃあ巻毛もねー、ちょっと戦ってみましょーかー」



槍を構えた巻毛、でもあんまり様になってない。

それでも小隊長にとっては邪魔な敵。

頭から突っ込んで、思い切り伸ばす右ストレート!



ここだっ、アタシは剣を腰に抱えて体当たり。

ズブリという感触。小隊長の太ももに、剣が刺さっている。



「逃げるよ、巻毛!!」



だけど返事は無い。

巻毛もまた、逝ってしまった。

アイドルチーム、三名を失ってトヨム小隊長に負傷させただけ。


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