激突直前
始祖センパイ視点
参謀さんは私たちに向き直ると、頭を下げる。
「この大きなイベント、本来ならばみなさんの撮れ高を数々用意しなければならないにも関わらず、またもや苦難の三〇分を強いなければならなくなりました。この責任はすべて参謀にあるものであり、みなさんに責任は一切ありません。それでもこの三〇分間、一緒に戦ってくれますか?」
ありゃりゃ、まだ高校生の女の子に謝らせちゃった。
だけど、そこは『我ら株式会社オーバー所属アイドル』。
「ん〜〜そんなに大変なことだったの?」
お姫さまのムーニーたんがカモメに訊く。
「うんにゃ、さっきなんて最後の敵。鬼将軍の執事さんまで引きずり出したんだぜ!」
スゲーだろ、ってガキンチョみたいな態度でムニたんに自慢する。
「そもそもが私たち、大変な目に遭ったっけ?」
「いやぁ、配信の苦労に比べたら、ねぇ……」
いぬネコの二人も、『苦労? 知らねぇなぁ』という姿勢。
「それより参謀さん、男山大学のみなさんがいないってことは、このステージ私たちの独擅場なのよね?」
ハツリちゃんもみんなを力づけるように言う。
あら、みんなの視線が一人二人三人と、私に向けられて……。
それじゃあ、コホン。
「みんな、最高の舞台はこれからだよ!!」
カエデ視点
本当に尊敬を集める人、本当にみんなから好かれる人。
私は今、そんな人を見ている。
誰よりも努力を重ね、誰よりも苦難を乗り越え、自分の歩むべきひと足を踏み出し、そのひと足で後に続く者たちの道を作る人。
その人が、みんなの心をひとつにまとめ、アイドルたちは立ち上がる。
さあ行こう。やってやるんだ。
一人ひとりがそんな意識を持っている。
そうした集団は強い。
陸奥屋まほろば連合軍を見てきた私には、それがわかる。
そして全員の眼差しが、熱い熱い情熱的な眼差しが、私に向けられた。
「「「さあ、どこから攻める、参謀どの!!」」」
私もそれに応えよう。
「葵さんと歩ちゃんを撤退させた、左をもう一度攻めましょうか」
チッチッチッ、指を振られた。
「じゃあ、右翼を攻める?」
またもやチッチッチッ。わかってねぇなぁ、参謀どの。
私たちの見せ場ってものを。
そう言いたげだ。
「参謀どの、どうせ見せ場を作るならさぁ、やっぱ正面衝突のガッチンコさ!! そうだろ、みんな!!」
カモメさんの言葉に、鬨の声があがった。
うわ、バカじゃない? なんだか陸奥屋の男衆を見ている気分だわ。
それで良いの、アイドル? アレと一緒の扱いで良いっていうの?
だけどみんなの眼差しは『これだからVはやめられないのさ』と訴えかけてきた。
そして正義の男、ジョージ・ワンレッツ
もう、何度目の突撃だ?
大矢参謀の検索により、ビリー将軍の居場所はわかった。
とにかく人の密集した場所、そこに敵将はひそんでいると。
しかしその敵は数が多すぎた。
一五〇人からアイドルさんたちの人数を引いただけ。
ほぼそれだけの人数に、ビリー将軍は守られているのだ。
「見たかっ、これが海賊のやり方だっ!!」
「ほらほら、キャンって鳴きたい奴はかかって来な!!」
「正面は我々が引きつける! マミヤ小隊は右翼から攻め込めっ!!」
元気のいい者たちもいる。
しかし数の前では蟷螂の斧だ。
彼らもまた、何度となく撤退させられていた。
誰もが傷つき、この攻撃も失敗かと思い始めた、その時だ。
「ジョージ隊長、三時方向に炎が上がってます!」
ヒナ雄隊長の声だ。目をやる。
報告通りに炎が上がっていた。
しかも動いている。
何故ならその炎は、アイドルさんたちが燃え上がらせた魂の炎だったからだ。
敵の兵士たちが、俺たちへの攻撃をやめる。
そして背中を向けて、アイドルたちを見送り激励していた。
「頑張れよーーっ!!」
「次こそ勝てる! 次こそ勝てる!!」
「何回失敗しても、最後に勝てば良いんだっ!!」
「しっかりやって来いよーーっ!!」
期待を背負う。
あの狭い肩に、頼りない女の子の背中に。
味方たちの、ファンたちの、世界中の期待を背負ってアイドルたちは征く。
「攻撃やめっ! 戦闘やめっ!! 陸奥屋特別攻撃隊、アイドルたちにっ敬礼ーーっ!」
敵ながら天晴、敵ながら勇猛にして果敢なり。
実に敬意を払うべき好敵手と言えた。
……ならば。
「女の子に負けるなっ!! 気合い入れて行くぞーーっ!!」
忍者視点
「わんこ、にゃんこ、たぬきっ!! 全員後退、私のところへ戻って来いっ!!」
部隊無線で三人を呼び戻す。
「なんですか、忍者さん?」
「もう少しでキルを取れるとこだったニャ」「
どうしたんですか、忍者さん? 顔色が悪いですよ」
子供たちは口々に不平を言う、だから私は指差した。
陸奥屋まほろば連合軍、ネームドプレイヤーが守る牙城に挑んでくる炎を。
燃え上がる軍勢を。
「見ろ、過去最強の軍団が迫ってくる。闘魂を燃え上がらせて、私たち一人ひとりを討ち倒そうという決意で、迫ってくる」
「そんなもの、ネームドプレイヤーたちが相手をすれば、コテンパンじゃないでs……」
「いや、怖い。みんな、私を守ってくれ。あの娘たちの刃から、私を守って欲しいんだ……」
「そんなに、スゴイんですか?」
アイドルたちの実力に懐疑的だったたぬきが、ゴクリと生唾を飲む。
「あぁ、ここがおそらく天王山だろうな。ここで踏ん張れなければ、私たちは……負ける!」
「ダメです忍者さん! そんなのイヤです! 勝って、敵を打ちのめして、笑ってイベントを終わらせましょう!!」
「それを可能にするために、私はお前たちを呼んだんだ。済まない、私の楯になって死んでくれ!」
無茶な願いだとは分かってる。
自分勝手だとも理解している。
だがしかし、あの無謀集団を相手にするには、これしか無いんだ。
ジョージ視点
男の意地、そんな言葉はもう死語なのだろう。
死語になってしまうほど社会は複雑になり、意地も通せぬほど男たちは疲れ切ってしまったのだ。
だがしかし、だからこそ。
こんなゲームの世界だけは、男の意地を通してみせたい。
俺たちは男だ。
チームには女性も混ざっているが、だからこそ男を主張したい。
そして俺たちと対面にある存在、アイドルたち。
彼女らが女の子であるが故に、なおさら負けられない。
先に敵将を討ち取って、男というものを見せつけたい。
いや、違う。君たちよりも俺たちの方が勇猛果敢であることを証明したいのだ。
熱く激しく。
それが男なのだから。
「いざ攻めよ! 猛然ともえあがれ!!」
人の海を漕ぐように進む。
襲われても行く手を阻まれても、それでも前に進むしかない。
「マミヤ小隊長被弾!」
「コリンさん被弾!!」
「ジョージ隊長、俺の革鎧も保ちません!」
「泣き言は聞かん、死ぬ前に攻めろ!」
「同志爆炎、撤退! これ以上の攻撃は不可能です!!」
「それをやり遂げるんだ! 例え屍となっても!!」
「スワン小隊長、撤退!!」
「カツンジャー小隊を後方へ、ヒナ雄小隊長、あとはたのんだぞ!!」
「えぇえっ!? 僕がですかっ!!」
仕方ない、カツンジャー小隊、一度後衛へ!!だ。
セキトリ視点
来たのう、いま日本で一番熱い娘っ子どもが。
背中に炎を背負って、世界中の期待を背負って。
しかし、今回は男山大学剣道部がおらん。
ワシら陸奥屋男衆が出張る訳にはいかん。
っつーことで、ネームドプレイヤーたちの中から女性軍が編成されて、中央陣地に集まっちょる。
ちなみに男どもは、それぞれの推しで集まって観戦の位置。
ワシは特に誰も推しとらん振りをした。
先頭は我らが軍師のカエデさんじゃい。
えぇんかい、軍師が前線に出張って来て。
いや、カエデさんのことじゃ。
アイドルさんたちに背中を押されたような形で、前に出て来たんじゃろ。
こちらの主力は薙刀の三人、御門芙蓉に比良坂瑠璃。
そしてフィー先生。
まずはファーストコンタクトで叩けるだけ叩け、というのが大矢参謀の指示。
それに対してカエデさん、メイスや手槍のメンバーを六人選出。
二人一組の戦法を取るようじゃ。
お互いに、長得物の後ろは剣士団が控えちょる。
突破口を押し広げるための、基本的な戦術じゃ。
しかし陸奥屋には、さらにトヨム小隊長、アキラくん。
葵さんという取っ組み合いの専門家が備わっとる。さて、これがどのように機能するか。