カエデ中隊、いまだ突破ならず
美少女軍師カエデちゃん視点
崩壊してゆく。
防衛の要所、陸奥屋まほろば軍の防衛線である鬼神館柔道が崩れ落ちてゆく。
そんな中、始祖アイドルさんがハツリさんの手を挙げた。
「勝者、夏風ハツリ!!」
沸き起こる歓声、アイドルさんたちも大喜び。
「なんとなんと我らが誉れ高い一期生、夏風ハツリ先輩の一撃で、高き牙門鬼神館柔道の砦を! この短時間で打ち破ってしまった!!
いける、いけるぞハツリ先輩! 今夜は君のための夜だーーっ!!」
ちゃっかり実況入れて、撮れ高稼いでる娘もいるし。
ということで、まずは前衛の野郎陣は切り崩しました。
では防衛本隊とも言える、女の子プレイヤーは誰が相手でしょう?
「ありゃりゃ、鬼神館柔道の役立たず……もとい、木偶の坊さんたちが、あっさり突破されちゃったのですよ〜〜!!」
……茶房の看板娘、歩ちゃんだ。
なんだか編笠かぶって毛皮のベストを羽織って、どこのマタギさんよ? って格好。
「お姉さま、お姉さま!! えまーじぇんしーが緊急でヤマト発進なのですよー!」
なに言ってんのかな、歩ちゃん?
だけど、呼び出された葵さんがまた、飛ばしている。
アマレスのレオタードにスパイク付きのヘルメット、小手、ナックルガード。
ヒジにヒザにスネ当て、シューズの先にもスパイクが。
いわば、グラップラー・ガチ勢だった。
葵さんに歩ちゃん、この二人を相手に達人先生のカードを切っていいのかなぁ?
「どう思います、ヤハラさん?」
とりあえず最高責任者のヤハラ参謀長にお伺いを立ててみる。
「獅子は我が子を千尋の谷に落としてぶっ殺すとも言います」
誰が言ったか、そんなこと。
「今年亡くなられた松〇零士先生が作品の中で……」
巨匠の言葉を凡人が真に受けないでください、人生が狂います。
そして巨匠というのは凡人の人生を狂わせておきながら、何ひとつ責任を取らないものなんです。
「失礼、この場合は獅子はウサギを狩るにも全力を尽くす、が正しいですね。召喚しましょう、達人先生を!!」
よし、責任は全部ヤハラさんに押っ付けた!!
ならば呼びましょう!
「次の先生っ、タツジーン! カムヒヤっっ!!」
拳の指環が眩しく光る!
「日輪は我にあり、いま日輪の力を借りて……必殺の……」
「あ〜〜参謀ちゃん参謀ちゃん、必殺技にはまだ早いですから、まだ早いまだ早い」
艦長さんに止められてしまった。せっかくのシークエンスだったのに。
それでもしかし、無敵鋼人ダイターン緑柳先生の登場です!!
「ツルッパゲは我にあり……いま、日輪の力を借りて、必殺の……」
ですから緑柳先生も、この波に乗らないで!!
「波乱万丈も鬼籍に入ってしまったしのう、ワシだけが生き残っておるわい」
だからって沈まないの!
あーもー、なんでこんなに面倒くさいんですか!!
「さて、ワシに与えられた時間は十秒間」
え?今近づいてきた忍者が消失したんだけど。
立ち上がったナンブ・リュウゾウも消滅する。
緑柳先生に近づいて、妨害しようとした一般プレイヤーたちも、次々と消えてゆく。
もしかして、これって……。
「ひょっひょっひょっ、ワシが若いお姉ちゃんとからもうとすると、邪魔が入るのう」
「歩、気をつけなさい。居合よ、それも抜く手も見せないような速度の……」
「また難しい方がお見えなのですよ〜〜……」
そう、居合だ。それもリュウ先生や士郎先生を上回るような、神の領域の居合……。
「お? お姉ちゃん柔だね? 行かせていただくよ」
はい、という葵さんの返事は無い。もうすでに葬られていた。
そして歩ちゃんは?……いない。
「いや、いる。気取られぬように身を潜め、ワシの隙を狙っておるわい……」
どこだ? 歩ちゃんはどこにいる?
「そこじゃっ、脳天いただきぃ〜〜っ!!」
私に向かって、狂気の武人が迫ってきた。
まだ抜いていない、柄に手をかけてない。
そしてついに……っ!
時間切れで撤退。緑柳先生、歩ちゃんを斬ること叶わず。
「ふう、危うかったのですよ……」
私の背後で、歩ちゃんが額の汗を拭っている。
「ヒグマもイノシシも、あそこまでの殺気は放たないのですよ……」
歩ちゃん、本当にマタギなの?
「……歩ちゃん覚悟、えいっ!!」
「あぁっ、しまったなのですよ〜〜!」
アイドルさんチーム、これまで十分に練り上げてきた二人一組の攻撃で、歩ちゃんを死人部屋へと送りつけた。
えっと、葵さんは緑柳先生に斬られて死人部屋。
生き残りの歩ちゃんも死人部屋。
「ということは?」
「参謀どの、これはビッグチャンスなのでは!?」
カモメさんの声は大きい。そして行動が素早い。
「よっしゃーーっ、皆の者っ!! 突撃だーーっ!」
うん、その通り。ここはなんとしても一本をいただかなくっちゃ!
「お待ち下さい、お客さま方」
突撃態勢の私たちを、威厳のある声が押し留める。
「ここから先はわたくしどもの主、水樹隆士さまの居室。どうぞお引取りください」
私たちのような子供に、老執事さんがうやうやしく頭を下げる。
……大きい、よく見るとダイスケさんやセキトリさんのように、執事さんは大柄だった。
その執事さんが、槍の鞘を払う。
大柄だとは言ったが、セキトリさんやダイスケさんのような豪快さというものは感じ取れない。
いや、むしろ緻密に練り上げられた隙の無い武。
執事さんの正装のように、そこに在るだけで威厳を感じさせるような構えだった。
「さて老骨が、どれだけ出来ましょうかな?」
執事さんが言ったときには、身体が動かなくなった。
執事さんの槍はすでに私の胸を突いて、引かれていたのだ。
つまりこの身体の不自由は、死人部屋送りの兆しなのだ。
「はい、まずは参謀さまをいただきました」
執事さんの声がなんとか耳に届いた。
死人部屋、そこでは負傷箇所や防具の損傷を修理できる。
私は胸の傷を回復させ、マーチングバンド制服を繕った。
それから復帰。まずはマップで戦況の確認。
まずは男山大学剣道部!
……は、アレ? なんだか鬼神館柔道の面々と混ざり合ってるわね。
まさかハツリさんの『童の帝』発言で鬼神館柔道同様に胸を痛め、敵味方で傷を舐め合う道化芝居をしてるんじゃ……。
マズイわ、そんなことになったら男山大学剣道部、イベント終了まで使い物にならないじゃないの。
じゃあ本命のアイドルさんたち!
……うん。手に取るように解るわ。
きっとみんな初手で脚をやられてるのね? 執事さんのマークだけが動いて、動かなくアイドルさんたちのマークがどんどん増えている。
そして。
アイドルさんたちのマークが次々と消えてゆく。
動けなくしてからのトドメ。
老獪な執事さんらしい戦法、と言ってよろしいんでしょうか?
私のような小娘ごときが、年輪を重ねた実力者にそんな評価をして良いものかどうか。
とはいえ手練れであることは確か。
そして達人先生を召喚しておきながら、またも突破ならず。
これはどうしたものでしょう……。
アイドルさんたちが次々と死に帰り。
その中のひとりカモメさん。
「あとひと押しだったな、軍師どの!! これはもうイケるんじゃね!?」
ものすごいポジティブシンキングで、私や仲間たちを励ましてくれる。
「敵がどれだけ強くても、人間には変わりありまセーン!! 押して押して押しまくりまショー!!」
そうだ、相手は人間なんだ。
そして攻めなくちゃ勝てない、押さなくちゃ勝てないんだ。
「次の達人先生召喚まで、まだ三〇分あります! それまでの間、ガンガン攻め込みましょう!!」
男山大学剣道部を失った、まもってくれる護衛はいない。
それでもVの乙女たちは、果敢に拳を突き上げる。
「勇ましいのは結構ですが」ヤハラ参謀長の声。
「せめて護衛の一個小隊くらいはつけさせてください。それくらいしても構わないでしょう?」