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鬼の防御陣

アイドル・カモメは見た!


背の高い無表情な瑠璃さん。

その首にしがみつき、無理矢理頬ずりする芙蓉さん。

そして二人を煽る我らが参謀のカエデちゃん。


瑠璃さんは明らかに嫌そうな雰囲気なのに、カエデちゃんは『チュー』コールを送っている。



「それチュー! チュー!」

「チュー!! チュー!」



ウチのクソガキメンバーたちも面白がって二人を煽る。



「カモメ先輩、ウチらも煽りましょう!」



隊長が血走った目で、私の肩をガッシリ掴む。

ってか隊長、鼻息荒すぎだから!

いつの間にか『チュー』コールはアイドルチーム全体、いやビリー軍全体に広まっていた。



「よし、私も熱く煽ってみせるか!」



大声は得意の中の得意種目、っつーかお家芸。

ひとつセンスのある煽りを入れてやっか!!



「世界中が期待してるぞーーっ!! 一丁ブチュッっとやってくれ、ブチュッと!」



あ、瑠璃さんが小刻みに震えてる。

首にぶら下げた芙蓉さんは瞳を閉じて唇を差し出し、すでにキス顔の態勢。


そしてスパークリングクラッシュ。

ヨーロッパ遠征から帰国したクイックキック・リーこと、前田日明のようなスープレックス。

芙蓉さんは脳天逆落とし、頭にタンコブを拵えてぐったりした。

ぬらり……薙刀が輝く。

目の据わった瑠璃さんが構えを取る。



「変な煽りを入れたこと……後悔させてあげる、カエデ……」



……パンドラの箱を開けちまったか、私たち。

それとも自分で自分の死刑判決を読み上げたか?

どちらにしても、殺気が重くのしかかってくる。

そして、瑠璃さんが動いた。



「来たぞ、みんな!! 衝撃に備えろっ! カエデちゃん、どう処理する!?」



……あれ?さっきまでそこにいたのに、カエデちゃんはもういない。



「カモメ先輩は隊長が守り……」



私の前に立ちふさがった隊長も、言葉半ばで消えていく。

マズイ、瑠璃さんが本気になったのか?

隊長が死人部屋に行ったなら、瑠璃さんがそこにいるはずなのに、目の前には誰もいない。


その代わり、別な場所で斬殺音が聞こえてくる。

聞こえてくるけど、悲鳴は聞こえて来ない。

どこだ、瑠璃さん!!

と思ったら視界が真っ暗になった。目に何か触れたような気はしたんだけど。



「あぁっ!! カモメ!」



ハツリ先輩の声が聞こえたけど、それを最後に私は死人部屋にいた。



「あ〜〜っカモメ先輩、いらっしゃーい♪」



死人部屋からフィールドへ、隊長が私を迎えてくれた。

そこにはカエデちゃんを始めとした殉職メンバーたちが並んでいて、次の作戦に備えていた。



「ビリー将軍並びに護衛のみなさん、敵陣に向かって右翼へと移動してください。これより本隊は敵陣左翼に攻撃を仕掛けます」



右がダメなら真ん中を、真ん中もダメなら左から。カエデちゃん、まだまだ攻め込むみたいだ。

そしてウチの将軍、ビリーさんとその取り巻きが道を空けてくれた。

さらに本隊も一人追加。



玉座に将軍無しという罠がネタばれしたことで、前線へ参加のムニたんことムーニーが仲間に加わった。



「アイドルさんたち、全員揃いました(討ち死にしました)ね? それでは敵陣左翼へ出撃します! 行軍開始っ!!」



先頭はカエデちゃん、それに続く六人の男山大学剣道部。



「ねぇカモメ、知ってる? トランシルヴァニアの伝説」



先輩Vtuberさんが訊いてきた。



「伝説? なんの伝説ッスか?」

「悪魔伝の七騎士、悪魔伝の七騎士を率いるのは、悪魔伝の魔女。そして悪魔伝の七騎士が天駆けるとき、戦う祖国は滅びるんだって」

「へ〜〜物知りッスね、先輩。普段はポンコツやらかしてばっかなのに……」



すると吸血鬼キャラのメンバーが割り込んできた。



「トランシルヴァニアって、ドラキュラ伯爵の故郷じゃない!

他にもオオカミ男伝説やらフランケンシュタインの怪物なんてのもあって、ちょっとしたマニア向けの土地なのよ!」

「お前もよくそんなこと知ってんな?」

「そりゃもう、マサチューセッツ工科大学卒を売り物にしてるもの」

「それアメリカだべや、トランシルヴァニアってアメリカじゃねーだろ」

「じゃあどこだって言うのよ?」

「…………さ、戦闘に集中しようぜ!」



ちびっ子いアイドル、ソナタ視点


……なかなか破れない敵の防衛陣。

ちょっとやそっとじゃない、ネームドプレイヤーたちの実力。

正直に言えば、すでに疑問を感じ始めていた。


……ボクたちは、本当にあの壁を突破できるんだろうか?

防壁突破の切り札、男山大学剣道部のみなさん。

ボクたちなんかじゃとても勝てない、ホンモノの実力者。


それがことごとく倒されて、結局のところボクたちは丸裸で敵に挑むことになっている。

このままじゃダメだ。

ボクなんかが気づいているんだから、参謀のカエデちゃんなんかは、とっくに気づいているはず。


それでも進軍を続けるのは。

……二度目の達人先生召喚。

これに賭けているからだ。

そしてそのときは、すぐそこまで迫っている。



「……キキ」



同期を呼んだ。ボクのすぐ目の前、広い背中で視界を遮ってくれている。



「どーしました、ソナタん?」

「次のアタックでは、敵陣突入もあり得るからね。……頼んだよ?」

「oh……もうそんな時間でしたかー。いよいよ二度目の達人先生デスねー?」

「そう、ここを逃したらまた三〇分間、我慢の時間が続くからさ……」

「気合いと根性と精神力、だよね?」



メイドのミナミ先輩も、メイスを握り締める。



「大丈夫、先生方がいるなら、絶対に隊長がみんなを本陣に送り届けるからね……」



隊長の背中も頼もしい。



参謀カエデ視点


波に乗るようにドンブラコ。

味方に守られながら前進する。

そして敵陣向かって最左翼、ここまで無駄な戦闘無し。


まるで陸奥屋もアイドルさんたちの見せ場を作るかのように、私たちの進路を空けてくれている。

それは同時に、一般プレイヤーたちからの絶対的な信頼の表れ。

ネームドプレイヤーたちは絶対に突破されないという、信頼の表れ。



「とうとう来たな、男山大学剣道部!」



私たちを出迎えてくれたのは、柔道着姿のサル……じゃなくって、ナンブ・リュウゾウと鬼神館柔道の面々だった。



「どうせオイラたちぁアイドルさんなんぞとは縁が無ぇんだ! ここで一発土派手にやらかそうぜ!」



鎖鎌、トンファーなど、以前私が薦めた武器を手にしている。

ちょっとマズイかな、コリャ。

鬼神館柔道のみんな、六人全員で剣道部の相手をするつもりみたい。


これは早々に達人先生カムヒヤしないとダメかしら?

そんなことを考えていると、アイドルのハツリさんがひょっこり身を乗り出してきた。



「ありゃま、これはまた絵に描いたような童の帝さんたちだわ」



ワラベノミカド?なんのこっちゃ?



「あ、カエデちゃんはまだ早いか。童の帝ってのはね、チェリー君ってこと♪」



その言葉に、男衆はピクッと反応。



「なななナニをコクのかね、君ぃ。この俺が童貞君な訳が無いだろ、ハハハ……」



いえ、柔道のセンパイ。

笑顔が引きつってますよ?



「えーー、だって青春のすべてを柔道に打ち込んで来たんでしょ? それなら童の帝やむ無しなんじゃないのー?」



ハツリ先輩、追い打ちかけないの。

あ、真っ先にナンブ・リュウゾウがヒザをついた。

それを見たセンパイたちも次々と屈していく。


そして非童貞宣言をしたセンパイまで、「見栄張ってスンマセンでしたーーっ!!」こちらもガックリと崩れ落ちる。

わからないですねぇ、女の子としては『乙女の操』に誇りを感じるのに。

男の人は『まだ』なのが恥ずかしいんでしょうか?



「うんうん、わかる。わかるよ〜〜♪ すべてを柔道に捧げて来たんだ、配信にすべてをかけてきたハツリたちと似てるもんねー♪」



ということは?



「それじゃあハツリさんっ!?」



希望の眼差しで柔道家たちはハツリさんを見上げた。



「さ〜て、それはどうかしらね?」



『まだ』なのか『もう、』なのか。

ハツリさんはウインクひとつ、唇を人差し指で押さえてはぐらかした。

そして男たちは叫ぶ。



「うわ〜〜っ!! 嘘だーーっ、俺の、俺のハチュリーがーーっ!!」



センパイ、ハツリ推しだったんですか?



「クッソーーッ、やっぱりまだの奴は相手にされねーのかーーっ!!」

「チキショーーっ、金で解決してやらーーっ!」

「ダメっすよセンパイ! その金は来週プロテイン買う金なんすからっ!」

「やかぁしいリュウゾウっ、だったらお前がケツ貸せやっ!!」



女食って半人前、男も食って一人前。そんないらない知識を忍者が教えてくれたっけ。


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