瑠璃メインの回
比良坂瑠璃、語る
中央は主力、中央は要。
だから戦力は充実、人材も豊富。だから……。
「おりょ? カエデちゃんってば、せっかくなアイドルさんたちの見せ場だってのに、大学剣道部を持ち出してきたよ?」
……やっぱり。
……あの娘、なんとしてでもネームド陣地を突破するつもり。
だけどカエデがその積りなら……。
ちょっぴり上目遣い、無理矢理瞳をうるませて……。
「セキトリさん、ダイスケさん。……お願い……できますか?」
メインエンジンにエネルギーが充填される音。
二人は「エネルギー充填120%……」「耐ショック、耐閃光防御……」なんてブツブツ言ってる。
そして鬼将軍のメガネが発光するみたいに、目から光の柱を撃ち出した。
「波動砲っ、発射っっ!!!」
「まかしちょけ、瑠璃しゃん! このセキトリ、男性NGでない限り存っ分っに働いちゃるわい!!」
「育っていても美少女は美少女!! 下心こそが男の原動力っ! 行くぜセキトリ、後れを取るなっ!!」
……男って……なんて馬鹿なんだろう? でもそこが男の良いところ。
男山大学剣道部が抜いた。
白刃をこちらにむけてくる。
「……先行かしてもろうてもえぇかいのう、ダイスケどん」
「おう、簡単に死ぬんじゃねぇぞ
」「誰に向こうて言うとんじゃい」
セキトリさん、巨体には似合わないくらい高々と脚を上げて、四股。
お腹に染みるような地響き。
豪傑揃いの大学剣道部も、思わず足を止める。
「気をつけろ、あいつ力士だぞ」
「おう」
そんな言葉が交わされ、六人いる剣道部は半分の三人が刀を鞘に納める。
「セキトリ、居合が来るぜ」
「そうでなくっちゃ面白くないわい」
居合、パッと抜いてサッと斬って、スッと納める武術。
とても厄介な技。
だけどセキトリさん、全然臆さない。
「リュウ先生との稽古に比べりゃ、ぬるいぬるい」
だけど、眼差しは真剣。
これぞ立ち合いという殺気をあふれさせている。
「さ、始めるかい……」
シビレるような殺気の中、左手だけを地面につける。
「お前らの呼吸で勝負してやるぞい……」
男山大学剣道部、接近。
隙の無い足取りで近づいてきて、あちらも殺気を浴びせてくる。
セキトリさん、大丈夫? 得物はダイスケさんに預けてるじゃない。
「瑠璃、どう見る?」
「……ちょっとだけ、心配」
「あらあら、珍しいね瑠璃。そんなにセキトリさんが心配なの?」
「ここを抜かれたら、私たちが出なくちゃ……それだけ」
「いやいやダイスケくんだって控えてるじゃん。それともナニ? 瑠璃ってばセキトリさんが……」
ムエタイのヒジ。フレンドリーファイアは存在しないルールだけど、芙蓉は眠ってくれた。
死闘指数全開、どちらも気合い十分待ったなし。
だけど居合といえば初太刀の抜きつけ勝負。
薩摩示現流対策みたいに、初太刀を外すつもりなのか。
それとも……。
敵の右手が刀にかかり、ハッキヨイ。
セキトリさんも右手をついて立ち合い開始。
セキトリさん、頭から突っ込む。
大学剣道部は最高の一瞬に賭けている、まだ刀を鞘走らせない。
そして、間合いで発刀。
鞘の中を刃が走る。
その刀が、引っかかったように鞘から抜けなくなった。
「ガッ……くそっ……!!」
前に出ようとする刀、その鍔を右手でセキトリさんが押し上げている。
これでは鞘に引っかかるのも当然。
「……ワシの腕は太いかもしれんが、お前さんらの太刀にも負けんくらい長いンぞ?」
ウソつき、それ以上の鋭い踏み込みしてるクセに。
……なんで男の人って、いちいち命懸けをやりたがるんだろ? いや、それよりもセキトリさん。
鍔ごと相手の拳も握り締める。
「お前さん方は一応力士に敬意を払ってくれたみたいじゃからのぅ。お礼にチクとばかし相撲でもてなすワイ」
キュッと握ってピッと捻る。
それだけで大学生は大車輪、大回転で隣りの学生に衝突した。
「ほい、相方もじゃ」
撤退判定から消滅するまでのロスタイムを使って、もう一人ぼ居合使いも片付けた。
うんうん、やっぱり国技は相撲。
柔道でも空手でもない。
相撲と剣道は日本の国技。
決してオリンピック競技なんかにはしてはいけないシロモノ。
薙刀使いの私であっても、これは譲れない。そして国技尊重主義者の巨漢はニラミを効かせた。
「おう、どうするよ? お前さん方も大学の名誉背負ってたら、退くに退けんじゃろ?」
「当たり前だ!!」
「無手といっても容赦せぬ! ゆくぞっ!!」
と挑んだ学生は、ダイスケ・アタックで散華。
「悪いな、お兄ちゃん方。ここの守りはセキトリだけじゃねぇんだ」
セキトリさんから脂肪を削ぎ落としたような大男、ダイスケさんが仁王立ち。
「な、なんのっ!!」
「気後れするなっ! 気合いだ、気合い!!」
いや、気後れしてるし……というか、なんでこのデカブツにビビるんだろ?
巨漢がセキトリさんみたいに、低く低く攻め込んで来るなら怖いけど、棒っ切れみたいに突っ立ってるだけなんて怖くもなんともないんだけど……。
あ、殺気?士郎先生にシゴカれてるだけあって、木偶の坊でも殺気だけはホンモノ。
ただ、この場は木偶の坊にまかせるみたい、セキトリさんは胡座に腕組みで控えている。
「準備はいいかい? それじゃあ、遊ぼうか」
セキトリさんにメイスを放り、自分の得物を構える。
巨漢ダイスケ、こちらも得物はメイス。鈍器であって刃は無い。
つまり当てればどこでも武器になるというスグレモノ。
しかも……。
ゴン……!剣よりも間合いがある。
しかも使い手はリーチのある大男。
「あぁっ、佐藤っ!!」
男山大学剣道部佐藤選手、まずは無念の撤退。
「さあ、次はどいつだい?」
うん、八相にメイスを構えたら、なるほど。
学生剣道じゃ後れも取るか……。
防御無視、攻撃全振り。しかも二階の高さから、ひと呼吸で切っ先が降ってくる。
もしかしたら受けても押し込まれて、脳天をかち割られるかも。
そう考えたら、気後れするもやむなし……。
というか……。
「ホイほいのホイっと……」
長いリーチで長いメイスを水平に振り回して、一歩二歩と前に出るだけで、大学剣道部(体育会系男子)を軽く吹き飛ばす。
ヨシ、決めた。
この攻撃を『馬鹿力打ち』と命名しよう。
だって、あまりにも馬鹿馬鹿しい技だから。
大学生としては、防御しても吹き飛ばされ、立ち上がろうとするところをまた吹き飛ばされる。
たまったものじゃないだろうな。
そしてライフを削られ防具も失って、とうとう残りの二人も撤退。
「なんて技で撤退させてくれてんのよー! ダイスケさんのバカーーッ!!」
マーチングバンド服で怒る、カエデが剥き出し。いよいよアイドルさんたちとの対決になる。
カエデ視点
う〜〜ん……さすがに男山大学剣道部の猛者を持ってしても、ウチのネームドプレイヤーたちは切り崩せないか。
幸いにして、陸奥屋まほろば連合軍はアイドルさんを相手にするとき、ネームドプレイヤー二人を宛がう方針みたい。
どうにかしてこの機会で防衛ラインを突破したいとこだけど……。
とこだけど、今回の相手は瑠璃芙蓉の薙刀コンビ。
まほろば軍頭目、天宮緋影さんを護る飛車角の二人で当然のように実力者。
ぐぬぬと臍を噛む思いなんだけど、そんなことはイベント前にはから知れていたこと。
なんとかしなくっちゃね。
「やあやあカエデちゃん、芙蓉瑠璃の城門へようこそ♪ これ、世界配信で中継されてんだよね?」
いきなりそれかい。
っていうかすでにピースサインを両手で出して、ノリノリじゃない芙蓉さん。
「もちろんですよ、芙蓉さん。お二方の仲睦まじい様子も、全世界生中継です♪」
そう言うと芙蓉さん、背の高い瑠璃さんの首にしがみつき、無理矢理頬ずり頬ずり。
「だってさ、瑠璃♡ 世界中に私たちの仲良しさんなトコ、見せつけちゃお♪」
「……………………」
あ、瑠璃さん明らかに嫌そう。
もしかしたら、こうしたところが付目かも。
「いいぞいいぞ、もっとくっつけくっつけ! なんだったら世界生配信でチューだってしちゃえ♪」
さあアイドルさんたちも、二人を煽りましょう!




