頑張れアイドルさん! というより頑張れカエデさん!
トヨム視点
多分そうだろうなとか思ってたら、本当に男山大学剣道部を先頭に防御陣を切り拓いてきたカエデ。
しかもアタイたちの顔を見るや否や、すかさず達人先生の召喚ときた。
「最初のタツジーンっ、カムヒヤっ!!」
ボワンという白煙が上がり、男らしい高笑いが聞こえてきた。
「ワハハハハ……ゲッフゲッフ……」
煙にむせてるし……。
だけど立ち込めた白煙の中から現れたのは、黒帯に柔道着の魔神フジオカ先生だった。
「アタイ知ってる、こういうのせ〇た三四郎ってんだぞ……」
「うむ、私も聞き及んでいる。街に現れ、善悪問わず若者を懲らしめる魔神だそうだな」
「無駄話はそこまでだ、こちらは時間が限られているのでな」
ズラリ……フジオカ先生は黒帯に差した刀を抜いた。
明らかにアタイと輝夜を狙っている。
「来るぞ、小隊長」
「それじゃあ打ち合わせ通り。せ〜の、一歩二歩三歩♪」
アタイと輝夜はバックステップを三歩だけ。
「なんの真似かな?」
鬼のフジオカは刀を垂直に立てた八相。
「いくらフジオカ先生でも、この間合いを一足では詰められないだろ? コイツで時間稼ぎだ!」
「え〜〜っ、ズッコいよ小隊長!! ちゃんと戦ってフジオカ先生に討ち取られてくださいよーーっ!!」
「どういう理屈さ、カエデ」
「アイドルさん並みに愉快な思考回路になっておりますな」
なんていう冗談を交わしてたら、やっぱりカエデだね。
男山大学剣道部が、アタイたちをこっそり取り囲んでいた。
「いいのかカエデ、どちらかが死ぬことになるぜ。アタイは構わないけどな」
「さすが小隊長、気づかれましたか。さすがお尻にまで目をつけている女」
アタイは妖怪尻目かよ。
さっきのタツジーン、カムヒヤ!だって、どこの波乱万丈だってんだ。
いや待て、カエデがこんな無駄をするはずが無い。
「小隊長、カエデ殿のノリがいつもと違いますな」
「あぁ、こりゃ勝負は勝負としても、アイドルさんたちの撮れ高を考慮した采配とアタイは見たぜ!」
「そうとなれば小隊長!」
「あぁ、ここは逃げられないぞ、輝夜!! 女を見せようじゃないか!」
とか言ってたら、男山大学剣道部がバタバタと斃れていった。
白い体操服に真っ赤なブルマ!! マヨウンジャーの拳闘少女、アキラがそこにいた!
「助太刀に来ました、小隊長!!」
「お前剣道家を後ろから殴ったのかよ、ボクサーの風上にも置けないな……」
「臨機応変ですよ、小隊長!!」
便利な言葉だよな、それ。
だがこうなると、アイドルさんたちを守るのはフジオカ先生ただ一人!
フィクションではよくある場面だけど、誰かを守りながら闘うのって、シンドイんだよね。
「そこをなんとかしてしまうのが達人なのだ!! さあコゲチャのコッペパン、掛かって来なさいっ!!」
フジオカ先生は猛然と吠えるけど、まほろばの薙刀使い、比良坂瑠璃がボソリと言った。
「三秒前、二、一……フジオカ先生。さようなら……」
「やめろっ〇ョッカー!! やめろーーっ!!」
獣の咆哮虚しく、フジオカ先生。なんの活躍も無しに帰還……。
「帰ってしまわれましたな、フジオカ先生……」
「きっと奥さんがディナーの準備してたんだろ、年末だしな……」
「で、カエデ殿。アイドルさんたちだけで私たちを突破しますかな?」
こちらもヌラリ、白銀輝夜が刀を抜いた。
「おう、やってやらぁ!! Vtuberの根性甘く見るなよ!」
即応したのはカモメさんだっけ? あの元気のいいお姉ちゃんだった。
だけど他のアイドルさんたちは? 白銀輝夜の刀の迫力に、かなりビビっているみたいだね。
「う〜〜ん、輝夜さんが強いのはわかるけど、人数が人数だからね〜〜♪」
語尾に音符なんかつけちゃって、士郎先生御息女ユキが現れた。
「ここで突破されるのは見せ場が早すぎるから、輝夜さん。助太刀させてもらいますよ」
「おう、ユキ殿。心強い」
「おいおい輝夜、アタイはどーすんのさ?」
「リュウ先生登場のときまで、温存!! それでよろしいですな、大矢参謀?」
参謀くんもオッケーを出してきた。
リュウ視点
「やられましたな、フジオカ先生」
私は時間切れで帰還してきたフジオカ先生を迎えた。
「カエデさんの言った通りの戦法で来たよ、連中。まあリュウさんも気をつけるといい。十秒間は短いぞ」
それを聞いていた士郎さん。
「やはり問答無用でバッタバッタと斬り捨てるのが正解なのかな?」
「阿呆め」
緑柳師範が返す。
「ンなことしたら、蜘蛛の子を散らすようにして逃げられるわい。兵法語るんなら、ちったぁ知恵使え」
そういう緑柳師範が、達人先生二番手である。
「と、ここで士郎さんリュウさん、下界が面白いことになってるぞ」
フジオカ先生のモニターにみんな集まる。
「ユキじゃないか」
「それと輝夜さんだ、カワイイのと綺麗どころのタッグで、アイドルさんたちを迎え撃つみたいだね」
「三十余人対二人かい、何人突破できるかのぅ?」
プロ試合六人制では、二人で六人を手玉に取った。
しかし今度は人数だ。
スピード勝負になるだろう。
中には二人を相手にしないで、とっとと突破しようとする者も出るはずだからだ。
しかし。
「考えたな、白銀輝夜」
「あぁ、怯懦卑怯の輩を、殺気で足止めしている」
「ユキさんが出たぞ」
フジオカ先生の言葉通り、ユキさんが突入。
うさ耳さんに金髪娘二人、さらにはぺったんこチームのクソガキさんを死人部屋へ送りつける。
「上手い、ユキさん!」
「まずは迂回しそうな娘っ子どもを葬ったか。お、艦長さんまで屠ったのう。とにかく賢いところから潰すのは上の手さな」
カエデさんが必死に指揮を取っている。
おそらくは迂回させるべきメンバーを散らせているのだろう。
しかしユキさんが中央にある。
これを迂回するには右か左だ。
右には白銀輝夜が待っていた。
防具すら捨てたアイドルたちが、必死に突破口を開こうとする。
しかし、ことごとくが討ち死に。
では左へ逃れた者たちは。
背後からユキさんが襲いかかり、ここでも戦死者を出す。
そして。
「待たせたな、ユキ殿」
右翼を片付けた白銀輝夜が、左翼の脱出口に立ちふさがった。
「チッキショーっ、根性見せろ根性!! ここで全滅したら、視聴率ガタ落ちだぞーーっ!!」
「一人でもいいから、ここをすり抜けて! あぁっ!」
始祖アイドルさん、討ち死に。
「おのれ、ウチの始祖センパイにイイ声出させやがって。株式会社オーバーのお偉方から、お叱りのメールが殺到したらどうすんだよ!?」
そういうものなのか? 普段から平然と下ネタ配信してるクセに……。
ソナタさんイチ抜け、メイドのミナミさんが二抜け。
やはり人数だ、ポロポロと通過者が現れる。
しかし。
「ネームドプレイヤーたちが討ち取らんな」
「だけじゃねぇ、力士隊や抜刀隊も事態を傍観してる……いや、応援してる!?」
「まあ、ネームドプレイヤー二人並べてんのを突破してんだ。敵ながら天晴というところだろう」
しかし、突破に成功したアイドルさんの前に、キョウちゃん♡が現れた。
途端に荒れるコメント欄。
「誰やこのイケメン」
「ソナタそは野郎との共演NGなんやぞ?」
「おう、空気読めや兄ちゃん」
そこは確かにごもっともな意見。
そしてミナミさんやソナタさんとて、背後から迫った白銀輝夜に斬り捨てられてしまったのだ。
第一次アイドルチームの突撃作戦は全滅の憂き目に遭ってしまった。
「これで諦める株式会社オーバーじゃありません!」
カエデさんが言い放つ。
というか君、いつから株式会社オーバーのメンバーに?
「必ずや第二第三の刺客を用意して、鬼将軍の首を落としてみせますからね!! 覚悟してください!」
「第三の刺客ってことは、第二次攻撃も失敗ってことか? カエデも大変だなぁ」
いやトヨム、そこはスルーしてやれ。そうでないとカエデさん、泣いちゃうぞ。