小隊長もがんばる!
「どうだい、セキトリ?」
アタイだよ、嗚呼!!花のトヨム小隊隊長のトヨムだよ。
次のイベント、アイドルVTuberさんたちとの決戦では、大将を守る壁役を指示されたアタイたち。
大矢参謀の読みじゃあ、アイドルさんたちがアタイたちの前まで来た以上、絶対にダンナたちが投入されるってことだ。
それに備えて、アタイは圧のあるセキトリと稽古を積んでいた。
「うん、気配はかなり消えて来ちょる。が、しかし……」
しかし、そうなんだよなぁ……。
「リュウ先生なら見破る」
「そうだろうねぇ、クッソ。どうすりゃいいんだよ」
直接対決があるかもしれない、ダンナとアタイ。
大矢くんの指示では、『十秒間しか無いんだから、先生との直接対決は避けろ』ってモンだったけど、ンなお利口さんな真似できるかってんだ。
即座に言ったね。
「せっかくダンナの本気が見れるんだぞ、やらせろ!!」
大矢くん、やっぱりかって顔して眉しかめてたっけ。
「小隊長、堪えてください。みんな達人先生との対決を、我慢してるんですよ?」
「だがな、大矢参謀」
白銀輝夜が手を挙げる。
「トヨム小隊長は嫉妬して余りある、達人先生を独り占めしている環境にありながら、誰よりもリュウ先生とのつき合いが長いのだ。ここはひとつ、小隊長だけ目をつぶってやってくれんか?」
意外な援護射撃だった。
本当なら、白銀輝夜だってお目当ての先生がいるだろうに。
アタイに譲ってくれている。
「そうだよね、いかに達人先生を恐れているからと言って、逃げばかりじゃ対応されちゃうよ、参謀?」
シャルローネも背中を押してくれる。
「ほんの何人かで良い、先生方への対抗メンバーを決めておくのも、手だと思う」
士郎先生に思うところがあるに違いない。
キョウちゃん♡もアタイを推してくれた。
う〜んと唸って、大矢くんは決断を迫られる。
「……先生ひとりに対し、最大二名まで。それ以上は許せません、メンバーはみなさんで決めてください」
折れた、本当なら折れちゃいけない大矢参謀が折れた。
誰がどの先生に当たるか? それはランダムっていうことで、より大矢参謀が渋い顔をするような結論でまとまる。
誰が死んで誰が生き残っているか、それを予定できないような結論なんだ。
大矢くんだって投げ出したくなるよな。
だけど、それでも。
アタイたちは上の先生たちに、『ナマ』入れたくて仕方ないトンパチなんだ。
そして自分たちが今、どれだけ出来ているかを知りたくて仕方ない子供なんだ。
だから必死で稽古する。
「どうだい、セキトリ?」
「いや、それじゃあリュウ先生に殺られる」
「クッソ、どうすりゃいいんだよ!!」
ってね。
どこから攻めてくるか分からないように、両手をダラリ。
いわゆるノーガード戦法だ。
そこから頭を振って振って、さらにどこから攻めてくるか分からなくする。
うん、ここまではオッケー。
だけど飛び込むタイミング、拍子。
それをダンナには読まれてしまう。
いらっしゃいませ〜♡ってな感じで討ち取られる。
ダンナはなんでアタイの突入、踏み込みを読めるんだろう? 視線? 肩の動き?
ボクシングでは、そういった前兆を気配って呼んだりする。
もう今では、そういった気配は消せているはずだ。
セキトリが太鼓判を押してくれている。
なのに、何故? どうすれば良い?
……ボクシング。
アタイはふたつの拳を武器にした、拳闘スタイルで闘っている。
ボクシングは常に一対一、相手と向かい合って闘うものだ。
だったらダンナの背後に回り込んだらどうだ?
いや、気配を読まれたらそれもお終いだ。
そもそもが気配を読まれて殺られるのに、気配を消さないでどうするってんだ。
「頑張ってるね、小隊長」
陸奥屋鬼組のユキだ。
真ん丸メガネに一本おさげ、士郎先生の娘さんだ。
「あぁ、ユキっぺか。頑張っているけど成果が出ないでいるんだ。本当に参っちゃったよ」
「えっ、そうなの!? こっちから見てたら、気合い充分の絶好調にしか見えなかったよ?」
「見てるだけならね、でもダンナには討ち取られる」
「小隊長、リュウ先生に挑むんだもんねぇ〜〜。でもどうして討ち取られるの?」
「気配を読まれている。どこを狙って、いつ飛び込んでくるか、丸分かりにバレてるんだ。それで気配を消そうとしてるけど、上手くいかない」
ユキはニコニコ。
「それが小隊長の良いところじゃない」
とウインクひとつ。
「ウチの草薙流では、一に気迫二に気迫。気合いと根性と精神力で、敵を押し潰していくんだから。小隊長は元のスタイルで全然大丈夫だと思うよ?」
ダンナが『技のリュウ』なら、士郎先生は『気迫の士郎』だ。
ユキにほめられるってことは、アタイは草薙系の技が合ってるのかな?
「つまり」
ユキから結論。
「小隊長は気迫一本勝負でリュウ先生に向かった方が、結果を出しやすいんじゃないかな?」
ということで。
「お手合わせいただけますか、小隊長?」
地味な色合いの和服に、二本差し。
その大刀を、ユキはヌラリと抜いた。
構えは中段、攻めてヨシ受けてヨシの構えだ。
途端に重たい圧が、ユキから放たれる。
負けるもんか、アタイもグッと殺気をのし掛けてゆく。
火花バチバチってのは、こういうことを言うんだろな。
ズ……さらに圧の掛け合いは重たくなる。
いいね、こういうの。
やっぱりアタイは技のトヨムなんかじゃなくって、気迫のトヨムなんだろうね。
命懸けってのが、たまらなく楽しいや。
その気迫の霧の中から、いきなり日本刀の切っ先が伸びてきた。
間一髪、頬に刃の冷たさを感じながら、アタイも踏み込んでゆく。
右のボディ、はダメだ。
ユキは小太刀に手をかけるつもりだね。
ならばさらに接近。
おっとユキの奴、太刀を引いて間合いを短くして、アタイに切っ先で狙いをつけてやがる。
だけどそれも、とっくにお見通し。
「打つぞ!」
という殺気をマックスにして餌を撒く。
乗ってきた、突いて来るがそいつは躱してやる。
そして本命は顔面への右フック!!
と、ここは後退だ。ユキの奴、左で見えない角度から小太刀を抜いて来やがった。
間合いは再び剣のもの。
だけどアタイは揺さぶりをかけて、何度でも挑めば良いだけの話。
対してユキは? 今ので仕留められなかったことが、精神的不利に働いているはず。
もう一度両手ぶらりんのノーガード戦法。
頭をゆらゆら振って、足でポジションを細かく変える。
……だけど、ダンナと闘えるのは十秒間だけ。
ユキくらいは一発で仕留めなくちゃ、勝負にならない。
うん、次のアタックは斬られても打つ。
突かれても打つ、一発でユキを死人部屋に送ってやる……。
草薙流は相討ち上等な流派だっけ? やっぱ、そうでなくっちゃな。
賭けるなら、自分の命だ。
そうでなけりゃ葬られる者に対して失礼じゃんか。
ユキは小太刀を納めた。やっぱアレが秘中の一手みたいだな。
だけど、それでも。
一刀になったユキも、迫力はある。へなちょこな気合いじゃ、あっという間に飲まれるような殺気だ。
だけどさ、悪いねユキ。
アタイも藤平響なんだ。
殺気の勝負で後れを取る訳にはいかねぇんだよ。
命懸けだから面白ぇ、それをダンナは否定してたっけ?
だけどねダンナ、一度でもこいつを味わっちまったら、絶対トリコになるって。無理言わないどくれよ。