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どうでも良い『忍者奮戦記』

軍師カエデさんの作戦を紹介したならば、出雲鏡花の作戦も紹介しなければならないだろう。

場所はまほろば道場、例の世界観ガン無視な和風建築物。

というか神社。何を祀っているのかさえ誰も知らないが、見てくれは神社。その大道場ではなく、執務室。


いわゆる緋影さまの小部屋である。

執務室などと名乗っておきながら上座があり、天宮緋影はそこでお茶をすすっていた。

その眼前には座礼の出雲鏡花。天宮緋影の「鏡花、おもてを……」という言葉に、ようやく顔を上げた。



「いかがでしょう、鏡花。此度のぶいちゅうばぁさんとやらとの戦さ、支度は進んでいるでしょうか?」

「はい、何ひとつ滞ることなく」

「さすがは出雲財閥の者、してその内容はいかなるものでしょうか?」


「そこにつきましては、陸奥屋参謀の大矢なる者に一任しております」

「あら、大丈夫なのですか?」

「むしろわたくしの手の内は、あちらの参謀さんが知り尽くしておりますので。大矢参謀の策の方が愉快であるかと」

「奇謀妙計抱腹絶倒なる策略、楽しみにしていますよ」



「おまかせくださいませ」とおもてを伏せた出雲鏡花だが、懐から扇子を抜き出すと天井に向かって投げつけた。



「そこですわっ、曲者め!」



へにょへにょと飛んだ扇子ではあったが、ケポンと間抜けな音をさせて天井板の一部を落とした。

そして開放された屋根裏に、人影は無い。



「どこを狙っている、こっちだこっち」



隣室の襖が開いて、陸奥屋所属の忍者が顔を出した。



「盗み聞きとは趣味がよろしくありませんわ、忍者さん」

「忍者が盗み聞きしないでどうする、世も末だぞ?」

「アイドルさん方にもニンジャさんはいらっしゃいましたが、あちらはお行儀がよろしくてよ?」


「あれは忍者ではなくニンジャだからな」

「何か御用でも?」

「あぁ、あちらの覗き見をして来たんでな」



忍者は出雲鏡花の茶菓子をボリボリと勝手に食べ始めた。



「それで、いかがでしたか?」

「茶菓子程度で情報を得られると思ったか?」

「あらあら、忍者さんこそ。この奥の間へ忍び込んでおきながら、生きて帰れると思ってらっしゃいますの?」



殺気。


忍者は飛び上がるや否や、天井に貼り付いた。

そこを白銀輝夜の一刀が風鳴りを立てて走る。

天井に貼り付いたと思ったら、今度は畳が飛んできた。

間一髪これを避けて、忍者は逃走した。


『あ〜ばよ〜、とっつぁん』の書き置きを残して。



「お〜お〜やべぇやべぇ、あの女(白銀輝夜)、ひ〜ちゃんの敵と見なせば味方でも斬るからなぁ」



忍者は背中を一文字に斬り裂かれた忍者服をひらめかせた。



「仕方ない、デコには情報を売れなかったが、大矢くんなら買ってくれるだろう。ついでに飯もおごらせるか」


「忍者さんは何をしに来たのでしょう?」

「さあ」という、出雲鏡花と白銀輝夜の呟きを背に、忍者は陸奥屋本店に向かった。

向かったは良いのだが、そこには叔母(世間では従姉となっている)御剣かなめが憤怒の形相で仁王立ちしていた。



「待ってくれ、かなめ姉ぇ」



反射的に忍者は言い訳モードに入る。



「いずみ……」



忍者の名はいずみと言う。

これはずいぶん昔に説明してある。

そして御剣かなめは、主である鬼将軍不在を良いことに、激昂全開もであった。



「緑柳師範に、気配を察知されたそうね?」



御剣かなめの怒りは、勝手に情報収集したことでも、勝手に情報を現金化しようとしたことでも無さそうだった。

どちらかと言えばより厄介な、忍者としての在り方。

あるいは新堂忍者としての矜持といった部分で逆鱗に触れていたのである。



「だけどさ、かなめ姉ぇ。あのジイさんは本物だぞ。ともすればかなめ姉ぇだって……」

「しゃーらっぷ!!」



鞭が鳴いた。地面や壁を打った訳でもないのに、鞭が鳴いたのだ。つまりこれは、鞭の先端が音速を超えている。御剣かなめが本気だということだ。



「さーいぇっさー、マイ・シスター!!」



直立不動、忍者は脂汗を流しながら気をつけの姿勢を取る。

もちろん新堂忍者の掟として、こうした場合は首を落とされても姿勢を崩してはならないのだ。

そしてお気づきになられた方もいらっしゃろうが、忍者いずみは御剣かなめを叔母として扱わず、シスターと呼んでいる。



「いずみ、貴女は本家の娘なのよ? そして私は分家。そうした立場の違いがありながら、どうしてそんなに未熟なのかしら?」

「いや、私もCIAだのKKKだの、ましてや石工の組合なんぞでは足元に及ばないくらいには稽古してるんだが」

「ですが貴女は一介の老人に存在を見破られているのよ?」


「いや待てかなめ姉ぇ、一介の老人が人斬り技をバンバン放つモンじゃなかろうが! この裁判は不当であると私は訴えたい!」

「却下!! 忍びの教えはそんなに生ぬるいものじゃないのよ、いずみ!

有能な忍者は一人で一個師団の働きをしなくてはならないのに……。たかだか町道場の剣術指南役に遅れをとるだなんて……」

「だからかなめ姉ぇ、アレをそこいらの剣術先生みたいな言い方やめれ!! アレは人間兇器、ヒューマン・ウェポン! 殺しの緑柳だぞ!」



またもや鞭が鳴いた。忍者はふたたび直立不動となる。



「お仕置きが、必要みたいね。いずみ……」

「待ってくれ!! 私は情報を抜いて来たんだぞ! そんな優秀な忍者にお仕置きだなんて、世の中間違っているぞ!」

「いいかしら、いずみ。可愛らしく鳴くのよ?」



人がそれを断末魔と呼ぶことを、忍者は知っていた。


死。


リアルに感じる。とにかくこの場から逃げなくては。

忍者新堂いずみ、最後の一手! ちなみに最後の一手を御剣かなめに使うのは、今回で五二七回目だ!



「さ、いずみ。こちらの部屋へいらっしゃい♡」



魔性の右手が忍者装束に触れる。その瞬間だ!



「必殺、全裸オールヌード遁走術ランナウェイ!!」



忍者装束をスポンと抜け出すと、全裸で逃走し始めた。

それを見送る御剣かなめは、「まだまだね、いずみ……」と妖艶に微笑んだ。

そして指を鳴らす。



「新堂忍法、伊賀丸の術……」

「あだだだだっ!! 痛いっ、痛いからかなめ姉ぇっ!!」



どのような仕組みかは分からない、そしてなんのヒネリも無い。天井からイガグリが降ってきただけの術だった。



「おのれっ、ここで屈しては人民に自由無しっ! 飛べ、私っ!! 忍法飛翔天限!」



ヨガのポーズをとると、忍者はそのまま飛行を始めた。

とてもではないが、嫁入り前の娘が使う術ではない。

しかし御剣かなめは動じない。



「対空迎撃システム『サツキ』、発動」



鬼将軍付きのメイドさんが現れて、庭の落ち葉でたき火を始めた。

先ほどのイガグリをたき火にくべると、当然のように栗が爆ぜる、飛ぶ、忍者に命中する!

裸体に焼き栗を浴びた忍者は、「トシちゃんカンゲキー!!」という謎の言葉とともに墜落した。


忍者新堂いずみ、五二七回目の敗北だった。

メイドさんは手慣れたように、失神した全裸忍者をフリフリドレスで飾りつける。

そ〜おお恥ずかしい姿を、御剣かなめが余すところなくカメラに納めた。


激写、激写、また激写である。

その上でボディコンスーツ(北半球お目見え使用)を、まな板胸に着せこむという屈辱的な仕打ちで吊し上げた。



「武士の情けよ、いずみ……」



ブカブカな胸部分は釣り糸で吊るし、貧相な胸が露出しないように手心を加えておく。

しかしむしろまな板忍者にとっては、より恥辱的な仕打ちであった。


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