ワンショット・ワンキル
私のことを何だと思っているのか、ぺったんこソナタさんを筆頭に、アイドルさんたちは大騒ぎ。
「先生に稽古をつけてもらえる!」
「エライコッチャえらいこっちゃ!」
「いえ、ですからみなさん。トヨム小隊では通常の稽古ですから……」
「騎士隊長としては、大変に光栄なことと感じ入っておりましゅ!」
隊長さん、噛んでる噛んでる。ついでに言えば、カエデさんの静止の言葉も耳に届いていないようだ。
「ヨシ、全員整列ーーっ!! これからここにいる全員と、我々災害先生も相手してやるから、一度静まれーーっ!!」
フジオカさんの胴間声で、アイドルさんもどうにか静まった。しかし、ざわめきは残っている。
「おい、俺たちも先生に稽古つけてもらえるとよ」
「どんだけ強いんだろうな、達人先生ってよ」
「それではアイドルチーム主力の六名、どうぞ私とリュウ先生の前に」
大艦巨砲主義、おっぱい戦艦の二人を筆頭にカモメさんと偽物ニンジャさん、メイドのミナミさんとぺったんこソナタさん。
「まずは作戦会議、どんな戦法を取るか話し合ってください」
あちらで女の子会議が始まった。ルールは通常の六人制試合と同じ。何度でもよみがえることができる。
「ということでカエデさん、私たちはどうしようか?」
「彼女たちはまずリュウ先生の実力を計りにくるでしょうね。ワンショット・ワンキルをお見舞いしてあげてください」
「容赦なしかい」
「陸奥屋のネームドプレイヤーたちもそうするでしょうから。あの辺りの力量を見せていただければ幸いです」
「難しいこと平気で言うねぇ、カエデさんも」
「軍師ですから♡」
「で、その後は?」
「キチッと三ー三に分かれてくるでしょうから、私は逃げ回ります。リュウ先生は担当の三人をシバいたら、私を救助してください」
と、このような形で戦闘開始だ。
ゴング!
なるほどアイドルさんたち六人は、まず私に向かってきた。
前衛三人、後衛三人という隊形。
一番槍は巨っぱい勢、西の横綱キキさんだ。
「それではリュウ先生、お願いしまー……」
小手の防具を破壊して、面に一刀。
キキさん、挨拶の途中で死人部屋へ旅立つ。
「ありゃ!? キキ先輩、どこへ行きまし……」
偽物ニンジャさん、びっくりしている間に戦死。
「こんな速度で二人も戦死だなんて……」
ソナタさんは慎重だ。逆にカモメさんは無邪気に突っ込んでくる。
「どりゃぁ〜〜っ!! もらったーーっ!」
テレフォンも良いところな無謀さだが、カモメさんの場合それで良いのかもしれない。
突き技ひとつで旅立ってもらおうか。
「カモメ先輩、危ないっ!!」
お? 隊長さんが楯になったか。隊長さんも戦死なのだが。
「あぁっ、隊長〜〜っ!!」
「カモメ先輩の楯になれて、隊長幸せなんよ……」
死人部屋へと旅立つ隊長を、涙で送るカモメさんだ。
「おのれリュウ先生! 隊長の仇!!」
いや、お前が無防備な攻撃するから、隊長さんは戦死したんだが?
「隙あり、リュウ先生!」
背後からミナミさんが打ちかかってくるが、そんな攻撃は先刻承知乃助だ。
ケロリとかわして、振り返りもせず胴突き一本。
馬力まかせにカモメさんも突っ込んでくるが、ここは切っ先を見切ってのカウンター。
五人目の戦死者だ。そして、残るはソナタさんひとり。
「うっわ、責任重大……」
「心配しなくても良い、君も死人部屋へ直行だ」
こっそりと攻撃準備をしているソナタさんを、楽にしてあげた。
「あれ!? みんなどこ行きましたか!?」
死人部屋から復帰してきたキキさんだが、仲間は全員死人部屋。
つまり、それだけ短時間の全滅だった。
「みなさん死人部屋から復帰してくるところですよ。全員揃ってから、態勢を立て直してみては?」
「死人部屋から復帰? Oh、道理でスタート地点にいた訳デース!」
「フィジカルが取り柄なニンジャ復活!! キキ先輩、リュウ先生は危険です! 離れてください!」
「そう言えばソナタんもいません。あの寸足らずも、死人部屋デースか?」
「だからキキ先輩!! リュウ先生に背中向けないで!」
そうこうしている間にも、隊長さんからソナタさんまで復活。六人揃い踏みとなった。
「さて、アイドルさん方。全員揃ったところで、また私に掛かってくるかい? それともカエデさんに標的を変えるかい?」
「私も最弱ではありますが、一応陸奥屋ネームドプレイヤーの一人ですよ?」
緊急作戦会議開催、すぐに方針は決まった。
「ネームドプレイヤーだって言うなら、稽古をつけてもらうぜ!! カエデちゃん、覚悟っ!!」
だからカモメさん、そういうことは無言でやろうや。
そうすれば不意討ちも可能なんだから……。
と、それにしては気配が丸見えだな。
うん、ソナタさんだけがカエデさんに集中していない。
全員でカエデさんを討ち取る振りをして、私に奇襲を仕掛けるつもりだな? よかろう、受けて立とうじゃないか。
私の脳内で、春日八郎の歌う『新選組の旗は行く』のイントロが流れ始める。そう、挑まれて退かないのがサムライの意地なのだ。
意地。
その単語を聞かなくなって久しい。
男の意地というものは、大変に面倒くさく重たいものなのだ。
それに相応しいイントロである。
そして私も男である以上、この挑戦からは逃げられないのである。
カエデさんを守りながら、の挑戦受理なのだが。
……木刀を腰に納める。ソナタさんの気配に迷いが生じる。
さあ、かかって来いソナタさん。
「3、2、1、レッツゴー!!」
キキさんの号令で一斉にカエデさんに襲いかかる、ただ一人を除いては。
ソナタさんだけは私に突っ込んで来た。
狂気、コラコラ、若い女の子がそんな目をしちゃいかんぞ。ぬるい脇構えからのソナタさんは先制攻撃。
その小手を取って、軽くひねり上げる。逆を取られて抵抗できないソナタさんを、カエデさん強襲部隊の二番手目掛けて投げつけた。
カエデさん強襲部隊の先頭は隊長さん、二番手はキキさん。
一直線に飛んでいったソナタさん、キキさんとともに仲良く戦死。そして先頭に立っていた隊長さんは……。
「必殺、雲龍剣!」
久しぶりの発動、必殺雲龍剣により隊長さんも死人部屋送り。
残るはカモメさんとミナミさん、それにニンジャさんだ。
その猛攻に対してカエデさんは。
「エビ屈みハイジャンプ!!」
エビかザリガニのように、ピンと後退する。アイドルさんたちの攻撃、エビ屈みジャンプが繰り返される。
「あっ! クッソ、汚いぞ軍師どの!!」
「えぇ、私は軍師ですから♪」
「そんな奇策にはフィジカル勝負! ニンジャ、行くでござる!!」
そんなに張り切るニンジャさんは、私の木刀で露と消える。
「クッソ! 軍師どのを狙えば先生が横から来る!! ミナミ、気をつけろ!」
気をつけろとは言うものの、具体的な策は指示できない。それが実力差というものだ。その流れで、メイドのミナミさんも撤退。
「おのれ、火力の差は如何ともし難いか……」
うむ、カモメさんはそのことに気づいたみたいだ。
「だが、対処の方法はすでに教えているよ」
私のヒントに、カモメさんはすぐに閃く。
「見切り?」
その見切りを、どう活かす?
カモメさん、熟考……そして。
「やってみるか!」
何か思いついたようだ。
「では、今度は必殺技など使わずにお相手します!」
丸楯に片手剣、切っ先でカエデさんは狙いをつけた。
カモメさんはカモメさんで、八相のように剣を肩に担いだ。
シュッと立つ現代剣道のような体幹、カモメさんはカモメさんなりに何かを掴んでいるようだ。
「いざ!」
「おうっ!!」
カエデさんの突き技、カモメさんの心臓へと伸びる。カモメさん、体軸を乱さず後退……後退、後退……。
カエデさんの突きが伸び切った。
そこで担いだ剣を振り降ろす!




