あらかると
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闘いは終わった。傷だらけの革鎧のカエデさんがフラついた。慌てて肩を抱きとめる。
「あ、大丈夫です、リュウ先生」
そう言いながら、カエデさんは私の胸から離れようとしない。
「嬉しいなぁ、仲間が来てくれる。仲間が必ず来てくれるって信じられることが……」
「当然だろ? 君を助けるためにシャルローネさんとマミさんは、万難を排してかけつけてくれる」
「それだけじゃないよ、リュウ先生。リュウ先生はみんなを信じて、私の護衛についてくれた。
それが、すっごい感動……」
「ゲーム世界でしかないが手塩にかけた弟子だ。信頼してるさ」
「ありがとう、みんな。そしてゴメンね、リュウ先生独り占めしちゃった……」
「いいんだよカエデ、旦那は頑張る奴を見捨てたりしないんだから!」
「格好よかったよ、カエデちゃん! すごく光ってた!」
「シャルローネ……私、ゲームでも現実世界でも、貴女のこと大っ嫌いなの……。気さくで朗らかで、なにをやらせても上手で、みんなを引っ張っていくリーダーシップ。絶対に私なんかじゃ追いつけない、貴女が大っ嫌い! でも、大好き……。だから小隊長に敵わない貴女を見て、いつもざまあみろ! って思ってたの。でも、仕方ないよね、小隊長相手なんだから……」
「凄いだろアタイ! カエデも惚れてみろ!」
「惚れる惚れる! 男前だよ、小隊長!」
「で、トヨム小隊長」
「なんだい、旦那」
回文だ。しかしそのことには触れない。
「私から撤退を進言する。カエデさんの革鎧はもう限界だ。これから未知のモンスターを相手にするには、少し心許ない」
「だろうね、カエデはそれだけ頑張ってくれたんだから。ということで、探索の森から撤退するぞ!」
「「「異議なし!」」」
カエデさんを抱えて、街へと戻る。私の胸は満足感一杯だった。
「今回は戦利品よりも、よっぽど大きな収穫があったな」
「そだね、旦那。一人はみんなのために。みんなは一人のために」
「そしてみんながカエデさんのために駆けつけてくれた」
「仲間の……うんにゃ、友だちのためさ」
「カエデさん、帰ったら革鎧をメンテに出すんじゃぞ?」
「わかってますよ、セキトリ」
「それからログアウトしたら湯船にゆっくり浸かってじゃ……」
「汗臭いまんまじゃ学校に行けませんよ〜」
「ですがこの虹色のプルプル玉ってアイテム、どうしましょう?」
「転売不可ならどうしようもないわよね。収納で熟成させておきましょうか?」
「わざわざ運営が用意したものだ。あとで何かに化けるかもしれないしな」
ということで、今日はお開き。シャルローネさんたちは一度自分たちの拠点に帰り、そこでログアウト。私たちもそのままログアウトした。
俺たちは、チーム「ブルーシャドー」、『王国の刃』じゃちょっと知られた強プレイヤークランさ。なにしろ俺たちの連携はピカイチでよ、誰かが必殺技使ったらすぐに別なメンバーが必殺技。そうして順繰りに必殺技をブチ込んでたら、最初に必殺技を使った奴もゲージが満タンになってるって寸法よ。俺たちはこうやって確実にキルを稼いで回ってんのさ。
なに? それだったらブッパツール入れておけばいいだろって? あぁ、あのゲージが減らねぇってツールな。お前、わかっちゃいねぇなぁ。あのツール入れると、他のツールが相性悪いこともあんだ。
俺たちの使ってる『クリティカルを貰いにくくするツール』と相性が悪いんだよ。それにな、ブッパツールはすぐに不正者ってバレちまうじゃねーか。俺たちのポリシーは、あくまでもクール。そしてスマートに、だ。
さて、そんじゃ今日も熟練格のクセして、大して上手くもない連中をイビって楽しむとするか! おう、みんな! やってやろうぜ!
今日の対戦相手は、と……どれどれ? 「嗚呼!!花のトヨム小隊」? 『嗚呼』ってなんて読むんだ? インテリぶって難しい漢字使うんじゃねーよ。で、こいつら全戦全勝らしいけど、よっぽど甘ちゃんばっか相手にしてたんだな。クリティカル率が偉い高いし、キルもかなり取ってんジャン。
で、装備は? ……ちょっ! おま……! 全員革防具くらいしか着けてねーじゃん! バッカじゃねーの、コイツら! 仲間たちと指差して笑っちまったじゃねーかよ! しかもこのサムライ気取りの親父、サイコー! 武器が木刀だってよ、木刀! おまい金貯め込んでゲーム内サービスの風俗行ってんじゃねーの!? リアルで行けよ、風俗くれーよ!
あー笑った笑った……だけどな、俺はこのチームの穴を見つけたぜ。
こいつこいつ、この青と白のおねーちゃんだ。コイツは「今週生理なの?」ってくらい、最近キルを取れてないし、クリティカルも落ちてる。とびきり美人って訳じゃない、どっちかってーとイモねーちゃん。今日の獲物はコイツで決まりだ! いいカモ見つけたな、俺ら!
さあ、試合開始だぜ、まずはみんなであの青と白におねーちゃん目掛けて……ってド素人かよ、おねーちゃん先頭にいるじゃん! カモを先頭に置いてくれるって、サービス良すぎね? このクソ雑魚クラン!! 初弾はショウ、下っ端のお前行け! 鎧剥いたら俺がキル取るからよ!
うっせぇ、文句ゆーな! って、おまい必殺技ハズすなよなー下っ手クソ! ホーク、次おまいな! ……だからキルは俺がいただくっつってんだろ!! っつーかお前までハズレかよ! アップル! アップル! ……返事しろやアップル! ……なに? いまヤラれてるって?
何やってんだよ、って。茶色いチビがショウを殴ってやがる。それも、クリティカル! クリティカル! なんでだよ……俺たちのツール、『クリティカルを貰いにくくする』んじゃなかったのかよ? 逆にウチのヒットマン、ベンとジョーが青と白のおねーちゃんに襲いかかってっけど、必殺技をよけられ通常攻撃をかわされて、チクチクダメージを入れられてる。
復活したショウとホークは、復活したあと、こっちに来る途中で木刀のへっぽこサムライに足止めされてるし。って、茶色のゴキブリが俺ンとこに来た! 速い! 必殺技の準備すらできねぇ! っておまい一発で鎧と兜吹っ飛ばすなよ! 熟練格じゃ滅多に手に入らない高級品、メンテ代金高いんだぞ!
って言ってる間にボコられた…。あっという間にリスタート。高いゲーム内通貨払って甲冑直して、気を取り直してカモ狩りだカモ狩り! ……って、木刀の屁こきサムライが待ってたぜ。コイツだって革鎧すら着てない、鎖帷子も入れてない。素人丸出しの木刀オヤジじゃねーか。よし、一丁コイツをカモってやっか!
スネ当て持ってくなよ! 小手を壊すな! 修理費高いんだぞ、この鎧! あぁっ! 兜まで……! お前なぁ、防具という防具全部壊してくれてんじゃねーよ。絶対ぇ不正者だろ、お前ら! そうでなきゃ『クリティカルを貰いにくくする』ツール入れてる俺らから、こんな簡単に鎧兜取れる訳ねーべや。
うわ、小手が欠損。……両方ともかよ。今度は脚? なぶり殺し路線だな、コレ。俺もよくやる。不正の大将、お前ホントろくでなしだな。こんな真似して楽しいのかよ。お? トドメ刺さねーで行っちまったぞ?
いつの間にか殺されて、復活したベンとジョーのとこ行っちまった。
……これはチャンスだな。後ろからタコ殴りにしてやんよ! ……ってゴキブリ! おまいまた俺はンとこ来たのかよ! お前速いんだって! どんなツール入れてんだよ! あーもーやめやめ! 不正者相手に『まともに』やってらんねーよ。イチ抜けた!
「しっかしあれだよなー。旦那が復活者の前にいると、試合が楽になりすぎるなー」
トヨムが変なボヤキ方をしていた。
「うーん……囮のはずの私も、ちょっと楽しちゃいましたから、今後はリュウ先生、ゴール前の番人禁止にした方がいいかもね?」
「なにかこう、君たちの成長の邪魔にしかなってないな、私は」
「っつーよりリュウ先生、先生からすればこの程度の連中、一人で朝飯前じゃろ?」
「本当のところ、どうなんですか、リュウ先生?」
シャルローネさんがイヤラシイ目を私に向けてくる。だからこそ私は、武人としての威厳をもって答えた。
「他者を軽んずるような発言はダメだぞ?」
「でもーリュウ先生? ブルーシャドーっていうクランはー、クリティカルが入りにくいツールを入れた不正者集団、ということで有名なんですがー……」
「……………………」
「このような集団には信賞必罰ではありませんかー?」
「ねえシャルローネ、リュウ先生なんて答えると思う?」
「そだねー、『それでも自分を辱めるようなことは言ってはならん!』って言うかなー?」
「それでも自分を辱めるようなことは言ってはならん!」
事実、その通りだ。他者を辱めるものをは自分をも辱める。卑怯な言動は自ら卑怯の道を歩むようなものなのだ。
「いやいやリュウ先生、そうではありませんぞ。実力という話題じゃから、実際リュウ先生はどう感じとるんかのう? という質問なんじゃが……」
セキトリ、君も嫌なからみ方するねぇ。じゃあ本当のこと言おうか?
「君たちは力士組を相手に、私抜きで勝てたよね?」
「「「はい! 先生のご指導のおかげです!」」」
「それじゃあその力士組と士郎先生が闘ったら、どうなるかな?」
「正直、士郎先生の圧勝でしょうか?」
カエデさんが答えた。
「その士郎先生と私は引き分けている。君たちは士郎先生に勝てるかい?」
「アタイ、士郎先生に睨まれただけで死んじゃうな。ってゆーか、旦那が本気出しても、睨まれただけで死んじゃう自信がある!」
「トヨム、それホント?」
「カエデは旦那に面を割られたこと無いもんな。まず、前に立たれただけで足がすくむ。オシッコちびっちゃう」
「そんなに怖いの? リュウ先生って……信じられない……」
「ワシも初めて稽古つけてもらったときゃ、先生が襲いかかってくる幻を見たぞい」
「あ、私わかる。ウチのおじいちゃん先生も、幻で斬ってくるから」
そういえばシャルローネさんは、古武道を実際に習っているんだったな。
「ほえ〜……マミさんにはちょっと想像もつかないお話ですね〜〜……」
「だったらマミ、旦那に稽古つけてもらったら? シャルローネは古武道経験者だからいいとして、カエデもさ!」
「おいおいトヨム、私はもうそんな殺人稽古はやらないぞ?」
「なんじゃい、ワシらだけ可愛がられたんかい?」
「セキトリとトヨムは『キの字』が入っているからな」
「旦那、カエデにキの字が入ったらどうなんだろ?」
「面白半分で試していい人間じゃないな。カエデさんはどこまでものめり込むタイプだ」
「はい! 行くならばどこまでも!」
「それがダメだって言ってるだろ」
とはいえ、この二人に稽古をつけるなら、どうするべきか? マミさんは闘志に火を着ける稽古がいいだろうか? 柔道経験者だったから、その辺りを刺激するのは面白そうだ。
問題はカエデさんだ。変なことを教えればぜろせんの特攻隊みたいになるだろうし、かといって維新のサムライのような死にたがりになられても困る。……案外偏った娘なんだろうか、カエデさん。だとしたら中心軸を意識した稽古。立ち居振る舞いからして美しいレディになるような、そんな稽古が必要かもしれない。
うん、カエデさんはその方がいいだろう。