燃え上がれ、ビリー軍!!
リュウです。
ただいまアイドルチームで指導中の、リュウです。
必死の素振り稽古に、ゴムボールを利用した見切り稽古。
ビリー軍の実力は格段に上がっているところ。
ただし、浸透勁という必殺の一撃が無い分だけ、火力にはもの足りぬところがあるのも現実。
しかしそこはやはりアイドルさんたち。持ち前の明るさで全軍の士気を大いに高めてくれている。
「信じられないくらい力つけてるよ、私たち!!」
「一発あれば大抵の防具もぶっ壊せるしな!」
「もしかして勝てるんじゃね!? アマチュア最強チームにさ!!」
ムードはこれでもかと盛り上がってゆく。そこに飛び込んできた朗報。緑柳師範が運営サイドの発表を読み上げる。
「軍師のお嬢ちゃんのイベント参加が、認められたぞい!」
爆発するように沸き立つ稽古会場。
だが、カエデさん出陣の本当の意味を知る者は少ない。
カエデさんは陣幕の中にいる娘ではない。
粉骨砕身滅私奉公、チームのために現場を駆けずり回ってこその参謀。
つまり、囮作戦や陽動作戦をその場の判断でやってのけるタイプの軍師なのだ。
緑柳師範は続ける。
「さらにさらに、ワシら四人も三〇分に一度一〇秒間だけ現場に召喚できるそうじゃ!」
「このイベント、もらった〜〜っ!!」
元気者のカモメさんが、女の子らしい拳を突き上げた。そしてアイドルチームはひとつになる。
子供たちは湧き上がっていた。しかし私は、そっと参謀長のヤハラくんに訊いてみる。
「どうだい、この三〇分に一〇秒間というルール?」
「罠かもしれませんね。あるいは私たちの首を締めるかもしれません」
ヤハラくんが解説してくれた。
試合開始から三〇分で見せ場ができたとしよう。
そこで切り札を一枚切る。
その調子でカードを切っていくと、最後のカードは使えなくなってしまうのだ。
それは何も試合開始三〇分に限ったことではない。
一時間、一時間三〇分。
区切りの前にはカードを使ってしまわなければならない。
「そうした点は意外な落とし穴ですよね」
切り札を使うのではない、使わされてしまうのだ。
「そうした部分、出雲参謀長ならば見逃さないでしょうね」
「人を陥れることに関しては、天才悪魔フー・マンチューだからな」
見てみると、士郎さんとフジオカさんは師範の発表に懐疑的な顔。
緑柳師範自身も、アイドルさんたちに囲まれて御満悦ではあったが、目は笑っていない。
そしてカエデさんは……。
やっぱりいつも通り、これで良かったのかと悩んでいる様子。
もしかしてこのルール変更に、彼女も一枚噛んでいるのかもしれない。
そして稽古も大詰め、いよいよ本格的な二人一組。三人一組の連携運動へと入ってゆく。
敵将は一人で複数を相手にする練習をしている。
とにかく止まってくれないというのが見た目である。
「これにどのように対処していくか?」
みんなに質問した。
ぺったんこソナタさん、挙手。
「ボクたちも一生懸命動く」
「それが基本だね。だけどそれじゃあ二人一組の利点を活かしにくい」
他には。
「こちらは二人一組なんだから、確実にダメージは与えられそうよね」
鋭い。
「そう、敵がどれだけ動いたとしても、必ず攻撃してきてくれる。そこを打つのさ」
「カウンター攻撃ですか。高度な技術ですねぇ」
「カウンター攻撃というのは? 敵の攻撃をもらわずに当てることだよね? じゃあ、みんなが積んできた稽古は?」
「あ!?」
気がついたようだ。
素振り稽古と見切り稽古は、ここで威力を発揮するのだ。
「そこに二人一組が加わると?」
「コンタクトの瞬間にキルが取れる?」
理想論でしかないが、その通りだ。
敵の思う通りにはならなくなる、これだけは確実だろう。
「そしてその負担を、アイドルさんたちだけにはかけられません。というか、決戦の場所までアイドルさんチームをエスコートするのが、一般プレイヤーのみなさんたちなんです。どうかよろしくお願いします」
カエデさんは頭を下げた。
「先生方にまで出張っていただくんだ、こいつぁ負けらんねーぞ!!」
「一丁気合いハメていくべな!」
「アマチュア最強なにするものぞ、だ!!」
「やっちまえ!」
「やってやろうぜ!!」
一般プレイヤーたちもテンションが上がってきた。
いや、元々がアイドルチームの参加で気合いが入り、アイドルたちの頑張りにより、さらなる気合いが投下されていたのだ。
キャパシティは十分、そこに『勝ち筋』という燃料が注がれただけである。
士気横溢というのも当然のこと。
「よっしゃ、そんじゃまカウンター攻撃の練習でもしてみっか!」
「おう、二人一組になんべぇ! 俺のバディどこ行ったよ!?」
二人一組対二人一組のカウンター合戦、あちこちでバチバチと打ち合いが始まる。
「闇雲に打ち合っても効果は薄いぞ。まずは攻め手と受け手を決めて、そこでカウンター攻撃の稽古をするんだ!」
フジオカさんの檄が飛ぶ。
要領としては、攻め手二人が一人を狙って打ち込む。
狙われた者はひと太刀を見切りで躱し、もうひと太刀はバディに受けてもらう。
そしてカウンター攻撃。
バディも受けてからのカウンター攻撃。という稽古。
燃え上がる気分の高揚、そんな時こそ落ち着こう。
闘志の燃焼をより効率的に、より効果的に。
これこそが上達の最短距離であり、術を楽しく感じられる秘訣だ。
何故ならば古流というものは、ミステリー小説を読むかのごときものだからだ。
ページをめくるたびに展開するストーリー。
ハラハラドキドキなどは標準装備。
そして『何故?』という不思議はそこここに満ちている。
そこに『成功』とか『成功体験』を付加するのは、私たち達人先生のお仕事だ。
「太刀の下に隠れるんだ! 太刀で身を守れ!!」
攻撃的、それでありながら身を守るコツは取り入れてある。
草薙神党流の士郎さんがアドバイスを送った。
「敵の刃が襲ってくる方角に、得物の刃を向けよ!! そうすれば自然と身を守れるぞ!」
私も檄を飛ばす。
「ただ打ち合うんじゃない、敵の二人組をどうやって単身にするか、考えて闘うんだ!」
フジオカさんからも、力強い檄をいただいた。
アイドルさんたちも一般プレイヤーたちも、創意工夫を凝らしていた。
まず先手で一人に二人で掛かる者。一対一で当たって、敵の一人を押し飛ばす者。
徹底して敵のバディを引きつけて、ちょっかいを出すようにして敵の集中力を削ぐ者。戦法は様々だ。
そんな中、ぺったんこソナタさんが悩んでいる。
「どうしたんだい、P……じゃなく、ソナタさん?」
「あ、リュウ先生。ボクたちは本隊、三人一組をカエデちゃんに指示されてますけど、どんな戦法が効率的かなと思って……」
なるほど、P……ではなくソナタさんは、頭で理解してから動くタイプなのか。
「そうだね、主力チームは必ず陸奥屋のネームドプレイヤーたちと、ガッチンコの正面衝突をするだろう。まずは敵のネームドプレイヤーがどんなものか、体験してみてはどうだろう?」
「カエデちゃんもネームドに入ってましたよね? でももう一人は……」
「私が出てあげよう」
パカッ、ソナタさんの瞳孔が開いた。
口もポッカリと開いてしまっている。
「え!? えっ!? え!? えぇぇえぇぇっ!? リュ、りゅ、リュ、リュウ先生がーーっ!?」
「Hey、ソナタん。なにを大きな声出してるデスかー!?」
おっぱい戦艦かおっぱい爆撃機か、同期のキキさんが割って入ってきた。
「たたた大変だよ、キキ! ボクたちリュウ先生と手合わせするんだよ!?」
「わんだほー♪ これでまた私たち、強くなれますネー♡」
「いや、キキ。こんな宗家の大先生が胸を貸してくれるなんて、あり得ないことなんだぞ」
普段は陽気なカモメさんまで、神妙な顔をしている。
「ですがトヨム小隊では、ごく日常的な稽古ですから♪」
ちゃっかり混ざってきたカエデさんが、ニコニコと笑う。