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陸奥屋の隠し玉

「さて、みなさま方」



アタイだよ、しばらく出番の無かったトヨムだよ。

ダンナたちがいない今、稽古は自分たちの工夫で取り組んでいるんだ。そんないつもの稽古の前、参謀長の出雲鏡花が一五〇人の同志を集めて言い出した。



「ここで改めて確認させていただきますが、みなさまの中に株式会社オーバー所属アイドルさんの、チャンネル登録されている方はいらっしゃいますか?」



わらわらと手が挙がる。その数、えっと……八割九割ってとこか。

っつーかシャルローネ、お前もかよっ!? スッゲー流行ってんだな、株式会社オーバー!

この現実にあの鉄面皮な参謀長もこっそりため息だ。



「それでは今ひとつ確認させていただきますわ。挙手をされた方の中で、推しと闘えないと仰る方はいらっしゃいますこと?」



お?今度はみんな手をおろしたぞ。



「おう、参謀長! 俺たちのこと何だと思ってんだよ!」

「そうだそうだ! 女よりも男の結束じゃろうが!」

「いや、むしろ推していればこそ! 俺の強いとこ見してやるんじゃろうがい!!」



おう、セキトリ。威勢のいいこと言ってっけど、お前誰推しなのさ?



「我々はミチノック!! 戦う男の集団だ!!」



いや、女の子もいるんだぞ、お前たち。っていうかミチノックって何よ?



「えっと……」



おう、キョウちゃん。何言い出すのさ?



「俺が参謀長に首ったけとかいう偽情報は、そろそろ卒業させてもらえませんか?」

「あら、キョウさん。そのように仰られるということは、どなたか推しがいらっしゃると解釈してもよろしいのでしょうか?」

「おう、キョウちゃん♡。ヌシぁ誰推しよ? ワシぁ始祖さん推しぞ」



ほー、セキトリはロングヘアの美少女さん推しかい?



「ま、待ってくれセキトリ、俺は何も……」

「キョウちゃんのこった、絶対にぺったんこ勢推しだと俺は信じてる!」

「おう、茶房の看板娘。歩ちゃんに懸想してるのは、俺も知ってる!!」

「なにコンチキショー!! 歩ちゃんは俺のモンだぞ!」

「さがってやがれ、ロリコンめ!! オイラの推しは永遠にマミさんだ!」



ドカンという音がした。ナンブ・リュウゾウが倒れている。そしてその背後には、なんでかプロ選手のさくらが立っていた。



「頼もしいお言葉の数々、そして不穏な見解。誠にありがとうございましたわ。出雲鏡花、万人の助けを頂いた気分ですわ」



ほう、この女。アタイたちが女の子とは闘えないとでも思ってたのか。



「ですが、その勇ましさが懸念ともなりますわね」



そうなのかい?



「えぇ、アイドルさんたちに群がる、みなさまのお姿がわたくしには見えますわ」



ピクン、全体がかすかに反応した。

そして今回は反論のひとつもありゃしねぇ。

図星かよ、お前ら……。



「そんなみなさまのために、『逆らったら地獄行き!! 参謀局配置案!』を発表いたしますわ!! ヘイ高級参謀、カマン!」



高級参謀?カエデは出向したまんまだし、元の高級参謀ヤハラもアイドル陣営だ。

で、呼び出されたのが海軍士官の制服を着た、若いお兄ちゃん。

……誰だっけ、あれ。

……………………あーーっ!! 陸奥屋本店で参謀やってた、大矢くんだーーっ! 生きてたんだ、お前っ!?


そう、アタイたちの総裁鬼将軍の小隊には、秘書の御剣かなめ、ちんちくりんのメイドさん。執事の爺さんに大矢参謀がいたんだ。

なんか作戦会議とかやった覚えがあるよ。

初めてのイベント参加のときには作戦立ててくれて、その座が出雲鏡花に奪われカエデに追い越され、ヤハラ高級参謀にも出し抜かれても、挫けることのない不屈の闘志。

頑張ってくれ、大矢参謀。アタイはお前の味方だぞ。


大矢参謀は一礼、本題を切り出してくる。



「まず敵軍から乗り込んでくる部隊、これをアイドルチームと予測します」



その根拠として、アイドルさんたちは撮れ高が欲しいので絶対に突っ込んでくると考えているそうだ。



「それが正面か右か左かはわかりません。ですがみなさんの元へアイドルさんが乗り込んでくるのは確実です。なので配置は絶対に崩さないでください」



信用されてねーなー、男ども。



「そして敵陣深くへと突入し、首級を上げる部隊も選抜しております」



お、つまりそりゃこっちの主力ってこったな? まあ妥当に行けば、ネームドプレイヤーたちってことになるんだろうけど。



「必死必殺の攻撃部隊は三個小隊、ジョージ・ワンレッツ率いるチーム・ジャスティス。スワン隊長率いる、カツンジャー。そしてヒナ雄隊長とチーム・情熱の嵐です」



場内がざわめいた。そりゃそうだ、今まで攻撃部隊の中心はネームドプレイヤーたちとダンナたち達人先生だったのに。

確か敵はトラッピングなんかも使うんだろ?



「御一同驚いてらっしゃるでしょうが、理由は簡単。ネームドプレイヤーたちには今回、総裁の護衛をしていただくからです」



というか、主力にネームドプレイヤーなどというのは、カエデさんが読んでいるはず。

その裏をかいた作戦だと、参謀くんは言った。

さらには、防壁部隊前衛に新兵格を配置。

後衛にネームドプレイヤーたちという、アイドルさんたちにとっては物語性のある演出にしているという。



「なにしろ株式会社オーバーは、『王国の刃』に対する功労者ですから。私たちも彼らの同時配信に協力をしなければいけません」



そして敵の防壁を破壊して、戦闘部隊を本丸へ送り込むのは、陸奥屋一党力士隊抜刀隊などなど、古参兵の実力者たちだという。



「小隊長、どう思います?」



シャルローネが訊いてくる。



「うん、正直言ってこれでも負ける気はしない。例え敵陣にカエデがいても、ルール上でアイドルさんたちが勝てる見込みは薄いだろう」



一二〇分無制限勝負。このルールが効いている。

一本勝負なら、これはカエデに分がある。だけどどんな作戦を練ったところで、最後にモノを言うのは火力だ。


白樺女子との戦い、あれは百回に一回の勝ちを『あのタイミングで』拾ったアイツらの勝ちだ。

事実、あの一勝のあとは大人げない達人たちに絶滅の苦杯をなめさせられている。

カエデができるのは、ああした奇跡の勝利しかない。だけど本丸を何回落としたかという勝負ならば、火力の陸奥屋まほろば連合だ。



「だけど、アイドルさんたちには配信という武器がある。例えルールで負けにされても、視聴者さんたちに『一勝くらいはできるよう頑張るからね♡』と約束していたら、世界中の視聴者全員が納得の結果が得られると思うぞ」

「お〜〜、小隊長の読み通りですよ。動画でアイドルさんたちの、イベントに対する意気込みが切り抜かれてますけど、現状が熱く語られてますねー」



マミが動画を再生、アイドルさんのひとりが『足が攣るくらい練習してる』とした上で、それでもあのルールでの勝利は難しいとしていた。

そこで、『せめて一度くらいは敵将の御首を上げるから、応援よろしくお願いします!』と締めている。


その動画は、出雲鏡花も大スクリーンで再生していた。



「乾坤一擲が来ますわよ、みなさま」



あぁ、そうだな参謀長。



「あの白樺女子に勝るとも劣らぬ軍団が、カエデさんの指揮で襲いかかってきますわ」



同じ轍は踏まないぞ。

だが、恐るべき闘志をもって、三十余名の戦士たちが、火の玉となってかかってくる。



「またもや、必死の合戦となりますわ」

「心配するな参謀長、アタイたちはミチノックだ。戦えば、必ず勝つ!!」

「「「応っ!!」」」



アタイの声に、一五〇人の同志たちの声が重なった。


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