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次なる一歩

見た。単身男山大学剣道部に戦いを挑むメイドのミナミさんが、敵を見た。

瞳孔が開いているのではないかという目で、敵を見ていた。

すでに、間合い。死地の中に彼女はいた。先制、剣道部。鋭い気合いとともに刀を振り出す。



「見えてるよ」



士郎さんは余裕の笑み。そうなのか?そうだろうな。あの目は見えている目だ。


事実、ミナミさんは必要最小限の動きで前髪をカットさせた。その打ち終わりの拳に、「えいっ!!」剣を振り降ろす。小手、破壊。そして太刀はまだ死んでいない。草薙流の生きた太刀である。


そのまま突いた、胴の防具も破壊。そこから切っ先を跳ね上げる。狙いは、アゴから頭蓋骨へ向けて。しかしここは剣道部が読んでいた。スウェーバックで躱す。ここで残りの剣道部たちが、白刃を踊らせた。


四本の刃に迫られたが、ミナミさんの行動はただひとつ。バックステップひとつ。まだ死んでいない刃も、しっかり見ている。バックステップの後は横への動き。


剣士たちが狙った場所に、すでに彼女はいない。

身を泳がせた剣道部たちの防具に、ミナミさんはまたクリティカル。そして深追いはしない。ジリジリ後退。

そこへ復活の援軍が到着。



「お待たせしました!! ソナタソ到着っ! ミナミ先輩、お手伝いしますよ!」

「ソナタン、気をつけて!! 敵は君を見ているよ!」



いや、見ているのは君の方だろメイドさん。いつの間に見切りなんて身につけてたんだ。

……いや、プロチームとのエキジビションマッチで、練習させていたか。それを繰り返して稽古していたとは、感心感心。


しかし、感心はしたが時間はもう無い。

この練習試合、圧倒的なキル数で男山大学剣道部たちが勝利である。ところが士郎さん、ホックホクの良い顔である。

気合いと根性と精神力を根幹とした草薙流、その見習い剣士ともいえるミナミさんが、クリティカルを連発したのだ。


剛の者揃いな男山大学剣道部を相手に。

もちろん彼らが『剣道競技のルール』に熟達するあまり、『王国の刃の試合』に不得手という事実はある。

一対複数に慣れていないというのが本当のところだ。とはいえ一本を奪ったことは事実。


さらには仲間と力を合わせて、キルまで奪っているのである。

金星であることに違いはない。

それをこの男は、こんな風に言うのである。



「どうでぇリュウさん、草薙流もヤルもんだろ?」



これだよ。普段は男前な栗塚旭顔の仏頂面なクセに、教え子が結果だしたら頬が緩みっぱなし。だらしないにも程がある。



「しかも見切りまで使ってたな、メイドさん……」

「あぁ、あれには驚いたぜ」



士郎さんはそこも評価。



「アレはリュウさんが与えたんだっけ、プロ試合のときによ? かなりの稽古熱心だな」

「稽古熱心が過ぎて狂戦士になったりしないだろうな?」

「その心配はなかろうよ」



士郎さんが指差す。先輩、後輩、同期の仲間たちに囲まれ、メイドさんは健闘を讃えられ、もみくちゃにされていた。



「彼女には、仲間がいる」

「なるほどそうか、問題は無さそうだね」「むしろリュウさん、あんたンとこの狂戦士の方が心配じゃないのかい?」

「ほい、ウチの狂戦士とは?」



トボケてはみたが、目はすでに追いかけている。アイドルさんたちにこれまたもみくちゃにされているカエデさんだ。いつの間にアイドルさんたちと仲良くなったやら。



「すごいデース、軍師さまーーっ♡」

「どうやってあの内気なミナミさんを、猛者に変えたんですか!!??」

「どーだ、カモメの見立てた軍師さま!! スゲーだろ!?」



おや? 確かに士郎さんを専属コーチにしたのはカエデさんだが、手柄は士郎さんなのでは?

いや、もしかするとカエデさんが胡散臭いとか思われていたのなら、その反動による歓迎とも取れる。



「軍師さま、私たちが陸奥屋まほろば連合に勝つためには、次なにをするべきでしょうか?」



何気ないアイドルさんたちの一言だった。だが、カエデさんは表情を硬くする。

それをアイドルさんたちは察する。



「あ……」

「軍師さまにとっては、仲間を討つことになるんですよね……」

「あ、いえ。そこは平気です。なにしろ三度のご飯よりも戦さ好きな人たちですから。むしろぬるい作戦を立てたら叱られるくらいなんですよ?」

「じゃあ、どうして怖い顔したのら?」



それもまた、何気ない質問だったのだがアイドルさんたちは慌てて彼女の口をふさぐ。



「あの、御心配なく。私が表情を変えたのは、実は策が無いんです」

「へ? 策が無い!?」

「そう、策がありません。陸奥屋まほろば連合軍と戦うには、火力の差があり過ぎなんです。一回こっきりの戦いならいざ知らず、一二〇分無制限勝負などとされてはさすがに勝ちは危ういかと……」



それでもニマニマとしているカエデさんだ。



「じゃあさ、その一回こっきりってのはどんなのよ?」

「それはですね」



いかん、カエデさん劇場が始まるぞ。というか、いつの間にかヤハラ参謀長まで話の輪に加わっているし。



「まず、ビリーさんがこちらの大将ということでよろしいですか?」

「そうじゃね、ウチらは陣借りしちょる身分やし」

「ではビリーさんは戦場に出ていただいて、玉座には『始祖』さんに腰掛けてもらいましょう」



始祖アイドルさん、ちょっとしょんぼり。



「私も戦いたかったなぁ……」

「あ、もちろん誰でもかまいません。ソナタ(ぺったんこ)さんとミナミさん以外は」



そうなると……。

アイドルメンバーの眼差しが、一点に集中した。

錫杖片手にふんぞり返った、小さなお姫さまキャラの『ショコラ』さんだ。



「朕は王族ぞ」



偉そうに語るお姫さまだが、『朕』は天子の一人称であって、国王にすらなれないお姫さまの一人称じゃあないぞ。



「余は王族なり」



あ、言い直した。ちなみにこのお姫さま、小柄なれども膨らんでいる所は膨らんでいる。


つまり幼女的な要素を含めながらも、決して幼女ではない。

つまり鬼将軍の守備範囲、ぎりぎりアウトなお姫さまなのだ。カエデさん、今回はメンバーに恵まれている。

ここまで絶妙なキャラクターまで存在しているとは。



「で、高級参謀。アイドルさんチームに関しては、そろそろ二人一組のツーマンセルを習得してもらう時期かと思いますけど」

「そうですね、まずは誰でも構いませんから二人一組を作ってみてもらえませんか?」



大恐慌発生。悲鳴があがり、暴動のような騒ぎになった。

何ナニなに? 何が起こったの? と私も思ってしまう展開だ。もちろんカエデさんも目を丸くして驚いている。


理解できない状況には、まず情報収集だ。現場の声を拾ってみよう。



「一人はイヤだーーっ!!」

「友だち、友だちなんてクラスにいないからっ!!」

「ボッチになんてこと指示すんのよっ! 私と組んでくれる人なんていないわよっ!!」



いや、君ら株式会社オーバーの仲間だろ?



「いやーーっっ!! 体育の授業はこれだからイヤなんだーーっ!」



体育の授業? つまり心傷トラウマに触れてしまったということか。



「あーーっ!? カモメ先輩、もう相方と組んでるーーっ!!」

「バディ、バディ! ボクのバディはどこーーっ!?」



いやぺったんこソナタさん、あんたにゃ公認ダーリンがおるやろが。


っつーか、カモメさんもぺったんこソナタさんも秘密兵器小隊なんだから、わざわざ二人組を作る必要無いのでは?そんな当たり前な懸念さえ、彼女たちには通じないようだ。半狂乱になって相棒を探し回っている。



「あーあーっ、みなさーん! 特に秘密兵器小隊のみなさーん! そんなに慌てなくても、余った人は三人チームに編成しますから、慌てないでくださーい!」


で、余った一人というのが、メイドのミナミさんという結果に落ち着いてしまった。


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