サムライ
さあ、ゴングだ。男女差を乗り越えて、経験値の差を乗り越えて、一発ぶちかましてみろ。
アイドルチームは三人一組の二個分隊隊形で駆け出す。剣道部たちは、一列横隊の堂々とした陣形でこれを迎え撃つ。アイドルチーム、これを見て左右へ分かれた。翼の両端から切り崩す戦法だ。
それを知った男山大学剣道部、すみやかに三ー三の隊形に変化。どちらも滑らかな動きで、たどたどしさは無い。迎撃態勢が整ったところで、すぐさま打ち合いが始まる。アイドルチーム、まずは大型選手の一撃からスタート。
それをかわして即反撃、といきたい大学生チーム。しかしこの戦闘は一対一ではない。中型選手の一撃が、きれいに胴を抜いた。
ニンジャ、クリティカルで胴を破壊。カモメさんはクリティカルならず。
しかし男山大学、二番手が仕事をする。これから追撃というアイドルチームの主砲たちに、クリティカルをお見舞い。ふたつの革兜を破壊してポイントを逆転。
しかし、メイドのミナミさんは怯まない。さらなる突撃で胴の防具を破壊した。ポイント逆転、しかし壁役の二人が革兜を破壊されてしまう。さらに逆転。
やはり経験値というものは絶対だ。そしてコツを掴んでいる。防具や鎧を破壊されても、臆することなく戦う。それが勝利の鍵だということを心得ていた。
押し返してくる。力と技をもってして。アイドルさんたちも良い打ち込みを見せるが、いかんせん押されている。クリティカルには届かず、浅い打ちに留まってしまった。
そんな中、メイドのミナミさんが二人を引きつけていた。動いて動いて、躱して防いで。主戦場は五対四の局面を迎える。いざ、キルへと届け。胴を失った大学生に、ぺったんこさんの果敢な攻撃。
しかし単身というのがいけなかった。カウンターを浴びて、ぺったんこさん、撤退。
これで四対四の状況、しかもポイントで大きく差をつけられてしまった。
「ぬおぉぉっ!! 俺たちの戦いは、まだこれからだぁっ!!」
どこの打ち切り最終回だよ、というツッコミは置いておき、カモメさんが奮闘する。そこへニンジャが無理矢理フォロー、クリティカルで小手を奪った。
そうなると壁役二人が三人を相手にすることになる。隊長さん革防具の胴を抜かれた、面に打ち込まれてキキさんは撤退。
人数の減った分は復帰してきたぺったんこさんが埋める。
それでも数的に同数、体力的に不利という状況に変化は無い。
「ぬっ!?」
思わずうめいてしまった。
二対一の不利な状況で、メイドのミナミさんが小手打。クリティカルを奪ったのだ。
しかしメイドさんも満身創痍、すでに防具という防具は、すべて剥ぎ取られている。
さらに状況の悪さを説明するならば、男山大学剣道部は思いがけぬ反撃に警戒心を強めてしまった。
「ぬう、これではミナミさん、これ以上のポイントは見込めないかな……」
「まあ、ここから先は男子二人を引きつけて試合終了、ってのが合格点だよな」
士郎さんも珍しくまともなことを言う。
「しかしな、リュウさん。草薙神党流ってのは、そんなにお利口さんにはできちゃいねぇのさ」
おいバカお前、何を言い出す。
「カッ!!」
ただ一度の呼吸、吐く息ひとつ。
たったそれだけで、ミナミさんは全身にたまっていた気を吐き出した。
もう駄目かも、負けるんだろうなという、弱気の『気』である。
小柄なメイドさんの目が、爛々と燃えている。絶対に相手を倒す……いや、そんな生ぬるいものではない。あれは私のよく知る、草薙神党流『相討ち覚悟』の眼差しだ。
「ミナミ先輩ーーっ!! 私が行くまで、ちょっと待っててくださーいっ!」
復帰してきたキキさんだ。しかし、それを待てるほど草薙神党流は優等生ではない。
「ごめんねキキ、私そんな真似できるほど、お利口さんでも器用でもないっ!!」
草薙の剣士、前へ!そして男山大学剣道部は、それに即応する。
「うおおぉぉっ!!」
気合いとか掛け声とかいうものを超越した、命を懸けた咆哮。
ガキッという金属音。なんとぺったんこさんのバトルハンマーが、ミナミさんの胴を狙った刀を止めている。
そしてミナミさんは?
男子剣道部の鉢金を砕いていた。しかし、ここで無念の撤退……。
「天晴だ!」
士郎さんは興奮気味に言う。
「骨を斬らせて皮を断つ! 命を取らせて肉を断つ! それこそが草薙神党流の真髄だ!!」
良いのだ。読者諸兄は『そんなのは間違っている』と訴えたいだろうが、それで良いのだ。そのような覚悟を持たなければ、草薙神党流の門は押し開けないのである。
そしてミナミさん戦死の結果。
「うりゃあぁっ!!」
ぺったんこさんとキキさんの同時攻撃。キキさんの攻撃は受け止めたが、ぺったんこさんの攻撃までは……。剣道部男子、ひとり撤退。
ついにアイドルチームは、男山大学剣道部からキルをひとつ奪ったのである。
「ぐわぁぁっ!! 死ぬ死ぬ死ぬーーっ! こんなときにカモメひとりにするなーーっ! ソナタ、戻って来ーーいっ!!」
カモメさんが二人掛かりの攻撃にさらされていた。
だが、ソナタって誰だ?
「いや、俺の記憶にもない」
士郎さんも心当たりが無いようだ。
「のう、リュウさんや」
「なんでしょうかな、士郎さんや?」
「確信は持てない推測に過ぎんのだが」
「ホウホウ?」
「もしかするとぺったんこさんの配信ネーム、ソナタさんというのでは?」
「彼女、名前あったんや!?」
いや、あまりにもハマり過ぎというか、名は体を表すというか。ぺったんこさんは、ぺったんこさんが名前だとばかり思っていた。というか、それ以外に考えられなかった。
そんな冗談を言っている間に、カモメさん戦死。入れ替わるようにして、ミナミさん復活。そしてぺったんこソナタさんも、男山大学剣道部の反撃に遭い戦死。
ミナミさん、キキさんを仕留めようとする剣道部に向かって突撃。いや、そこは四人を相手にしているエセニンジャさんと、隊長さんを救援に行こうや。なんて考えた読者は、まだまだ本当の古流をわかっていない。
『かくすれば かくなるものと知りながら とどめおかまし大和魂』。
笑わないでいただきたい、愚かと言わないでいただきたい。
こうでなければ、国も愛する者も、平和な生活というものも守れなかったのだ。
だからサムライと呼ばれる男たちは、自分の命を標的として晒しながら戦ってきたのである。
お利口さんではサムライにはなれないのだ。このような場面に身を置きながらこんなことを言うのもなんだが、どうかみなさま、サムライだけは目指さないよう心掛けていただきたい。
サムライなどに、憧れなど抱かぬ暮らしをしてもらいたい。
とどのつまり、仲間を救援することよりも、ミナミさんは敵を死人部屋送りにすることを優先したのだ。
このような言い方をすると、仲間を見殺しにしたミナミさん、と感じるかもしれないが、読者諸兄にはそろそろご理解いただきたい。
この作品『王国の刃』という小説は、そういった世界なのだ。日本人の戦い、そしてサムライの戦いとはどのようなものだったのか?
そして古流武術を扱うというのは、どういったことなのか? それが根底にあるテーマなのだ。
そしてミナミさんは、果敢に突撃。鬼気迫る攻撃を男子剣道部に叩き込んだ。
「なんのっ!!」
現代のサムライは果敢な太刀を受け止める。
「隙ありっ!!」
ガラ空きの面を打ち据えたのはキキさんだった。男山大学剣道部、二人目の撤退。それで止まるミナミさんではない。すでに撤退寸前の隊長さんとニンジャさんの救援に向う。
カモメさん、ぺったんこソナタさん、続けて復活。
しかし隊長さんもニンジャさんも続けて撤退。復活した男山大学剣道部も戦線に加わり、五対二という圧倒的不利にキキさんとミナミさんは挑む。カモメさんもおっつけ戦線へ戻ろうとしているが、キキさんの戦死の方が早かった。
残り試合時間は、わずか。逆転など無理だろう。
しかしそれでも、犬死にとわかっていても、彼女たちは戦いを諦めたりはしない。