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熟成

リュウです。

ここでひとつメイドのミナミさんを専属指導している、士郎さんに訊いてみよう。



「どうだい、最終兵器の仕上がりは?」

「悪くないねぇ、集中力が良い。特別何かができるとかいう逸材じゃないが、才能や素質を凌駕する集中力だよ。おかげで技量はグイグイ伸びている」



そこはカエデさん采配だろう。殺気必殺の太刀というのであれば、やはり神道流系統の草薙士郎だ。それがミナミさんの持ち味を伸ばしているのだろう。


中条流系の私では、彼女をあそこまで引き上げることはできないはずだ。

もしも私が指導するならば、あの元気者のカモメさんになるか。


スポーツライクというのではないが、伸び伸びと育てて生き生きとした剣をふるわせてみたくなる。

フジオカ先生のところでは、やはり男山大学剣道部が抜きん出ているようだ。元が剣道部(荒っぽい剣道だが)。そこに古流のエッセンスを加味することで、一皮むけたようである。


もちろん、ウチのネームドプレイヤーたちを越えることは難しい。相変わらずの火力差である。しかしそこはカエデ采配とふた月近い猶予期間。まだまだ彼ら彼女らは伸びるし、化けることだろう。


その中で筆頭はやはりミナミさんということになる。

私たちの期待するところも大きい。だが、ミナミさん一人ではない。

期待の選手はまだまだいる。


まずは株式会社オーバー所属アイドル軍三十余名。Vtuberいかなるモノぞと訝しんでいたが、その素直さや人となりを知るごとに『彼女らが伸びずに誰が伸びよう』という思いが、日々深くなるばかりだ。


見ず知らずのファンのため。それをお金のためとか撮れ高のためなどと断じる者とは、おそらく話もできないだろう。身の丈に合った収入、金銭を得たいのならば何もこんなシンドイことをしなくても良いのだ。このような終わりの無い世界、先の見えない世界に飛び込むよりも、時給いくらで働いた方がよほど楽に人生を謳歌できるだろう。


だがそれでは生きている実感が無い。命を燃やし切ることができないと、配信者などという茨道へと足を踏み入れたのだ。

終わりの無い茨道。

フッと笑みが浮かんでしまう。


それはまんま武の道のことではないか。

私もまた彼女たちと同じ。座して時を過ごすことのできない人種なのだ。彼女たちの生き様を酔狂などと笑えぬ立場ではないか。学生時代から時間貧乏だった。暇が嫌い、何かをしていなければ損をした気分になる。

そんな貧乏性が、私を武の道へ走らせた。



お、カエデさん主催の練習試合が始まるようだ。目玉は秘密兵器小隊、対戦相手はアイドルBクラスチーム。格差のあるスパーリングだ。



「よ、リュウさん。このスパー、どう見る?」



士郎さんが横に立った。



「うん、私の目では編成の妙をどちらがどれだけ周知しているか、が勝負の分かれ目かな、と」

「ほう? して、そのココロは?」

「Bチームは二人一組が三編成、主力チームは三人一組がふたチーム。これをどのように理解しているか? そこが勝負の分かれ目だろうね」

「主力チームはこれまでもスパーをこなしている。それでも編成の妙を理解してないかい?」

「まだだね。理解できているなら、もっと早いペースで試合の流れを掴んでいるはずだ」

「厳しいねぇ、リュウさんは」

「ヘッ、どっちが厳しい先生だよ」



しかし事実だ、これまで主力秘密兵器小隊は、楽勝と苦戦を繰り返している。これは三人一組の編成を熟知していないと見て取れる。では三人一組の妙とは何か?


簡単な算数だ。彼が二人、我は三人。一人が敵の一人を抑えておけば、残る二人で敵一人を討ち取ることができる。少なくとも防具のひとつくらいはゴッチャンできるはずだ。

つまり三人一組のカエデ編成というのは、二人一組で来るであろう連合軍を確実に削る戦法なのだ。


しかし、連合軍ではプロチームもアマチュアチームも一人で複数人を相手にするという、変態技を繰り出してきたのだ。カエデさんの心労もただならぬものと察することができる。


ここで秘密兵器小隊にアドバイスを。



「いいかい、こちらは三人ー三人の二組。敵は二人ー二人の三組。つまりどちらかの分隊が四人担当しなくちゃならなくなる。どうする?」


ハイ! と挙手したのは、元気者のカモメさん。



「誰かが一人で二人を相手にします!!」

「そのとおり、正解だ。じゃあそれを実現するには?」



カモメさん、ムムムと考え込む。

では、私なりに解答を。



「素早く動いて素早く打って。簡単なことさ」

「それでは勝てませんけど」



ぺったんこさんが口を尖らせる。



「考え方ひとつさ。一人で二人を相手に、勝てる訳が無い。それなら囮として二人を引っ張り回す。すると味方は五ー四で有利に戦える」



ホ、という顔で全員納得。そう、何も連合軍のように一人で複数の敵を圧倒しろとか、キルを取れというのではない。複数の敵を相手に、生き残るだけで良いのだ。


一撃必殺や一刀両断などを求められているのではない。上手に立ち回り敵を引き付ける、これだけで良い。


では、誰が二人を引き付けるのか? それは敵次第というところだ。

敵はおそらく決定打となるメイドのミナミさんか、ぺったんこさんを狙ってくるだろう。

だから二人には無理をせずにとだけアドバイスする。



「他のメンバーは手早く敵を撤退させて、主力二人の救援に入ってもらいたい。仲間のためにも頑張って」



ということで、練習試合の開始。

試合展開は、私の予想よりも素直なものになった。

壁役、中型、秘密兵器が二人ずつペアを組んでのツーマンセルという初動になったのだ。


しかし、バンッという音がふたつ。メイドのミナミさんとぺったんこさんのペアが、初手から小手の防具を破壊したのだ。

敵も思わず後退、これで事実上六ー四の有利となってしまった。



「ハハハ、こういう展開もあるのか」



士郎さんも笑っている。



「勝負ってのは本当に水物だねぇ」



私としても笑うしかない。

しかしこうなると、試合展開は一方的だ。

ミナミさんとぺったんこさんが出るたびに、防具が破壊されてしまう。


この二人だけで、敵は全員どこかしら防具を欠損させてしまったのである。



「よし、止め止め」



一度両軍を分ける。今回はさすがに稽古にならない。やはり慣れ親しんでいる二人一組という戦法になってしまった。それに実力差もあり過ぎる。



「男山大学、一丁お嬢さん方を揉んでやってくれないか? それとお嬢さん方は、三人一組を意識して。失敗してもかまわない、これは稽古なんだから」



いよいよ登場させなければならないか、ビリー軍最強チーム男山大学剣道部。

小手には鋼を飲んだ手甲、面の代わりに鉢金を締めた六人は、腰に打刀をおとしている。

胴と垂れだけは剣道の防具だ。


しかし、それで良い。

ゲーム世界だからといって気張った格好をするべきではない。いつも通り、慣れたものを装着するのが正しい。

そして場に相応しい道具を選択するべきである。



二人一組、三人一組の理論を打ち出し続けているが、読者諸兄は疑問に思ったことは無いだろうか?

六人で二人一組を編成しては、三人の敵しか攻撃できないのではないか?

まして三人一組などとなれば、二人しか攻撃できない、と。


おっしゃることごもっとも。だが以前にも語ったかもしれないが、これは初手で一撃を加えるための戦法なのだ。

開戦劈頭真珠湾である。

まずはファーストコンタクトで、敵戦力を削り落とす。


そこから数的有利を維持していく。これが陸奥屋まほろば連合軍の基本方針であり、『王国の刃』における必勝パターンなのだ。

そして二人一組のツーマンセルは、ワンショットキルを奪えるネームドプレイヤーが存在したればこその話。


狂気の技術、ワンショットキルを使えないアイドルさんたちには、スリーマンセルの三人一組が有効なのである。つまり、初手は三人掛かりでキルを取れと言っているのだ。


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