探索の森、さらに……
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とても良い連携が取れるようになり、私はチーム『嗚呼!!花のトヨム小隊(私抜き)』に連携プレイの卒業を認めた。しかしこれで止まっているような才能たちではない。
私は悪魔のカリキュラムを若者たちに与えることにした。
「トヨム、正直に言って君たちの連携は上々の域に迫っていると思う。そこで次は、ウッディーの拠点制圧になる訳だが、ステップアップを試みてみないか?」
「へ? アタイたちが上々? いやぁ、照れるなぁ……」
都合のいい部分しか聞こえていないのだろうか? トヨムは頭を掻いて困り笑いをする。とりあえず極楽とんぼは放っておいて、今回のキーマンに話をつけることにした。
「カエデさん、キミにとても損な役回りをお願いしたい。キルの数を増やすことが無ければ、防具破壊のポイントもままならないかもしれない。だけどこの役割を頼めるのはカエデさん、キミしかいないんだ」
彼女の細い肩を掴み、真剣な眼差しで少女の瞳をとらえる。カエデさんは「へ? わ、私……!?」と驚いた顔をしている。
「そう、これはカエデさんにしか頼めないことだ。トヨムにはできない、シャルローネさんも無理。セキトリやマミさんにも出来ないだろう。損な役回りだが、カエデさんにしか出来ないことなんだ」
「ど、どのような役割でしょう?」
「カエデさん、キミは常に周囲に気を配り的確なポジションへ回り込み、必要に応じて攻め、必要に応じてさがる。そんなプレイができる道化師役だ。次のウッディー拠点でも、おそらくウッディーの群れが私たちを待っているだろう。あのサルどもを最低三頭、本音を言えば可能な限り引き付ける囮になってくれ!」
俄然上がる批難の声。「なに言ってんだ旦那!」「カエデちゃんが可愛そう!」「見損のうたぞ、リュウ先生!」「鬼! 悪魔! 独身男!」罵詈雑言が飛び交うが、当のカエデさんはあっけらかんと引き受けてくれた。
「あ、囮役ね、リュウ先生? おっけー♪」
「なに言ってんだカエデ! アタイは誰かが不公平な作戦なんて認めないぞ!」
必死に食い下がるトヨムの頭を撫でて、カエデさんはクスリと笑う。
「嬉しいなぁ、トヨム。小隊長とはいえ、途中加盟の私なんかを仲間扱いしてくれるんだね?」
「当たり前だろ! 仲間が不公平な闘いするなんて、アタイは反対だ!」
「じゃあトヨム、いや……聞いてくれるかな、小隊長。私ね、『王国の刃』をはじめる前にも、VRMMOゲームに参加してたの」
まあ、珍しい話ではない。
「そのゲームはバトルもあるんだけど、勝敗の決定要素っていうのは陣地を奪って一定時間維持するのがルールだったのね」
「フムフム」
「そこで私は囮役を買って出たんだ。仲間に数的有利を作って、陣地を奪いやすいように。三人も四人も相手にして、そろそろ頃合いってときにスコアを見たらなんと!」
「陣地を三つも四つも奪ってたのか?」
「占領陣地はゼロ。無し! 皆無! ……リプレイ動画で確認したら、みんな陣地占領なんてそっちのけ。数的有利をいいことに少人数の敵を囲んで袋叩きを楽しんでたわ」
「ちょっと待って、カエデ。陣地を奪って維持して勝ちが決まるゲームなんだよな? じゃあ、キルの数は?」
「まったく関係ナシ。しかも数で勝ってるのに殺し切れなくって、生き残り一人をみんなで追いかけ回していたの」
「やっぱりダメだ! カエデにそんなツライ記憶、思い出させるような作戦は認められない!」
ん〜〜、とカエデさん、少し思案。
「今回から始まる囮作戦、リュウ先生も小隊長も、メンバーみんなが、私の苦労を知ってくれてるよね?」
「当然じゃい!」
「もちろんだよ」
「わかってますよ、カエデさん」
「でもね、前にプレイしてたゲームじゃ、私は陣地奪取に防衛維持、その陣地も二つ三つ担当して、さらには囮、ときには作戦立案も担当していて誰も私の労力を汲んでくれなかったのね」
「……………………」
「それでアレをやってくれる? コレを頼めない? ってメンバーに訊いたら、全員ソッポ向いちゃうのね? 作戦は立案が得意なカエデさんがやればいいじゃないですか。激戦区はカエデさん担当ですよね? 俺の方がバトルでは強いけど、とか言って。だからまず、小隊のみんなが私の苦労をしっていてくれる。それだけで私は十分なの」
「カエデ……」
「前のゲームの話はまだまだ一杯あるけど、もっと聞きたい?」
「い、いや……」
「じゃあこの仕事は私にまかせて。早く私を助けに来てね、小隊長」
「そうじゃい! ワシらがサル退治を早く済ませれば済ませるほど、カエデさんの負担は減るぞい!」
「そうね、おサルさんをシバいて、カエデちゃんを迎えに行こう!」
「ですがリュウ先生? この作戦をやらなければいけない理由って、なんでしょうかー?」
「それもこれも、やはり夏イベントさ。群がる敵を殲滅するには、どうしても数を減らしておかないといけない。もしかしたら私たち小隊全体が、その役割を担うかもしれないぞ」
「鬼の夏イベントだな……」
「そしてカエデさんがみんなのために頑張ってくれている。みんなもカエデさんのために頑張る。オール・フォア・ワン、ワン・フォアオールの精神を心得てもらいたい」
もちろん私も、本当に危なそうな場合はカエデさんを救出に向かう。というかカエデさんの出来栄えが未知数ないま現在では、カエデさんの後方に控えているつもりだ。仲間のキルなど、そう簡単に与えてなるものか。
「そうだなぁ、もしもこのゲームで称号を自分でつけられるなら、私は『撤退女王』がいいかな?」
「そんな悲しい名前つけないで、カエデちゃん」
どうやらシャルローネさんは涙もろいところがあるようだ。
「大丈夫だ、シャルローネ。アタイなんてリアルじゃゴボウって呼ばれてたぞ?」
「小隊長まで! 悲しい打ち明け話はいりませんから!」
「ホイじゃあシャルローネさんはなんと呼ばれとったんじゃ?」
「え? わ、わたし!?」
シャルローネさんは目をパチクリ。マミさんとカエデさんがニヤニヤと左右の逃げ場をふさいだ。
「深窓の令嬢だっけ?」
「模範的なお嬢さまっていうのもありましたよねー♪ ちなみにマミさんはぁ『おとぼけメロン』でしたよー♪」
どの辺りがメロンかは、あえて訊くまい。
まあ冗談はこのくらいにして、ウッディーの拠点へ到着するのが先決だ。
しかしその拠点に到着してみると、とにかくもうサルの群れ、サルの軍団。どれだけいるのよ? というくらいにウッディーがあふれていた。
「……軽く見積もって五〇匹……」
トヨムが数を当たる。その中でも体格のあまり良くない一角を、トヨムは指差した。
「あそこに当たるのがいいかな?」
「そうですね、小隊長。で、カエデちゃんにはあちらの……」
屈強と思える立派なサルの一団。
「あれを引き付けてもらいましょう」
先ほどまではカエデさんの囮作戦に反対していたシャルローネさんだが、いざ作戦決行となれば容赦が無い。
「ということで、私は万が一のためにカエデさんの護衛についておく。みんな、連携を上手くとって闘うように」
チーム編成。トヨムとセキトリがコンビで一軍。シャルローネさんとマミさんのコンビが二軍。基本的には一軍が主力ということで、それだけで作戦会議は終わった。いまさらゴチャゴチャと細かい説明は不要ということだ。
「それじゃ、3、2、1……突撃!」
トヨムたちは左に、カエデさんと私は右に、それぞれが駆け出した。カエデさんはサルの本丸へと一直線。私たちに気づいて妨害してくるウッディーの脚を、次々と傷つけてゆく。そして到着したボス軍団。
しかし足の勢いは止まらない。反撃の右拳をくぐり抜けて、まずはウッディーの胴体を貫くワンキル。そこからはウッディーたちもいきり立ち、猛然とカエデさんに襲いかかる。しかしすでにカエデさんは距離を置いている。
飛んでくる巨拳にペチリと攻撃を加えては後退。プスッと突いてはくぐり抜けていた。そもそもサル。殴りかかるのに右手しか使わない。カエデさんの技量ならば楯で弾いて剣で突くのはそれほど難しい作業ではなかった。とはいえ、相手にしている数が数。
なにしろ七頭のウッディーを引き付けているのだ。過去話ではみんなの涙を誘ったカエデさんだが、囮としての実力は折り紙付きと言えた。楯楯楯、剣で突いて楯を使い、走る走る回り込んでちょっかいを出して。素晴らしいことに、未だ無傷で七頭のウッディーを群れから引き離してしまったではないか。
そしてトヨムたちも早い。まずはトヨムが飛び込んでボディーブローでキルを取る。セキトリはそんなトヨムが囲まれないように、右に左にメイスを振るう。負傷したウッディーはマミさんとシャルローネさんで昇天させるといったチームプレイ。
カエデさんがウッディーを引き離すまでに、十五頭のウッディーを葬っていた。残る巨猿はカエデさんが引き受けたものを抜けば三十を切っている。
七頭のウッディーを引きずり回すため、走り出したカエデさんだが、私とすれ違うときにニッコリ微笑んでいた。コレが私の仕事なんです、と言わんばかりに。
何としても、この不憫な娘を救うのだ。それが私の仕事である。これまでゲームをしていて、良いことなんてひとつもありませんでした。そんなことを彼女がのたまったならば、それは私の責任である。なんとはなれば、この度の囮作戦の立案者は私なのだから。
トヨムがバタバタと敵をなぎ倒し、セキトリがトヨムを囲もうとするウッディーを追い払う。トドメとばかりにシャルローネさんとマミさんが、手負いのウッディーを仕留めている。私が思うよりずっと早く、本隊はカエデさんに追いついた。
「あは♡ 思ったよりも早く到着したね?」
さすがのカエデさんも、革鎧が崩壊寸前。大きく肩で息をしていた。
「当ったり前じゃい、カエデさん! ワシらみんなカエデさんの心配しとったんぞ!」
「よくぞご無事で、カエデちゃん!」
「アタイたちが来たんだ! もう安心だぞ!」
「さ、カエデさん! ここは私たちにまかせて!」
おんどりゃ〜〜っ! と叫んだのは、セキトリかトヨムか。よくもカエデをいたぶってくれたな、と怒りも顕に、小隊は屈強なウッディーたちを殴って殴って殴りまくった。トヨムの小隊長としての怒りはわかるが、同朋であるシャルローネさん、マミさんの怒りも相当なものであった。
後に調べたところ、プルプル拠点を制するよりも早く、私たちはウッディーの拠点を制圧していた。
そしてそれは公式記録のトップをレコードするタイムだったそうだ。