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乙女心は揺れる

「なかなか上手く行かないモンだな、ひとりで複数相手するってのはよ!」



ここまでプラン通りの戦闘ができたのは、モヒカンが出たほんの数瞬序盤だけ。



「ボス……強そうな奴が出ても、敵……寄って来ない。……小太刀のボスなら、敵は群がるかも……」



あ?モヒカンは確かにデカブツだろうけど、得物は二丁トマホークだろうがよ。

長物なんざ必要ない、剣ひと振りで十分押せるだろうが。


どこまでお利口さんになってんだよ、イマドキの男子諸君はよ。

だが、視聴者ならびに現地観戦してくださるお客さんのためにも、プロはやらなきゃだよな!



「よし分かった! それじゃ私が突っ込むからな! モヒカンもモンゴリアンも、あっちのフォロー頼むぞ!!」



まずは生き残りの剣士くんに突っ込む。おう、私が小太刀なもんだから、勇ましく前に出てくるな。復活してきた槍兵と剣士も加勢して、ワオ!

私に向かってくるの三人じゃん♪


三人敵に回して、何するどうする?答えはひとつ、『生きる』んだ! どれだけ過酷な責めにさらされても、生きて生きて生き残るのが、私の仕事。

そんな私を信じて、モヒカンとモンゴリアンはゴー・ウェストに合流してゆく。


ならばやっちゃるぜ! 三人だろうが六人だろうが、小太刀ひと振りに命をかけて、みんなまとめて相手しちゃるけんの!! かかって来いや!


おう、槍の突き。次は剣かよ!? だから槍と薙刀同時に来るのやめいっ!! うおっ、なんだか私、ジャッキー・チェンの映画みたいなアクションで躱せてるぞ!!


受けて払って、立ち位置変えて。ここで敵にダメージのひとつも与えてやりたいとこだけど、そうは問屋が卸さない。本当に、三人一組の稽古してきたんだな、コイツら。


だけど、私から見たら攻撃はテレフォンだ。予備動作が丸見えさ。それこそ『そこを斬っていきますよ』とか『そこを突いていきますよ』というのまで丸わかりになっていた。



「チクショウ、サルみたいにすばしっこい奴だ! 三人まとめていくぞ!!」



それこそこちらの思う壺、三人一斉に私を狙ってくるんだ。つまりタイミングを合わせて『私はそこからいなくなれば良い』ってこと。


しかもチーム通話を使っていたところで、口は動いている。



「イチ、ニの……」



よしきた! サンの号令で伸びてきた槍をくぐり抜け、敵のスネ当てと胴を斬り捨てる。文字通りのすれ違い様な攻撃。敵の防具を破壊した。


モヒカンにモンゴリアン、さくらたち五人は他の三人を相手にしていた。

実力差だけでなく、人数でも圧倒しているので、鎧を破壊し死人部屋まで送りつけている。



「ライさん、そちらはどうですか!?」

「なんとか生きてるよ、防具もふたつ奪った!」

「こちらも……いま、全員死人部屋送りにしました! 合流しましょう!」



ということで、少しの間だけ六対三の戦闘。復帰してくる死人部屋帰りたちは、ヒカルが引きつけてくれた。

ということで、なんとか『ひとり対複数』という課題をこなし、W&Aは大勝することができた。



「う〜〜ん……それにしても単独で多人数の展開をつくるのは、苦労したなぁ……」

「ですがライ姐さん、ヒカルちゃんのコメント欄は爆速で、おひねりもかなりの額が入ってましたよ?」



ヨーコが教えてくれた。

ヒカルはヒカルで生放送中なのだろう。見えないカメラに向かってお辞儀とお礼、ニッコリ微笑んで手を振ってファンサービスに励んでいた。

革鎧や制服が、細かく傷んでいる。複数を敵に回しての、激闘の跡だ。


それでも視聴者に笑顔を向けているあたり、精神が図太いというかとんでもない肝っ玉というか……。



「う〜〜ん……」



若きウェルテルの悩み、出てくるたびに唸っている苦悩の乙女、カエデです。


最近なんだか陸奥屋まほろば連合の動きが怪しいんですよね。若手もプロ選手たちも、ひとりで複数敵を相手にするとかいう、奇妙な戦法が流行してるみたいで。


参謀長の鏡花さんが、そんな細かい育成するとは思えないし。そもそもがそういった戦法、鏡花さん好みではないし。というか、あのひとは積極的にお仕事するはずがない。



「となると」



プロ試合を映していたモニターを消す。



「先生たちのいない連合軍が、自発的に編み出した戦法ってことか」



そうなると、ちょっと厄介。先生たちの統計立った稽古とか戦法じゃない、思いつきや気まぐれで動く予測不能な戦い方。唯一良い点は、号令一下で統一された軍隊ではない、ということ。


まあ、地力の差を考えれば、油断はできないんだけどね。


大酋長鬼将軍のせいで、馬力だけは半端ない軍団。統制すべき参謀長が仕事をしないものだから、それはもう餓えた狼の群れのような。

いや、狼ならまだ良い。こちらが知恵を持つハンターになれば良いだけのこと。だけど狼が狼ではなく、自然災害のような人智を越えた存在にまで成長していたら……。


アイドルさんたちは、いまメキメキと実力をつけている。ファンのためという信念で、地力を育てている。


地道な素振りの繰り返し、ただただ同じ歩法を繰り返して、いまでは熟練格ていどには働ける一端の戦士となっていた。

アイドルさんだけではない、一般プレイヤーたち。さらには男山大学剣道部のみなさん。その実力は急成長。同じ階級では、もうじき敵はいなくなるであろう成長振りだ。


連合軍に追いつけ追いつけと努力しているのに、あちらがヘンテコな戦法なんか生み出したら、せっかく埋まった実力差が、また変に開いてしまう。


いや、それでも敵の戦法は局地的なもの。大局において勝るには、やはり現場指揮官がいないと。



「おや、また悩んでますねカエデ高級参謀」



ヤハラ参謀長が声をかけてくれる。



「えぇ、どうにも連合軍の動きが不穏でして」

「プロ選手たちまで、あのガンバリ戦法を使い出しましたからねぇ」



観戦していたようだ、『W&A』の試合を。



「ですがあちらでは、単独でコチラの戦士を複数止められるつもりなんでしょうか?」

「『強い』については、変態的なこだわりがある集団ですから」

「あぁ、そうでしたねぇ……」



柔道サルのナンブ・リュウゾウを思い出しているのだろう。



「ですがカエデさん、戦略軍略に魔法はありません。当たり前に兵を鍛えて当たり前に兵を配置して、当たり前に勝つだけです。今回は人数で五分の戦い。おそらく出雲鏡花の苦手な状況のスタートです」



鏡花さんの苦手? どういうこと?



「出雲鏡花の好きな戦闘は、敵より数を用意して敵より有利なポジションを獲得して、敵の嫌がるタイミングで戦さを仕掛ける。というものです」



まるっきりの人でなしに聞こえるかもしれないけれど、軍師というものはそういうものだ。一発逆転とか、伸るか反るかの大博打などということはしない。勝てる戦さを勝つべくして勝つのだ。



「だから出雲鏡花は、チェスで私に勝ったことが無いんです」

「へ?」

「五分の条件、公平なルールにおいては、出雲鏡花は雑魚レベルなんですよ」



うん、なんだか勝機が見えてきたような……。いや、そもそもが不安要素なんて予想外な戦法を生み出している、以外には無かったはずなのに……。



「気負っているのかな、私……」

「ん〜〜……先生方なら、笑うでしょうかね。一人前を気取ってる、と」


「ヤハラ参謀長、女の子はどんどん一人前になっていくんですよ♪」

「ブフッ……これは失礼、つい吹き出してしまいました……」



うん、いつの間にか何かに飲まれてしまいそうになってたんだ、私。こんなときは小隊長やシャルローネ。マミやセキトリさんが懐かしく思える。

ホームシックなんかじゃないけど、やっぱり仲間って大切なんだなぁ……。


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