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どこかイカレた俺たちが一般プレイヤーを狂わせたのか?
それとも元からイカレた人間が、ウチの連合を引き当てたのか?
どちらかは分からない。
しかしひとつ確実に言えるのは、今いるメンバーが全員イカレた戦闘狂だということだ。こんばんは、キョウです。
本日もどこか壊れてしまっている、ウチの新兵格、熟練格の稽古からスタートです。どこか壊れてしまったプレイヤーたちは、例え格上チームが相手でも。
「おらーーっ、突っ込めーーっ!!」
その格上チームが倍の人数を揃えていても。
「負けるなんて思うなーーっ! 倒してやれーーっ!」
負けることなんて考えてはいない。むしろそのハンデをひっくり返そうという勢いで、戦いを挑んでゆく。それが陸奥屋一党まほろば連合新兵格・熟練格だった。
「みんな、現実世界でよほど嫌なことでもあったんかな?」
ナンブ・リュウゾウがボソリと言う。
「うむ、確かに。虐げられた民の怒りは、底知れぬ力を生み出すからな。第二次長州征伐を知ってるかい?」
「いや、知らねぇな」
ナンブ・リュウゾウは答える。
「幕末期に徳川が、十五万の兵を率いて長州藩に戦さを仕掛けた戦いなんだけどな。迎え撃った長州兵は三千しかいなかったんだ。しかもその大半は農民町民。どっちが勝ったと思う?」
「話の流れからすると、長州だろ?」
さすが、戦いの嗅覚は鋭い。
「そう、新式鉄砲に西洋戦術。おまけに帝の崩御も重なって、幕軍は撤退することになったのさ。だけどそれくらいに、士気というものは合戦を左右する」
「まあ細かいことは知らねーけどよ、気合いが勝負の要ってことだな?」
そのとおり、と俺はうなずいた。
「その気合いの源になるのが、現実世界での不満や怒りなんだ」
「キョウさん、あんたにも不満があるのかい?」
「……………………」
「いや、立ち入ったことを訊いたな。スマン」
好漢というのは、こういう男を言うのだろう。とにかく単純明快、表も裏も無く、真っ正面から向き合える男。
「構わんさ、俺の不満なんて、世間一般的にはモノ笑いの種でしかない」
「それでも言ってみたっていいんじゃないのか? 言うだけで楽になることがあるさ」
じゃあ……ということで、俺は告白する。
「……女の子たちが、言い寄ってくるのがかなわないんだ」
「あに!?」
ナンブ・リュウゾウの顔色が変わる。心底嫌そうな顔だ。
「柔道に打ち込むリュウゾウさんならわかるだろ? 女の子なんかにチヤホヤされるより、俺は剣に打ち込みたいんだ」
「あ、そういうことかい。そんならまあ、分からんでもない」
ほう、わかるかい?
「俺もマミさんマミさん言ってるが、いざどっち取るってなったら……きっと柔道取る……」
分かっている男のようだ、ナンブ・リュウゾウ。
「なんだろうかなぁ」
ナンブ・リュウゾウは楽しそうにボヤく。
「女の子に夢中になり切れねぇんだよなぁ」
「そう、女の子のお尻を追いかけるよりちょっとだけ楽しいことを、俺たちは知ってしまったんだ」
「あぁ、こんな生き方なんかしてても、年食ったら終わりって知ってんのによ」
「だが、止まることも曲がることもできない」
「ちょっとは進路を考えろって言われるんだけどな」
「わかっちゃいる、わかっちゃいるけどって奴だ」
この道は一筋だ。サムライであるというのは、こういうことなのだろう。
報われぬ、報われぬ、名も挙がらなければ財も無し。
ひとり風に吹かれて生き、路傍の骸となる。それを悔いぬのがサムライだ。利口になんて生きられない。例え目の前がドブ川であっても、サムライというものは前のめりに斃れなければならないものなんだ。
「なんでこんな風に生まれちまったかな」ナンブ・リュウゾウはクックックッと笑う。
「生まれたときから人生が退屈だったんだろ」
俺は答える。
「薄ぼんやりと生きるには、人生に楽しみは少なすぎだ」
餓えている、生きることに。信用できる男なのだろう、ナンブ・リュウゾウ。
そして……ハンデをものともせずに戦いを挑む、陸奥屋まほろば連合のプレイヤーたち。事あらば、立つ。事が無ければ起こしてやる、いやそれはやめておけ。
とはいえ、無気力無関心無感動、そんな生き方のできない連中だ。だから事に臨む。
……もしかすると?
「なあ、リュウゾウさんや?」
「どうしたキョウさんや?」
「もしかして株式会社オーバーのアイドルさんたちも、彼らや俺らに似た生き方しかできないのかな?」
……………………。
ナンブ・リュウゾウ、考える。
「もしかしたら、そうかもしれん。軽く見せてもらったんだが、Vtuberなんて職業は安定期に入っている」
安定期というのは、ゆるやかな衰退期のことである。完全オリジナルな企画も数々あろうが、かつてテレビで人気を博した企画も多い。そして配信者の大半は、ゲーム実況に明け暮れている。
もちろん『それがVtuberってもんさ』という定義はあろう。だが、なにかこう、現状を打ち破る『何か』が足りないと感じているのは、俺だけではないようだ。
「そんな安定期の中でも、あいつらは『まだまだ』とあがいているんだ。容易い生き方なんてできないだろうな」
「あれもまた、サムライの生き方か」
「俺は認めるぜ、あいつらもまたサムライだってな」
サムライというものは、なにも腰をに剣を落とした者だけではない。ナンブ・リュウゾウはそう言っているようだった。
「……………………」
【マミさんのミッドナイト・トーク♡】
こんマミですー、えっへっへっへっ♪ 今夜もどうにか首の皮一枚で放送が許可されました、【マミさんのミッドナイト・トーク♡】。
今回はタイトルのお尻に『♡』をつけてみましたよー♪ して、そのココロは!? 『お尻に♡って意味深ですよねー……』。
ということで今夜もミチノック水産、ミチノック文具、ミチノック油脂、ミチノックコーポレーショングループ等など、協賛各社の提供と圧力により、ここ『王国の刃』管轄『嗚呼!!花のトヨム小隊』拠点をキーステーションに、北は北海道ミナミは九州沖縄どころでなく、インターネットの及ぶ限り世界中に配信してまいります!(BGM オールナイトニッポンのあの曲)。
まずは緊急速報からっ、ちゃらん♪
『陸奥屋まほろば連合にて、神さまに叱られちゃうような恋が発覚!! 剣術指導員KK氏と柔道指導員RN氏が急接近!! その根拠は、お互いに女っ気が無いから!?』
えー、この件に関しては、マミさんも耳を疑ってしまいましたよ♪ 片や剣術宗家SK先生の御子息、片や鬼神館柔道創始者HF先生の愛弟子。
片や群がる女の子の誘いを振りほどき、剣術に生きるイケメン。片や女の子とは縁のなさそうな柔道一直線。
この二人が『達人先生』の目を盗んで、いま大変にホットな間柄というではありませんか!!この情報に関して、連合内での反応をまとめてみました。どうぞ!
「まあほら、趣味なんて人それぞれだからさ。アタイは否定も非難もしないよ」
心の広い小隊長ですねー。
「ん〜〜、どっちもワシの好みだったんじゃがのう、と。こりゃ冗談じゃ」
それは本当に冗談なんでしょうか?
「え〜〜? キョウちゃんが恋!? しかも相手がリュウゾウさん!? ……なんだかおかず無しでもご飯三杯いけそうですねぇ……」
貴女は腐ってませんか? というかせっかくのイニシャルトークで本名出さないでください。
「私は絶対にキョウちゃん受け派! 異論は認めません!! フンス!!」
あの、フィー先生。鼻息荒すぎです。
「うっひょ〜〜♪ ハッテンしてるなぁ♡ 私はフィー先生に対抗して、リュウちゃん受けでご飯をいただきます♪」
ヨーコさんが対抗馬として現れましたねー♪
「……………………っ!!(無言で手槍の三段突き)」
何故かさくらさんが荒れてますねぇ♪
ということで、先生方の声を聞いてまいりました、どぞ♪
「今どきの若ぇモンはぁよぉ」
緑柳師範、そのセリフはお年を召した証拠です。
「私は公務員なので、ノーコメント」
これが一番ズルイ大人の対処ですよねー。
「あの堅物は、一発くれぇドンズ穴にごっちゃんしたくれぇがちょうどイイのよ。なに、相手はリュウゾウ? おう、一発ニ発キッツイのお見舞いしてやれ!」
お父さん、あなた自由主義過ぎです。もう少し色々なものに束縛されてください。
「で、どっちが責めでどっちが受けよ?」
しまった、もっと性質の悪い自由主義者がここにいた。
というか、陸奥屋まほろば連合において、殿方同士の恋愛に否定的な意見がまったく出てこないというのも、いかがなものでしょうか?
価値観の多様性が求められる中、決して己を曲げることのない『男一匹バカ大将』にもお話をうかがいました。どぞ。
「赤ブルマーとぺったんこ、どちらを取るかと問われれば『どちらも取る!!』としか返答のしようが無い!! これは断固として! 断固として譲る訳にはいかんのだっ!!」
……相変わらず人の話を聞かない人でした。
以上、世界配信でお送りする『マミさんニュース』でしたっ!!