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残されている者たち

キョウです、陸奥屋一党鬼組草薙神党流目録の、キョウです。


父が不在、リュウ先生も緑柳師範もフジオカ先生も不在。株式会社オーバー所属アイドルと、『jj CLUB』の指導のために不在。

おまけに稽古方針の相談相手として力を発揮してくれる、カエデさんとヤハラくんも不在。


重責は筆頭指導員である、俺の肩にのしかかってくる。

しかし筆頭指導員と言えども、稽古スタイルを勝手に変更することはできない。それは流派の思想から逸脱する行為だからだ。

しかし、世の中には教義から一本外へ踏み出したがる連中もいる。



「よ、キョウさんや」



鬼神館柔道、その存在は俺も一目二目も置いている実力者、ナンブ・リュウゾウだ。



「撃ち合いの稽古の時はよ、ちょっと効率ってのを考えてみないか?」

「効率ですか、よろしいですな」



普段から硬い硬いと言われがちな俺だ。柔軟であるべきところは柔軟に対応したいと思っている。



「ま、こんな感じの稽古なんだけどよ……」



赤にトヨム小隊長が立つ。白の側にはシャルローネさん。リュウゾウさんはウィンドウを開いてなにやら操作。すると、流れ出てくるスリリングな旋律。


じゃ〜〜ん♪ちゃっちゃん♪



「「あちょ〜〜っ!!」」



小隊長もシャルローネさんも同時に叫んだ。BGMは『燃えよドラゴン』だからだ。

そしてお互いに爪先だけの軽快なステップ、距離を保ってのサークリング。両者の間合いが近づき近づき、大鎌の槍先と小隊長の短棍が交わった。


小隊長の短棍が大鎌をすり降ろした、トラッピングの始まりだ。

得物の単と複、長と短。距離を取りたいシャルローネさんと、そうはさせたくない小隊長。二合三合四合と撃ち合い抑え合い。



「アチョーーッ!!」



この勝負は短棍を使った小隊長が制することになった。

いや、シャルローネさん。だからといってビール瓶を割って兇器にするのはいただけない。君はどこの悪漢オハラだ。

当然小隊長のサマーソルトキックを浴びて、シャルローネさんは退場。


満場の拍手で退場する小隊長。もちろん俺としては言いたいことがある。しかし悪猿ナンブ・リュウゾウは畳み掛けてきた。



「これだけじゃない、まだまだ燃えるところはワンサカだ」



音楽が流れる。ちょうど一年前に鬼籍へ入られた、偉大な闘魂の名が連呼されるBGM。

そう、燃える闘魂の入場テーマ曲『炎のファイター』だ。

そこでみんなに揉みくちゃにされながら、真っ赤なガウンを羽織って入場してくるのは、ノリにノッているまほろばの剣士白銀輝夜。対する花道からは、我が妹のユキである。


どちらもアゴが伸びている。どちらも目がギラついている。


そしてリングイン。アントニオ輝夜VSアントニオ猪ユキ、両者すでに睨み合っている。

激しい視殺戦は始まっている。



「あの……ナンブさん」

「ダメかな、キョウさんや?」



急に口調が砕けている。



「俺が首を縦に振るとでも思われましたか?」

「男なら燃えよドラゴンと燃える闘魂は絶対だろ?」

「アイデアは嬉しいのですが、却下です」

「もう遅いぜ、キョウさんの妹がよ『三対一でかかって来い!』とか叫んでるぜ」



どんな昭和プロレスだよ……。



「本日も苦悩のウェルテルですわね、キョウさん」



そんな俺に救いの手を差し伸べたのは……あろうことか参謀長の出雲鏡花だった。



「キョウ戦闘班長、参謀長の顔を見るなり嫌な顔をするものではありませんわ」

「しましたか、そのような顔?」

「えぇ、そりゃもう存分に。なんでしたら録画した映像を再生しましょうか?」

「フェイク動画でなければ」

「チッ……」



舌打ちしたか!?舌打ちしただろ、お前!



「まあ、よろしいですわ。本日は戦闘部隊にたいする、上層部の意向をお知らせに参りましたのよ」



上層部の意向?総裁である鬼将軍が、『私とアイドルたちのからみの場面を用意したまえ!』とか言い出したか?



「経験の浅い部隊に、不正者対策を施しておくように。とのことでしたわ」

「不正者対策? アイドル対策じゃないのか?」

「巡りが悪いですわね」



出雲鏡花のため息。そして手の平を差し出してきた。



「上層部の意向が知りたければ、回転寿司を一回奢りですわよ?」

「奢ってくれるのか?」

「戦闘班長が奢るんですわ。脂の乗ったお寿司をいただけば、口もよく滑るというもの」

「いや、上層部の意向を伝えに来たって、さっき……」

「戦闘班長? ここを首尾よく乗り切るかどうかで、連合における貴方のヒエラルキーが決まりますのよ!?

見るからに華奢なわたくしの外食一食奢るくらい、安いものですわ!」

「うむ、わかった」



うなずかされた。そうしなければならなかった。



「まずは先日のアイドル対プロチーム配信。あの一夜のおかげで、『王国の刃』は登録者数うなぎ登りですわ」



それは、分かる。



「そして登録者数が増えたということは、即座に不正に走る者が続出しますの」

「そんな、まさか……」

「あら、戦闘班長は不正者と遭遇したことは御座いませんでしたの?」



いや、そんなことはない。あれだけ数多い新兵格、ちょっと経験を積んだ熟練格。人数が多ければ不正者には当たりにくいはずなのに、それなりの回数対戦してきた。



「そう、不正に手を染める者は、経験の多少に関わらず不正に手を染めるものですわ。そんな連中から、正統派プレイヤーを守らなければなりませんの」



俺たちは、すでに英雄格。トヨム小隊も英雄格。つまり新兵格の不正者を退治することはできない。



「だったらよ」



ナンブ・リュウゾウが口を挟む。



「アイドルさんたちが王国の刃でプレイしたらどうだい? 世界配信で不正するバカはいないだろ?」

「女の手を汚させるのですか、リュウゾウさま? 貴方はそれでも男なんですの?」



一応世の中は男女平等、均等であるはずだ。明らかに出雲鏡花の意見はおかしい。だが、こんな言われ方をして黙っていられるような輩は、男ではない。



「俺が新兵格なら、いくらでもやってやるさ! ……いや、悪かったよ」



男はつらいよ、男はつらいものなんだよなぁ。分かるぜ、リュウゾウさん。



「分かっていただけたのでしたら僥倖、ということで戦闘班長?」



今度は俺に来た。



「今後の稽古方針を是非に」

「同格との対人稽古から、格上との稽古を中心に対人を行いましょう」

「かしこまりましたわ」



即答できたせいか、出雲鏡花はすぐに退いていった。

そして俺も、即座に対応しなければならない。アントニオ戦を中段させて、今後の稽古方針を発表する。


とにかく対不正者である。

特に新兵格、熟練格の充実。

これを方針として打ち出した。


それこそ場合によっては、新兵格一個小隊と熟練の二個小隊といった具合に、格下でありながらハンデを背負うという稽古も取り入れてみる。ほぼ全員が二対一という不利を背負うことになる。


その不利をくぐり抜けて、相棒バディとともに逆二対一を形成しようという稽古だ。

もちろんまだまだ時期尚早というのは目についた。

が、どのプレイヤーもなんとかそれを実現しようと工夫を凝らしてくれる。


敵は不正者、俺たちがやらなければ。その精神が新兵格にも染み込んでいる。陸奥屋一党まほろば連合、どのプレイヤーにも、志というものが植えつけられている。

それはまさに『驚異』とか『奇跡』と称しても良いものだった。



「格上相手にハンデ戦やるなんて集団、ウチくらいのモンじゃねーのか?」



ナンブ・リュウゾウも半ば呆れながら語る。



「だってそうだろ? ネットゲームで遊ぶのに、ちょっと強そうな同盟に加盟してみれば、頭のおかしいハンデ稽古だぜ。よくやるよ」

「リュウゾウさん、あんたはネットゲーム感覚で『王国の刃』を初めたのかい?」


「まっさか、ヤッパと対戦できるからよ。自分の稽古の一環さ」

「その志は、あんたひとりじゃないってことだよ、リュウゾウさん。ウチに残ってる連中は、みんな本気で闘ってみたい人間なのさ」


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