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続・探索の森

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 ウッディーの群れを仕留たものの、あまりに楽をしすぎであった。というか、ウッディーの実力がこんなものだとは到底思えない。



「仮にも第二ステージのボスだ。これで終わるとは思わないように」



 一度全員の気持ちを引き締めさせて、再び前進。鳥も鳴かない、虫の声も無い森である。獣道を歩きながら、トヨムは「いるぞ」と言う。そのトヨムが捕まった。野良の相撲取りである。森林バージョンであった。どの辺りが森林バージョンかというと、迷彩服を着て顔に迷彩のペイントを施していたからだ。



 メイスを一杯に構えていたシャルローネさんが、相撲取りのヒザを突く。相撲取りはヒザを着いた。セキトリが脇腹を突いた。迷彩服の相撲取りは消えていった。どうやら迷彩服は防具の役割を果たしていないようである。



「危なかった〜〜。アタイあのまま攫われて、食べられちゃうかとおもったよ」



 窮地を脱したトヨムの言葉だ。なるほど、相撲取りならなんでも食べるかもしれない。……トヨム鍋。いいソップがとれそうだ。しかし細身なのであまり食べる部位は無さそうである。



「旦那、いま何を考えてんの?」



 ディナーの皿に乗ったトヨムの姿を頭から振り払い、「いや、なにも」と答えておく。



「しかしこのエリアは奇襲が有りのようだな。そうなると私が最後尾の方がいいだろうか?」





 獣道を歩く順番である。最後尾がやられると、誰も気づかずに前進してしまう可能性がある。

 先頭、トヨム。次にセキトリでその後ろにカエデさん。マミさんシャルローネさん、私の順番。



 で、さらに奥地へ。案の定、ウッディーや迷彩相撲取りが私を襲ってきたが、抜き付けで小手を打ち、シャルローネさんにまかせる。一撃で仕留められないときは、マミさんも攻撃に加わった。順調に前進して、開けた場所に出た。



「これが決戦場ってことか?」



 トヨムの言うとおり、まずはプルプルがみっしりと出てきた。シャルローネさん、カエデさん、セキトリが前に出てプルプルを排除する。マミさんもプルプル掃除に参加した。これで何かあったときの戦力は、私とトヨムだけ。



「旦那、後ろだ!」



 トヨムの声に抜刀しながら振り向く。藪の向こうに光る、不気味な眼差し。ウッディーだ。軽く見て五体はいる。そして藪の中から伸びた腕が、トヨムを掴もうとする。

 右フック、左フック。ウッディーの拳と小手を奪うトヨム。その足元に群がるプルプルは、カエデさんが排除している。



「セキトリとシャルローネはそのままプルプル排除、マミは二人を護衛して! 旦那、足元は大丈夫かい!?」

単独ピンでなんとかしてやる!」






 私の足元にもプルプルは群がっていたが、木刀の切っ先を突っ込んで排除してやる。そして藪から、迷彩相撲取りが飛び出してきた。無理をせず、片膝ついてスネを打つ。コケたところを急所バイタル目掛けて一撃。一人片付けたと思ったら、次が出てきた。ウッディーだ。


その動きは素早い。右に左に狙いを付けさせない動きか? 誘いをかけてきているようだが、その間にプルプルを突き刺して足場を確保する時間が稼げた。

 しかしウッディーはもう一頭現れた。遊んでいる暇は無さそうだ。一頭に小手打ち、もう一頭は胴に一撃で消失させる。それから小手を負傷したサルを仕留めた。


 カエデさんが確保してくれた空間を、トヨムは走り回る。そして無理の無いフリッカージャブでウッディーを痛めつけていた。プルプルを仕留めながら、カエデさんもウッディーに攻撃。今回一番、というかカエデさんは常に働き者であった。

 背後ではセキトリとマミさんのタッグで、これまたウッディーを二頭相手にしている。



「どうやら私たちは囲まれたようだな、トヨム!」

「どの方向にも敵がいるって考えたら楽なものさ、旦那!」





 ということでトヨムがウッディーを仕留めた。カエデさんも一頭キルへ追い込む。私もグッと前に出て、連続して二頭葬った。



「こっちのウッディーはあと少しだ、旦那! セキトリたちを助けてあげて!」



 トヨムもまた、全体が見えている。その指示に従い、私は前衛の三人の援護に出かけた。

 プルプルはかなり数を減らしていた。カエデさんとシャルローネさんの奮闘による結果だ。そこでまず私は、迷彩相撲取りの脚を奪いまくった。率先して戦闘不能を数多く出す。


 そのトドメはシャルローネさんにまかせた。セキトリたちへのプレッシャーを軽くするためだ。

 走るときにはプルプルを刺しながら、そうしてようやくマミさんに合流。それまでにウッディーを二頭ほど仕留めておく。



「どうだい、こっちの様子は!?」

「熱烈歓迎にゲップが出そうじゃい!」

「おサルさんのプレッシャーがキツイですねー♪」



 あまり大したことはなさそうだ。ということで、私は深く斬り込んでいくことにした。背後からウッディーを叩きまくるのだ。つまりセキトリ・マミさんコンビと挟み撃ちにするのである。




 この作戦は功を奏した。正面からはセキトリ・マミさん。サイドからシャルローネさん。背後から私。ウッディーは見る見る数を減らした。繁みの中では恐ろしいウッディーも、開けた場所では連携も取れないサルに過ぎない。

 ウッディーはすべて滅んだ。残るプルプルをみんなで片付ける。



「変則的ではあったが、なかなかの連携だったかな?」

「状況に応じて上手く立ち回れたと、アタイは思うよ?」



 常に誰かが誰かの助けとなる。そんな状況は作れていただろう。その結果がこのような形を生み出したのだ。初めての探索ではあれだけ苦労していたが、私たちはチームとして成長しているのである。



「これだけ大猿を倒したなら、いよいよサルの本拠地かのう?」

「どうかなぁ? まだまだ私たちを悩ませてくれるかもしれませんよ? 奇襲とか奇襲とか奇襲とかで……」



「シャルローネさんが嫌なことを言ったが、それは考えられることだ。みんな、道中の奇襲にはくれぐれも気をつけて。攫われた仲間は必ず助け出すこと! と、トヨムが言ってくれるはずだ」

「アタイの指揮は、おおむねそのとおり! 小隊、前進!」





 ということでまたまた獣道を進む。木の枝に掴まったウッディーが、ウッホウッホと威嚇の声をあげてきた。しかし、森の枝の住人は私たちの背後に回ることなく、拠点へ拠点へと逃げ去るばかりであった。


 藪を鳴らして私たちを驚かせる者もいた。四股を踏み鳴らす者もいる。おそらく野良の相撲取りであろう。「どすこい!」の声も聞こえてきたからだ。

 ただし、それらは威嚇のみ。先程トヨムをさらったような実力行使には出てこない。そしてとうとう、先頭のトヨムが足を止めた。



「この藪の向こうだ」



 小枝の隙間を透かし見る。野良の相撲取り迷彩バージョンが鍋を囲んでいた。その数パッと見で三十。私たちは六人。すべて倒すには一人で五人。二人一組だと十人斃さなくてはならない。正直に言うならば、私一人でお釣りが来る数でしかない。しかしここは敢えてトヨムに訊く。



「トヨム、どうする?」

「う〜〜ん……本当は旦那を頼って斬って斬って斬りまくってもらいたいけど、それじゃ稽古にならないし……先頭、セキトリとカエデ! 被害拡大担当はアタイとマミ! シャルローネはこちらの被害が出ないように、みんなを守ってあげて!」


「リュウ先生は? どうするの、小隊長?」

「旦那は本当にアタイたちの危機にだけ動いて。ここはアタイたちの成長の場所だ!」



 よく言った、さすが小隊長だ。いまや格下となりつつある野良の相撲取り。これを向こうにまわして私を頼らないのは実に良い采配だ。



「あ、でもウッディーの拠点のときは手伝ってね♪」

「それは一向に構わんさ。格下のラウンドは少し楽をさせてもらうぞ」



 ということで、藪のこちら側で配置。1、2の3で一斉に藪から飛び出す。しかしセキトリが鈍足。それに合わせるカエデさんも遅い。とりあえずトヨムが真っ先に飛び込むという奇妙な開幕であった。


 まずはトヨムが左右のフックで二人の相撲取りを、立ち上がる暇さえなく斃す。さらに深く踏み込んでワンパンチノックアウト。セキトリとカエデさんが到着したのを確認して、前線から退く。カエデさんの片手剣で相撲取りたちが倒れる。セキトリもメイスの先端で突きに突いた。


 場がようやく騒然としたところにマミさん見参。スネを叩き小手を叩きして被害を拡大させる。ヒットマン・トヨムもようやく被害拡大の任務に移った。ジャブで相撲取りの手を砕く。ジャブで相撲取りの手を砕く。そして顔面に素早いワンツーを叩き込む。シャルローネさんはシャルローネさんで、マミさん側の相撲取りが囲んでこないように牽制の突きを放っていた。



「トヨム、お前サイドの相撲取りが囲みに来るぞ」

「あいよ、旦那!」



 声だけの私に、トヨムは反応する。まずは目の前の相撲取りをボディー一発で斃し、スルスルと後退。それから改めてジャブを打ちながら前進。また後退を繰り返した。


 カエデさんとセキトリのコンビもまた、調子が良好だ。カエデさんがチョンチョンと軽い攻撃を出せば、セキトリがメイスで仕留める。セキトリがチョンチョンと足止めをすれば、カエデさんの片手剣がものを言った。あっという間に相撲取りは残り十人。この辺りの敵ならば、もうコンビネーションプレイでなくとも、力押しだけで行けそうな実力である。





 しかし敢えてそれは言わない。この子たちが自分たちでテーマを持ってそれをクリアしようと頑張っているのだ。大人は本当の危機にだけ手を貸してやれば良い。そういうときのために、大人はいるのだ。誰かが出れば誰かが退き、誰かが出れば次の誰かが準備している。


 こうした兵法を「懸かり車」とかいっただろうか?

私抜きのトヨム小隊は、いまそのような連携を見せている。誰かが決死の突破口を開くとかいうのではない。無理無く野良の相撲取りを討ち果たしているのだ。


 まあ、このラウンドは卒業と見て良いだろう。これまで回収したアイテムは、比較的どうでもいいような素材であったので、収納に保管していた。もちろん相撲取りたちの拠点を襲撃して得たアイテムも、ちゃんこ鍋程度のもの。アイテムなんぞはどうでもいいといった感覚で私たちは先へ進む。やはり獣道だ。みんな近接戦闘を意識した武器の構え方であった。



「あ、プルプルだ」



 カエデさんが藪から出てきたプルプルを刺殺。これは脇の繁みから出てきたようだった。



「あ、こっちにも」



 今度はシャルローネさん。これもメイスの先端に光るスパイクで刺殺。次々に現れるプルプルを、ことごとく刺殺して前進。そしてようやく藪の切れ目にたどり着いた。

 藪の向こうにはプルプルの群れ。積み重なってピラミッドを形成したり、だるま落としのように積み重なったりして。プルプルというモンスターは何を考えているのか、まったく理解できなかった。



「陣形再編、先頭はセキトリとシャルローネ。次鋒は旦那とカエデ。殿はアタイとマミだ」



 つまり、長得物中得物で徹底してプルプルを突き殺すという布陣。トヨムとマミさんは得物のリーチが短いので、不意の敵に備えるという形だ。



「今回はシャルローネのカウントダウンで突入する。シャルローネ……」

「はいな♪ それじゃあ……GO!」

「予告無しかよ!? シャルローネ!!」





 シャルローネさんとセキトリが飛び込む。私も不覚ながら出遅れた。カエデさんも必死についてくる。どれからキルを取るかな? などという暇は無い。


 とにかく目に映るプルプルを徹底的に葬るだけだ! 突け! 突け! そうでなければ打て! 滅多矢鱈と木刀を振るい、プルプルを叩きのめす。どうにかプルプルの拠点も制圧できたようだ。運営からのアナウンスが入る。


「おめでとうございます! チーム嗚呼!!花のトヨム小隊は、第二ステージプルプルの拠点を制限時間以内に壊滅させました! よってここで『ちょっとイイもの』を贈呈いたします!」


 何に使うのか『ちゆめも』にも載っていない、虹色のプルプル玉を運営からプレゼントされた。

 なおこれは転売することはできないそうである。


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