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秘策

不気味なフットワークと残した切っ先。そのおかげでぺったんこさんたちの動きが鈍い。


動きが鈍ければ、小兵は不利でしかない。だが、それでも三人掛かりだ。


切っ先で威嚇されてる者、目で殺されている者。そしてフリーな立場がひとり。そのフリーなひとりが打って出るが、その攻撃がなかなか通らない。ブロックに阻まれたり、足で捌かれたりである。



「巨漢相手にスピードでは勝っているはずのぺったんこチーム、どうにも攻撃が通りませんが。これは一体どういうことでしょうか?」

「これは私も予想外でしたが、巨漢コンビはぺったんこさんたちの動きをコントロールしてるかもしれませんねぇ」


「そんなことが可能なんでしょうか!?」

「現に次の攻撃がどの選手から来るか、それを予測しているようなディフェンスですよね?」

「ではどのようにすれば?」

「その答えは、ぺったんこさんたちが見せてくれそうですよ」



モンゴリアンもモヒカンも、得物で背後の敵を威嚇した。しかしぺったんこさんは、勇を鼓してその得物を打ち払う。果敢な突撃だ。


先ほどまで軽快に足さばきを見せていた巨漢コンビが、リズムを乱す。とりあえず身を反らして突撃をかわした。その乱れたバランスに、フリーのひとりが飛び込んでくる。これはブロック。三人目が来た、遂に巨漢の胴を打つ!

しかしクリティカルならず。



「ん〜〜……今の三打目が主砲さんなら、クリティカルが取れたかもしれませんがねー……」

「しかしぺったんこの速攻、連打は止まりません! ここは行った方が良いですか!?」

「もちろん! イケイケドンドンですよ!!」

「しかしここで巨漢コンビ、身を縮こまらせて前転一回、二回!! 段持ちコンビにタッチ交代!」

「いやぁ、ここで決めてしまいたかったですねー!!」



しかし、段持ちだろうと居合だろうと、やることは同じだ。



「正面に立たない!! 横から横から!!」

「足を止めないで!! Move Move!!」

「ホラホラ、薙刀さんのスネが隙だらけなんよーっ!!」



段持ちコンビ、その猛威を知りながら仲間たちが励ます。散々に痛い目に遭わされた。実力の差を見せつけられた。それでも誰ひとりとして挫けていない。敗れてもなお、戦い続けているのだ。



「いけいけGoGo!! 押せ押せGoGo!! いけいけ! 押せ押せ! ぺったんこ!!」



場内大合唱。そうでもしてやらなければ、観ている側の心が押し潰されそうなのだ。ならば、私からも声援を送ろう。



「段持ち何するものぞの気迫で押して行かないとならんぞ!! そら、ヤッちまえーーっ!!」



ぺったんこさんたちが走り回る。時折飛び込んでは、チクチク攻撃を繰り返す。巨漢コンビ相手のときと違うのは、そんなチクチク攻撃でさえ入らないことだ。チクチク攻撃をガードで止めてくれるなら、可愛げもあろう。


しかし鋼鉄乙女二人は、足さばきだけでスピードスターをいなし切っていた。



「とっ!」



さくらさんの突き。



「うっ!!」



角を生やしたぺったんこさんが、革鎧の胴を奪われる。その背後から、主砲さんが姿を現す。



「おりゃっ!」



小手狙い! それは悪くない、しかし有段者相手には通じなかった。片手槍で狙いをはずされる。


そこへヨーコさんのカウンター、これはさすがに主砲さんもステップバックで躱した。上手い、重たい大ハンマーを柄頭の方向に引っ張って、重さを相殺している。


そして意外なことに、ぺったんこさん相手だと段持ちコンビもやりにくそうな雰囲気が漂っていたのだ。スピードと二人掛かり三人掛かり、一発があるのも怖いところだが、それが無くとも人数とスピードは『王国の刃』において比重が大きいのだろう。


入れ代わり立ち代わりの攻撃が、集中をさせてくれない。あの段持ちコンビでさえ、なかなかクリティカルが奪えていない。ここまでぺったんこさん相手に、明確な優勢を取れたのは居合コンビだけではないか。



「ん〜〜! どうにこもうにも、なかなかクリティカルが奪えません! ストレスのかかる展開が続いています!!」

「ですがお姉さんチーム、お嬢さんチームに比べてぺったんこチーム、プロチーム相手に主導権を渡してませんよ!!」

「ですがリュウ先生、あと一発! あと一発が欲しいんです!!」

「これは『もしも』の話になるんですが、ヨミさん」

「はい」

「ぺったんこチームから二人、お嬢さんチームから二人。お姉さんチームから二人ずつ選抜しての六人編成。あるいは三人ずつの分隊編成をしたらですよ。もしくは株式会社オーバー全体で、そうした編成を組んだらですね、年末の大イベント『東西戦』でもひと暴れできそうな気がしますね」

「それは、年末イベントに出て来いと?」

「いえいえ、そんなことすれば一般プレイヤーたちがアイドルに群がって、どうしようもなくなります」

「そ、そうですよねー、アハハ……」



だが、もしも可能ならば、そうした軍団を鍛え上げたいという欲はある。まあ、先ほども挙げた理由で、不可能なのは分かっているが。さて、試合に戻ろう。



さくらさんとヨーコさんの段持ちコンビも、少しずつぺったんこさんのうるささに慣れてきたようだ。さくらさんの手槍で間合いを作り、さらに侵入してくる敵にヨーコさんの一発。


ここまでにクリティカルをひとつ上げている。それでもぺったんこチーム、二人の背後や左右に回り込んできて、大変にうるさい。



「おっと、ここで段持ちコンビ後退!! 背後のぺったんこを払い除けて、自陣へと後退してゆく!」

「ん〜〜、ぺったんこチーム。これは阻止したいところですねぇ!!」

「と、おっしゃいますと!?」

「段持ちコンビからすれば、一番うるさいぺったんこさんは背後の二人です!! が、自陣を背負えばぺったんこさんたちも背後を奪えませんからね!」



そして自陣を背負った途端、控えの巨漢コンビや居合コンビがチョッカイを出してくる。ぺったんこさんたちも、自分たちの動きに集中できなくなった。



「アイドルが必死ならば、プロチームも必死!! 一進一退のシーソーゲーム、現状打破の策を打ち出してくるのは、一体どちらか!?」



バシッ!! クリティカル判定にはならなかったが、強く当たった。ヨーコさんの小手に、である。


主砲さんではない、はつりちゃんと呼ばれたサイドポニーさんの一発だった。



「主砲さん以外のストライカーが!?」



思わずヨミさんが立ち上がる。はつりちゃんはテヘペロして言った。



「あちゃ〜〜、失敗失敗。取れると思ったんだけどなー♪」

「はつり先輩、それは秘中の秘策ですよ。こんなところで見せちゃダメじゃないですか」

「ゴメンゴメン♪」



どういうことですかと、ヨミさんに訊く。



「ぺったんこチーム、まさか全員がクリティカルを狙えるエースコンバットなのでは……」



ほ、こりゃ面白くなってきた。


全員がクリティカルを取れる六人と、プロ二人ずつの戦いだ。さくらさんとヨーコさんには悪いが、こうでなくっちゃ面白くない。



「攻守逆転、また逆転!! 全員が主砲と思われるぺったんこチームに、俄然観客席も盛り上がる!! さあ、出て来いプロチーム! 全員まとめて相手してやる!!

追い風はまさにぺったんこチームにあり!!」



しかし、出ない。プロチームはあくまでタッグマッチスタイル。全員入り乱れての乱闘という形には持ち込まない。



「これはどう見ますか、リュウ先生!?」

「いかにプロとはいえ、いえ、プロだからこそ見抜いたのでしょう。ぺったんこチームの方が、連携では上だと」


「ここへ来て初めてのお墨付き!! アイドルチームの優位性アドバンテージが、リュウ先生の口からかたられました!!

いよいよ届くか、念願のクリティカルヒット! 勝利まであと一歩のところまで詰め寄りましたっ!!」



怒涛の声援、アイドルたちへの後押し。


会場が一気にヒートアップする。その声援は、アイドルたちのギアを一段上げさせた。ますますステップが激しくなる。


攻めた、また攻めた。そして矢継ぎ早の攻撃。強弱織り交ぜての連打に、さすがの段持ちコンビも後退気味。



「さあ残り試合時間も少なくなってきましたが、リュウ先生! ズバリどこで決めると思われますか!?」

「もうタネ明かしはしましたからね、焦ることはありません! 最後の二〜三秒でイイのを入れるだけですから! そこまではじっくりと仕込んでいきましょう!!」



プロチームが部隊通話で、なにか会話している。もちろんアイドルチームもおなじだ。誰がキメに来るだろうかと予測、そして誰にキメてもらうかの相談。そして両チームとも、綿密な打ち合わせをしているに違いない。



「さあ、残る試合時間は一分を切りました!! 泣いても笑ってもあと六十秒!!」

「プロチーム、さらにさがりましたよ! 本当に、もう後がありませんよ!!」


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