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奮闘するぺったんこ

「無人の野を征くが如し、居合コンビ。しかしその背後から着々と間合いを詰める刺客がふたり!」

「いけませんね、これは。それなりの人数が犠牲になりますよ」



ヒカルさん、反転。軸をブラすことのない、影のような、気配すら無い反転。


しかも腰の刀は鞘走っていた。まずは主砲さんの鉢金を粉砕。真っ向縦割り片手打ちの一撃だ。そこからすぐに片手突きを顔面へ。主砲さん、撤退。


返す刀で同行していた小悪魔さんの胴体も斬る。初太刀は革防具を破壊するに留まる。しかしそこからの二の太刀は、真下からアゴを、顔面を断ち割るひと振りであった。


それが契機、ぺったんこ軍団がライに襲いかかる。トンとさがって抜き付け。タンとさがって二の太刀。これで1キル。

サッサッサッと斬馬刀を振り回せば、防具を失った者四名。絶命はひとり。


ぺったんこチーム、あっという間に生き残りは半分に。これには金狼ヨミさんも驚きを隠せない。



「あ、あ、あ、あぁ〜〜っ!! 何が起こった、何が起きたというのでしょう!! あれよあれよと言う間に、三人のメンバーが死人部屋送り!! 恐るべし、居合!

恐るべし、日本刀!!」



まあ、宗家の立場から言わせてもらえば、なにもそこまでばっさり斬らずとも同じだけの効果は得られるよね?

と。小手斬り指斬り、それだけでも効果は絶大なのだが、ここは『王国の刃』だ。斬り伏せた方が話は早い。



「さて、どうする?」



鞘ぐるみ、斬馬刀を肩に担いでライが訊く。



「オーケイ、貴女方の実力は分かったわ。一度戦力を立て直したいわね」



ガキンチョじみたメンバーが答える。そして目配せ、



「私たちも一度死に帰って、防具や負傷箇所を治さない?」

「そうだな、そうしなければ足並みが揃わない」

「そうと決まったら……三人で突撃ーーっ!!」



サイドポニーさんの号令で、半数による突撃。そして、全滅。



「あーーっ!! みんな全滅してるーー!!」



一番手の死に帰りが驚きの声をあげた。



「一度死人部屋で装備を改めないとな」



ライが説明した。



「私たちも二番手の巨漢コンビに交代しますから、手出しは御無用に」



ヒカルさんが背を向ける。ライも後に続く。圧倒的実力差を見せつけ、居合組は悠々と巨漢コンビにタッチ交代。



「ぺったんこチーム死に帰り、歯を食いしばっている! 口惜しそう、口惜しそうに肩を落とします!!

しかし実力差は歴然、黙ってタッチ交代を見届けなければいけません!!」

「口惜しいのはわかりますが、ここは我慢ですよ。いま闘いを挑んでも、返り討ちが関の山ですからね。口惜しさはつぎの巨漢チームにぶつけましょう!」



あれほど熱狂していた試合会場が、氷でも敷き詰めたかのように冷え切ってしまった。実力差を見せつけられてしまったのだ。しかも次の相手は、どう見ても強い。ビジュアル的にも強そうだ。そんなモンゴリアンとモヒカンのコンビなのである。


ドドン! という重低音が似合う佇まい、厳しい眼差しと硬い口元。顔だけで前科が付きそうな二人が、小さな女の子たちを待ち受けている。



「金狼さん?」

「なんでしょうか、リュウ先生?」

「この立ち合いに、警察への通報は無用ですからね?」

「いえ、コメント欄で視聴者警察がすでに騒いでおります。手遅れでした」



そ〜か〜手遅れかー。しかし視聴者のみなさん、落ち着いて。みなさんのアイドルたちは、これっぽっちも挫けてはいません。



「あれ〜〜? 選手交代しちゃったの〜?」



主砲さんも帰ってきた。負傷を治し、防具の破損を修理したメンバーが、続々と前線へ復帰してくる。



「ま、そっちがその気なら、こっちも行かせてもらうけどね♪」



二人一組体勢。いかに達者な者、いかなるツワモノであろうと苦戦必至なツーマンセル。ぺったんこさんたちの初手は、まずこの形。



「チッ、また面倒くせぇ配置シフトで来たもんだぜ」



世界中の不機嫌を集めたような顔で、モンゴリアン・カーンは舌打ちする。



「兄者、言うても始まらん。なにしろ目の前には四人、残る二人は……」



「おう、背後バック取ってくれやがったからな……」



なかなかやる、ぺったんこチームに対する私の評価だ。二対一でも面倒というのに、さらに背後の隠し玉がひとり。



「はは、背後のぺったんこさんたち、一丁前にプレッシャーをかけてやがるぜ」

「どういうことですか、リュウ先生?」

「飛び込みたがってるんですよ、バックを取ったぺったんこさんたちが。その雰囲気をプレッシャーとして利用してるんです」

「むむむ、いつの間にそんな高級技術を……」

「それだけ必死なんですよ、アイドルたちは……むしろ私の方が訊きたいですね。どうやったらそんな必死を出せる人たちだけが集まるのか?」



金狼さんは言い淀んだ。しかし『コレ』という答えは持っていたようだ。



「リュウ先生、ただ一言で言い表すなら」

「はい」

「ファンのため。ウチのメンバーなら、全員そう答えるでしょうね」



逆に言えば、ファンのために必死になれない者は、最初から株式会社オーバーを目指さない、ということか。


誰かのために必死になる。それがファンのためにというなら、これ以上の幸せは彼女たちには無いだろう。だがファンのために必死になれる人間になるためには、それ相応な過去があったかと思う。


そしていま現在幸せな彼女たちが、これから先の未来に幸せとは限らない。何故なら彼女たちは、デコボコとした歪な人間だからだ。

いいじゃないか、歪な人間。

時代遅れで使い道も無い古武道に血道を上げている私もまた、デコボコとした人間なのだから。


丸くなんてなってやるものか、角なんて取ってやらないぞ。平穏無事を求める世の中に、こんな人間がいたって良いじゃないか。



「だけどね、金狼さん。必死になるのと焦るのとは、全然別物なんだ」

「結果を求めすぎてますか、ウチのメンバーは?」

「かなり気負ってますね、背後に回ったぺったんこさんたちは。暴発しなければ良いのですが」



スルリ、先に仕掛けたのはモヒカンだった。やはり影のように気配もなく振り向き、背後のぺったんこさんたちに向き合った。反射的に突っ込む背後のぺったんこさんたち。


モヒカンによって引き金を引かされたかたちだ。それが合図となったか、正面のぺったんこさんたちも突撃開始。モンゴリアンは四人を迎え撃つ。いや、自分に掛かってくる敵を二人。それだけで手一杯だった。



「行ったぞ!!」

「まかせておけ、兄者!」



モヒカンは逃げ出した。



「あーーっと、ここでモヒカン走り出したーーっ!! 敵前逃亡、卑怯の極み! そりゃあないぜ、セニョリータ!!」

「違うんだセニョール、この場合モヒカンは正しい選択をしています。多数の敵を引っ張り出して、モンゴリアンが戦いやすいようにしている。まさに囮作戦の典型ですね」



そう、ぺったんこチームは今、四人と二人に分断されているのだ。

だがここで、頼もしい声がかかった。



「HeyHeyHey!! 主砲さーん!! どこ狙って走ってるデースか!! キミの相手はそっちじゃないネーー!!」



お姉さんチームのキキさんと言ったか。さきほど自分が言われたことと同じことを、ぺったんこ主砲さんにアドバイスしていた。

そう、今回のケースは大人数でモヒカンを追い回してはいけない。囮作戦を失敗させるなら、モンゴリアンに向かうべきなのだ。


主砲さんがモンゴリアンに向かったことで、三対一が二組。プロチームとしてはうま味の無い展開となってしまった。ヒョイヒョイとケチくさい攻撃を、入れ代わり立ち代わり。スピードでは圧倒的に有利なアイドルチーム。

きっちり防御はしているが、巨漢コンビとしてはストレスのかかる展開が繰り広げられる。



「ここへ来て巨漢コンビ、動きに精彩を欠いている! これはスピード勝負に巻き込まれているということでしょうか、リュウ先生!?」

「スピード勝負だけではありません。ぺったんこチームはこれまでの二試合を糧として、正面に立たず角度をつけて立ち回っていますからね。フィジカルだけでなく、戦術面でも巨漢コンビの実力を削いでいますよ!」



イイ、実にイイ! ただし、惜しむらくは決定打を持っているのが主砲さんだけという事実。


もちろん主砲さんの決定打に繋げることができれば、それこそ御の字なのだが。なにしろ対人ゲーム、巨漢コンビも踏ん張ってくれるのでクリティカルに繋げられない。

なにしろ主砲さんの得物は大ハンマー、間合いの短い武器なのだ。



「ですがヨミさん、ぺったんこチームを応援していて、そちらサイドもストレスはかかっていませんか?」

「えぇ、なんとも歯がゆいというか、もう少しで入りそうな一撃が入らないというか……」

「その理由は、足と切っ先です」

「足と切っ先?」



まず、巨漢チームの足さばきに注目させた。あれだけの巨体に似合わぬ、軽い足さばきなのだ。

フットワークで勝っているとは言わないが、軽量級のぺったんこチームとの差を埋めようという努力が功を奏しているのだ。



「もうひとつの切っ先についても解説願えますか?」

「巨漢コンビは身体の向きを変えるとき、死角となる敵に切っ先を向けているんですね。そのせいでぺったんこさんたちは、迂闊に飛び込めなくなっているんです」


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