ゆけ、お嬢さんチーム!!
六人のお姉さんアイドルたちが退場。花道で控えていたお嬢さんチームたちが、グータッチをしている。
「よくやったね、頑張った!」
「…………オツカレ」
「あとは私たちにまかせてね♪」
「二戦目は瞬き厳禁だ」
「敵討ちだよ、敵討ち!」
そして主砲さんはお姉さんチームの主砲さんをハグして、ヨシヨシしている。
「見てろよ、絶対ぇあいつらブッ飛ばしてやっからよ!!」
戦闘準備完了!しかしお姉さんチームの主砲さんは、お嬢さん主砲から離れない、どころか腰に腕をまわして離そうとしない。
「ちょっ!! コラ離せっ!! マジぞわっとするから! 誰か、助けて! スクショすんな助けろお前らーーっ!!」
花道でなにやら複雑な人間関係が展開されてるが、そこは金狼ヨミさんが解説。
「えぇ、ウチにも色々あるんです」
あぁ、さいでっか。
一方的なハグにより、しかもそれが巨大モニターに大写しにされたものだから、会場からはヒューヒューの声。
仕方なしという風情でお嬢さん主砲はお姉さん主砲を押し倒し、マウントからムエタイのヒザ。ようやくお姉さん主砲を引き剥がした。放送時間も押しながら、ようやくお嬢さんチームの入場だ。
場内に響き渡るのは、何か新しいものが始まる予感。新たな扉を押し開く期待を煽りに煽る『UWFのテーマ』だ。観客はそれぞれの推しの名前をコールする。
様々な名前が飛び交って、推しコールからして渋滞気味。交通整理も追いつかない有り様だ。さあ来いサムライ! さあ来い英雄たち!
観客の期待は最高潮だ。
「無念の敗退、しょんぼりとした空気から一変! 大きな期待の大歓声、胸を張って入場するお嬢さんチーム!
選ばれし者の恍惚と不安、様々な思惑が交差しながらも、いま堂々のリングイン!!」
「初戦の緊張感はもうありません、ここでキメられるのなら、もうここでキメてしまいたいですね!」
「リュウ先生、お嬢さんチームの勝機をどこに見ますか!?」
「パワーで負けていても、段持ちコンビやチビッコ組とは同等あるいは勝ってます! チビッコ組にスピードで負けていても、他のコンビには勝ってますからね!
勝機はどこにでも転がっていると考えながら、視聴者のみなさんには観戦してもらいたいですね!」
「みんなの声援が選手を後押しする! そう解釈してもかまいませんか!?」
「まったくその通りです!」
悪役レスラーたちは、リングに残っていた。だから入場曲は無い。
「さあ両軍睨み合うリング中央、レフェリー草薙士郎先生のルール説明と兇器チェックが進む中……おっと、ここでレフェリーを押しのけて巨漢モヒカンのドロップキック!!
いいんですか、リュウ先生!?」
「両足の間にトマホークを挟んでましたから、得物による攻撃と判定されてますね。有効打です!」
「しかし狙ったウサ耳はそこにはなく、モヒカンが奇襲攻撃は空振り……あーーっと!! 悪党ウサギ、主砲さんを楯にしていた! 主砲さんを楯にしていました!
さすが腹黒ウサギ、笑いを取ることにだけは真剣です!!」
「今夜の撮れ高、一番星かもしれませんね!」
「しかもドロップキックが一発では終わらない! 我も我もとチビッココンビに段持ちコンビ、あ〜〜っと!
身内であるはずのアイドルたちも、面白がってドロップキック祭り開幕だーーっ!!」
「なおこのゲーム、フレンドリーファイアは無効ですので、味方を緊急避難させるときには大変に有効です!」
まあ、ドロップキック祭りができるのは、主砲さんが蹴られて受け身を取って、ネックスプリングで起き上がるせい。つまりダメージはまったく無いことを意味している。
「試合前から荒れておりますリング上、ここでレフェリーのミスター・士郎がゴングを要請! さあ始まりました六分間変則ルール、サドンデスマッチ!
現在は十二人の選手が入り乱れての攻防から、犬耳選手が短棍二本でアッパー、アッパー、アッパーの三連打!!」
「いえ、ヨーコさんガードしてますよ」
ここでひと仕事終えた四人は、さくらさんとヨーコさんを残して控えへ。それにタイミングを合わせるように、犬耳選手を足掛けで転ばすヨーコさん。
さくらさんは他の選手を二人に近づけないように、槍を振り回して追い払っている。犬耳さんを救助に向うのは猫耳アイドル、そしてその後に続くメイドさん。しかしそれはさくらさんが許さない、メイドさんの前に仁王立ち。
「足が止まったメイドさん! 睨みを効かされて足がでない!!」
救助の救助に出てきたのは、何故ここで出るのかな、の主砲さん。
「うおおぉぉっ!! ここで出るのが主人公なんだよーーっ!!」
諸手剣を振りかざし、無謀にもさくらさんに挑みかかる。ヒョイ、さくらさん、手槍で簡単に払いのける。主砲さんを体ごと。場内爆笑、テンで話にならない実力差だ。
ならばとメイドさん、姑息にもさくらさんのスネをけぽんと蹴る。非力な女の子の、可愛らしい蹴りだ。
さくらさんは高身長、メイドさんは小さくて可愛らしい。
その辺りが逆鱗に触れたのか、さくらさん激怒!!
クリティカルなどいらぬ、だから石突を使う。メイドさんの腹に槍の石突を押しつけ、持ち上げて、遠くへと放り投げた。
「ぎゃぁぁあああっ!!」
アイドルらしからぬ、いやそれ以前に女の子としては出しちゃいけないような悲鳴をあげて、メイドさんは弧を描く。……本当に怖かったんだろうな。メイドさん、地面に命中。大変に不幸なことに、このルールで一撃死は存在しない。
つまりメイドさんは、これから先死人部屋へ送られるまで、ボロボロの革鎧で闘わなければならないのだ。
フワフワ巻毛、金髪のお嬢さんと腹黒ウサギ、そして主砲さんでさくらさんの相手。
ヨーコさんに向うのは犬猫の二人。
しかし、巨漢コンビが乱入。力技で犬猫を後退させた。
ヨーコさんフリー、素早くさくらさんと合流して背中合わせ。
「どうしよっか、さくらちゃん?」
「そだね、一度選手交代してもらおっか?」
ということで、五人掛かりの囲みを突破。チビッコ組みにタッチする。
プロチームから二人のスピードスター、ヒカルさんとライの登場だ。しかもこの二人、すばしっこいだけではない。居合まで器用にこなすことが知れている。
「ちょっとこれは難しいでしょうか、リュウ先生。すばしっこい上に居合を使う二人が出てきましたよ?」
「おっしゃるとおり、スピードで負けてますからお嬢さんチーム。なんとか数の利を活かしたいところですが……メイドさんどこ行ったの?」
「あーーっと、お嬢さんチームのメイドさん、試合場の隅で小動物のように小さくなって震えているーーっ!!」
「ん〜〜手数が必要なときに、この欠員はキッツイですねぇ!!」
「場内メイドさんの名前を大合唱!! さあ立ち上がれ! 君の勇気をみせるんだ!」
「だってメチャクチャ怖かったんだよっ!! 死ぬかと思ったんだから!!」
まあ、人生であんな体験滅多にしないだろうしな。しかしそんなときにこそ主人公だ。主砲さんが訴える。
「怖いんだったら、私の背中から離れるな!! しっかりくっついてろ!」
ということで、ソソソと近づいたメイドさん。主砲さんの背中にピトッとくっつく。
「くっつき過ぎだろ! 身動きできねーーっ!! 危ないって! 少し離れろっ!」
そんな二人の背中を、そっと押す腹黒ウサギ。
「だからそれはもう良いってっっ!! 間合いに入っちゃうから! ヤッベェから!」
斬馬刀一閃。しかし抜き付けの一刀は主砲さんが受けることに成功。二つ目、胴を狙うがこれも防御成功。ライは一度斬馬刀を納めた。
腹黒ウサギ、主砲さんにメイドさんの三人をライが受け持ち、犬猫金髪巻毛はヒカルさんが相手をしている。
犬耳さんが攻撃の主力、果敢に双棍を振り回してくる。ヒカルさんは連打を足で躱すが、その先には大抵猫耳さんがいた。
「ヨッと、ホイッと」
猫らしくどこか呑気に突き技を繰り出してくるが、センスは悪くない。悪いのは……三人の攻防を他人事のように眺めている金髪巻毛だ。
しかし戦闘の意思はあるらしく、ときどき「やあ」と手槍で突きを出していた。命中の確率はゼロなのだが。
「いかがでしょうリュウ先生、現在お嬢さんチーム、ヒカル選手担当とライ選手担当に分かれていますが」
「う〜〜ん……メイドさんと巻毛さんが今ひとつ戦力になってませんが、それでも犬猫コンビの連携は良いですね」
「ここで熱血主人公な主砲さん、またもやウサ耳に背中を押され必殺の間合いへ。とはいえ主砲さんもかなり奮戦しております」
「金狼さん、ここで腹黒ウサギが動きました。主砲さんが奮闘している間に、ライの背後に回り込むつもりです」