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決着、お姉さんチーム

さくらさんとヨーコさんが分かれた。


ここでお姉さんチームが、一対五とか一対四とかの対応をすれば面白い。確実にひとりを孤立させて、確実にクリティカルを奪う姿勢。この場面はそれが必要だった。


しかし悲しいかな、二人がさくらさんに当たりそれに追従する形でひとり加わる。二人がヨーコさんにつき、残る一人が……。


ヨーコさんに向かってしまった。しかしそのシフトの不味さに気がついた者がいた。



「なにやってんのキキ!! 槍の娘に向かって向かって!!」



声を枯らして指示をするのはぺったんこ主砲さんだ。キキさんは一瞬迷った。視線を左右へ。しかし仲間の言葉を信じたか、今度は迷うことなくさくらさんに向かってダッシュ。


形の上では四対一と二対一の形を作った。



「オラオラ、行くぞっ!」

「どうしたどうした、それでもプロかいっ!?」



声を出してさくらさんを威嚇するアイドルたち。ヨーコさんに当たった二人は、標的の周りをウロチョロして撹乱役を果たしている。



「プロチームさくら選手、四人に囲まれていますが、相棒ヨーコ選手は救援に行けない状況!! リュウ先生、これはまたもやカットに入られますか!?」

「カットに入るなら、まさにこのときでしょう。ですがプロ陣営からさくらさんは、あまりに遠すぎます」

「ではここは、お姉さんチーム俄然有利と!?」

「いえ、ウチのツワモノどもにとっては、なんとか危機を脱してみろやという展開です」



その証拠に、さくらさんは手槍を八相に構えた。その背後から、一人のアイドルが全力で襲いかかる。



「エエーーイッ……え?」



襲われるさくらさん、が、影のように背後の敵へ振り返る。


さくらさんは八相の構えから、十分に引きつけてから、面への一撃。鉢金が吹き飛んだ。クリティカルの一撃。


動きが止まったところで、頭部へもう一発。これで一人撤退。プロチームのビッグポイントだ。


いや、それ以上に四人相手というプレッシャーが三人に減ったことが大きい。死に帰りまでの間にもうひとり死人部屋へ送り込むことができれば、短い時間ではあるが二対一の状況に持ち込める。



「さあここでアイドルチーム、根性を見せてくれるでしょうか!?」

「そうですね、一人減っても怖がってはいけません。絶対的に数では有利なんですから。虎の子の主砲に繋げるまで、前へ前へですよ!」



さくらさんにとっては危険でもなんでもない相手でしかない。しかしアイドルたちが攻撃に出たなら、その分析はご破算になる。欲しいのは、先手だ。


その先手が出た。さくらさんの左右から、手槍と薙刀が襲いかかってくる。さくらさん、一歩後退。


敵が後退したならば、責め手は前に出るべきだ。罠であるとか調子に乗り過ぎてはいけないとか、そういった注意点はある。しかし基本は後退した敵には攻勢に出るべきである。ましてこの場面は先手、そしてイケイケドンドンの場面なのだ。


三人目が正面からさくらさんに追撃、手槍で払うさくらさんは、またも後退。左右からの攻撃が厳しい。



「あと一歩、あと一歩が届きません、アイドルチーム!」

「待望のクリティカルへはあと一寸ですから、ここは攻勢を維持してもらいたいですね!」

「場内はイケイケドンドン! 押せ押せガンガンの大合唱!! クリティカルはもうすぐだ!!」

「さくら選手も防戦一方、後退の連続ですから、ん〜〜苦しい時間が続いてますよ!」



そのさくらさんが一分の見切りでメイスを躱した。

来る、ここまでの劣勢はすべてウソ。相方のヨーコさんに程よく近づいたところでの、反撃開始であった。


空振りしたメイスを払うと、金髪一号さんは身体ごと持っていかれバランスを崩した。その胴に一文字突き。


革鎧を破壊した。思わぬ反撃に一瞬ひるむアイドルチーム。さくらさんは手槍を八相に、またもや影のような転身。三歩駆けると、そこにはもうヨーコさんを足止めしていた敵がいた。


背中へ一撃、革鎧をまたもや破壊した。



「そんなの有りかよ、プロチーム! やはり実力差がありすぎるのか!?」

「しかし金狼さん、段持ちコンビはここでチビッコ組に交代するようですよ!!」



さくらさんとヨーコさんは得物を乱暴に振り回して、自陣へと一直線。



「体格で勝るお姉さんチーム、死に帰りも戦線に復帰して、残り試合時間は一分間!!

先ほどはチビッコ組を相手に優勢を取れましたから、今度こそを期待したいですね!」

「何度も言いますが、先手先手! とにかく積極的な攻撃です!!」

「まだ構えを取っていないチビッコ二人に、お姉さんチーム襲いかかったーーっ!!」



居合。



ライは斬馬刀を頭上に抜き出し、切っ先が鞘から離れぬうちにメイスを受け流した。ヒカルさんはさやぐるみ、打ち刀の柄で手槍の突きを巻いて外す。


差鞘の内に在りて、優位。


小柄な剣士二人は、さらに前進。グッと間合いを詰める。敵が準備できていないうちに攻撃することを、先先の先という。お姉さんチームはそれを取ったはずだ。それなのにあっけなく優位を取り戻されてしまった。何故なら、それが居合だからである。そして……。


体格と数に勝るお姉さんチームは、足を止めてしまった。いや、一歩後退して間合いを取る。



「どうしたことでしょう、リュウ先生?」

「いかにも拙者、近藤勇である。さ」

「?」

「駕籠で移動中の新選組局長近藤勇が、刺客に囲まれてたことがあったそうで」

「はあ」

「近藤勇か!? という問いかけに『いかにも拙者、近藤勇である』と姿を現したところ、あまりの迫力に刺客が逃げ出したそうです」

「ということは?」

「ヒカルさんの放つ殺気、気迫でお姉さんチームを退けたのでしょう」



あるんですね、そういうことがと、金狼ヨミさんは驚いている。が、ヒカルさんもあの草薙士郎の秘蔵っ子だ。それくらいのことはするだろう。そしてライは、誰の弟子でなくともそれくらいのことはするはずである。


斬るかと思ったライも、抜き放たずに刀を再び鞘の内。ジロリ、二人で六人に視殺戦を仕掛けた。



「う〜〜む、お姉さんチーム、動けなくなりさしたねぇ」

「二人とも、まだまだ下の下。お恥ずかしいレベルです」

「と言いますと?」

「居合は斬るものです。それを近づけないようにするなんて、レベルが低いとしか言いようがありません」

「その辺りもう少しくわしく」



居合を使ったならば、すれ違ったときには斬っていなければいけない。いちいち狙って睨んでいては、「こいつ、居合か?」と警戒されてしまう。


あくまでもそよ風のように、フワリと。斬ったという達成感や満足感もなく、ただ淡々と仕事を終える。それが居合というものなのだ。



「私としては残り試合時間の方が気がかりなのですが」

「そうでしょうね、ホラ二人が動きましたよ?」



鞘の内のまま、二人の剣客は前に出た。試合時間も残り少ない。ここで仕留めなければ、とお姉さんチームは前に出てきた。


剣客は柄と鞘に手をかける。しかし抜かない。手槍とメイスが来る。つまり抜いても届かない間合いなのだ。


足で躱した、次も足で躱す。まだ抜かない。そして二対一、主砲さんの前に立つ。



「どどどどうしましょう、リュウ先生!?」

「慌てるな、焦るな動くな。何があろうとも受けきって、何があろうとも反撃する。その信念で抜き付けを阻止するべきだ」



主砲さん、下段。受けの構えだ。五人の味方は? ようやくヒカルさんとライを取り囲んだ。



「いけますか?」

「有利はお姉さんチーム、数がある。そして剣客二人はワンショットワンキルができない」



一撃で部位欠損もできない。そこへなだれ込むプロチームの四人、囲みが解かれてしまった。主砲さん対ヒカルさん。まさにタイマン勝負となった。



「……………………」



金狼ヨミさんは息を飲む。会場も静かになってしまった。


暴れているのは、十人の選手だけという、異常な雰囲気。試合時間、残り十秒、九、八、七……。まだ動かない。五秒前、まだ抜かない。


三秒前、ヒカルさんが抜いた。主砲さんはメイスを打ち出す。


下から狙う、ヒカルさんの右内小手。


時間!!


……………………。止まっていた。切っ先いまだ鞘の内。つまり刀の両端をしっかり握っているのと同じ要領で、ヒカルさんはメイスの一撃を棟でとめていた。逃げる右手に、メイスが追いつけなかったのだ。



「試合終了ーーっ!! あと一歩、あとひと息のところで、残念無念! お姉さんチーム、クリティカルを奪えませんでしたっ!!」



だーーっ……会場から緊張感が解かれてゆく。大観衆が一斉にため息をついて、試合結果を受け入れるしかなかった。



「いや〜〜リュウ先生、最後の展開などは息も詰まる迫力でしたが、どうでしょう?」

「いやもう、お姉さんチームの健闘。大変に素晴らしかったと思います。なんだかんだで最後には、プロチーム全員が救援にいかなければなりませんでしたし、この試合の評価は抜群と言って差し支えないでしょうね」



なんだかんだで面白い試合だった。この一戦、もちろんお姉さんチームが主役だがプロチームもよくぞ盛り上げてくれたものだ。


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