いけいけぺったんこ!
ねらわれたのは主砲さん。株式会社オーバー所属配信者の、腕相撲チャンピオンだ。ひとりに的を絞り戦闘を有利に進める。その狙いは間違っていない。兵法としても妥当だろう。
しかし、今回の場合はどうだろう?
主砲配信者さんが逃げ回る。反撃もできないような集中攻撃だ。なのに、『ヘヴィ・ボマー』の面々はポイントを先行され引き離されてゆく。爆撃機のみんなは主砲さんにばかり気を取られ、防御がおろそかになっていたのだ。
ぺったんこチームとしては打ち放題のポイント稼ぎ放題である。
「これは素晴らしい! ぺったんこチーム、連続してポイントを獲得! まったくのノー・ミスで次々とポイントを重ねてゆきます!」
「このゲームに関しては、大変に有効な手段ではありますが。さてプロチームにこれをやられたら、どうでしょう?
主砲不在ということは、決勝打を当てられないということになりますから、時間切れの敗北ということにもなりかねませんね」
「そうでした、本戦はルールが通常とは違います。そうなるとリュウ先生、ぺったんこチームとしては作戦を切り替える必要がありますか?」
「この一戦を本戦につなげる戦いと見るならば、やはり主砲を活かしてビッグ・ポイントを打ち出したいところですね」
ここで爆撃機たちの防具が、蓄積ダメージで破壊された。にわかに積極性が削がれてゆく。チャンスとばかり、ぺったんこ主砲さんは集中砲火から脱出。反撃の体勢を作った。どこかの都会で狩人をする主人公に、ツッコミを入れるために担いでいるような大ハンマーを、脇構えに構えたのだ。
「それでよし、やはり主砲が攻撃性を持たなくてはならん!」
「行けそうですか、リュウ先生?」
「行けるかどうかではありません、行くしかないんです」
「案外リュウ先生もそっち側の人なんですねぇ」
「行けっ、命懸けで! 後に続くを信ず!」
どいつをやってやろうか、しっかりと獲物を決めて……ぺったんこ主砲さん、突撃っ! 初弾、空振り。ニ発目も避けられた。
「振りが大きすぎだ! 八相から行け! 八相だっ!」
思わず声をかけてしまった。途端にチャット欄からあふれる、『ロリコン確定』の文字。えぇい、そんなもの構っていられるか。ぺったんこ主砲さんが八相に構えを取ったところなんだぞ。
防御ガン無視、攻撃全振り。男前気質全開な真似を、『小さくてカワイイ』な配信者さんが体現してくれているのだ。これを応援せずしてなんとする!
場内に沸き起こる『ぺったんこコール』の大合唱。主砲さんは見る見る険しい表情となり、吠えるように突っ込んだ。
「ボクはぺったんこじゃないぞーーっ!!」
脳天打ちのクリティカル。この一撃はのちに、『ぺったんこスマッシュ』と謳われることとなる。
「ここで待望のクリティカル!! リュウ先生、これぞ『ぺったんこスマッシュ』ですね!」
言い出したのお前かよ。
などとアホなことを言ってはいるが、この前座試合はアマチュア一般ルール。クリティカルを奪ったからといって、試合終了ではない。戦闘はきっちり六分間続くのである。そんな訳だから五人のメンバーが走り回って死角を狙ってきた。これもまた、上手い動きだ。後ろに回り込まれまいとするヘヴィ・ボマーを、動かし動かし、主砲さんに好機を与えているのだ。
仲間たちが主砲のために、主砲は仲間たちの勝利のために。これこそが集団戦、王国の刃の醍醐味と言えよう。クルクルと動くチビッコたち、しかもそれが嫌がらせのようにチクチクとポイントを奪ってゆくのだ。
重複になるが、また同じことを言わせていただきたい。技術革命は、軽量級から始まる。体格にも破壊力にも恵まれない者こそが、やはり創意工夫を持ち込んでくる。そして私の間違いでなければ、前座試合においてぺったんこチームこそが初のクリティカル奪取だったのではないか。
熱心な若者たちを賭けの対象に例えるのは不謹慎だが、もしもどこのチームがW&Aからクリティカルを奪うか?
そのような賭けをしたならば、ぺったんこチームが一番人気になるかと思う。そして私もまた、ぺったんこチームにベットするだろう。
「見事なクリティカル奪取から、まだまだぺったんこチームの優勢。そのように見ても構いませんか、リュウ先生!?」
金狼ヨミさんも興奮気味だが、あえてここは訂正させていただこう。
「優勢ではありません、むしろさらにクリティカルを狙っています」
そう、ナチスドイツのUボート艦隊による群狼作戦のごとく、五人のメンバーはヘヴィ・ボマーを取り囲み、主砲が隙をうかがっている。つまりぺったんこチームは、さらなる追加点を狙っているのだ。私の解説に会場も大盛り上がり。さらなるぺったんこコールをエースに送っていた。
「だから!! ボクはぺったんこなんかじゃないってばーーっ!!」
正面対正面の敵に突っ込むかと見せかけて、左転身、仲間と争っていた敵の小手を吹き飛ばす。クリティカル二つ目だ。クリティカルを奪った英雄は、その瞬間から無防備になる。主砲さん、狙われた。その脳天めがけて、得物が振り下ろされる。だが、ガキッとこれを受けたのは二人の仲間。
「逃げて! 早くっ!!」
主砲さんは素早く退いた。仲間たちはパワーで振り飛ばされた。尻もちもダメージ、転倒もダメージ。そこで仲間から、エースに声がかかる。
「エースはいつも冷静にね♪ 勝利こそが御褒美なんだから」
「自信持って、キミのファイトはいつも『ナイッスー♪』なんだからね!」
「プレッシャーがキツかったら言うんだぞ、遠慮してたら怒っちゃうからね!」
「相棒は誰がいい? いまならリクエスト受け放題だかんね! 遠慮してたら損だよ損!」
みんながエースの背中を支えている。いつでも身を挺して守ってやる、そう言っている。美しき哉、友情とは。そして勇敢なり、団結というものは!
世界よ、これを見ろ! これこそが我が国ニッポンの在り方なのだ。メンバーでもないのに、私はそれが誇らしい!
「もっと稼ごうか、クリティカルポイント!?」
主砲さんが訊く。
「「「もちろんだとも、根こそぎだい!!」」」
メンバーが声を揃えた。そしてヘヴィ・ウェイトを翻弄するように、縦横無尽に駆け回る。ヒット、アンドラン。また打った、カスダメでも、ボマーは狼狽えている。
そこへ横薙ぎ、主砲さんがフルスイング。これは惜しくもクリティカルには届かず。そこでついにタイムアップ。まったくのノー・ミスとはいかなかったが、それに近いレコードでぺったんこチームの勝利となった。新兵格とは思えないような、熟成されたチームワークと言えた。
「……あの、大変に申し上げにくいんですが、リュウ先生?」
「なんでしょうか?」
金狼ヨミさん、割とシリアスな表情だ。ならば私も雰囲気作りに協力して、ゴルゴのような斜線を頬に浮かべ、ハードボイルドな表情を作ってくれよう。
「ここで悪役ヘヴィ・ボマーは退場するんですけど……」
「えぇ、次の相手はコント研究会カツンジャーになりますが?」
「あれだけヘヴィ・ボマーに参加すると言っていた出雲鏡花さん。一度も出撃しませんでしたね?」
「……………………」
「つまり今まで私たちは、ヘヴィ・ボマーが六人いるつもりで進行してましたが、実は五人しかいなかったというオチに気づきまして。……どうしましょう?」
シリアスな問題だ。これこそは本当にシリアスな問題だと言える。なにしろ世界配信で、ポンコツかましてしまったのだ。考えろ私、この窮地を脱するためには……。
「金狼ヨミさん、貴女は寺山修司という人物を知ってますか?」
「いえ、存じ上げません」
「舞台演出家に脚本家、俳人歌人と様々な顔を持ち合わせた、文系のマルチ人間なのですが」
「はぁ……」
「彼が素晴らしい言葉を残しています。『ふりむくな、ふりむくな。昨日には、夢がない……』と」
「つまりクヨクヨするなよ、という意味ですか?」
「人生は一度きり、流た時間は取り戻しようが無いじゃないか!」
別な言い方をすれば、失敗は力ずくで挽回せよ、とも言う。
「文系の割には力まかせな思考法ですね」
金狼さん、この世に完璧な人間などいない。だから文系人間が体育会系な発言をしたとて、不思議は何もない。そしてこの場合、文系云々をあれこれ言うことが問題なのではなく、この言葉により『私たちが救われるかどうか?』が問題なのだ。
つまり私が言いたいのはだね。
「一緒に恥を世界配信してしまいましたな」
「株式会社オーバーの恥部へと成り下がりました、金狼ヨミです……トホホ…」