アイドル登場、そして試合開始
アンドレ・ザ・ジャイアントのテーマ曲に乗せて、『W&A』が入場してきた。
焚かれるスモークの中からモヒカンとモンゴリアンが先頭に、続いてさくらさんとヨーコさん。
いつもと服装が違うな。というか、モヒカンからこっち、みんな顔にペイントを施している。
どこからどう見ても、悪役そのものだ。ダメージジーンズにカラフルなスカジャン。ブーツやスニーカーと履物はまちまちだが、鎖をジャラジャラとぶら下げている。今どきのストリート系でも、ちょっとお目にかかれないダサさ、イモ臭さ。しかしそれくらいが丁度良い。
これでこそショー・プロレスと絶賛したくなる私は間違っているだろうか。
そしてライ・ヒカルのチビッコ・タッグも入場してきた。前述のファッションに無理矢理帯を締め込んで、無理矢理刀を差し込んでいる。そして髪にキラキラと光る粉末をほどこし、やはり顔をにはペイントをしていた。
ヒカルさんは左目、ライは右目に星を赤く描いている。当たり前のことだが、会場はブーイングの嵐だ。足を踏み鳴らして退場を要求している。
「リュウ先生、会場は酷い盛り上がり方です! W&Aがなにか悪いことでもしたんでしょうか!?」
金狼さんも大声を出さなければ、となりの私に届かない。
「W&Aは何も悪いことはしてません! しかし善玉がいれば反対側は悪玉になるものです!」
ベビーフェイス対ヒール。事前の告知、あるいはプロモーションが功を奏したか。興行は善と悪のコントラストが、明確に分かれていた。W&Aは試合場に入ると、全方向に悪態をついて観客の興奮をあおる。
そしてひと仕事を終えたところで、MCの始祖アイドルさんが天を指さした。会場の照明が落ちて、ピンライトの中にひとり。それだけで興奮した群衆は静まり返る。祈りを捧げる乙女として、平和と希望を願う力無き民として、まぶたを閉じたアイドルはマイクにささやく。
「……暗い時代は続きません……闇は必ず払われます。悪を打ち払うちからよ。十八人の使徒っ、ここに降臨っ!!」
爽やかなイントロダクション、軽快なリズムに、可憐な曲調。そして夢と希望を目指す、若者への讃歌が流た。
「ん〜〜、これは始祖さんの新曲ですね〜〜」
あざとい内情話すなや、金狼さん。しかし、演出としては極上だ。観客総立ち、拳を振り上げてアイドルたちを待ち望んだ。
……っ!? おいおい、そんなの有りかよ!! いつの間にそんな機能を植え付けやがった!?
舞い落ちる白い羽根、光の柱を周りながら、天使の羽を背中に株式会社オーバーのアイドルたちが舞い降りてきたじゃないか。
やるな、運営。やるな、株式会社オーバー。両者合同の企画でなきゃ、こんな恥ずかしい演出できないぜ!!
「リュウ先生リュウ先生、先生まで立ち上がらないでください! お仕事中です!!」
「おぉ、すみませんすみません。しかし華やかな演出ですなぁ、株式会社オーバー」
「はい、今でこそ私も選抜から漏れて良かったと痛感しています」
本音漏れ過ぎだぞ、アイドル。
天使の羽は消えて、アイドルたちはまずファンサービス。全方向に手を振って御挨拶。熱狂の会場、観客の心境としては、「もうっ、俺ガマンできないよっ」というところか。その興奮を静めるように、ゴングの乱打と始祖の声。
「御来場のみなさま、御視聴中のみなさま。本日このときまで、大変長らくお待たせしました。これより前座試合を含めて、株式会社オーバーによる挑戦!
『王国の刃』特別試合を開催します!!」
選手たちがコールされる、まずは前座を務める新兵格『ヘヴィ・ボマー』。さらに熟練格の『カツンジャー』。そしてメインエベンターの『W&A』が紹介された。
ここまではチームとしての紹介。しかしアイドルたちは一人ひとり、全員を紹介する。当然だ、お客さんも視聴者も彼女たちを観に時間を割いてくれているのだから。
一人がコールされるたびに、不参加のメンバーが選手の体調や、今日の試合に対する意気込みを伝えてくれた。巨大スクリーンを通しての、いわゆるリポーター役である。それがまた、同期とされる仲間がその役を買って出てくれたようだ。
「すべての選手がコールされました、試合前の感想としてリュウ先生、いかがでしょうか?」
「リポーター役を同期のメンバーが買って出てくれているようですが、こうした裏方の力というものは、選手に実力以上の力を与えてくれるものですから。今夜の試合はみなさん、是非とも期待してください!」
煽り役ではない、本音を答えた。
ここで興奮にひと息入れるかのように、十八人の乙女たち。控え室での様子が差し込まれた。試合前のインタビューというやつだ。サポートを務める選手は、いかに主砲をエスコートするか?
主砲の選手は重責に負けないようにと、意気込みを語っていた。
それぞれがそれぞれの役割分担というものを考えている。こうしたチームワークも、プロチームとしてはうかうか出来ない要因である。繰り返しになって申し訳ないが、株式会社オーバーがプロチームとして参戦したら、恐ろしいチームに成長すること請け合いだ。
いや、是非とも私にそのコーチをさせていただきたい。必ず三ヶ月で、ベルトをねらえるチームに鍛え上げてくれよう。
ゴングが乱打されて、いよいよ前座第一試合の開始である。まずはMCの始祖アイドルが、前座試合のルールは『王国の刃』アマチュア公式ルールであることを告げた。
「これはどういうことですか、リュウ先生?」
大事なことなので、まずは金狼ヨミさんがスクリーンに大写し。そして私へとカットが切り替わった。
「大きな変更点としては、まずワンショットワンキルが認められること。ただしこれは、アマチュア選手の中でもネームドプレイヤー以上しか使えません。よってこの試合ではあまり意味が無いでしょう。しかしクリティカルショット、あるいはダメージ蓄積による防具破壊、並びにキルはビッグ・ポイントになります。そして六分間の試合時間をフルに戦わなければなりませんので、より積極的にかつ能動的に行動したチームに軍配があがるでしょう。視聴者のみなさんには、アクティブな試合展開を期待してお楽しみいただきたいです」
「ズバリ勝敗を予想するならば?」
「ヘヴィ・ボマーも講習会で鍛えられていますが、アイドルチームはこんな所でつまづいている暇などありません。大中小三チームとも判定勝利でお願いします!」
解説が終わると、両軍それぞれのコーナーに戻って、試合展開のゴングが鳴った!場内大歓声、特設会場が割れんばかりの応援だ。
まずはヘヴィ・ボマーとアイドル『お姉さん』チーム六人。ヘヴィ・ボマーのメンバーは全員屈強な野郎ども。マッチョでマッチョでどうしようもないような連中が、全員大ハンマーを抱えて走ってきた。
対するアイドル『お姉さん』チームは均等に散開、むくつけき大男どもを包み込む作戦のようだ。
早速主砲さんが飛び込んだ、先手を打つ積極性を見せた。それを防ぐマッチョ、しかし主砲さんの相棒が小手をしたたか打ち据える。クリティカル判定が下った。
早い、速攻というにしても早過ぎる。相当な稽古を積んできたと見ても良いだろう。その主砲タッグを捕らえようと、マッチョたちが包み込んできた。しかし主砲タッグをメインとしているのか、他のメンバー四人が妨害に入った。
主砲タッグ、窮地を脱出。仲間たちが反撃を食い止めている間に、次の獲物を……定めた!
二人同時に走ってゆく。今度はサブさんが面を狙って大剣を振り下ろす。マッチョがそれを受けた隙に、主砲さんが胴を打ち飛ばした。
クリティカル、2ポイントだ。これには金狼ヨミさんも、観客たちも大騒ぎ。
「試合開始早々、ビッグ・ポイントを二つも獲得! アイドルチーム健闘してますが、いかがでしょうリュウ先生!?」
「立ち上がりとしては上々です! が、敵もこれで警戒してより狡猾な策を持ち出してくるかもしれません! 油断はできませんよ!!」
しかしそこはチームワークのアイドルたち、打ちかかったと思えば別の敵に襲いかかり、さらに別の敵と攻撃の手を緩めない。
アイドルチームは全員が攻撃をしている。マッチョ軍団は全員防御を強いられていた。その中で、剣道経験者という主砲さんが、ひと息で小手から面を決めた。二つの防具が盛大に破壊される。
主砲さんはさらに次の相手へ、胴への一撃でさらにポイントを追加。ネクストへと引き継ぐ。
主砲の任務は何もクリティカルだけとは限らない。大きく防具にダメージを与えて、次の選手に引き継いでクラッシュさせることも重要な役割だ。早くもそのことに気づくとは、やはりゲーム慣れしていると評価しておこう。解説でもそのことに触れておく。
やはりチーム戦というものは、全員が主役である。お姉さんチームはそのことをはっきりと示してくれたのだ。
結果、大差判定でアイドルお姉さんチームは圧勝することができた。次はお嬢さんチーム、マッチョたちに挑むのだが歓声はさらに盛り上がった。おそらく人気者配信者さんがいるのだろう。