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選手入場、揃い踏み! ……には至らず。

実況本部席は、すでに大混乱だ。呼んでもいないスペシャルゲストに、金狼さんも目を白黒させている。本部席にプロデューサーから。



「ヨミさん、鬼将軍氏と鏡花お嬢さまはプロマッチのスポンサーですから、丁重にお迎えしてください!」

「はい、突然の特別ゲストに驚きましたが、サクサクと進行していきましょう!」



さすが金狼さん、プロフェッショナルだ。動揺を抑え込んで進行に戻る。



「さてリュウ先生、まずはルールの説明をお願いします」



私のウィンドウにカンペは映し出されているが、そのようなものを見なくても説明くらいはできる。



「まずは人数から、六人対六人で武器を手にして殴り合うのが、『王国の刃』の基本ルールです。その際甲冑を身につけていますので、簡単には有効打ポイントは入りません。その困難に挑むのが、このゲームの醍醐味です」

「なるほど、いわゆる対人ゲームということで、難易度もさらに高くなると」

「はい、特に『王国の刃』は現実世界で可能な動きはすべて再現可能、という触れ込みですので個人個人の身体能力がかなりモノを言います」

「では女の子が主流の株式会社オーバー勢、かなりの不利となるのでは?」


「ズバリ、実力差で見れば何分で心が折れるか? というくらいには、差が開いています。が、そこは今回、特別ルール」

「ほい♪」

「一発でチーム『W&A』の防具を破壊する、クリティカルショット。これを入れたなら配信者チームの勝利となります」

「プロチームの勝利条件は?」

「ただひたすら、六分間クリティカルを入れさせないこと。それだけでプロチームの勝利です」

「まあ、プロチームがアマチュアの女の子相手に、六分間逃げ回るということは考えにくいですが、それも戦法のひとつでしょうか?」

「ブーイングという形で、試合を盛り上げるためにはあり得る戦法ですね」



さあ、MCが試合場中央に立った。



「LADYS AND GENTLEMEN! HERE WE GO……」



アイドルメンバーのひとりなのだろう、とても通る声と流暢な英語でMCを務めていた。煽りのコールはときに高くときに低く流れ、合いの手のように時折ゴングが乱打された。


その度に会場の照明がひとつひとつ落とされ、最後には試合場のアイドルひとりが取り残される。始祖と呼ばれ、メンバーたちからも慕われ尊敬されているアイドルらしい。


大先輩として、後輩たちにはなむけの言葉を送っているのだ。そして溜め込んだ上で一気に宣言される。



「NOW IT'S………… SHOW TIME!!」



世界的に有名なMC、ジミー・レノンJrの名調子を丸パクリなのだが、そこは世界に誇るエンターテイメント企業株式会社オーバー。おそらくは承認済みなのであろう。そして日本語に戻り、アイドルは一方を指さした。



「これより悪の軍団陸奥屋一党からの刺客、チーム『ヘヴィ・ボマー』『カツンジャー』地獄の内閣『W&A』の入場です!!」



場内、暗転。スポットライトが花道を明るくてらした。そして低く流れる重低音、いやこれはベースの音だろうか?

しかしそんなことはどうでも良い。入場曲がピンク・フロイドの名曲、『吹けよ風、呼べよ嵐』なのだ。


アイドルファンたちからすれば、敵役の入場だ。それなのに観客は興奮して立ち上がっている。拳を振り上げて興奮していた。


……お前たち、一緒に成人病の検査受けに行こうな。


つまりこの曲は、一部世代が聴けば感涙むせび泣くこと間違いなし、悪役ヒールの中の悪役ヒールのみが使用を許された曲なのだ。


しかし金狼さんにはその歴史が分からないようだ。冷静に実況を続ける。



「さあ、地獄からの旋律か不吉の予兆か、不気味な入場曲に載せられて、陸奥屋一党選抜アマチュアチームが前座として入場して……リュウ先生?」

「なんだい?」

「前座としてふたチームの入場なんですけど、どう数えても十一人しかいないのですが?」



ふむ、カツンジャーのメンバーは……全員そろっているな。しかし新兵格の『ヘヴィ・ボマー』が五人しかいない。


そして本部席から、鬼将軍の姿がきえていた。


選手、続々と入場。しかし軍曹どのがマイクを掴み、早速『ヘヴィ・ボマー』を罵った。



「どういうことだ、クソッたれの新人ども! 敵にキルを献上するしか能が無いお前たちでも、ビビって便所に引きこもることはできるのか!! 人数が足りてねーぞ!!」



オッサン、悪役が板についてんな。その言葉に、新兵どもは一斉にいきり立った。いきり立ったがさらに、スケバンの追撃を浴びることになる。



「まともに頭数揃えられないなんざ、陸奥屋一党としてよく恥ずかしくねーな! 出直して来た方がいーんじゃねーの、ジッサイ!!」



いや、そもそもがだねぇ……。



「リュウ先生、前座2チームが味方同士で罵り合いを始めましたが……」

「お恥ずかしい限りです。すべては自分の登場を演出するためだけに、このような事態を招いた『アホタレ』の責任ですので」

「ということは、チーム『ヘヴィ・ボマー』に隠し玉あり! ですか」

「玉は隠しておけよ……」

「は?」

「いえ、なんでもありません」



と、そのとき! 期待通りに孤独なトランペットのメロディがっ。



「どこだっ!?」

「どこにいるっ!?」



みんなでメロディの主を探す。もちろん私も一緒に探すが、金狼さんが高い場所を指さした。



「あそこです、リュウ先生!!」



うむ、最上段席のさらに後ろ。わざわざ空き箱で階段を作り、その上にヤツはいた。優等生じみたヘアスタイルはプラチナに輝き、背負ったマントは闇よりも黒く、かすかにのぞく制服は嘘っぱちのように真っ白。よく磨かれた革長靴はピカピカに黒光りしていた。


ん? トランペットのメロディが微妙に変化したぞ。


そしてヤツは観客の視線を背中に浴びたまま語りだす。



「光あるところに影がある! まこと栄光の陰に、数知れぬ忍者の姿があった!」



サ〇ケかよっ!? ゼロワンどこ行った!!



「天が呼ぶ! 地が呼ぶ! 人が呼ぶ! 悪を倒せと人が呼ぶ!!」



だからその悪がお前だろうがっ! っつーか今度はス〇ロンガーかいっ!! もっとイチロー活かしていこうや! あぁもうっ!! どこからツッコめば良いんだっ!!



「リュウ先生、どうしましょう……?」



そら見ろ、若いお嬢さん置いてけぼりじゃねーか。



「配信を御視聴中をのみなさま、私たち陸奥屋一党は一部に悪乗り好きがいるものの、ほぼすべてのプレイヤーは至極まっとうな人間です。アレを見て全員がアホだとは思わないでください」

「あぁっ!! 飛びました!」



すり鉢状の会場で最上段、アホは華麗にジャンプ一番。前方宙返りを連発して、着地……どてポキぐしゃ〜〜っ!!!



「エマージェンシー、エマージェンシー。株式会社オーバー特設試合会場にて、負傷者発生!」

「足が変な方向に曲がってるぞーーっ!」

「いやーーっ、鼻血出してるのに満足そうな顔で微笑んでるわーーっ!」

「メーディック、メーディーーック!!」



チーム『ジャスティス』と『情熱の嵐』たちが、衛生部隊よりは早く駆けつけた。テキパキと日本の恥部を担架に載せて、そそくさと退場してゆく。

そのとき鬼将軍は真っ白な歯をきらめかせ、親指を突き立てて運ばれて行った。


現実の話しに戻ろう。チーム『ヘヴィ・ボマー』はわざわざ欠員を作ってまで、鬼将軍を戦力として迎えていた。その鬼将軍が負傷欠場。なのに欠員を補充するつもりは無さそうだ。



「どうするつもりでしょう、チーム『ヘヴィ・ボマー』?」



私に訊かないでくれ、金狼さん。苦い記憶なんだ、私だって忘れてしまいたい。酒にすがりついてでも……。そう、なにしろ私のとなりの席は、もう空席になっていたのだから……。



「オーッホッホッホッ♪ 危機ですわね、危機的状況なのでしょう! よろしいですわ、このわたくしがみなさまの救世主メシアとなって差し上げましょう♪」



現れなくて良いバカが、もう一匹現れた。


ルンピニーのランカー、ムエタイの強豪サマン・ソー・アジソンに挑む沢村忠のように、神輿に乗せられた出雲鏡花が花道から入場。



「おぉっ!! どうやら補充選手リザーバーが用意されていたようです! これで無事、試合ができそうですねリュウ先生?」

「無事かどうかはゴングが鳴ってみないと分かりません。なにしろ出雲鏡花の服装……」



ダラリと引きずるロングガウン、どこからどう見ても戦闘には向いていない。



「……得物も所持していないようですが?」

出雲鏡花アホのかたわれは自称、頭脳労働者。戦闘などには参加しませんよ」

「頭脳労働者!? ということは『ヘヴィ・ボマー』には参謀が付くんですか!?」



そうですよ、金狼さん。ただし、出雲鏡花の頭脳は、主である天宮緋影のためにしか働かないんです。


騒然としていた会場が、落ち着きを取り戻そうとしていたそのとき、MCを務めるアイドルがさらに混乱の元を呼び込もうとしていた。



「これより本日のメインエベンター、プロプレイヤー最強チーム、『W&A』の入場です!!」



またもや重低音の入場曲、今度は不吉というよりも、災害に似た人類の能力を超越したような破壊力。風にも嵐にも揺るがない、巨大な山脈が歩を進めて来るような恐怖。ひとり民族大移動と謳われた、アンドレ・ザ・ジャイアントの入場曲『ジャイアント・プレス』である。


花道にスモークが焚かれ、巨漢二人のシルエットが浮かぶ。モヒカンとモンゴリアンという巨漢二人、顔にはペイント。アメリカンプロレスの悪役ヒールそのままの菅田だ。観客たちを睥睨するような、不機嫌な眼差しでたたずんでいる。


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