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決戦、決せん、合戦準備!!

改めて言おう。相手の得物にまとわりつき、からみつく。そして一切手を出せなくする。この技を体験してもらいたかったのだ。


その基本となるのは、相手の正面を避ける、得物の陰に隠れるといったこれまた基本的な技術なのだ。バンザイの姿勢から元に戻してやり、もう一度。今度は突いてきた。


私は木刀の棟を使い受け流す。ぺったんこさんはどんどん前に出てきた。正面衝突するような勢いだ。もしかしたら、肉弾戦を御所望なのかもしれない。そうはさせないよ、私はクルリと反転。木刀を触れ合わせたまま、ぺったんこさんと横並びになった。



「どうする?」



ぺったんこさんはグッと力を込めた。木刀を横倒し、スイングの形に構える。私は物打ちを効かせて、ぺったんこさんの太刀を斬りおろす。


ゴン! という音を立てて、ぺったんこさんの切っ先は床に食い込んだ。


横向きの力は縦向きの力に弱い。縦向きの力は横向きに薙ぎ払われると弱い。粘ついた太刀使いだと、音をも無くこれが可能となる。そして恐怖心も少ない。



「どうだったかな?」

「……この技、ボクたちが使うんですか?」



信じられない、という顔をしている。まあ、戦闘に無縁な女の子からすれば、神技に見えるかもしれない。



「今日明日には無理だね。でも始めなければ、身につかないだろう」








そしてやってきた、決戦の夜。


株式会社オーバーの用意してくれた会場は、観客であふれ返っていた。会場にはすでに、株式会社オーバー公式のテーマ曲がインストロメンタルで流されている。開場二〇時、試合開始二一時。すり鉢状の観客席はどの席に座っても試合がよく見えるのだが、ご丁寧にも巨大スクリーンが設置され、選手一人ひとりの表情までとらえることが可能になっていた。


株式会社オーバーでは億の金額を投資して、スタジオ施設を設立。今日、この日に機材を連動させているという。自慢のタレントたちを、世界に向けて発信するに相応しい舞台を用意してくれたのだ。


ちなみに試合会場、控え室などの様子は、今回出場しないタレントたちで中継を回してゆくらしい。


私は本部席、解説の位置にある。まず全体的な番組は株式会社オーバーの公式配信として。そして選手個人個人のチャンネルで、選手の様子がリアルタイムで配信されていた。個人配信はのきなみ準備中の画面。私も目の前にスクリーンを開いて、回線に接続している。


巨大スクリーンにプロモーション動画が流れる。アイドルたちのテーマ曲がフェードアウトしていった。プロモーション動画に合わせて、暗く陰鬱な交響曲が流される。チャイコフスキー作曲、『スラブ行進曲』だ。


事前練習で打ちのめされるアイドルたち。延々と続く基本稽古。汗が飛び散り、少女たちの肉体も、屈強な剣士たちに弾き飛ばされた。しかしそれでも少女たちは歯を食いしばり、なお立ち向かった。


曲もいよいよシークエンス、最大の盛り上がりを迎えた。



『雌伏の時間は、栄光を掴むため』。



今回のテーマが書き文字で流れる、『決戦のとき、来たれり!!』。動画はさらに、少女同士の打ち合いを放映。よく学び、よく励んできた成果を映し出す。……強くなったな。動画を見た正直な感想だ。


その旋律はまるで、圧政を打ち倒さんとする民衆の怒りにも似て轟き続ける。悪漢モンゴリアン・カーンの憎々しいまでに屈強な姿が映し出された。残忍なまでに少女たちを弾き飛ばす、魔王モヒカンの暴れっぷり。そして悪魔の首領であるライの刃が鈍色にびいろに輝く。


『倒さなければ、勝てない!』いや、そんなことは無い。これは書き文字の誤りだ。倒さなくとも、クリティカルを入れた時点でアイドルたちの勝ちだ。ここでプロ試合での悪羅漢の暴れっぷりが放映される。



『征け! 戦乙女たちよ!! 勝利のときまで!』。



うむ、悪役ヒールの誕生だな。心憎いまでの悪役演出だ。


スラブ行進曲は、やがて復興を思わせる曲調へと変化した。そして栄光へと、自由の鐘が鳴る岡へと人々を導いた。これは勝てる、勝つしかない!

そんな希望を持たせるエンディングだった。煽っている、観客の期待をこれでもかと煽っている。そして株式会社オーバーの公式配信では、このプロモーション動画が繰り返し放送されていたりする。


う〜〜ん……現実をここまでねじ曲げるとは、マスコミというものは恐ろしい。



「よっこいしょっと」



私のとなりに女の子が腰掛けた。



「はじめまして、私は株式会社オーバー所属の金狼ヨミと申します」

「あ、アイドルさんでしたか」

「はい、実況担当を仰せつかりました♪ 会社の方針としてはですね、メンバーの活躍を期待させる解説をしていただきたいのですが、現状はどうでしょうか?」


「もちろんそちらの方針には従います。が、現状をナマでいうなら、アイドルさんたちの勝利はほぼ絶望的かと」

「ふむふむ、では期待の選手、有望株などはいかがですか?」



ほう、あれこれ質問攻めで来ましたか。だが番組を盛り上げるためだ。協力は惜しまない。



「各チーム、主砲となる選手の力は確かです。問題はその主砲を標的となる選手に、どれだけ有利な状況で立ち向かわせるか? そこが鍵となるでしょう」

「力量の差は明らか、というところですか。ムムム……」

「ですが、配信者さんたちにはオール・フォー・ワン、ワン・フォー・オールの精神があります。味方チームのために、どれだけ身を粉にできるか。それができたときには、プロチームもうかうかとはしていられません」

「おぉっ、これは熱い戦いになりそうですね!」

「君も見ただろ? プロモーション動画がとらえた、彼女たちの頑張りを」



参加しない彼女に、八つ当たりのような怒りを感じた。



「熱い戦いになるのは当然だ」



思わず吐き捨てるように言ってしまった。それだけ私も指導したアイドルたちに責任を感じている。



「すみませんでした、私はこの舞台への出場が、選抜漏れしましたので……」

「いや、こちらも口が過ぎました。なにしろ主砲選手は私が指導しましたから」



解説者としては失格だろう。だが、私は私が指導した者に責任を持ちたい主義なのだ。



「では、改めて見所などを」



襟元を正して、私も状況役の彼女に向き合う。



「連携プレイと自己犠牲、これに尽きます。いかにして主砲プレイヤーを単独ではなく、有利な状況で標的に向かわせるか?

有利な状況で標的に向かわせるためには、誰かが二対一の不利を被らなければならない。それをいる、どこで実現するか? それが勝利の鍵です」

「それでも厳しいですかね……」

「厳しいことに変わりはありません。ですがやらなければ挑まなければ、状況は変化しません。応援するしかできないんです。貴女が選抜漏れしたならば、私も参加できない、参加を許されない人間なんですから」

「そうですね、応援しましょう!」



金狼さんは元気を取り戻した。そんな金狼さんに、勇気を与える言葉だ。



「金狼さん、挑む者にはすべからく、勝つ権利があるんです。戦う者には、勝利を掴む権利が与えられているんだ! ならば勝て! 不利を覆して!!」

「おお!! 勝てそうな気がしてきました!」

「その一途な想いが、彼女たちにはある!! ならば征け、勝利を信じて!」

「ワオ~~ンっ!! 興奮してきましたね!」



勝利か、敗北か?

それは誰にも分からない。本当に誰にも分からないのだ。下馬評というものはあるだろう、しかしそれは往々にして外れるものなのだ。何故なら、番狂わせという言葉がある。不利は必ずしも不利ならず。


読者諸兄よ、願わくばこの私の言葉が、君の明日の勇気となることを祈ること切なり。勇気よ、万民を照らしたまえ。無責任に言う。上司上役の苦労を考えずに、祈り奉る。弱者に勇気を。虐げられた者に希望の光を。


そのためには倒さなければならないのだ、自分たちよりも強い相手を。

挑むしかないのだ、この困難に。




そして二一時、出場選手たちの配信が始まった。本部席も動き出す。金狼さんのご挨拶。掴みとはいえ、やはりけったいな挨拶だった。



「さあ、ついに開幕となりました。株式会社オーバーの挑戦、メンバー有志によるVRMMOゲーム『王国の刃』プロ試合。実況はわたくし黒髪なのに金狼ヨミ!

そして解説にはこの方をお迎えしました。『王国の刃』最強のひとり、柳心無双流宗家のリュウ先生です」

「みなさまはじめまして、柳心無双流剣術宗家のリュウです」

「そしてわたくしが出雲鏡花ですわ」



なにっ!?となりに目をやると、光るデコ、光るオデコ、光る大デコ出雲鏡花がシャナリと済まして座っていた。っつーか何!? 何がどうしてこうなってんの!?

するとそのとなりが、さらにチュドンと爆発した。薄れる爆煙の中から現れたのは……。



「ハーッハッハッハハッ!! 遠くの者は声に聞け、近くの者は目に入れても入り切らない!! 私の名は鬼将軍っっ!!! 悪の組織陸奥屋一党の総裁だーーっ!!」



そこでさらにもうひとつ爆発の演出エフェクト


いや、帰れよお前ら。すべてにおいて迷惑だから……。


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