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ぺったんこチーム

練習試合三連戦、ここまでプロチームはクリティカルの献上こそあったものの、一応無敗。逆に言えばアマチュア選抜チームは、まともな勝ち星を上げることができていない。


そのような状況でトヨム率いるぺったんこ小隊の登場だ。見学者たちも俄然沸き返る。



「ここは要注意だね」



ライが仲間たちに訴える。



「ウチの妹は空気なんか読まないからさ、ガチガチのシュートで来るよ」



チームリーダーの言うとおり、練習試合ということも忘れてアマチュア小隊はやる気を見せている。



「さあ、やってやろうぜ!!」



トヨムが声を出すと、小隊メンバーも口を揃える。



「白星は私たちのものだ!」

「目にもの見せてやるぜ!!」

「プロだからってなんだってんだ!」


「やっつけろ! やっつけろ!」

「ぶっ倒せ!! ぶっ倒せ!!」

「勝者はだれだ!!」

「我らチームぺったんこ!!」



ラグビーの試合で見かける、ウォークライのようだ。すさまじい気合いの入りようである。



「一応私とヒカルが出るけどさ、すぐ乱闘になるかもね」



プランを立ててもそのとおりにはいかない。ライはそのようにこの一戦を暗示していた。ライ&ヒカルのタッグが前に出て、ぺったんこ小隊は六人全員が前に。


火花を散らすように見合って見合って……ゴング!


飛び出してきたぺったんこ小隊、中でもトヨムが先頭だ。それを、モンゴリアン・カーンがまずはホームラン。いつの間にか初手のカットに入っていた。


トヨムはたっぷりと空中遊泳を楽しまされたあと、ネコのように着地。ダメージはほとんど無い。ホームラン打者のカーンは、すみやかに自陣へと逃げ込んでいた。


そしてぺったんこ同士の激突。ここまでプロチームは、同じ階級なら人数が少なくとも同等に立ち回ってきた。しかし今回ばかりはそうもいかない。スピードが同じ、あるいはアマチュアチームの方に分があるのだ。


ライの斬馬刀が敵の接近を追い払う。追い払い切れなかった敵は、ヒカルさんの刀が後退させている。しかし、たったそれだけ。


囲まれてしまい、状況好転せぬ場面は変わらない。今度はモヒカンが出た。ぺったんこメンバーを追い散らして活路を開く。


しかしライたちも追撃には至らない。やはり数とスピード、ぺったんこ小隊はそこにモノを言わせていた。


あるカラテ家が言っていた。『強い』と呼ばれるための条件だ。1にパワー、2にスピード、3にテクニックだと。しかしそれはカラテの話、ボクシングなどでは1にスピード、2にテクニック。パワーの重要性は3番目だと言われている。


つまりぺったんこ小隊は、この一戦をスピード勝負としていたのだ。というか、クリティカルを取れるだけのパワーは、コリンとホロホロを除いても四人が持っている。いや、コリンもホロホロもやろうと思えばクリティカルは取ることは可能だ。なにしろ日々講習会で基本を練磨している。


基本テクニック基礎パワーが足りていない、ということは無い。


その二点で同等、あるいは上回っているならば、決着はスピードである。そしてぺったんこ小隊の持ち味もまた、スピードなのだ。


やっちまえ、今ここぞ。その勢いそのままに、後退させられても前へ。攻撃をはね返されてもまた攻撃。イケイケドンドンでぺったんこ小隊は押し込んできた。


モヒカンひとりの援護では埒があかない、そう判断したかさくらさんとヨーコさんが出撃。さらにはカーンも突撃してきた。


もう出し惜しみは無い、両軍入り乱れての大乱闘だ。どちらも革の防具に浅手が増える、しかし意地っ張りのように誰も後退しない。トヨムもアキラくんも、薄い切り傷だらけだ。ホロホロさん、歩ちゃんといった短剣の使い手も衣服が裂けている。

コリン、フィー先生の手槍薙刀といった長得物コンビも、革防具が傷だらけである。それはプロチームも同じこと。無傷な者などひとりもいない。


あっ、コリンちゃんがカーンに捕まった。


手槍同士の対決だったが、鍔迫り合いのような体勢は体格に勝るカーンが押し切ったのだ。小さなコリンに巨漢がのしかかり、ついには馬乗りのマウントポジションに持ち込まれた。


コリン危うし、手槍で青鬼がパウンドを仕掛ける。


そこへトヨムのボディフック、クリティカル判定ではないがカーンの胴は耐えきれなかった。派手な演出とともに消滅する。トヨムは素早くステップバック、アキラくんに追撃を任せるが、ヒカルさんの斬りおろしがそれを阻んだ。


現場は馬乗りになったカーンが中心、コリンからクリティカルを奪うか。ぺったんこチームが救出に成功するか、というところになる。



「とにかくカーンの邪魔をしろ!!」



トヨムの指示は救出よりもまずポイントを与えないこと。的確な指示だと私は思う。まずは得点を許さない、それを実現してからの救出劇である。ここで今一度ルールを確認。配信者チームには「クリティカルヒットを奪うべし」と厳命してある。


つまりダメージの蓄積による防具破壊はポイントにはならない。「だったら最初から防具を着けなきゃいいじゃん」……君は本当にそう思うのかね?それでもクリティカルショットは発生する。


そして何よりも、状況は世界配信されるのだ。そのような発想をするだけで、世界規模の恥なのだぞ。だがここは、少し分かりにくい言い方をさせていただきたい。





『君はそれでも、男なのか!?』と。





配信者の女の子たちは、今この瞬間も『王国の刃』を攻略すべく努力していることだろう。ファンの一人ひとり、誰に恥じることなく。いや、むしろ誇れるくらいに正々堂々の真っ向勝負を仕掛けてくるために、眠る時間を削って通常の配信もしながら、オンとオフを切り替えるかのように『王国の刃』へ入り浸って稽古をしているのだ。


まさしく、白樺女子以来の危機。黒船来航と言っても差し支えないほどのできごとなのだ。


その場に臨んで、君は卑怯卑劣の振る舞いができると言うのか!! えぇいっ、私の目を見て答えろっ!!

私の目が細いうちは、そのような卑怯卑劣破廉恥漢の振る舞いは、断固として許さないぞっ!!


まあ、中年のたわ言なぞどうでも良いか。私の細い目を練習試合に戻そう。ぺったんこチームの入れ代わり速度、連携の素早さ。こうした点はお見事としか言いようが無い。とにかく素早い、とにかく波状攻撃。


現在はカーンが攻めたてられているが、たまったものではないはずだ。フィー先生のような長得物が来たと思えば、ホロホロが体当たり同然に短剣を突き立ててくる。


アキラくんが追撃してきたと思えば、またフィー先生が邪魔にくるといった塩梅。とにかく目まぐるしい。



「兄者、コリンからクリティカルは諦めよう。形勢好転せず、だ!!」



防御一辺倒のカーンに、モヒカンが撤退をうながす。



「えぇい、口惜しい! せっかくここまで追い詰めておきながら!!」



しかしそのカーンも胴の防具を奪われている。撤退の判断は正しい。モヒカンが力まかせの反撃に出ると、その隙にカーンは立ち上がった。


コリン、窮地から脱出。


お釣りとばかりに突き技を繰り出そうとするが、さすがにそうはいかなかった。黙って後方へと移動する。囚われのお姫さまを救出したところで、ぺったんこチーム俄然有利!

かと思えばそうでもない。


馬乗りで足を止めていたカーンという標的が、身動き自在となったのだ。手槍を振り回して襲いかかってくる。巨大戦艦、戦線復帰なのである。



「面倒くさいのが復活したぞ!! 総員弾丸隊形、一点突破するぞ!」



トヨムの号令にぺったんこチームがひと固まりになる。しかし。



「それはもう見せてもらったよ!!」



ライとヒカルさんが飛び込んだ。斬馬刀のビッグショット。トヨムがこれを躱す、しかしそこにはヒカルさんの切っ先が。

これも身を翻してどうにかよける。そこへ中距離ミサイル、斬馬刀による突きが襲ってきた。身をよじってこれを避けるが、もう後が無い。

バランスが崩れ切って、次の足は出ないのだ。



それを見逃すさくらさんではない、トヨムの薄っぺらい胸を手槍でひと突きにした。本来ならばワンショットキルのダメージだ。しかし設定をプロ仕様にしているので、トヨムの装備であるノースリーブが破壊されただけである。



「いや〜〜ん、〇いっちんぐ♡」



スポーツブラもあらわになったトヨムが身をよじらせるが、シラミのフケほどにも色っぽさは感じない。というか、セパレートタイプのアマレスユニフォームを着た男の子にしか見えないのだ。もちろん私にそうした方向の趣味は無い。



「小隊長被弾っ!! 後任はホロホロが務めます、全員突撃ーーっ!!」



指揮にも何にもなっていない指揮だが、トヨムでも同じ指示を出しただろう。しかしホロホロさん、それは問題だぞ。



「おいおいホロホロ! アタイまだ戦死してないからっ!!」

「……チッ」



トヨムの言うとおり、小隊長はまだ戦死していない。それなのに指揮権移譲は問題だらけだ。というか、お前いま舌打ちしたか?


しかしそれでも、ぺったんこチームの突撃は止まらない。トヨムを囲んでいたメンバーを押し返し、フィー先生ひとりでカーンとモヒカンを相手にしていた。となると、プロチームに孤立する者が生じることになる。



「よ、アタイが来たぜヒカル」

「無手は斬り難いでしょうが、すみません。ボクも一緒です」



アキラくんとのタッグだ。これはヒカルさん、難物だぞ。


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