スパーリング
ではここで実戦練習を開始するのだが、そのルール説明を。
配信者さんたちはプロチームに挑む。故にプロルールに従わなければならない。プロとアマチュアでルールのどこが違うか?
鬼将軍の采配により、プロルールではワンショットキルが撤廃されている。これは試合を大味にしないという配慮ではあるが、元よりプロ選手であろうとも、ワンショットキルを可能とする選手はいない。
投げ技においても同様、クリティカル判定による防具破壊までは認められているが、直接キルには結びつかないようにされていた。そのような仕様なので、仮想配信者を務めるネームドプレイヤーたちにとっては、まったくの別競技という感覚になっている。
まずは大型ファイターを揃えた、アマチュア大学チームが前に出る。W&Aからは、トマホークのモヒカンと手槍のモンゴリアン・カーンだ。女子プロ選手たちは、後方に控えている。
実戦練習、開始!!
出方をうかがうのか、カーンとモヒカンは足を止めている。セキトリ、ダイスケくんを先頭に、四人の力士隊はドッと押し寄せてきた。
「どこから攻める、兄者?」
「向かって最左翼!」
団体の突進をかわして、二人は力士隊の最左翼に飛びついた。
二人掛かりの攻撃には、たまらず力士隊も転がされる。しかしトドメは刺さず、二人のプロはさらにもうひとりの力士へ。これも豪快に転がした。
ここで初めて、モヒカンがクリティカルを打ち込む。力士、防具を着けていないボディに大ダメージだ。初手を外されたセキトリたちは、急速に方向転換。カーンたちに襲いかかる。
が、方向転換にモタつく一人をカーンが捕らえた。今度はモヒカンが足掛けで転倒させる。
あ、囲まれた。
必死に防戦する二人だが、セキトリ、ダイスケくん、最後の力士。さらには転倒から立ち上がった力士に囲まれてしまった。
そこへ素早く、ライとヨーコさんが邪魔に入る。上手い、こうした場面こそプロレスだ。配信者さんたちを応援するファンたちは、きっと「あぁっ、惜しい!!」と声にするだろう。
カーンとモヒカンは窮地を脱出、すみやかにタッチ交代。次に出てきたのは、ライとヒカルさんのぺったんこタッグ。これが攻撃など一切せずに、足を使って走り回った。
ダイスケくんたちはメイスや大剣を振り回すが、初弾を外される。次弾もダメ、体当たりも躱される。そりゃそうだ、ライもヒカルさんも防御に徹している。スピード全振りなのだから、いかに高手名手の猛者であっても、触れることすらできないでいたのだ。
これが何を意味するのか?
力士ひとり、ダメージポイントを奪われている。ライとヒカルさんはノーミスでポイント与えていない。つまり逆転の芽を摘んで、時間をロスさせているのだ。
「そろそろ決めようか、ライ姉さん!!」
「おう、任せたぞ!」
ライもヒカルさんもクルリと前方回転受け身、自陣へ生還して、さくらさんとヨーコさんのお姉さんタッグに交代。
ヤッと前に出た二人、さくらさんが敵の攻撃を受け止め、ヨーコさんがスネを払う。クリティカル、ポイント差が開いた。しかし深追いはしない、すぐに足を使って離れ、受けては反撃受けては反撃。ヒットエンドランを繰り返す。
これもまた、ケチくさい反撃なので力士隊たちの思うようにはならない。最後は大型ファイターに交代、スネ当てひとつ献上してポイント差を縮めるというファンサービスを演出したところで、タイムアップ。
プロチームの判定勝ちという結果になった。
「うむ!」
壇上の鬼将軍は、満足そうにうなずいた。そのことに私も不服は無い。上等なプロ試合と言えた。
だ・が・し・か・し!!次戦は通常試合とはルールが違う。いつもなら圧勝しすぎないようにプレゼントする、クリティカルの一発。いつものクセで献上したのだろうが、配信者戦ではその一発で勝敗が決するのである。猛省しなくてはならない。
そして先程うなずいていた鬼将軍。今の一戦に満足していながら、物言いをつけてきた。
「選手の連携はよかった、試合の流れも満足なものだが、しかし。もう少しゲームの面白さを見せるというか、可視化損傷というものはできないだろうか?
その方が視聴者さんも喜ぶだろう」
なるほど、それは確かにわかりやすい。防具やライフのダメージ具合が、目で見ただけでわかるのならば、それは視聴者さんも納得だろう。
だがしかし、それは運営の仕事であって、その費用を出すのはスポンサーの役割だろう。働け、鬼将軍。
いや待て、だからといって破損した防具から煙が出ていたり、負傷したプレイヤーが大量出血などという演出は絶対にするな。『鎧から煙上がっとるぞ』と笑い物になるだけならまだしも、大量出血などという演出、お前が許しても世間が許さん。
健全なゲームに年齢制限がかかってしまう。だから忘れろ、いま言ったリクエストは。
「しかし変にダメージをアピールしても興醒めだからな、大将」
「そうだ、そういったダメージを被らないように防具を着けている」
カーンとモヒカンが異を唱えた。
「それに打たれて大きくのけぞったり、ダウンシーンやグロッキーをアピールしていては、クリティカルを簡単に奪われそうだ」
「ふむ、ではどうするというのかね?」
異論には代案を求める。求められる。
「うむ、大将の求めるものとは違うが、提案がある」
モヒカンが静かに言い、モンゴリアン・カーンに耳打ちした。ということで、次の稽古相手は中型チーム。先鋒に立つのはモヒカンのアイデアを受けた、さくらさんとヨーコさんだ。
ゴング、まず二人の先鋒は手堅く中段に構えていた。そこへキョウちゃん♡とユキさん、白銀輝夜が迫る。二人一組の法則を破り、さくらさんとヨーコさんは左右に分かれた。戸惑いを見せる中型チーム、さくらさんとヨーコさんは対極にあって、六人の敵を囲むようにジリジリと横移動。その二人が、同時に駆け出した。
円形に中型チームを包む動きではなく、直線移動。一直線に駆けては方向変換、四角く中型チームを囲んでいた。そして急停止、ふたたびジリジリと六人の周りを睨むように円運動。そして突然の攻撃、前触れなどなかったが、芙蓉さんと葵さんがこれを止めた。が、止められたとなればW&Aの二人、組み方を嫌うようにパッと離れる。
心地よい緊張感だ。プロレスの名勝負を観ているような感覚に陥る。そうした目で見てみれば、プロレスというエンターテイメント、実に考え抜かれた演出が組み込まれている。というか、この緊張感という演出がモヒカンの言う提案なのだろう。
さしたる攻防も無く、さくらさんとヨーコさんはぺったんこタッグにタッチ。小柄な二人は打って変わって走る走る走る。その間にもライトタッチな攻撃を組み込んでいた。
ことごとく外されてはいるが、なにしろ先手を取っている。雰囲気だけで言うならば、W&Aの二人に優勢ポイントが入ってしまう。が、ここで流れが変わった。薙刀使いのボブカット比良坂瑠璃が、ヒカルさんの足を引っ掛けて転がす。葵さんは徒手格闘、ライを捕まえてガッチリと両腕をロック。そのままスープレックスに斬って捨てた。
ライ、大ダメージ。
しかし受け身が上手かったのだろう、かろうじてクリティカルはまぬがれていた。さらなるダメージを、葵さんは腕ひしぎ十字固めの態勢。W&Aの四人は、すかさずカットに入った。ヒカルさんも前転しながら自軍へ生還、ここで巨漢二人の登場だ。
期待がかかる、この場面で大型選手の登場なのだ。しかし、技の中型チーム。得物を使った投げ技や足払いで巨漢二人を子供扱い。逆に中型チームの見せ場とも言える場面となった。これが配信者チームであったなら、コメント欄爆速であろう。
「それいけ配信者!! やれいけ配信者! そんな連中やっつけちまえ!」
そんな大合唱が聞こえてきそうだ。
巨漢タッグは反撃を試みるも、どうしても技とスピードの中型チームに遅れを取ってしまう。自慢のパワーを空転させられる展開なのだ。
しかしここでプロチームの反則的暴挙。控えていた四人が一斉になだれ込み、追撃しようとしていた中型チームを次々と薙ぎ払ってしまったのだ。
だが、よく考えて欲しい。二人ずつ選手を出していたのはルールのためではなく、プロチームの『試合を面白くしよう』という都合なだけなのだ。決して反則ではない。両軍入り乱れての大乱闘。打って打たれて、それでもクリティカルが発生しないところが熱いと言える。結局は両チーム無得点。判定は引き分けのドロー裁定となった。
「おうおうおう! アタイたちの方がキャリアは長いし、激戦くぐり抜けて来てんだよ!! なんともだらしない結果じゃないか!」
陸奥屋まほろば連合の一番星、トヨム・ザ・小隊長が吠える。
「なんだいなんだい、これじゃあ最強軍団の名が廃るってモンじゃないか!
どれ、ここは一発チンチクリンシスターズで、目に物見せてやろうぜ、みんな!!」
果たして、その勢いに値するだけの勝算の有るや無しや?