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プロレス会議

「面白くなってきたな、兄者」

「おう、ピカピカの新人かと思ったらなんのどうして。やるようになってきやがった」



どこのヤクザかヒットマンか、あまりお上品とは言えない目つきのモヒカンとモンゴリアン・カーンだ。こちらはチーム『W&A』、帰ってゆく配信者チームを見送る者たちだ。



「面白くなってきた、じゃないわよ! 甘く見てたら本当にクリティカル取られちゃうよ! Vtuberさんたち、本気だったじゃない!」



拳をふたつ、ブンブンと上下に振ってさくらさんは苦情を述べる。



「仮にも私たちはチャンピオンチーム、新兵格の配信者さんたちに負けることなんて許されないんだから!!」

「そうだよね、さくら。だけど新兵格相手にシュート仕掛けて、大人げない勝ち方もできないよね」



W&Aの顔役、トヨムの実姉であるライが不敵に微笑む。ズバリ的を射た言葉に、さくらさんの言葉も詰まった。



「そんなマネしたら最後、世界発信で王国の刃は『新兵狩り』するゲームなんだって、広まっちゃうよ?」

「ムウ〜〜……だったらどうするってんですか、ライ姉さん」



さくらさんは唇を尖らせる。



「チャンピオンチームとして、クリティカルは与えない。だけど新兵イジメはしないし、姑息な真似もしない。おけ?」

「さすがトヨム小隊長の姉さんだ、ギリギリのところを攻める」



私も口を挟ませてもらう。



「リュウ先生!? 呑気なこと言ってないで、良い知恵を授けてください!」

「まあまあさくらさん、君のチームメイトたちはすごくやる気みたいだぞ」

「むう〜〜っ、先生まで……」



不服そうなさくらさんをよそに、ライは話をすすめる。



「まずは胸のデカい連中だね、あいつらはアタシとヒカルでどうにかしようや」

「私たち二人で、お姉さんチームの相手をするの?」

「それならどんだけ本気出しても、文句は言われないだろ?」



ふむ、二対六のハンデ戦か。



「しかしそれでは、待機してる四人が暇すぎる」



モヒカンが重々しく口を開いた。



「そこはよ、モヒカン。いつでもタッチ交代してやるって寸法さ」

「なるほどカーンさんの言うとおり。タッチしてタッチして、防具の傷ついたヒカルちゃんたちが試合権を得たときに……」

「それよ、ヨーコさん。配信者チームの大チャンスってことさ」

「それなら兄者、なにも俺たちの交代相手がライの姉御でなくとも、構わないだろ?」

「え!? 私のチームメイト、さくらさんやヨーコさんとは限らないってこと?」



ヒカルさんも目をパチクリ。

これはなかなか面白いことになってきた。男女混合は元からだが、チーム混成というのは面白い。得物の大小、攻防の変化。試合時間の六分間など、あっという間だ。



「そうなると順番決めだね。私とヒカルは先鋒として、中堅は悪羅漢とゴー・ウェストのどっちで行く?」



すでに決定稿という雰囲気、すでにリーダーという雰囲気でライも話を進めた。



「はいはい、そこは女子〜男子〜女子の流れが良いと思います!」

「ヨーコ案採用! じゃあ二番手は悪羅漢の二人ね。さくらとヨーコは大将格。じゃあ試合の流れはどうする?」

「俺たち二人には歯が立たないという演出で行くかい?」


「あ〜〜、パワー対パワーじゃ配信者さん六人掛かりでも敵わなそうですもんね」

「で、大将格の二人には技で転がされて敵わないとするか?」

「じゃあやっぱり、お姉さんチームに対する弱点は、私とヒカルになるね。派手に斬り刻まれるぞ、ヒカル!」

「はい、ライ姉さん!」


「そうなるとぺったんこチームに対する弱点は、俺たち二人。お嬢さんチームへの泣き所は、さくらさんとヨーコさんか……」

「実力勝負なら、あの娘たちみんな蹴散らしちゃいそうだけど、どうするさくらちゃん?」

「え? あっ、ごめんなさい。全然お話についていってなかった」



まあ、さくらさんは真面目そうだから、プロレス的演出は苦手かもしれない。



「しかしそうなるとだ」



私も一言言わせていただこう。



「お姉さんチームに対する弱点がこちらのミニマムチーム、ぺったんこチームに対する弱点が巨漢タッグなら、お姉さんチームに対する弱点は、血まみれ女子大生チーム……さくらさんとヨーコさんで良いんだよね?」

「ま、そうなるね」



ライはトヨムそっくりな気楽さで答える。



「じゃあ、敵にとっての苦手タッグは? お姉さんチームには巨漢タッグ、ぺったんこにはヒカルさんとライかな?」

「おっ!?」



そう、その法則でいくと、お嬢さんチームへの弱点も逆転も、ヨーさくタッグということになってしまう。



「こいつぁアタシがしくじった。お前たち、試合構成の練り直しだよ!」

「「アラホラサッサー!」」



ここで、『いや、二人の返事は「やーっておしまい!」というセリフの後だろ』と思った方は、定期的な成人病検査をおすすめしたい。人間、健康であることは財産なのだ。

それはそれとして、ライを中心に試合の練り直しだ。



「まず相手に圧をかけられるタッグ。それは敵と同じ階級のタッグでいいね?」

「パワー、スピード、テクニック。どれを取っても俺たちが上だ。問題ない」

「じゃあアタシたちが苦手を見せる相手、これはひとつ下の階級でどうだろ?」


「ん、俺たちお嬢さんチームのコンビネーションや連携に苦戦する」

「そ、さくらとヨーコは、ぺったんこたちの数とスピードの圧倒されてね」

「ときに囲まれ、ときに主砲の接近を許す……ん、オケだよ」


「アタシとヒカルはお姉さんチームのパワーに弾き返されるってことで、いいね?」

「でも実際に手合わせはしておきたいですね」

「いやいや大丈夫、仮想敵ならいくらでもいるさ」



私はようやく話に参加した。そして背後を指さす。セキトリ、ダイスケくん、力士隊。まほろばの女の子たちにキョウちゃん♡とユキさん。トヨムを筆頭にしたぺったんこチーム。品揃えは豊富である。



「よーし、ダンナのご指名だ! ぺったんこチーム、集合ーーっ!!」



トヨムの号令だが、びっくりするほど誰も集まらなかった。



「なんだお前たちっ!! アタイをうらぎる気かーーっ!」

「いや〜〜自らぺったんこを自称して、心に手傷を負う小隊長が、あまりにも涙を誘ってくれたのですよ〜〜♪」



まほろばから茶房『葵』の看板娘、歩ちゃんがチームに加わる。



「ボクもトヨム小隊長の勇敢さに、ちょっとシビレてました……」

「アタシは見事な特攻自爆に感動してたわ」



マヨウンジャーからアキラくん、コリンちゃんが参加。



「フィー先生、目を逸らさない。それからホロホロ、そっち側で目立たないようにしてるけど、お前こっち側だからな」



トヨムのぺったんこ嗅覚が、二人の参戦拒否を許さない。これで六人揃った、ハイスピードチームの完成である。

ということで、『W&A』は二人一組で各チームと稽古をする。

が、まずは見極めだ。W&Aの面々が、同じ階級相手に実際優位を保てるかどうかを確認する。



「いやいやリュウ先生、新兵格の配信者さん相手ならまだしも、ウチの主力メンバー六人小隊だといくらプロチームでも……」

「あら、言ってくれるじゃない参謀ちゃん? 私とヒカルのタッグが、トヨムなんかに負けると思ってんの?」



ライのギラついた眼差しが、カエデさんに向けられた。ってゆーかライ、お前も豪傑格かも知れないが、トヨムはその上の英雄格なんだぞ? わかってないのか?

わかってないだろーなー。

しかし論より証拠だ、早速練習試合といこう。ライ&ヒカルタッグVSスピードスター小隊、ゴング!! 結果……ライもヒカルさんもボッコボコ。コンタクトとほぼ同時に死人部屋へと送り込まれる羽目となった。



「まいりました、妹よ。どうかこの愚姉に稽古をつけてやってください」



まあ、そうとしかならないな。ライに対して手槍のコリン、トヨムにアキラくんが当たり、ヒカルさんには短剣の歩ちゃんとホロホロさん薙刀のフィー先生が攻撃を仕掛けたのだ。

ライに対してはまずトヨムが撒き餌になる。その斬馬刀を空振りさせたところで、コリンちゃんの突き技かアキラくんの拳が突き刺さったのだ。


打刀のヒカルさんを翻弄したのは、薙刀上手のフィー先生。あれあれあれ? と剣を巻き取られているうちに、歩ちゃんとホロホロさんが急接近して仕留めるというパターン。


経験値と人数、さらには個人個人の技量。チームとしての能力、さらには得物を活かした戦闘など。差を見出すにはあまりにも要素が多すぎた。

が、私からひと言。



「いや、卑屈になるほどの差は無かったと思うな。カエデさんならどうアドバイスする?」

「そうですねぇ、私もプロレスは詳しくないですけど、初手でライさんとヒカルが分断されていた。つまり二人一組の法則を用いれば、結果はもっと違うものになっていたのでは?」



二人一組になって六人の的の一人に当たる。


算数で考えれば無謀とか手数の足りなさを言いたくなるだろう。しかし王国の刃というゲームは、算数ではないのだ。

ファーストコンタクト、初手で一人を死人部屋へ送ることにより、あるいはクリティカルショットで防具を破壊するだけで、展開はまったく違ったものになってくる。


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