お嬢さんたちの進歩、爆炎くんも考える
あ、すげぇ。
まだアマチュア講習会初参加だってのに、Vtuberさんたちに主砲が登場したぜ。ん、俺かい?
俺は爆炎、チーム『情熱の嵐』のメンバーさ。その名のとおり、ファイトスタイルは熱く激しく。熱く激しくが信条だ。
そんな俺でも最近講習会に現れたVtuberさんたちの上達速度に、思わず舌を巻いちまった。六人一組三チーム、背丈を揃えて大中小に分かれてるんだけど、早速ひとチームにひとりは主砲を入れて来やがった。
いや、入れているってのも変だな。前回の講習会にも来ていたヤツらのひとりが、主砲役に成長したってのが正しい。とにかく得物をブン回す。迷いなく、力いっぱい。もちろん稽古相手の『トヨム小隊』には当たらないんだけど、こんなに思い切りよく行くのには、ふつうはもっと時間がかかるもんだ。
それを数日見なかったくらいで、クリティカルのひとつも取れそうな勢いで振り回せるなんて、どれだけ練習したんだよって感じだ。
「おや、これは凄いね爆炎。Vtuberさんたち、先生方に指導されたって聞いたけど、もうこんなに使うようになったんだ?」
「リーダーも見たのかよ、Vtuberさんたちの動画?」
「いま一番人気の団体が、いま一番人気のゲームに参加して、いま一番の実力者に稽古つけてもらった動画だからね。嫌でも再生候補に上がってくるさ」
へぇ、特に検索して視聴したって訳じゃないんだ。
俺は知ってる先生がVtuberさんに稽古つけたって聞いて、わざわざ検索かけたんだけどな。
「だけど配信者さんたち、努力はすごいけどまだまだ『トヨム小隊』に触ることはできないだろうね」
え、そうなのかいリーダー?
「爆炎は気付かない?」
何にだろう?目を凝らして、トヨム小隊との練習試合に見入る。チーム『大』、つまり配信者さんたちの中でも背の高いチーム。これが六人で掛かっていく。トヨム小隊はリュウ先生を抜いているから五人。ひとりがひとりを相手にして足止めをかけている。
そうなると残るのは、トヨム小隊はひとりで配信者チームはふたり。二対一の有利な状況で決定的な場面をこしらえた。
「つまりさ、トヨム小隊が六人揃っていたらこの展開はタイマン勝負にしかならないってこと。そうなると歴戦のプロチームには勝てないってことさ」
なるほど、この練習試合は、最初から六人対五人のハンデ戦だっけ。そうなるとこのままじゃ配信者チーム、分が悪いことになるな。
「なんでこんなことになったか、爆炎には分かるかな?」
ん?え〜〜とだな……。……………………。
「ぎぶ」
「うん、これはあくまで僕個人の見解だから、参謀たちがどう見るかは分からない。でも僕の目から見たら配信者さんたち、球技をやってるんだ」
いやリーダー、『王国の刃』は一応格闘ゲームなんだけどよ。
「あ、まだ分からないか。それじゃあさ、サッカーでは敵陣深くにエースストライカーを置いて、そこにボールを集めるよね?」
「お、おう」
「つまりキーパーとエースの一騎討ちを作るのが目的。だけど『王国の刃』ではそれを定石とは言わない」
あ、そうか!
「最後はタイマン勝負じゃなく、数的有利で迎えなきゃならないのか!」
「そう、だから配信者さんチームは、誰かひとりが貧乏くじを引いて敵二人を担当、主砲に有利な二対一の場面を作ってあげなきゃいけないんだ」
それでこそ初めて、勝機を見出だせる。だけど配信者さんチームは、まだそのことに気づいていない。いや、もしかして。
「なあリーダー、トヨム小隊の連中が上手いこと立ち回って、配信者さんたちに数的有利を作らせないようにしてるんじゃ?」
「その可能性もあるね、だけどトヨム小隊の目的は配信者さんチームに花を持たせること。そうなると配信者さんたちに不利を強いる理由が無いかな?」
あぁ、そうだな。トヨム小隊は別に配信者さんチームをいてこましたい訳じゃないのか。だったらこれは、単純に配信者さんたちの不出来。最初から五人対六人の数的有利はあるからな。
「だけど、そうとばかりも言ってられないかもよ?」
配信者さんチーム大、主砲を配置していてもクリティカルは得られず、中チーム(別名お嬢さんチーム)に交代。
お嬢さんチームにも主砲はいた。大中小剣をブン回して、セキトリに挑んでゆく。一騎討ちか、と思えばそうじゃない。サポートに髪の長いお姉ちゃんがついている。これがまたうるさい、軽く突いては走り走ってはチクチクとダメージを入れてゆく。
セキトリは小癪なとばかり大きくメイスをブン回し、髪の長いプレイヤーを物理的に後退させ、それからタイマンの構図を作り上げていた。
「悪くないね」
リーダーが言った。それはセキトリの対応を言ったのか、二対一の場面を作った配信者二人組を言ったのか。
「両方さ、配信者二人組の狙いもいいしセキトリさんの対応も落ち着いている」
対戦はそちこちで繰り広げられていた。見ていると、セキトリ対二人組の場面を維持するために、他のトヨム小隊メンバーが割り込めないようにしているのがわかる。
「わずか数日で、こんなに考えてきてこんなに上手に立ち回れるなんて……。『情熱の嵐』もバカ正直に対戦したら危ないかもね」
それは言える。彼女たちに比べたら、俺なんて進歩の無いぶんぶん丸でしかないもんなぁ。
配信者さんのお嬢さんチームも決定打は奪えず。練習試合は配信者チーム小(別名チームぺったんこ)に交代。これがまた痛快だ、どう見てたって学年イチのちっこいのが一人、ハンマーを担いでいるんだ。
明らかに主砲、明らかにメイン。いやそれよりも、チビッコにハンマーとか絵面がヤバ過ぎだろ。
「それがね爆炎。あのチビッコ、配信者チームじゃ腕相撲ナンバーワンらしいよ?」
を? そうすると……。
「配信者チーム、実はこのチームぺったんこが本命なんじゃないのかな?」
こりゃ面白くなってきた。数的有利に決定的なスラッガー、これはひょっとしたらひょっとするぞ。期待値最大。しかも開幕からチームぺったんこ、ひとりを囮のように差し出して、二対一の場面を作り出している。
数的有利はさらに濃くなった。すげぇ、どうしてここまでできるんだ、配信者さんたち。
……そういえばリュウ先生が言ってたっけ。ファンのみなさん、時間を割いて観てくれる視聴者さんたちを、ガッカリさせないためなんだって。
誰かのため、そんな考えで俺、今までプレイしたことあったっけ?
俺のファンなんていないけどさ、チームメイトや連合のためにって、そんな考え方してなかったな……。『王国の刃』は団体戦、集団戦だ。絶対に誰かのためって考え方は必要になる。それなのに、俺……。
「あれ、爆炎。何か考えてる?」
「いや、あの娘たち見てたらさ、俺って好き勝手しかやってなかったなって……」
「……………………」
「自分勝手に突っ込んで、最前線だって言ってひとりではしゃいで。全然チームに貢献してなかったなって」
「先生方が言ってたね、『比武』はいかんぞって。誰かと自分をくらべるだなんて、そんなのやっちゃいけない。僕もそう思う、だから爆炎は今まで通りで良いのさ」
武を比べるな。自分が上なら奢りにつながる、自分が下でもイジケにしかならない。確かそんな教えだっけ。
「でもよ、リーダー……」
「なんだかんだで、爆炎の開いてくれる突破口。僕たちにとってもありがたいんだ、どんな困難な敵にも真正面から突っ込んでくれる爆炎がいるから、僕たちも勇気が湧いてくる」
俺の持ち味は俺にしか出せない。そう言ってくれるリーダーが、すごくありがてぇや。
で、チームぺったんこの奮戦だ。数的有利を生み出して三対一で向かう相手はメイスのマミさん。配信者チームは右からチクチク、左からツンツンとマミさんを攻めたてる。
そして一瞬の隙を見逃さず、一撃必殺の大ハンマー!……は、空振り。しかもハンマーの重みに負けてヨロめいちゃっている。
その隙を突くって訳じゃないけど、すぐにトヨム小隊は態勢を変更。マミさんを孤立から救出した。この対応の早さは、やっぱ主力チームだけある。
まずはセキトリが力押しで割り込んで行って、他のメンバーたちが傷口を押し広げる。特にハンマーの娘なんかは、ちょっと念入に痛めつけていた。だけど配信者チームも全員で距離を取り、状況は仕切り直しってところ。
お、今度は配信者チーム、六人全員で突っ込んできた。それも標的はただひとり、後衛のカエデって娘に絞ってだ。
「そんな手まで考えてきたんだね、やるぅ♪」
いやリーダー、喜んでる場合じゃなくってさ。
しかしそれを簡単に許すトヨム小隊じゃない。小隊長自ら最前線、配信者メンバーを掴んでは転がし掴んでは転がし。その小隊長が孤立しないように立ち回っているのが、猛者のシャルローネだ。死神の大鎌を振り回して、小隊長に近づく敵を追い払っている。
だけどいいのかよ、敵の標的は小隊長じゃなくてカエデ参謀だぜ?
もちろんその点は抜かりなし、鉄壁の巨人セキトリとディフェンス約束のマミさんが防いでいる。……やっぱり強いチームってのは、オールフォーワン・ワンフォーオールができてんだな。やっぱ俺、劣等感を感じちゃいそう。