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大学剣道部、学ぶ!!

強いを求める! ダメかい、そういうの?


なんだかネット上じゃあ『強い』をクサシたり、マウント取ることにばっかり熱心で、本当にお前『強い』を求めてるの? 求めたことあるの?

って輩が多すぎた。だからって訳じゃないけど、弁より実力、論より実行。俺はガキのころから柔道少年団で鍛え込んだ。


だけど足りない。中学に上がってからは新聞配達のアルバイトで稼いで、フルコンの道場にも通った。やっぱ飛び道具は必要だ。頑張って頑張って頑張って、その先に『サムライ』って単語が見え隠れするようになった。武士、世界単語にもなっている『サムライ』。


そう、強いの究極は武器術。命のやり取りって結論になった。だから俺は男山大学に進学したのさ。俺の名は桜島太一郎。男山大学剣道部、剣道協会の三段だ。剣道協会の竹刀競技には、投げも当て身も寝技もある。俺の求める戦いそのものだった。


だけじゃない、真剣を扱う居合。試斬、木刀で打ち合い集中力と技術を練り上げる型稽古。『強い』のすべてが織り込まれていた。


シビレたぜ、熱心に、誰よりも打ち込んで稽古した。だから大学剣道部の主将にもなれた。そして参加する『王国の刃』という、本当に打ち合うゲーム。機動隊に稽古をつけてもらった。自衛隊にもシゴかれた。しかしさらなる強豪を求めて、俺はこの世界に飛び込んだんだ。





思い上がるなっ!!! そんな風に叱られた気分だったよ。




機動隊にも自衛隊にも負けないくらいの体格の俺。それが陸奥屋まほろば連合への出稽古で滅多打ちに逢ったんだ。いや、『達人』先生たちはそんな品のないことはしない。だけど相対したとき、木刀を向けられただけで、中年のオッサンたちが巨人に見えたんだ。枯れ枝のようなジイちゃん先生なんて、山だったよ山。


とにかくもう、殺気だけで『ここに一本』『そら、こっちも隙だらけ』って塩梅で、ビッシビシと打ち込まれてるのさ。打ち込まれる。俺はいまそう言ったけど、本当はそうじゃない。嘘を吐いた、見栄を貼った。……斬られたのさ、明らかに。


スッパリと、手も足も胴体も首根っこも。斬殺されているんだ、俺は。そう実感したね、っていうか、人って人をこうも簡単に斬ることができるんだなって、改めて思い知らされたよ。剣道協会だって竹刀競技部門、居合部門、試斬部門でそれぞれ段位があって、俺は全部で三段を許されてるんだ。言わば『剣を取っては……』という奴さ。


肉体だけじゃない、精神力とか気合いとか、そういった方面でもそれなりの技量だったはずなんだ。それが滅多打ちの滅多斬りさ。どんだけ強いんだよ、剣の達人ってさ。何人斬ってきたのさ、『達人』先生たちはよ。





強いってんなら先生たちだけじゃない。お弟子さんたちも強い。イケメンのヤサなお兄ちゃん、士郎先生の息子さんだが、まずこれが強い。剣の切っ先に殺気が乗っていて、いつでも斬るぞ!

という気迫に満ちている。


当て身も投げ技も、こうなるとあったもんじゃない。動けば斬られるんだ。そして一本おさげのメガネ女子、草薙先生の娘さん。こちらは術に長けているというか、隙を見つけて斬りかかろうとすると、いつの間にかこちらが斬られている。体格でもスピードでも気迫でも、こっちが絶対に上回っているはずなのに。全然捕らえられない魔法みたいな技。これが草薙神党流なのか、これが古流剣術なのかと唸らされるばかりだった。



手練れは剣ばかりじゃない、無手にもいた。小隊長と呼ばれるガキンチョ、これがもうすばしっこいのなんのって。ちょっとでも気を緩めたら一気に間合いを詰めてきて、調子くれたようなパンチの連打連打連打。


それを凌いだとしても、今度は掴んで投げにくる。投げに来たらすぐ折られる。まったくためらい、躊躇というものが無い。下手な半グレ地下格闘技なんかよりも、よっぽどタチが悪いガキンチョだ。


そして忍者。忍者だってよ、プップップッ……。


なんて笑いそうになったが、コイツの質の悪さも大概だ。最初から勝負に来てないんだ。そう、勝負や稽古のために目の前にいるんじゃない。最初から折りに来てる。コロシに来てるのさ。


それが証拠に、こちらの初太刀を外したと思ったら、もうキル。何をされたのかわからない。だけど見学の位置につくことでようやく、背後に回り込まれていたのがわかる。そのときには足を掛け稽古着の袖を掛け、少しでも動きにくくしてくれるといった、手厚い応対振り。しかも無手に見せかけて手裏剣や鎖分銅を仕込んでやがる。これからは忍者と書いて汚いと読むことにしようと、心に誓ったくらいだ。



いわゆるネームドプレイヤー、コイツらが強いってのは嫌というほど思い知った。達人先生たちの愛弟子なんだろうからな。だが、名もないプレイヤーたち。こうしたところがまたヤルんだ。槍組、抜刀隊、吶喊組み討ちに力士隊。この辺りはウチの初段くらいじゃ歯が立たない。明らかに専門的な稽古をしている集団だ。そして連合の中でものほほんとしているチームだって、ウチの初段くらいには使えている。





なんて偉そうな批評をしていると……。



「お、ちょっと場所……えぇかの……?」



肉、筋肉、軍艦のような肉体、肉弾。明確に力士、どこから見ても、強い。そんな男が、稽古場の中央へ。


対するは……。これまたデカい、まるで古代のスパルタン、筋肉の城。片や小隊長のメンバーである『セキトリ』、片や士郎先生の城壁『ダイスケ』。互いに『デカい』と『強い』には譲れないものがある。


「コイツにだけは、負けたくねぇ!」がある。そんな火花を、ぶつかり合った視線が散らしている。



「両者構えて!」



柔道着の剣豪、フジオカ先生が軍配を執っていた。此方、燃え上がるような熱視線。彼方、純粋に殺戮のみを目的とした氷の眼差し。


ハッキヨイ!!


軍配が返った。もう熱も氷も無い、ただ大男同士の『力まかせ』が……始まったっっ!!


両者獲物のメイスを体の正面、右を上にした控え銃の形。体重なんて軽く一〇〇キロ越えしてるだろうに、全速力のパワー全開で鋭く飛び出していた。ダンプカー同士の正面衝突かい?


そんな勢いでガッチンコ、パワーファイトで強く当たっていた。


それでいてお互いに、まったく姿勢が崩れていない。地面に根を生やしたみたいに足を止めて、力まかせの打ち合いをおっ始めた。



……すげぇ、剣道協会だって『相撲剣道』とか『ケンカ剣道』なんて言われてるのに、さらにその上をいく。戦艦同士の殴り合いが始まったんだ。



いや、俺たちだって『ケンカ剣道』って呼ばれてんだ。負けちゃいられねぇぜ。



「おう! 男山剣道部!! 気合いで負けてんじゃねーぞ!!」

「「「応っ!!」」」



稽古場のど真ん中じゃねぇけどよ、それでも気合いでは負けたくねーだろ?

今の世の中、こういう男っ気とか意地っ張りなんて笑われるしかないんだろうけど、俺たちはモニターの前に座ってキーボード叩いてる、自称武道家家大先生なんかじゃねーんだ。


意地張って体張って無理も無茶もして、強いを求めなきゃならないんだ。だってそうだろ?

俺が今まで紹介してきた連中は、みんなそれをしてきてるんだから。そんな連中だから、大学体育会系でさえ舌を巻くようなパフォーマンスを見せてくれるんだ。



「おら、もう一丁来いっ!!」

「お願いしますっっ!!」

「まだまだ、当たりがヌルいぞ! もっとキビシく来い! キビシくっ!!」

「おうっ!!」



声出して行こう。体育会系の合言葉だ。だけどやっぱ、それって正解だよな。みんな気合いがドンドン乗ってくる。その上バッチンバッチンと叩き合うんだ、乗ってこない訳が無い。


そうなると当然のように、先生方からお叱りを受ける。



「そこの若い連中、ウルセーぞっっ!!」



だから俺は発破をかける。



「先生方はお前たちの気合いが足らんとおっしゃってるぞっ!! もっと気合い入れていけっ!!」

「おうっ!!!」



そんなある日、リュウ先生に訊かれた。稽古あとの、ちょっとした雑談の場だ。


みんな車座になって、今日の稽古の良し悪しを語り合う場。そこに達人先生が現れたものだから、俺たちは胡座から正座に変わる。



「いや、そのままそのまま」



リュウ先生は幕末の英雄の顔貌そのままで、気さくに話しかけてくる。そんな雑談の中で、不思議なことを口にした。



「君たちは柳心無双流なんて、聞いたことがあるかい?」



柳心無双流は、リュウ先生の流派だ。だけど、その名を知るものはいなかった。



「そうさなぁ、今の人が知る剣術流派ってのは、みんな幕末に活躍した流派だからなぁ」



遠くを見るような眼差しで、リュウ先生は続ける。



「ウチの流派は、幕末期に活躍できなかったのさ。お抱えの藩がすぐに新政府軍になびいたからな。もう鉄砲と大砲の時代になってたのさ」



無念そうに語る。それなのにウチの部員バカは口を挟んだ。



「では草薙先生の流派は?」

「あぁ、あそこは戦国の気風を残し過ぎる、ケンカ上等すぎる流派だからさ。葉の方針を圧力で曲げられたらしい」



そんな話を、いま俺たちにする理由は?



「私たちも生身の人間さ、流派の名を挙げたい欲はある」



それを何故いま、俺たちに聞かせるのか?謎は多い。


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