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配信者さんたちを巻き込むなよ……。

さて、鬼将軍アホたれはその秘書である御剣かなめにしばき倒されて昏倒している。ミニマムさんチームとの稽古は、今しか無い。トヨムたちは戦意横溢意気軒昂とばかり開始線に立つが、ミニマムさんたちは円陣を組んでボソボソゴニョゴニョ。なにやら相談をしているようだ。



「……これは?」



私はスタッフさんに訊く。



「……どうやらウチのタレントたち、早くも本気で挑むみたいですね」



本気と来たか、スタッフさん。それもかなりの自信と見て良いだろう。となると……。



「カエデさん、どう思う?」



手早く状況を説明して、カエデさんの判断を仰ぐ。



「なにか秘策がありそうですねぇ。油断禁物というところでしょうか」

「いやいやカエデ、今回はアイツらに花を持たせるのが目的だからさ。そいつを忘れちゃダメだぞ?」

「ですが小隊長、取れる通行料は取っておくべきだと思いますが」

「それもそうじゃのう、ロハで通してはトヨム小隊のありがた味が薄れるわい。ここはチョビっとキビシくいこうや」



意見あれこれ、しかし結局は辛口路線ということで決定した。



「よし! かかってこい、ペッタンコども!! アタイが相手になってやるぞ!!」


開幕、銅鑼ゴング。両軍一斉に前進、というかペッタンコチームは迷うことなくトヨムひとりに突進してゆく。



「しまった、標的は小隊長!! みんな、小隊長をまもって!」



カエデさんの言うとおり、ナインペタンズは六人掛かりでトヨムに襲いかかる。まずは先頭の二人が同時攻撃。しかしこれはトヨムが足で外す。


そこへ他の二人が左右をふさぐように展開、横への逃げ道がなくなった。トヨムは後退するしかない。そこへ新手の二人がさらに同時攻撃。しかし勝負師トヨム、前進して死中に活を求めるカウンター攻撃。一人を葬った。


だが先に襲いかかってきた二人と第二波の生き残り、合計三人が待っている。トヨム、囲まれる。しかし……。



「小隊長の唇を守るため、愛の戦士シャルローネ見参っ!!」



あぁ、そういえば昔、トヨムに求婚してたよな、あの三人。いつぞやの出来事を懐かしんでいる暇もなく、シャルローネさんは一人を斬殺。



「マミさんだって負けてませんよ! 小隊長の操のためにっ!!」



あのねマミさん、トヨムのことだからそんなこと言ってると、「よし気に入った! お前に俺の女房を〇ァックさせてやる!」とか言い出すぞ?で、トヨムは言うんだ。



「アタイの女房って誰さ?」ってね。



結論から言おう。チームペッタンコの奇襲攻撃、ならびに一点豪華主義は失敗に終わった。


開戦劈頭の一撃でキメきれなかったのである。それもこれも、火力の差ということにはなるがしかし、わずか二戦を見学しただけでオリジナルの戦法を生み出してくるとは。恐るべし、Vtuberたち。恐るべし、視聴者さんを大切に思う気持ち。



「いえ、ボクたちは普段から色々なゲームをして慣れてますし、むしろあの奇襲攻撃を足ひとつで躱し切ってカウンターを取ってくるんですから。やっぱりトップクラスのチームって凄いんですね」



ミニマムチームのひとりが褒めてくれる。そう、私たちも視聴者のひとりとして、不快にさせないよう配慮してくれているのだ。



「いやぁ、それほどでもないよ、君ぃ」



今までノサれていた鬼将軍、何もしちゃしねぇ鬼将軍。お前ぇのことじゃねぇ、座ってろ。



「だがしかし、『W&A』へチャレンジするには火力がもうひとつだね。各チームで一人ずつ、決め手になる主砲を育成しておきたい」



私が言うと、お嬢さんチームのイマドキ風な女の子が口をへの字にひん曲げた。



「うへぇ、やっぱり特訓コースなのね……」

「こら、嫌な顔しないの!」



これにはみんな大笑いだ。そう、みんな笑顔にさせられている。これがVtuberの力というものなのだろう。



「で、どうだったよ?」



タレントさんたちが引き上げたあと、ナンブリュウゾウがさくらさんに訊いていた。



「うん、みんな可愛かったね♪」

「そうじゃねっての、負けねぇだろうな? って話さ」

「う〜〜ん……どう思う、ライ姉さん?」



さくらさんはトヨムの実姉、ライに訊く。



「勝ち負けなんて考えてないよ」ライはトヨムそっくりな、ぶっきら棒な口調だ。



「私たち悪役ヒールはいかに試合を面白くするか、それだけが目標なんだ。勝つってんならただ勝っても面白くない。いや、勝ちそのものが面白くない……」



悪役レスラーは、ひとり思案の海へと沈んでいった。


ふむ、ここで『W&A』が反則負けでもして、遺恨マッチという流れはいかにもプロレスらしい進展だ。ましてその決着が年末のイベントまで持ち越されたりすれば、さらに盛り上がるだろう。


……年末のイベント? ……まさか鬼将軍、そんな仕掛アングルを仕込んだりしないよな?

相手は人気者、『王国の刃』にばかりかまけていられない、Vtuberさんなんだぞ?ましてビリーの『jj CLUB』に所属させたりしないよな?






さてそんな折、忍者とアニマル3のケモミミたちがビリー情報を入手してきた。いつもの鬼将軍の部屋、いつも通りに参謀たちと私たち、『災害』先生が集められていた。



「どうやらjj CLUBってのは、弱小チームの寄せ集めらしい」

「傭兵ズをかかえているのにかね?」



忍者の報告に、鬼将軍は眉をひそめる。



「それがおかしなところで、ビリーの奴は弱小チームたちに自分なりの戦法や戦略を伝授していたらしい」

「どういうことかな?」

「ビリー自身も弱小チームに所属してたんだが、そのチームは離散。それぞれのメンバーがチームを立ち上げたんだが、勝ち星が上がらなくてな。旧知のビリーが手を差し伸べ、勝率が上がったりイベントで活躍できたりってことさ」


「……わからんね。それだけで傭兵ズがビリーに頭を垂れるというのかね?」

「そこがネットの力ってやつさ。掲示板やらなんやらで、ビリーの名前がひとり歩きしたらしい」

「……………………」

「すごい評判だぞ、我らを導いた稀代の軍師。おかげで弱小な俺たちも、連戦連勝ウッハウハ♪」

「どこの『幸運の壺』かね、それは」

「評判を聞きつけた傭兵ズが、是非にと頭を垂れて入門したって話だ」

「面白くないな、いずみ君。稀代の軍師というのは、ウチのカエデ参謀やヤハラ参謀長のことを言うのではないのかね?」


「面白いのはここからさ、実はビリーが仲間たちに授けた策なんてのは、大したモンじゃないのさ。それなのにビリーは周りに持ち上げられちまったのさ」

「ハハッ、そりゃ困るしだろうねビリー青年は」

「そ、大弱りさ。だから一生懸命にデータを集めて分析して、メンバーや同盟の仲間たちの期待に応えようとしている。案外ナイスガイな奴みたいだぞ、あいつは」



期待に応えるため、ガッカリさせないため、実力以上の力を出そうとする。どこかで聞いた話ではないか。



「なるほど、熱い男山のようだなビリーは」



鬼将軍にも、思うところがあるのだろう。身を乗り出してきた。



「しかしいずみ君、彼は間違いを冒しているね」

「あぁ、間違っている。参謀が大将として祭り上げられているんだ」

「それを良しとしているのだから、お人好しだな」

「あぁ、イイ奴だ。ビリーは……」



ほほう、そんな男なのかねビリーは。しかしそうなるとビリーは、陸奥屋まほろば連合の真似をしたいというか、鬼将軍になりたいとか、そんなイメージで受け取ってしまうのだが。



「そうだな、リュウ先生。奴の頭の中には間違いなく私たちがいる。そして何かを目指している」

「その目標達成のためのおべっかゴマスリというのなら、耐えて忍ぶサムライの在り方のひとつかと……」

「サムライビリーか、それならば大いに協力し時には立ちはだかろうではないか!」



鬼将軍が生き生きとしてきた。長年の憂いが晴れたかのような笑顔である。



「……ふむ、それならば諸君。先日のVtuberのお嬢さん方、これをjj CLUBに加盟させてはどうだろう?」



始まった、鬼将軍の欲望まみれな妄想が。



「彼女たちは『W&A』にエキジビションで挑戦はするが、プロライセンスを取得したわけではない。身分はアマチュアなはずだ。となれば、この私と冬イベントで対戦することも可能ではないかね?」



光っている、鬼将軍のメガネが怪しく発光している。



「心配ぇすんな、大将。お前さんがどれだけ熱くなったところで、Vtuberのお嬢さん方ぁお前さんには指一本触れさせねぇよ」



緑柳師範も、毒色の笑みを浮かべていた。それはまるで、『愛くるしいお嬢さん方はワシの独り占めじゃ』と語っているかのような笑みであった。



「いえお待ち下さい、緑柳師範! 師範はネコミミ、私はペッタンコ。住み分けはできているはずです!」

「さて、それはどうかのぅ……」



客分は主よりも態度が大きかった。


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