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熱心さと真剣さ

果たして、VTuberさんたちは講習会に参加してきた。いやこの場合我々が、株式会社オーヴァーの用意した講習会特別会場に招待されたとするのが正しいだろう。講師人は私たち、四人の『災害』先生。そして『W&A』チーム、さらにネームドプレイヤーたちと参謀陣。


あちらの運営フロントと話はついているのだろう。かなめさんが事前説明に来てくれた。



「まずVTuberさんたちは、いま現在のところプロ選手として活躍するつもりは毛頭ありません。彼女たちは配信のプロであって、『王国の刃』のプロではありません」

「だったらなんでプロのリングにあがるのさ?」



トヨムの質問だ。



「アマチュア試合に参加すると、参加者過剰ということになりサーバーがパンクする可能性があるからです。事実、いつものプロ講習会ではなく特別講習会を開催しているくらいですから」

「えらい人気なんだな、VTuberってのは」

「人気配信者はウチにもいますよ、小隊長」



こっそりと、他人事な顔つきなヒカルさんを指差す。そうだ、ヒカルさんもチャンネル登録者数では、銀の盾をもらっている人気配信者なのだ。まあ、そんなことはさておき、あちら陣営のスタッフがVTuberさんたちの到着を告げた。



「配信者さん、入ります!」



彼女たちのために、わざわざ『王国の刃』に登録したのだろう。労働者として頭が下がる思いだ。

配信者のお嬢さんたちは、上京してきた田舎者のように施設の内部をキョロキョロと見回していた。



「おぉ〜〜……すごく豪華な会場だねぇ〜〜……」



師範の推しである、ネコミミが感嘆の声をあげる。



「そりゃそうだ! 武器を持ってブン回して走り回るんだからさ!」



主人公感のある、ショートカットの娘が騒いでいる。とにかく女の子が十八人も集まっているのだ、にぎやかなことこの上ない。



「それでは収録開始しまーーす!」



運営がいきなり開幕を宣言する……ん?

収録だと?321キューが入り、収録とやらが始まってしまった。お嬢さんのひとりが奇っ怪な……いや、特徴的な自己紹介のあと、今回の主催者キャラクターが名乗りを上げた。


そして主旨の説明。大人気ゲーム『王国の刃』プロチームへの挑戦を発表。そのために、2MBジムへ稽古をつけてもらいにきたという状況説明。そして、講師の先生を紹介ときた。



「筆頭講師の緑柳師範です!」



緑柳師範、中央へ。そしてカメラに背中を向けた状態で。



「御紹介にあずかりました、床山八伝流宗家……」

「どっち向いてる! こっちこっち、こっち向いて!」



いきなりボケをかましやがった。畜生、美味しいじゃねーか……。



「そして続きまして……」



紹介される前に、士郎さんはノコノコと中央へ。



「まだ早いから! 紹介まだだから!」



士郎さん、お前もかよ……。



「さらには腕っぷし日本一、柔道王のフジオカ先生です!」



ヒロさん、画角中央へ。そして手を床に着き、ヒザを伸ばして床にうつ伏せのまま気を付けの姿勢。



「リスナーのみなさんこんばんは、私がフジオカヒロ……」

「顔見せろやっっ!! っつーか配信者より面白いことするの禁止禁止っ!!」



ネームドプレイヤーたちなどは、もう爆笑の連発である。



「そして最後に、柳心無双流宗家のリュウ先生です!」



やっぱり私も呼ばれるんだな。だが私だけは普通に画角に入り、だが配信者たちの端で足を止め、仲間顔で溶け込んだ。



「だからこっちだってばさ!! ちょっと、ここの先生たちプロより面白過ぎ!」



みんな大爆笑だった。どうにかお笑いのノルマは果たせたようだ……。



「じつは先生方、こんな美味しいボケをかましておきながら『災害』と呼ばれるくらいの腕前。ってゆーか古武道の宗家先生ばかり!!」



「ほう、そーけ?」



誰だ、いらねぇこと言った奴ぁ!みんな笑っちまって、収録が全然進まねーじゃねーかよ!!……いや、かなめさん。なんでそっぽ向いてんですか?もしや貴女……。





さて、最初に素振り稽古だ。得物はまず全員両手剣、そして三列に並んで構えさせる。王国の刃の根を練るということで、メインの講師は士郎さん。もちろん構えも振りも素人丸出しなのだが……。



「おどろくほど熱心ですな、プロ選手を目指さないというのはホントなのかな?」



ヒロさん、フジオカ先生が舌を巻く。



「彼女たちは『王国の刃』では素人ですが、配信にはプロですから。視聴者さんをガッカリさせるようなことはしないよう、何事にも真剣なんです」



かなめさんが教えてくれた。ふむ、そういうことならば……。素振り稽古の小休止の合間に、一言入れさせてもらう。



「みんな防具や甲冑を着込んでいるモノもいるが、これはできるだけ視界良く、なおかつ軽装なものをお薦めしたい」



丁度よく、忍者が鎖の着込みの上に忍者装束を着ていた。これをモデルとして言う。



「現在『王国の刃』プロ選手たちは、一撃で防具を破壊するクリティカルショットの技術が広まり始めている。もちろんその条件は厳しく、容易に打てるものではないが、しかし動きにくいフルプレートアーマーなんぞ、この技術の前には紙同然だ。そして視界を悪くする西洋兜、これもお薦めはできない。我が身可愛さにこんなものをかぶって、状況判断能力を落とすことなど愚策でしかない。それよりも視界スッキリな状態で、味方の危機に迅速に駆けつけることの方が重要だ」



配信者の女の子たちは、なるほどとうなずいてくれた。


小休止、終了。今度は手槍を持たせての突き技稽古。とはならず、やはり得意の『拳砕き』小手打ちから稽古を始める。



「こすっからい小技だなんて侮っちゃダメだぞ、戦場では案外こんな技が活きてくるものだ!」



士郎さんの口調も、いつもと比べればかなりの甘口。激甘カレーというところ。そしてドンドン技をこなして、次に突き技へと移行する。突き技を槍で稽古するのは簡単だ。だからここは両手剣でカカシに挑む。



「体当たり体当たり! 非力な女の子なんだから、全身の力を使って体当たりするんだ!」



肉弾戦の専門家、フジオカ先生は檄を飛ばす。しかしこのシンプルな教え方が良いのだろう。カカシに着せていた防具を、派手な演出で吹き飛ばす者が続出した。



「そう! なにごとも『必死! 必殺! 目一杯!』だ!!」



女の子らしく跳ねて喜ぶ配信者さんたちに、士郎さんのこれまたシンプルなアドバイス。配信者の女の子たちも「必死! 必殺!

目一杯!!」と大喜びではしゃいでいる。本当に、子供のようなはしゃぎようだ。


成果も出しているし、バテている者もいない。配信者というから体力に難点があるかと思えば、普段からダンスレッスンなどもこなしているらしく、健康状態は良好なのだそうだ。

稽古の最中にスタッフさんから、彼女たちの感想を訊かれた。



「おどろくほど飲み込みが早い、と言えば失礼ですね。必死必殺の合言葉ではありませんが、みんな熱心に稽古に励んでいる。それに何よりも素直だ。そこが素晴らしい」

〈これは、番狂わせを期待してもよろしいでしょうか?〉

「さすがにそれはありません、が。……そうですね、防具をひとつでもクリティカルショットで破壊できたら、そちらの勝ちという変則ルールなら、面白いでしょうね」



両手剣、手槍、薙刀にメイスでひと通りの基本稽古を終える。今度は二人一組の稽古である。



「これはひとりが敵の攻撃を受けて、もうひとりが攻撃を加えるといった単純なコンビプレイですが、さまざまな応用が効きますので是非とも身につけてください」



講師はカエデさんとヤハラくんに移る。そして打太刀にはキョウちゃん♡ユキさん、白銀輝夜が並ぶ。配信者さんチームは、背丈の大中小で編成分けされているらしい。まずは簡単に、打太刀が打ち込む。それを受け止める役、そしてもうひとりが胴を打ち抜く。



「相方が受けてから打ち込むのは良し、だができるだけ間髪入れずに! 相手が二の太刀を入れるより素早く反撃だ!」



欲を言うなら、受け同時に反撃。しかしそれも誘いをかけられている可能性があるから、受け即反撃というのが正解としておこう。


声を出して反撃してくる者もいるが、剣道経験者だろう。先日話した剣道協会ではなく、一般的な剣道連盟だと思う。いつもなら私も、「声を出していけ!」と一喝するのだが、武道未経験の者もいる。彼女たちは稽古についていくので手一杯、声を出す余裕も無い様子だ。


だが、それでも良い。丁度よくそれが含み気合いになっている、とまでは言わないが、教わった未知の技術に必死になってついていっているのだから。



「声の出ている者、ヨシ! だが声が出ていなくても、気合いが入っているからヨシ!」



要は気合いがはいっているかどうかなのだ。その点では全員合格。むしろプロ選手として活躍していただけないのが残念というところ。聞けば、彼女たちは『王国の刃』だけをプレイしてはいられないのだそうだ。さまざまなゲーム中継を配信し、視聴者さんを飽きさせないという工夫が必要なのだそうだ。



「視聴者さんはスーパープレイを求めている訳では無いんです。熱心に努力する姿、本気でゲームに取り組み勝って喜ぶ姿。負けて本当に悔しがる姿、そういった生身の彼女たちを求めているんです」



スタッフさんが説明してくれた。



「愛されているんですね、視聴者さんたちに」

「自慢のタレントですから」



訂正、視聴者さんたちだけではない、スタッフさんにも愛されている。


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