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避けては通れないVTuberたち

「いやいや待て待てシャルローネ、それよりも面白い連中はまだいるさ」



と緑柳師範。その御指名は巨漢ダイスケくんであった。男山大学の面々は一八〇センチを越える大男揃い。イマドキは一八〇センチ越えくらいで大男とは呼ばないかもしれないが、肩幅と胸の厚みから大男評価をしても良いかと思う。


それに対してダイスケくん、こちらは一九〇センチ越え。胸板の厚みや肩幅、総合的な筋肉量でまったく引けを取らない。いや、むしろ大男勢を上回っていた。稽古着に稽古袴、革鎧をまとった姿は男山大学にさも似たりというところ。しかも師範は汚い、ダイスケくんの得物は日本刀よりも長寸のあるメイスなのである。


自分以上の大男を見上げる、男山大学三号の表情は厳しい。しかし「なんの!」とばかり頭を張って気合いを入れ直す。



「大男との一戦、望むところじゃい!」



ピッと腰の刀を抜いて構えた。両者開始線、審判は私。



「始めっ!」



鋭く号令をかけて、試合開始を宣言した。



「ムッ……!」



まずは三号、間合いをひとつ遠く取って安全地帯へ。しかしヌッとダイスケくんが前に出てくる。圧力が半端ない。男山三号は正中線争いでこれに応じた。


ダイスケくんは正中線を譲る、相手に攻めさせる作戦なのだろう。しかし、得物の長寸に差がある。出ようとした途端に、男山三号は足を止められた。ダイスケくんがメイスの切っ先を、喉元にピタリ。正中線を奪い返していたのだ。



もちろん大学生はこれを嫌った。再度正中線の制圧に挑んでくる。だが、大学生は気づいているだろうか?

ジリジリと試合線に追い詰められていることに。ダイスケくんは静かな圧力だけで、武闘派剣道を追い込んでいる。これでは得意の組み討ちも当て身も無い。



「止めっ!!」



私は一度試合を止めた。



「さがりすぎると試合線を割って、それだけで一本になるからね」

「お、応っ!」



気合いは入っているが、息が荒い。精神的にも追い込まれているのだろう。こうした手合いが次に取ってくる策は、ただひとつだ。



「キエッ……!!」



特攻だろう。男山三号は飛び込み面を狙ってきた。実に真っ当で、正しい剣である。が、しかし。巨漢ダイスケくんのメイスは、一直線に男山三号の喉を抉っていた。


ダイスケくんの勝ち、勝負あり。


すると師範は、ビリーに声をかけた。



「あのデカブツと同等、あるいはそれ以上ってのがウチにはゴロゴロしてるが……。まだヤルかい?」



ン〜〜……と考え込むビリー。いや、考え込む振りだけだろう。腹はもう決まっているはずだ。



「実力差があるのは、これだけで十分に理解できました。今日はこの結果を手土産にさせていただきましょう。明日もこの時間帯に稽古をされてますよね?」

「おう、また遊びに来いや。みんな待ってるからよ」



ここでようやく男山大学の階級を確認した。あの実力でまだ新兵格らしい。六人制試合を重ねれば、豪傑格辺りまでは電車道だろう。敵の本性もまだ分かっていないのに、ついつい「どんなアドバイスをしようか」などと考えてしまう。もっとも、カエデさんがあのバンカラどもを指導している姿を想像して、笑ってしまいそうにもなった。



「チッ……まさか向こうから先手を取ってくるとはな」



忍者が忌々しそうに舌打ちした。



「うむ、先手は向こうが取ってきたがしかし、腹の中までは探れてない。まだまだ忍者には頼ることが多いさ」

「あぁ、なにしろクサイ男だからな。あのビリーってやつは……」



ただ、上手くすると『向かうところ敵なし(白樺女子には負けたが)状態の陸奥屋まほろば連合』にとって、良いライバルとなってもらえるかもしれない。そんな考えは、あまりにも能天気だろうか?


地味な話となるかもしれないが、プロチーム『W&A』の稽古も見てやらなければならない。なにしろプロチーム講習会というものが始まってしまったのだ。プロチーム講習会が始まった途端に、お抱えの『W&A』が勝てなくなる、などということがあってはならないではないか。


基本的な素振りから始まり、二−二で行うツーマンセルの稽古。そしてクリティカルショットへと稽古をつなぐ……が。



「個人としての火力には問題が無い。無いんだけどなぁ……」



士郎さんが物言いたげだ。どうかしましたかね?と問いかける。



「おう、リュウさんか。いや、プロ選手たちも一人ひとりの火力はあるんだが、あれで横綱というには、どうもねぇ……」



ふむ、言われてみれば。年齢的に若いせいもあるだろうが、横綱チームとしての風格というか盤石さというか、そういうものがW&Aには足りていない。



「どうしても火力に頼りがち、というのは私にも見えるね」

「そうだろ? 奴らには資質がある、強い。だから欲張りたくなるのさ」



わかる。そして熱心でひたむきだ。もっと高い世界を見せてやりたくなる。そんなときである、運営がスペシャルエキジビションを打ち出してきたのは。







またまた鬼将軍の部屋。奴はまたまた渋い顔をして天井を眺めていた。



「先生方、参謀諸君。またまたおかしなことになってきたよ」

「お困りのようですわね、総裁?」



今にも下品な笑い声をあげそうな顔で、参謀長出雲鏡花が訊いた。鬼将軍のとなりでは、まほろば党首にしてプロジムオーナーの天宮緋影が、御機嫌な笑みをたたえている。



「……先生方、この『王国の刃』という世界は、どのようなものかな?」鬼将軍からの、唐突な質問だ。



「闘志、闘魂。一国一城の主を目指すがごとく、腰の差料に命をかけてどつき合う、大変に硬派な世界かと」



フジオカ先生がすらりと答えた。鬼将軍は満足そうにうなずく。



「そう、己の腕を頼みに闘いを挑む、そんな硬派な世界なはずだ。それがだね……」



鬼将軍の視線が動く。その先にいた美人秘書御剣かなめが、モニターを大写しにしてくれた。アニメのような華やかな色彩。アニメキャラのようなデザインの女の子たち。……その筋には疎い私も、見たことのあるキャラクターたちだ。



「バーチャル・YouTuber、略してVTuberというものを御存知かな?」



あぁ、そういうモノかと納得していると緑柳師範が「ワシはこのネコミミが推しじゃ」とかヌカしやがった。



「して、総裁。このVTuberさん方がどうされましたか?」



士郎さんが切り出す。



「うむ、なんとこの愛くるしいお嬢さん方が、なんと『W&A』にエキジビションで挑戦してくるというのだよ」



ウチの選手は愛くるしくないのかよ?心の中のツッコミは置いといて……。



「なんでぇ大将、お前ぇさんにも推しがいるのかい?」



いや、師範は黙っててください。



「うむ、このチビチビでツルンぺたんな娘が……」



だから議題がひん曲がってるからよ!



「それで総裁、なにをお困りなのでしょうか?」



高級参謀のヤハラくんが、上手い具合に話を修整してくれた。



「うむ、挑戦をされた『W&A』に紛れ込んで、どうにか私も愛くるしいお嬢さん方にシバいてもらえないかと……」



とりあえず、かなめさんの天誅。鬼将軍は死んだ、そして生き返った。



「いや、失敬失敬。いかに直接手を下している訳ではなくとも、我々の手で愛くるしいお嬢さん方をシバキ上げるのは、いかにも心苦しくてね」

「それで、どのような試合形式になるんでしょうか?」



男のロマンとか醜い欲望には無頓着な、カエデさんが訊いた。



「あちらは有志十八名が三チームに分かれて、W&Aに挑んでくる。こちらはそれを迎え撃つ形で三連戦だ」


六人制試合三連戦、それを『W&A』がこなす。それ自体は問題ない。しかし敵状はいかなるものか?



「あ〜〜……ライバーさんたち、個人個人で『王国の刃』に登録して、もう練習を始めてますねぇ……」



カエデさんの声に、やる気は無い。そしてさらに悪いことをのたまい始める。



「で、悪いことにですねぇ、ライバーさんたちに対してリスナーさんたちが、ウチの講習会に参加することを提案しています……」



おいおい、ウチの講習会を受講してウチに勝とうなどというのは、無理な話じゃないかい?

と思ったが、ビリーのことを思い出す。そうだ、ウチの講習会を受講したならば、あとはアレンジである。私たちの思いもよらない、そんな一手を考案したならば、私たちに苦杯をなめさせることも可能なのだ。


そうだね、手の内を公開しているのは、こちらではないか。そんな事実が白樺女子との敗戦で思い知らされていたはずだ。


ん? リスナーが、ウチの講習会を受講することを勧めているということは?



「総裁、あちらではVTuberさんがウチに挑戦してくることを公表してないのでは?」

「リュウ先生のおっしゃる通り。株式会社オーヴァーでは、メンバーの『王国の刃』参戦を公開していません。ただ、目ざとい配信者たちはその可能性を示唆していますが」


かなめさんが情報を分析したのだろう。その結果は誰もが信用するに足るものだった。


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