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稽古総見の2 龍虎相打つ

多数さまのご来場、ならびにブックマーク登録と評価投票、誠にありがとうございます。作者、ますますの励みとさせていただきます。

 私たちのクラン『嗚呼!!花のトヨム小隊』の稽古総見はこれでおしまい。しかし退場するトヨムたちに、総裁鬼将軍がわざわざ起立。そして拍手を送った。それに合わせるように、参加クランも全員起立。惜しみない拍手を送ってくれた。もちろん私も、士郎先生もだ。



「なんて言ってやりますか、リュウ先生?」

「いい戦いだったと。壁役タンク役の踏ん張り、カエデさんの処理能力の高さ、シャルローネさんの必殺技。どれをとっても合格点である!」

「おたくのヒットマン……エースにはなんて言う?」


「トヨムの弱点を味方が教えてくれたんだ。丸儲けだな! と」

「リュウ先生は良い指導者だな」

「現実世界の門下生にはこんなことは言いません。君たちは稽古が足りてない! と一喝です」

「まあ、そうなりますよね……」




 こうしてられない。早く子供たちに声をかけてやらなければ。

 しかし愛すべき我がチームメイトは、葬式のように沈んでいた。


「どうしたどうした! なにを陰気な顔してんだ!」

「旦那〜〜……」


 珍しい、トヨムが泣きべそかきそうな顔をしている。


「ゴメンよ〜〜、アタイみんなの足引っ張っちゃった〜〜……」


 胸に顔をうずめてくる。


「いいじゃないか、槍組がトヨムの弱点を教えてくれたんだぞ。丸儲けじゃないか!」

「先生……私が小隊長を守り切れなかったから……」

「だけどシャルローネさんは必殺技を見事に決めただろ? お釣りがくるような活躍だったぞ!」

「いやぁ、隊長が沈んだのを挽回できませんじゃったわい……」


「セキトリ、マミさんと一緒にすごく粘ったな! それでこそのタンクだ!」

「うにゅ〜〜……マミさんも慰めてもらいたい気分です〜〜……」

「二対一で押しまくってたじゃないか! すごいぞマミさん!」


 こうしてる間にも、トヨムの短い髪を撫でている。


「あの……リュウ先生? 私も頑張ったんですけど……」

「済まなかったな、カエデさん。私が側にいたら、もっと楽に仕事をできただろうに……だけどカエデさんの判断には、間違いなどひとつも無かったぞ?」

「いえ、小隊長ばっかり撫で過ぎ……」

「今ここアタイの場所♪ ただいま満員、悪いね。カ・エ・デ♪」


 トヨムはニヒヒと笑っていた。





 さて、葬式ムードもカエデさんとトヨムのやり取りですっかり払われた。そして稽古総見は続く。トヨムたちに勝った槍組が、吶喊組を相手にする。吶喊組というのはトヨムと同じファイトスタイル。グローブやスネ当てにスパイクを生やした、取っ組み合い部隊である。


「なんじゃい、両軍並ぶと槍組が細っこく見えるのう?」

「トヨム小隊のときもそうさ。セキトリがいるおかげで、槍組が貧相に見えたものだぞ。それに槍組は革防具を着けている。動きも鈍そうにしか見えなかった」


「それってつまり、勝てた試合だったってこと?」

「勝てる試合を落としたというのではない、実力伯仲。お前たちはすでに、槍組のレベルに達している、ということだ」

「でぇ、吶喊組のみなさんは〜、槍組よりも実力が上とされてるんですよねー?」

「槍と徒手で勝負になるんでしょうか、リュウ先生?」


 カエデさんの疑問はもっともだ。しかし吶喊組が槍組より上位とされている以上、「やり方次第なのだろうな」としか答えようがない。太鼓の音で一戦が始まった。


 当然だが槍組は低い姿勢から足を狙ってくる。吶喊組は一瞬だけ足を止めたが、右、左、と払ってくる槍先の隙をついて飛び込んでゆく。吶喊組からすれば、危険なのは槍先が移動する横一線。あのラインだけ、ということか?


「なるほどね……そういう考え方か……」


 トヨムはまだ私の胸に背中をあずけていた。

「いや、それだけじゃなさそうだな」


 吶喊組で、仕切と槍を挑発する者がいた。払うだけでなく、突いてこい、というのだ。槍は一斉に動いてこその壁。一人でも違う動きをすれば、壁はたちまち崩壊するだろう。しかし槍組の一人が、その挑発に乗ってしまった。




 突き技には拳闘士の目が有効だ。拳闘士はスルリと槍をかわして懐に潜り込む。そして先に飛び込んでいた拳闘士とともに、陣を張った槍士たちを滅多打ちにする。

 この一戦は、吶喊組の圧勝となった。そして吶喊組は抜刀組と稽古。その抜刀組がまた強い。まるで吶喊組を寄せ付けないのである。剣道三倍段という格言がある。剣道初段は他武道の三段に相当する戦闘能力だ、というものである。この一戦はまさにそうした展開となった。


 その抜刀組に稽古をつけるのが、鬼組の面々であった。しかし陸奥屋一党鬼組、全勢力を相手にしても勝ちを納めている。どのような稽古をするのか?

朱袴に朱のハチマキ、朱色の布小手。フィー先生が薙刀を抱えて出てきた。一人である。抜刀組は三人がさがった。残ったのは三人である。

 フィー先生による三人掛けである。もちろん、三人同時に相手をする。


「どうでしょうか、リュウ先生?」

「どうしたんだい、シャルローネさん」

「失礼ながらリュウ先生は、あの三人掛け。できますか?」


「彼らを相手に? 三人でいいのかい?」

「シャルローネさん、ウチの先生は実はとんでもない方なんかのう?」


 いや、他のクランを腐すではないが、この抜刀組のメンバー相手なら、私はお釣りを払わなければならない。頼りにならない抜刀組、というのではない。一対複数にはやり方がある、というだけだ。まずもって三人という人数。一人に同時に斬りかかるというのであれば、この人数が限界。


 もう一杯一杯なのだ。

 つまり、そこを突く。で、フィー先生もまた簡単な方法でこれを実行。面胴小手へ同時に襲いかかってくる剣を、後退するだけでかわしたのだ。すでにフィー先生のいない場所へ殺到した剣は、互いにからみ合う。一瞬だけだが動きの止まった抜刀組。そこへフィー先生の攻撃が降り注ぐ。しかし早業ではない。抜刀組が逃げる場所逃げる場所へと攻撃している。


 つまり抜刀組の動きは、フィー先生にコントロールされていたのだ。

 抜刀組すべてを退けて、フィー先生の稽古総見は終了。残る三人の剣士は我らがジャニ顔の仏頂面、キョウちゃんが相手をした。フィー先生とは違いキョウちゃんは、前に出る積極策でこれを撃退。




 そして剣士が四人出た。巨漢のダイスケくん登場だ。革防具に槍という姿が、なんとも頼もしい。四人の剣士を槍でなぎ払い、あるいは突いて退けた。またメンバーを入れ替えて、剣士四人。


 今度はユキさんが稽古の成果を披露する。ユキさんの剣は確かだ。それにうるさくない。必要最小限の動きで太刀を見切り、狙った場所へピシリとはいる。うむ、技がキョウちゃんより上だろう。稽古着姿のユキさんも、総見を終える。


 そして抜刀組六人を相手にするのは、忍者であった。忍者は刀を抜かなければ当身も入れない。投げ技だけで六人を退ける。

 私は腰間の木刀を掴んで、グッと下っ腹に力を入れた。呼出し、鬼将軍秘書秋月冴。行司軍配は黒髪の美人秘書御剣かなめ。


「東雲方、嗚呼!!花のトヨム小隊、リュウ先生。西海方、鬼組士郎先生」


 そう、この稽古総見が開催されると知ったときから、この一戦は予測していた。

 いよいよ士郎先生との一本勝負である。互いに木刀、互いに黒い稽古着。私たちは中央へ歩み寄り、斜めに蹲踞。互いの木刀を突き出す。握り拳ひとつ分だけ切っ先を余らせて交差。そのまま地面に置く。


 上位者である士郎先生の木刀が上だ。蹲踞から両手の指先を地面につけて、一礼。それから両者太刀を取り、私が士郎先生の太刀を払うところから、立ち合いの始まりだ。


 ともに立ち上がり、下段。そして距離を置くこと三歩。両者合わせて六歩。私、みぎあしをひいて脇構え、士郎先生は八相。両者一歩一歩接近。士郎先生の殺気がますます強くなり、二足一刀。その距離で士郎先生は出てきた。私は腰を落下させながら左右を入れ替える。そのまま下から上へ!

小手を狙う。これは第二十六話『異論があるのは当たり前な話』においてカエデさんがラストシーンで披露して失敗したものだ。




 しかし士郎先生は右手の片手打ち。私の狙う小手はそこに無し。そして士郎先生とて、私の左袈裟を狙っていたのに標的はそこに無し。互いの初撃は空振りに終わる。しかし私は太刀の勢いそのまま、八相。今度は士郎先生が脇構え。士郎先生の殺気は増すばかりだ。しかしどちらが有利か?



八相はただ一太刀。それ以外に無い。しかし脇構えは先程私が見せた通り、下からも打つことができる。一手のみが有利か? 二手ある者が有利か?

それは考え方である。ただひとつ言えるのは、互いに防御まったく無視。命を的にした攻撃一辺倒の構えで向き合っていた。



 死ぬか、生きるか。このような状況、読者諸兄からすればまっぴら御免な状況であろうが、私としては楽しくて仕方ない。おそらくは士郎先生も同じであろう。しかし私の脳裏にあった言葉は、『将軍家光の乱心

激突』という時代劇映画のキャッチコピーだった。命がけだからおもしれぇ! そうだ、命がけだから面白いのだ!





 そしてここまで、私も士郎先生も相手の太刀を受け止めていない。真剣実刀を想定しているのだ。敵の太刀を受ければ刀を損じることがある。故に相手の太刀を受けず足でかわしているのだ。

 重たい殺気を互いにのしかけ合う。私は出られない。士郎先生も出られない。だからといって、出られませんでは済まされない。剣士というのはツライものである。


 ということで、重たい殺気を押し退けるようにして、前へ。士郎先生、怒涛の前進。剣は上から。これを横へかわしながら、袈裟。士郎先生はその場で向きを変える浮身。どちらも相手に空を切らせたとこをで距離を置く。


 互いに示し合わせたような下段で探り合う。などといいながら、士郎先生は前に出てくる。探り合うどころの話ではない。私は早々に中段。この強敵に、足でかわすなどという綺麗事だけでは済まされない。士郎先生も中段へ。互いに正中線を切っ先で奪い合う。実力は拮抗、となるとどちらがさきに必殺技を打ち出すか?

必殺技といっても、ゲーム内の必殺技ではない。奥伝技のことだ。



お、ヤッベ。士郎先生も同じこと考えてやがる。殺気の乗りでお見通しだぜ、士郎先生。



 では私からの奥伝技は、『一ツ之太刀』を進呈しよう。構えをソッと変える。切っ先を士郎先生の目につけて、そこから見えるのか切っ先と鍔だけという構え。つまり刀身はまったく見えないはずだ。しかし士郎先生もこの一撃にすべてを賭けるようだ。同じく私の目に切っ先で狙いをつけてきた。刀身がまったく見えない。


 詰まるところ武術というものは、同じ場所へと行き着くのだ。それはイロハも知らぬときに最初に授かった初めての一太刀。誰もが、どの流派であろうと、そこにたどり着く。攻めっ気、殺気、そうした類いのものは卒業だ。ただ一太刀。教わった技を使うのではなく、その技になりきるのである。



とん……。



 互いに袈裟を打った。同時である。

「相討ち、勝負あり!」


 もうやめろと、審判御剣かなめの宣言であった。場内にどっとため息があふれる。ふと見上げると、トヨム小隊の娘たちが腰を抜かしていた。フッと笑みがこぼれてしまうが、開始線まで戻り一礼。稽古総見のすべてを終える。


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