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忍者奮戦記

さて私だ、御剣かなめの『姪』である忍者、新堂いずみだ。何やら大将(鬼将軍)にとって、あまり好ましからざる人物が接近、あるいは接触を試みているとのことで、その人物を調査することとなった。


しかし今回は単独行動ではない。三人の『草』をしたがえての行動だ。



「まずはワンコ隊員!」

「ハイッ!」

「背筋をピンと伸ばしての返事は良いが、それではいかにも軍事行動中のように見える。もう少しリラックスして、な」

「ハイッ、わかりました!」



いや、全然分かってないよお前。その軍人くさい言動やめれっての。



「続いてニャンコ隊員!」

「にゃ〜〜?」

「お前はリラックスしすぎだ、伸びをするな欠伸をするな、顔をゴシゴシするな! いちいちあざといぞ、お前!」

「猫、ですから。ネコは愛くるしいのがお仕事だ……ニャ」

「その割に語尾をつけるの躊躇ったよな、お前?」


まあ、この二人には大きなお友だちも大興奮間違いなしだろう。……問題は。



「タヌキ隊員!」

「……すみません、おヘソ出してお腹を叩くだなんて、そんなはしたない真似、できません」

「誰もそんな要求しとらん、勘違いをするな」

「その代わりに、拙者これにてドロンいたします」

「それは二次会をフケるサラリーマンだ。っつーか忍者差し置いてドロンするな」



まあ、こんな素人娘を率いなければならなくなった。

まずは基本データを知らせておかなければならない。



「私たちはこれから、『ファルコン・ジム』のオーナー兼アマチュアチーム『jj CLUB』のリーダー、BIG

BOSS・ビリーの調査を行う。ファルコン・ジムに所属するプロ選手は、先日ウチの『W&A』と対戦した『YOH HEYS』だ。実にきな臭い話だろ?」

「それ以前に隊長」



ワンコが挙手、発言を許す。



「なぜそのような重要任務に、私たちのような素人が?」

「回答しよう、まず陸奥屋一党とまほろばの面々は、あまりにも猛者臭が強すぎる。これでは敵も秘事を打ち明けてはくれないだろ?」

「そーゆーのは、茶房のお姉ちゃんや歩ちゃんが適任だ……ニャ」


「もちろんそちらにも協力は要請してある。しかし彼女らはまほろばの猛者として、面が割れているからな。有名人というのも、こうした時に使いにくい」

「それで下っ端の私たちが選ばれたんですか」

「タヌキの言うとおり、そして諸君は見た目も愛くるしいケモミミーズだ。その姿でおねだりすれば、秘事のひとつやふたつ、チョロいもんだろう」



説明も終わったところで、『ビッグ・ボス ビリー』についてだ。



「まずは参謀本部の見立てを、ウチのお偉い方はこの男を大変に警戒している。新兵格とはいえパーフェクトレコードの傭兵ズの獲得に成功。さらには虎の子のプロチームが敗北しても、笑っていられるその神経」



ヘラヘラ笑っている人を、そんなに警戒しなくちゃいけないんですか?タヌキがもっともなことを言う。



「笑ってる奴ってのは、怖いモンなんだぞタヌキ。人間誰しも失意のときはある。泣きたいときだってある。怒りたいときだってあるのによ、そんなときでも文句ひとつ言わず、だれひとり罵ることもなく、みんなに希望の言葉をかけるんだ。どんなときでも笑顔を忘れないだなんて、そうそう簡単にできることじゃないんだ」


「いつもニコニコなタヌちゃんには、分かりにくい例えだニャ」

「難しい顔をしてるときでも、お団子を出してあげればすぐにゴキゲンですからね」

「私、そんなに単純じゃないもん!」



いや、お前は単純だろ?だから今日この場に選び出されたんだよ。まあそれはそれとして。



「ではみんな、これから様々な角度からビッグ・ボス、ビリーを調査するんだが……どの角度から接触コンタクトする?」



シュタッとタヌキが挙手。



「はい! ビリーさんとお友だちになります!」



それはそれで良手である。ともすれば諜報活動の極意ともなり得る。タヌキならではの手段ではあるのだが、しかし、タヌキは諜報の基本基礎あるいは『いろは』というものを踏んでいない。だから敢えて叱りつけておく。



「アホタレ! それじゃあこちらの諜報活動がモロバレだろうが!」



でしたら、とワンコが挙手。



「私なら茶房『葵』で網を張り、それとなく聞き耳を立てます」

「良手だな、しかし消極的だ。攻めの諜報とは言えないだろう」



良手だ。本来ならばホメてやるべき返答だ。それでもしかし、ケチのひとつはつけてやらねば。



「う〜〜ん……私ならどうするかニャ〜〜?」



タヌキが天才、ワンコが凡人。では秀才ニャンコは、どのような解を提示してくるか。



「塀の上でうずくまって、道場の中を観察するかニャ?」



ま、それは有りだろうか。もちろん人猫の姿ではなく、生猫姿に限定はされるが。しかし、諜報活動においてファーストコンタクトに『観察』『偵察』を選ぶというのは大したセンスだ。何事においても、まずは観察あるいは情報収集。すべてはそこから始まるものなのだ。


しかしこれも「いささか消極的」という評価をくだしておこう。



「では隊長、具体的にどうやって諜報活動をするのですか?」

「うむ、まずは外堀りから埋めてゆく」



なにをどう? どうやって? そんな疑問を感じている顔だ、三人とも。



「簡単に言うとだな、ビリー本人よりもその仲間と仲良くなるのさ」



ビリー本人はビリーの秘密を打ち明けてはくれないだろう、しかしその人となりを知る者ならば簡単に口を開いてくれる。諜報活動とは、そういったものなのだ。



「では隊長のぱんつの色を知りたければ、フィー先生に訊くのが一番と?」

「例えとしてはサイテーだが、タヌキの言う通りだ。そしてビリーの仲間たちというのが、実に百人を越えているというのだからシビレる話じゃないか」

「百人……」



三人は生唾を飲んだ。その数が何を意味するのか? そう、陸奥屋一党とまほろば連合軍の数に匹敵する勢力ということなのだ。



「つまり……」



勿体をつけて言葉を区切る。



「このビリーとかいう大将、明らかに『腹にイチモツ手に荷物』ってヤツよ」

「何をたくらんでいるんでしょう?」



タヌキの表情もシリアスだ。



「さあな、それを調べるのが私たちの仕事ってヤツだ」



不安そうな顔をするのはワンコだ。



「ですが隊長、仲良くなるだなんて、具体的にどうやれば良いのでしょうか?」

「ホメてやるのさ、相手チームの力量、作戦、勇敢さをな。お前たちの容姿だ、絶対に相手は鼻の下を伸ばす」

「容姿でいくなら、隊長が一番心配ですね。普段が忍者装束ですから」



タヌキも言ってくれる。だからわざと、目の前で髪を解いてやった。長い髪に櫛を入れる。それから顔面をセルフマッサージして、よそ行きの表情を拵えた。手鏡を覗き込む。……うむ、美少女の完成だ。



「……化けましたね、隊長」



タヌキがあ然としている。



「仮にも美人秘書御剣かなめの姪だからな、これくらいのことはできる」

「それじゃあ誰を標的にしますかニャ?」



そこはランダムに、なにしろ標的の数が多すぎる。多少時間をかけてでも慎重に調査を進めたい。



「じゃあ私はこのチームに声をかけるニャ」

「では私はこちらに」



ニャンコとワンコは、あみだくじでもひくように標的を決めた。私もタヌキも標的を決定。



「敵と接触する前に、穴が開くほど戦闘動画を見ておけ。会話のネタに困らないようにな」



これもまた、諜報活動の基本である。ということで、その日は解散。それぞれの拠点で動画のチェックに入る。


私が指名したのは『登龍門』というチーム。まだ熟練格で見所らしい見どころの無い、ひと山ナンボのチームだ。ちなみにビリー一派、その練度は決して高くはない。新兵格や熟練格がその大半を占めていて、豪傑格がひとチームいるだけだ。


陸奥屋一党のように二人一組を果たそうとしているが、上手くいかない。ときおり誰かひとりが突出してしまいそうになり、袋叩きに逢っている。



「ホメてやれとは言ったが、ホメるべきところが見つからんなぁ」



思わず愚痴が出てしまったが、三試合目の動画で目を見張った。


……背後に、セコンドの位置にやつがいたのだ。ビリー本人、まさしくその人だ。部隊無線を使って、チームに指示を送っている。もちろん下手くその集団、指示ひとつで劇的に何かが変わる訳ではない。


しかし、突出する者がいなくなった。危険な時間よりも有利な時間が長くなっている。



「こいつは話が早い……」



軍のリーダーが指示出しした途端に動きが良くなる。こんなに美味しい取っ掛かりは無い。すかさずアニマル3の三人にも、そのことをメールで伝える。


いいねいいね、面白くなってきた。これは敵も自慢気に『オラが大将』の話をしてくれるだろう。



「しかし……」



その大将さまが陣頭指揮よろしく、へっぽこチームに指示を与えているとはどういうことか?


私が何を疑問に感じているか、読者のみなさんは御理解いただけないだろうか? もしかするとリーダーのお仕事と作戦参謀のお仕事を同一視してはいないだろうか?

実はリーダーのお仕事、参謀の立てた作戦に「うむ」とうなずくことなのだ。


それで足りないというのなら、負け戦さの責任を取ることも大切な仕事である。


あと、手柄を部下のものとするのも大切な仕事だし、参謀が「全軍突撃のご命令を!」と言ってきたときに号令をかけるのも仕事だ。


リーダーとか大将は仕事をするものではない、仕事を与えるものなのだ。あとは兵士の士気をあげるために檄を飛ばすのも大切な仕事だろうが、ウチは大将はやり過ぎなため、ここは割愛させていただく。


繰り返し述べさせていただく。大将が指揮を取ってはいけないのだ。


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