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稽古総見

ブックマーク登録と総合評価の投票、誠にありがとうございます。作者ますますの励みとさせていただきます。

 八月を前にして、陸奥屋一党は総裁鬼将軍の拠点である本店に集結。イベントに向けた稽古の仕上がり具合を展示するのである。陸奥屋一党先任は士郎先生率いる鬼組。それに続くは槍組抜刀組、さらに徒手空拳に近い吶喊組、力士組と続いている。どこもレベルは熟練格。


 豪傑格に上がった組は無い。これは新兵が最前線、熟練格が次鋒ポジション。豪傑格が本丸最前線で英雄格は本丸周辺。最高位無双格が本丸という具合に、レベルでポジションが決まっているためである。

 陸奥屋一党ということでフレンド登録してあるので、一党は近い場所にポジションされるが、しかしレベルの差は絶対。どこか一組の誰か一人でも豪傑格がいれば、その組は本丸守備の最前線に回されてしまうのである。


 本店中庭に、四十一名の陸奥屋党員が集結した。力士は革防具、鬼組から抜刀組までは和服の戦闘装束。吶喊ははトヨムと同じ平服にスパイクのついたグローブ、レガース。なんとはなしに、陸奥屋一党の戦闘スタイルがわかってしまう。


おそらくは、「命を惜しむな、名こそ惜しめ」「現代の惰弱なチャラ坊どもに大和魂を見せつけてやれ」というような精神論でイベントに臨むものと見られる。


 そして、鬼将軍が出てきた。相変わらずのトンチキな軍服姿だ。


「よくぞ集まった、精鋭四十一名の精鋭諸君! 我々が待ち望む夏イベントまで、残すところ二週間となった! 今日はこれまで諸君らが鍛え、磨き、そして工夫を凝らした成果を拝見したい! 存分に実力を発揮してほしい! 以上!」


 意外にも、普通の挨拶であった。しかし稽古総見、その蓋が開かれると死闘また死闘である。

 まず呼び出されたのはトヨム小隊で私抜きの五人。それに対するは力士組の六人。NPCは補充されない六対五のハンディ戦だ。


 トヨム小隊前衛は右翼にカエデ・シャルローネのペア。左翼にはマミさん・セキトリのタンクペア。後ろに控えてトヨムである。力士組は矢印型の一点突破隊形。力押しに押してくるつもりらしい。子供たちは円陣を組み、なにやら作戦を練っていた。そしてふたたび戦闘隊形。


 キョウちゃんの太鼓で試合開始となった。

 手に手に長得物を持った力士組。前回の対戦ではスパイク付きのメイスが多かったように思ったが、今回は手槍に薙刀もいる。前回とは違うということか?

 トヨム小隊は二人と三人に分かれる。一点突破の目標を分散に出た形だ。


 シャルローネさんとカエデさんのペアに、トヨムがくっついている。力士とシャルローネさんの打ち合い、カエデさんは楯で防御。その隙にトヨムが革防具を破壊する。


 セキトリとマミさんのペアはまずセキトリが打ち合いを申し込み、マミさんがセキトリを守るところから始まった。両軍ともにがっぷり四つ。しかしトヨムの防具破壊がポイントの差をつける。カエデさんは楯でひたすら防御。シャルローネさんのことまで守っている。トヨムは自由自在、次から次へと防具を剥いでいる。そこへシャルローネさんの一撃。頭部に命中なので、一撃撤退のクリティカルだ。


 セキトリは一対一。巨漢同士火花を散らす打ち合いだ。こちらは三対二の負担がある。と思いきや、トヨムがチョッカイをかけて一人をシャルローネ側に引きずり込んでしまったので二対二のタイである。


 そして防御ばかりだったカエデさんが攻勢に転じる。たちまち小手、胴から腰を斬る雲龍剣でキルひとつ。さらにトヨムもヒットマンスタイルのジャブで力士一人を釘付け。じっくりと時間をかけてから撤退に追い込んだ。



上手い。



 これで力士組は復活にタイムラグが生じるので、なかなか数を揃えにくい。残る一人はシャルローネさんとカエデさんで防具を剥がしている最中。トヨムがセキトリの援護に出かけたのだ。あちらのキルを先行させて、ここでもタイムラグを生じさせる戦法だ。


 しかし力士組も落ち着いている。復活した三人は全員が揃うまで動かず、戦力が揃ってから突撃してくるつもりだ。しかしセキトリがキルを奪った。この力士も待つのだろうか? いや、マミさんと戦っている力士はセキトリ、トヨムも相手にしているので間もなく殺されると踏んだのだろう。シャルローネさんたちに防具を剥がれた力士も同様。


 ならばと、三人一組で出てきた。マミさん目掛けて一直線だ。トヨムがそこへカウンターアタック。しかし止められたのは一人。残る二人の力士はマミさんに襲いかかった。マミさん、撤退。

 トヨムたちは力士を一巡、六キルを奪っていた。しかしマミさんを落とされて四人しか残っていない。


「この三人を倒せなかったら、アタイたちの負けだ! 踏ん張れ!」


 しかし復活した先鋒の三人は激闘王のセキトリをも葬った。これで残るは三人。トヨム、シャルローネさん、カエデさんである。あわや三人の力士にトヨムが囲まれるかと思ったが、そこはカエデさんが救援に駆けつける。そしてシャルローネさんが連携プレイでキルを取った。


 これで二対三の生存者。しかしこれが五対三になった。復活した力士三人が到着したのだ。

 これはさすがに無理かな? そう思ったが、カエデさんは防御に専念。シャルローネさんも守りに入った。


トヨムなどは二人の力士を相手に、走る! 走る! 走る! といっても徒競走ではない。槍もメイスも紙一重でよけて、二人の大男を引き付けているのだ。

 守るときは守る! 行くときは行く! 守るときに守っているからこそ、力士たちに防具破壊を許していないのだ。


 そうこうして力士組にとっては焦れったい時間が流れてしまい、マミさんとセキトリが揃って戦場へ復帰。遅れて力士も一人復帰。試合は振り出しに戻る。



 トヨムが二人引き付けている。カエデさんもときに隙を見せて、二人を引き付けることに成功。シャルローネさん対力士一人!

ではない、セキトリとマミさんが殴り込んだのだ。


 おかげでシャルローネさんはフリー。すぐにカエデさんの元へ駆けつける。キルを奪ったセキトリとマミさんは、二人を引き付け続けていたトヨムの元へ。そこへ力士が一人復活してきたのだが、これはセキトリたちに申し込んだ。


 トヨムとセキトリの力を認めているのだろう。そしてそこに応援に行かなければ、またキルを取られてしまう。そうした判断のはずだ。事実、この判断は有効であった。さすがに人数がタイでは、簡単にキルは奪えない。もう一人の復活まで、数的有利の状況まで、キルを許さなかったのである。そう、試合時間が終わらなければ。


 トヨム小隊が逃げ切った。尻に火は着いていたが、なんとか逃げ切っての勝利であった。




 しかし、これは稽古総見。喜びもつかの間。今度は槍組が相手である。

 トヨム小隊、またも円陣。あれこれと作戦会議の末、なんと先頭はトヨム。次の列にはセキトリとシャルローネさん。控えにカエデさんとマミさんという布陣である。対する槍組は横一列。ファランクス陣とまではいかないが、槍衾を形成していた。


「リュウ先生」


 士郎先生が近づいてきた。


「どうでしょう、トヨム小隊と槍の相性は?」

「私にも未知数です。あの陣形を見るに、トヨムが飛び込んで突破口を作り、長得物の二人を呼び込んで、両翼から潰していくつもりでしょうが……」


「リュウ先生ならトヨムの役が務まるでしょうが、若いトヨムにそれができますかな?」

「本人はやる気満々です」

「あのトヨム、チームを引っ張る牽引車ですがしかし、あれがヤラれるとチームが崩壊しかねませんな」

「我らが自慢の隊長です」


 さあ、試合開始だ。トヨムに続く一点突破隊形。槍組は悠々と前に出てくる。

 トヨムの突撃。しかし槍 は全員片膝を着いた。そこで号令、右! 左!

その槍が防具の無いトヨムの足を払った。次鋒の長得物、セキトリとシャルローネさんが槍を止めようとする。しかし、トヨム、惨殺。トヨム抜きで四対六は厳しい。



 しかし若者というやつらは、挫けるということを知らない。槍を払い槍を払い、なおも前進しようとする。さがればトヨムと同じ、槍はどんどん前進してきて、皆殺しの瞬間まで止まらないからだ。セキトリが小技でかわす。マミさんも力負けしていない。しかしシャルローネさんは、二人同時に突かれてしまい、涙の撤退。


 それでもカエデさん、セキトリ、マミさんの三人は踏ん張っていた。この三人のうち、二人が両手に得物である。数的不利にあっても、なかなか器用に踏ん張っていた。もう何合打ち合ったものか。それでも三人は防具にかすり傷程度のポイントしか許していない。そこへ待望の、トヨムとシャルローネさんの復帰。


「シャルローネ、合わせるぞ!」

「ホイ来た小隊長!」


 敵陣向かって右端、その相手を獲物と決めた。トヨムが飛び込む。槍はカウンターを合わせた。同時にシャルローネさんの胴!

防具が弾け飛んだ。そこへトヨムのボディーブロー!

一撃必殺の破壊力。これでワンキル取り返した。


 そしてファランクス陣の崩れた乱闘だ。分はトヨムにある。さあお返しだ、と意気込むトヨムだが足元を狙われて勢いを止められる。しかしシャルローネさんの小手打ち、そしてケチな突き技。


 槍が一人撤退したので、マミさんへのプレッシャーがゆるんだ。マミさん攻勢に出る。丁寧に丁寧に槍を払い、タンクの役割そのまま、ジリジリと前進してゆく。槍二人を相手にだ。





「意外な娘が意外な奮闘を見せてますね」

「これは嬉しい誤算です。でも彼女もタンクという役割を自分なりに理解して、実行しているだけでしょう」

「あ、トヨムがまたやられた」


「士郎先生、突っ込みすぎたんでしょう」

「これで人数は五対四。巻き返せるかな?」

「正念場ですな」


 正念場というならば、カエデさんは常に正念場だ。有利不利を見抜いて、常に状況を把握しながら戦う。それは本当に負担でしかない。そのカエデさんにセキトリが合流。あまり相性は良くなさそうだが……。


「カエデさん、そろそろ押し返さんか?」

「ん〜〜でもトヨムが帰ってきてからの方がいいんじゃない?」

「しかし黙っておったらジリ貧じゃ!」

「守るときは守る! 行くときは行く! おけ?」

「お、おけ。いまは辛抱相撲じゃの!」


 しかしここで、シャルローネさんの必殺技、接近しての二段突きが決まった。ポイントは一点差。そこへまたまたトヨムが帰ってくる。敵も復帰してきているので、なかなか敵陣は崩れない。


「ジリ貧嘆くは今、このときよ! セキトリ、行くわ!」

「待ってました一番槍は、トヨム小隊のセキトリぞ!」




 小技小技を繰り返し、大きく一発小手を奪う。


「続いて二番屋はトヨム小隊の青龍、カエデちゃんよ!」


 槍衾を楯で受け流し、腹に突き技を入れる。セキトリの小手ともども、はでに防具を破壊した。トヨムとシャルローネさんはマミさんの応援に入る。しかし復帰した敵がシャルローネさんの行く手を阻んだ。長得物対長得物。そして槍は突き技主体。シャルローネさんの足が完全に止められた。




 と、ここで試合終了。キルの差ひとつが大きく響いて、トヨム小隊の敗北であった。


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