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よしよし、立ち上がりは上々の出来だ。来たならば即座に討つという気迫、あるいは行くぞ行くぞという細かな牽制。競技なればこそという技術、一般人だからこその迫力で傭兵ズの先制をせき止めた。


それでは第二弾、その気迫がウソやハッタリではないことをキッチリと見せつけてやれ。手斧二丁のモヒカンが前に出た。抜くぞ抜くぞという気迫のヒカルさんも出る。


傭兵ズの視線が、二人に集まった。



「ヤッ!!」



鋭い気合い、ライが抜いた。片ヒザを着いての低い居合だ。パッと傭兵のひとりから片脚を奪う。


二の太刀……は行かない。脚を負傷した敵に切っ先を向けて、霞の構え。傷を負った傭兵は後退、回復ポーションを使用している。ライの良い判断だ。小手打だけだと敵はそのまま戦闘を続けるかもしれないし、相討ち覚悟でトラッピングに持ち込んで来るかもしれない。


その点、脚は違う。負傷を放っておいては、身動きが取れなくなる。どうしても回復させなければならない部位なのだ。負傷者回復、戦線に復帰。


しかしその瞬間にヒカルさんが前へ。そこへ傭兵二人で片手剣の斬りつけ。その起こりを、さくらさんが打ちヨーコさんが斬った。そして素早くステップバック、ヒカルさんも元の位置へ戻る。



「立ち上がりはまずまずだな、士郎さん」

「あぁ、だが敵もまだエンジンはかかって無ぇ」



その通り、私としてはわざわざ傭兵どもに付き合ってやる義理は無いと思う。しかし若者たちは、それを良しとできるだろうか?



「お? 両先生、敵が散開しましたよ?」



ヒロさんの言うように、敵はお互いの間隔を大きく開けた。そしてダイナミックに片手剣を振り回す。うむ、中国の刀術だな。しかし隙が多い。


私もそれなりに中国剣術、刀術など武器術は動画サイトで漁ってきた。その弱点は、得物を持つ手そのものにあると見ていた。しかしそれは若い現役選手が、表演試合で見せている『器械体操』の変形のようなもの。まこと高手名手上手と呼ばれる達人たちの技ではない。


そして傭兵たちの刀術は、斬ることを目的とはしているものの、あまりにも雑であった。


誘い、牽制を含めた中国剣術刀術は、なかなかに相手をするのが面倒だ。



そのはずなのに……。そして誘い、牽制というのであれば、こちらには競技者が二人もいる。ベロンと平たく、傭兵しかいないチームとは違うのだ。ピッピッとさくらさん、ヨーコさんが敵の小手を斬る。だがそれは誘い、本命は脚であった。


そこから状況が動く。


モヒカン、ヒカルさんの突撃。手傷を負った相手にさらなる追撃。それを許すまいと、二人を囲みにくる。だがモンゴリアンとライが、その妨害に入る。目まぐるしい攻防。



しかしさくらさんの突きが、ついに敵のバイタルを貫いた。傭兵ズ、ひとり撤退。数の上ではひとり有利。しかしそのさくらさんも、小手を奪われる。後退したさくらさんは回復に務める。


そして援護に入ったヒカルさんの居合は空振り、ポイントを奪うことはできなかったが、追撃を阻むことには成功。そのヒカルさんに、敵の手が伸びる。背後から片手剣、傭兵のひとりが襲いかかる。


が、それはさくらさんが片手で追い払った。さらにライが無茶苦茶に斬馬刀を振り回し、敵のさらなる接近を許さない。



ウィークポイントと見たか、モヒカンにも敵は群がった。まずはヨーコさんがその敵を足止め、その隙にモンゴリアンが脚を突いてまわる。やはり傭兵ズは後退。一度回復の時間を設けて、再び陣形を整えて迫ってきた。


生きて帰るための技術と、命に換えてでも目的を達成するための技術。サムライの戦いは人類史上類を見ない、狂気の戦闘だったという動画が数々上げられている。命を惜しむな、名こそ惜しめという精神である。


傭兵たちがそのことを学んだなら、W&Aにとって……いや、王国の刃において最強とも言える戦闘チームになれるのだが……。



「おい、リュウさん。傭兵たちが標的を絞ったみたいだぜ」



おや、士郎さんの言葉に見方を変えてみれば、傭兵たちはあからさまに競技者であるさくらさんとヨーコさんを避け始めていた。まずは自分たちらしい闘い方をしたいのだろう、囮であるモヒカンとヒカルさんに群がった。


しかしその傍らには競技者の二人がいる。すぐにフェイントを噛ませた攻撃で抵抗、囮食いを許さない。さらにはライとモンゴリアンも参加、傭兵たちの好きにはさせない。


そして囮のヒカルさん、モヒカンも押し引きを繰り返してダメージを最小限に留めていた。中国剣術刀術の恐ろしい技として、脚斬りが挙げられる。上と思えば下、下と思えば上と、上下に攻めを分けてくるアレである。


しかしライもヒカルさんも、これには片ヒザで応じていた。居合の形のひとつである。そうすることによって、敵の攻撃範囲を狭めているのだ。あれこれと攻められるよりも、ここを狙って来いという方が防御をしやすいのである。


さらには着いたヒザを中心に、右へ左へクルクルと回るものだから、剣の上手でもなければ狙いを絞りにくいのだ。



「さて、ここまでは良い展開だがこのまま黙っている『戦争の犬たち』じゃねぇよなぁ?」



士郎さんの不吉な予言。



「そうそう、戦争屋チームだけあって傭兵くんたちは連携の取れた攻撃がお得意なはず……」



ヒロさんの言葉通り、傭兵たちは三−三の2チームに分かれた。標的とされたのは……翼端のライとモンゴリアンだ。三対一の構図で戦闘を仕掛けてくる。


もちろんさくらさん、ヨーコさんが救援に入るのだが、敵は二人がかりで妨害に出てきた。二対一、これは競技には存在しないシチュエーションだ。すかさずヒカルさんとモヒカンが救援の手に加わる。だが、そこは罠、トラッピングにかかってまずはヒカルさんが撤退。モヒカンにも二人がかりで攻撃が加えられた。さくらさんとヨーコさんが踏ん張るが、モヒカン無念の撤退。スコアは逆転されてしまう。


四人対六人、状況は一変して不利になった。



「なんのっ!!」



ライが斬馬刀の回転を上げる。タイマン相手をどうにか後退させた。これでさくらさん、ヨーコさん、ライで五人を相手にすることになる。


そしてモンゴリアンは……まだ健在、手槍をしごいて敵を近づけないようにしていた。



「こうした展開のとき、どんな指揮を取る?」



私は二人の『災害先生』に訊いてみた。



「私なら撤退した二人の復帰を待つね。その方が効率が良い」



ヒロさん、フジオカ先生の回答には隙が無い。しかし『激闘王』に優等生の思考は存在しない。



「戦さなんてモンは数じゃねぇよ、要は気合いさ。俺ならここを契機に突破口をコジ開けるぜ」



その契機になったのが、愛弟子であるヒカルさんだった。



「お見合い会場にゴンタクレ参上っ!! ヒカル、突撃しますっ!」



誰よりも過激派、誰よりもパグネイシャス(ケンカ好き)。敵の片手剣を弾き上げながら、ヒカルさんが現場へ突入した。



「その通りだ! お見合い相手ならもっとイイ男選ばなきゃね!!」



ライも斬馬刀を振り回す。六人対五人の大乱闘が始まった。十一人による乱闘劇だ、もうフェイントもトラッピングもありゃしない。当たるを幸い、とにかく低俗などつきあいが始まったのだ。


まずはヨーコさんが撤退。やはりケンカ荒事の場に競技者は向いていないか。しかしすぐさまライの斬馬刀が傭兵ひとりを斬り捨てる。さらにはモヒカンが復活、体当たりで敵をひとり吹き飛ばした。


そしてヒカルさんの突き技。体ごとぶつかるような攻撃が決まる。これでスコアは逆転だ。


さくらさんが手傷を負う、しかし回復ポーションを使うにはまだ時間が足りない。それを守るのがモンゴリアンとモヒカンだった。


敵がモヒカンを狙う、モンゴリアンがそれを阻止する。さくらさんとしてはひと息つける場面だ。ライも先程の敵に斬りつける。同じ脚への攻めだった。


この傭兵も、まだ回復ポーションを使えない。後退するばかりだ。ヨーコさん復活、前線へと復帰を果たす。今度は慎重に、モンゴリアンとモヒカンの援護に回る。小手と言わずスネと言わず、キルを狙わず細かいポイントを稼いでいた。



「崩れたね、傭兵ズは?」

「あぁ、そう簡単には立て直せない」

「しかし簡単に白旗をあげる連中でもない」



片手槍のさくらさんを、ライとヒカルさんの無鉄砲コンビが守っている。負傷の色が濃いモンゴリアンも、ヨーコさんとモヒカンがカバー。そのまま一進一退の攻防が続き、W&Aはリードを守りきった。試合終了の銅鑼である。



「フウッ……どうにか勝てましたな…」

「決して楽な相手ではなかった……」

「逆にいえば、戦闘のプロを相手によく勝ちを得たものだ」



正直に言えば、感想はその一言に尽きる。



勝因をあげるならば、どのような敵であっても気持ちから負けていなかったこと。そしてこちらのチームは、能力がデコボコしていた点だろうか。全員が同じ能力ではない、できることできないことがあり、ここぞという場面でその一手を打ち込めたこと。そうした要因が勝ちにつながったのだろう。



単純な実力ではなかったはずだ。


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