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まずは競技者二人

ここでカエデさんの物言いがつく。



「ちょっと待ってください、先生方。これはあくまでプロチームがトラッピングに慣れるための稽古であって、ネームドプレイヤーたちの稽古じゃありません」



ま、確かにその通りだ。もちろんネームドプレイヤーたちがトラッピングに慣れるに越したことはない。しかしあくまで主役はプロチームだ。



「確かにマミもトラッピングを少しは理解したでしょう、ですがそれはプロチームの練習相手になるためのもの。ちょっとだけ方向性が間違っています」



ではどうする?



「トラッピングには接近が必要とは、先生するのお見立て通り。ではまず敵の接近を許さない方針、ここから練習を再開しましょう」



ということで選抜されたのは、プロチームからさくらさんとヨーコさん。それにモンゴリアンとライ、長得物と中間武器の四人だ。練習相手にはフィー先生と忍者、マミさんにセキトリ。こちらは長短入り混じった人選だ。



「なぜこの四人を?」



ヒロさんの質問に、カエデさんは答える。



「忍者とマミは仮にもトラッピングのできそうなメンバー、その二人を近距離に送り込むための長得物が、フィー先生とセキトリさんです」

「ヒカルさんとモヒカンはどうする?」



カエデさんはニヤリと笑い、地獄の釜の蓋を開けた。



「短い得物を持った先生方に、みっちりとトラッピングを御馳走していただこうかと」



私、士郎さん、ヒロさん。脇差しと小太刀を持たされた。もちろん実刀だ。



「本気を出して良いのかな?」



士郎さんが訊いた。



「いえ、先生方に本気を出されては稽古になりません。傭兵ズの力量に近いところで……いえ、それよりヌルい程度でお願いします」



士郎さん、釘を刺されてやんの、ザマァ。



「リュウ先生もです、あまり高度な稽古は必要ないと思いますので」



士郎さんと同じ扱いかよ、笑。大変に遺憾である、訂正してくれたまえカエデさん。


とはいえ、ヒカルさんとモヒカンの稽古に三人も先生は必要ない。まずは私が、プロチーム四人の見学。ジッと見させていただく。稽古方針としては、フィー先生とセキトリで突破口を開き、忍者とマミさんで接近戦を仕掛ける。プロ選手四人はそれを防御するというものだ。



「ドッセイ!!」



まずは戦車役のセキトリ、背後からフィー先生。この二人で敵の注意を引きつけた。もちろん手傷も負う、のだが忍者にマミさんがすんなり接近を成功させてしまった。



「いかんなぁ、セキトリがデカくて重いというのは分かるが、いつまでもガンバらせてはダメだ。撤退させるなり後退させるなりしないと、有利な状況は生み出せないぞ?」



そのためにはクリティカルヒットが必要になる。そしてクリティカルを入れるには、打撃間のロスタイムを少なくする、つまり密度が必要になってくる。長得物で密度となると小技だろう。私の言っていた小手打、指攻めが活きてくる。



「う〜〜ん……」



先程の「」内、私の言葉にさくらさんとヨーコさんが首をひねる。モンゴリアンとライは気づいていない。



「じゃあセキトリ、良いかな?」

「押忍」



私、小太刀と脇差し。セキトリはメイスの長得物。相対して、模範試合開始。先手、セキトリ。猛烈な打ち込みを脇差しで受け流し、私は前進。そこにはセキトリの前手がある。小太刀で狙うと、セキトリは後退してこれを躱す。



「よしよし、よく逃げた。……どうかな、たったこれだけの攻防で、短兵器が大兵器を後退させたよ?」

「あ、小手と指攻め!」



さくらさんは気がついたようだ。



「うん、それならアタシの斬馬刀でも、攻撃の密度を上げられそうだよ」



なにも一撃必殺ばかりが能じゃない。一刀両断だけが技じゃない。そしてこの練習は修行じゃない。日頃の修行をベースに、力を活かす場なのだ。セコい撤退とか、狡っ辛い技というものとは訳が違う。


コツはサッサッサッではなく、ピッピッピッである。そう告げると、ライがまず反応した。



「リュウ先生、こうですか?」



斬馬刀を小さく素早くまとめて振る。いや、まだ大きい。そこを指摘する。



「最初に指導しなかったかな? 刀はあくまで左手の小指だけで振るんだ」



小太刀ひと振り、ではあるが切っ先が動いているかいないかの範囲だけで振る。



「振りが小さければ小さいほど、効果的な打ちをまとめることができる」



プロチーム六人は強い。というか、最低限でも全員がクリティカルを取れる選手ばかりだ。それが小さく素早くまとめて打ち込むことが出来るようになれば、それだけで壁になる。



「リュウさんは欲張りだなぁ」



フフフとヒロさんが笑う。



「確かに、攻撃は最大の防御とも言う。だけどここで達人技を彼らに要求するのは、行き過ぎじゃないかな?」



なるほど、技術の要求が高すぎたか?



「そうさなぁ、傭兵軍団は『生き残る』ということに関しては、かなりナーバスなチームと考えても良いんじゃないかな? 前職が前職なだけに」



つまりは?



「ある程度の抵抗を見せたならば、敵もそれ以上の無理はしない」



だが、これは傭兵ズにとっては昇格戦だ。多少の犠牲もやむを得ずと考えるかもしれん。



「実はですね、リュウ先生。傭兵ズの戦績を調べてみると、驚くほど撤退……つまり死に帰りが少ないんです」

「ふむふむ」

「それでアーカイブに残っている動画をチェックしてみたら、入れ代わり立ち代わりあるいは、二人一組などなど。チームプレイに長けていることがわかりました」

「まるで陸奥屋の縮小版だな」

「あるいはW&Aの生き写し」



私たちも正直に言えば無茶をしている。囮戦法などということもやってきた。しかし、カエデさんが提示する動画を見ると、傭兵ズの戦闘は堅実であった。セオリーを踏まえ、一人ひとりが成すべき仕事を果たし、無理なく勝利しているのだ。


お手本、あるいは教科書通りという言葉がしっくりとくる。



「勝ち上がってきたチームというよりも、負けなかったチームと言った方が良さそうだな」



う〜〜ん、どうも考えがフラついてしまう。



「私個人は決して無茶な作戦立案はしません。むしろ傭兵ズのような戦法を好みます。派手でなくとも見栄えはしなくとも、一戦一戦を勝ち上がってゆく。そんな作戦ばかりです。なのに今日の陸奥屋の戦績、トヨム小隊の戦績が華々しいのは、ひとえにツワモノ揃いのチームだからです」



要約すると?



「個性派揃いのW&A、決して劣っているものではありません」



ということで。



「わかったかな、リュウさん。そこまでゴリゴリの技術でなくとも、チームワークと腕力で勝利を掴むこともできるのが、W&Aなのさ」



では作戦の具体案は……聞くまでもないか。ヒカルさんとモヒカンを囮にして、残り四人でこれを守る。うん、最初の案に戻ったな。


では、件の囮二人はというと。ヒカルさんとモヒカン、独自にトラッピングの稽古をしているようだが、人間の身体を使った知恵の輪になっていた。さすがの士郎さんも渋面を作ってうめいている。



「お前ら、ちったぁ頭使えや……」



まあ、あちらはあちらで任せておこう。士郎さんのことだ、悪いようにはしないだろう。



「ヒカル、モヒカン。トラッピングなんてモンはいつまでもくっついてるモンじゃないんだぜ? キメるときぁサッサとキメちまって構わねぇんだ」



なんだったら、秒でキルを取っても構わない。そう、映画『燃えよドラゴン』で悪漢オハラと対戦した、ブルース・リーのようにだ。あれは見事な殺陣であった。もしかすると史上初めて、中国武術のトラッピングが世界に向けて発信された場面かもしれない。




さて、長物チームに戻ってこよう。


メイスのセキトリとダイスケくんが立つ。この重量級の巨漢を後退させる稽古だ。まずは競技者二人、手槍のさくらさんと薙刀のヨーコさん。牽制を仕掛けて、まずは巨漢の足を止めた。


『どう来るのかな? どんな反応するの?』


さすがに競技者だけあって、この辺りの駆け引きは上手いし、手慣れている。堂々としたものだ。


傍らでは、競技慣れしていないライとモンゴリアンが、お互いに小技を仕掛ける練習だ。そのとき、パンッという音と閃光が走りダイスケくんの小手が弾けた。ヨーコさんだ。クリティカル判定である。すぐに続いてさくらさんも、閃光と効果音の演出でセキトリの拳が砕ける。


しかもさくらさん、追撃に小さな突きをふたつ。ボクシングならば、クリーンヒットのあとのツージャブというところか。とにかく巨漢を後退させることに成功していた。ヨーコさんも良い、小手打を決めたあとに、小さな打ち込みをまとめている。



競技武道、これをあなどることはできない。剣道もそうだ、王国の刃というステージにおいて、その不向は以前語った通りだが、なにしろ層が厚い。いつどのようにして、駆け引き上手な剣道家が王国の刃に特化した技術を携えて現れるか、分かったものではない。


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