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敵軍対策

さてまずは確認だ。



「さっきモニターで見た程度で判断してもらって構わないんだが、士郎さんは奴らのトラッピングに引っかかりそうかい?」

「いや、その前に斬ってやるね」

「ヒロさんはどうかな?」

「接近してきたら先にブン投げてやるさ」



さすが『災害先生』だ。トラッピングの妙は接近戦にあることをすでに見抜いている。



「ではW&Aで引っかかりそうなのは?」



恥ずかしそうに、士郎さんはヒカルさんを指さした。ヒロさんはナンブ・リュウゾウを指さす。



「いやヒロさん、気持ちはわかるがW&A限定でお願いしたい」



ヒロさん、改めてモヒカンとライを指さした。二人選抜とは、欲張りなヤツめ。



「私は他にモンゴリアンを推したい」

「いやリュウさん、モンゴリアンは得物が手槍だ。上手くすればトラッピングの距離には入らずに済むぞ」

「そうした得物でも、トラッピングにかかりそうだから指をさしているんだが」

「性格か……」



ヒロさんの言葉に、士郎さんも納得。そこで提案だ。



「まずはトラッピングにかからなさそうな、さくらさんとヨーコさん。この二人にトラッピング対策を伝授。他の四人は亀の防御と敵の接近を許さない方法を教えては?」

「……ではリュウさん、それに加えて間合いのある斬馬刀の娘。これにも接近を阻む手を授けては?」



ふむ……しかし斬馬刀は反りが深い、遠間技の突きに向いていない。



「だったらよ……」



士郎さんが総髪のこめかみを掻きながら言う。



「切っ先のチョン斬りを授けちゃどうだい?」



なるほど、敵を止める、さがらせるというのが目的ならそれも有りか。



「そうなると全体の方針は決まりましたかな?」



さくらさんとヨーコさんが敵を退かせる役。モヒカンとヒカルさんが防御専門。亀の役割。ライとモンゴリアンはどちらもこなす役割。


もちろん鶴のひと突き、ここぞという一撃は全員が狙いに狙う方針だ。



「徹底したポイント・アウト狙い……判定勝利が目的地か、ストレスが溜まりそうな試合になるな」

「士郎さん、ときにはそんな闘いもありますよ」



ヒロさんが士郎さんを慰めている。



「じゃあ、誰がどの選手を指導するかだけど……」

「鶴のひと突き、さくらさんとヨーコさんはリュウさんが指導すればいいんじゃないかな?」



ヒロさんが勧めてくれた。そして続ける。



「私は手槍のモンゴリアンと斬馬刀のライさんを受け持とう。残るは……」

「問題児を俺ひとりに押し付けんなよ」



士郎さんがブーたれた。残されたのは、トマホークのモヒカンと、ヒカルさんだけだからだ。



「しかし士郎さん、技のリュウさん位のフジオカ、力の士郎と評されてるのだから。この方針は間違いではありませんよ?」



ヒロさんは、難物を士郎さんに委ねる方針を曲げないようだ。




士郎視点。

「よ〜し、うむうむヨーーシ! トマホーク二等兵っ!!」

「は、はいっ!!」



いかつい筋肉男は直立不動の気をつけで返事。



「貴様は勇敢かっ!!」

「はいっ! 自慢ではありませんが、勇猛果敢においてはこのトマホーク二等兵っ!! 陸奥屋イチと任じてますっっ!!」



トマホーク二等兵とか言っているが、こいつのプレイヤーネームはモヒカンだ。



「そんなクソ以下の勇猛さは、この先必要ない!! 今すぐ清掃社に連絡して引き取ってもらえ!」

「それでは自分は生きられません!!」

「ならば今ここで死ぬというのかっ!! それは許さん、貴様はこれから先千人万人の敵を葬る男になるのだぞ!」



事実だ。だから今この場では、勇猛果敢を慎まなければならない。



「次っ、寸足らず二等兵っ!!」

「ハイッ!」



ヒカルが気をつけで返事。



「貴様も勇敢さを売りにしているかっ!!」

「師匠からの授かりものです!」

「ならば傭兵チームとの対戦が終わるまで、その勇敢さは引っ込めておけ!!」

「はいっ、わかりましたっ!!」



今はわかってても、三歩あるけば忘れるんだろうなぁ。



「よし、貴様らの勇気はわかった!! しかし傭兵ズとかいう対戦相手は、貴様らのその勇敢さにつけ込んでくる!

だから勇気を捨てろと言ったのだ、わかるかっ!!」

「「ハイッ!!」」



ここで『災害先生』たちによって、コテンコテンにのされた事実を一度強調しておいた。



「良いか、脳みそツルツルな一本調子で突っ込めば、傭兵ズと戦ったとき同じ目に遭うぞ!」

「……………………」



やはり屈辱の出来事だったか、トラッピングに引っかかった事実は。返事が無くなってしまった。



「そこでお前たちに、秘中の一手を授ける」



別に秘中でもなんでもない。だが、ヒカル個人モヒカン個人にとっては大変に重要な策だ。



「敵は片手剣とナイフを使ってくる。トマホーク二等兵、貴様はどのような装備で迎えるか」

「はい、自分ならばトマホーク二丁で対応します!」

「よろしい。ではヒカル、貴様はどうか?」

「私にはこの日本刀か、両手剣しかありません!」

「うむ、ではよく聞け。……二人ともキルを狙ってはいかん! 特にトマホーク二等兵、貴様は防御のみ。攻撃は一切許さん!

敵は恐らく貴様に殺到するだろう。しかし防御に徹して敵の数を引きつけるのだ!」

「それは、つまり……」

「囮ということさ、もっとも勇敢な仕事だろ?」

「はいっ!!」



モヒカンの瞳に光がよみがえる。そうなるとヒカルの方だ。



「士郎先生、私の仕事はどのようなものでしょうか!?」

「ヒカルも防御に専念、しかしここぞという場面では反撃を許す! 確実にダメージを与えろ!」

「ハイッ!!」



敵の接近を許し、いざトラッピングに持ち込もうかというそのとき。そこを狙っての一撃だ。鶴亀作戦の基本である。では、俺が仮想的役をやろうか。





フジオカ視点。


私の担当は斬馬刀のライと手槍のモンゴリアンだ。どちらも勇敢ではあるが、ヒカルやモヒカンのような短い得物ではない。中間距離から長距離の得物である。役割としては、長距離担当のさくらさんとヨーコさんが初手をしくじった場合、二人がつけ込まれないようにすること。


そして短距離兵器のモヒカンとヒカルのところまで、電車道をさせないこと。案外小回りを効かせなければならない、かつ万能選手のような働きが求められるポジションだ。



「ということで、君たち二人は合戦の要となりやすい。特に士郎さんは……」



その指導に目をやる。



「モヒカンを囮とするようだ。彼が討ち取られるかどうかは勝敗を決するポイントにもなるから、ぜひともモヒカンを守り抜いてやって欲しい」

「フジオカ先生、質問!」



トヨム小隊長をポニーテールにしたような、ライの挙手。



「やっぱアタシたちも攻撃しちゃダメなのかな?」

「鶴亀作戦の基本は防御だ。しかしここぞという一手は許可する。というか、亀役の二人に比べれば攻撃は許されている。亀役を守り、鶴役を守るのが二人の仕事だからな」

「だとしたら姐さん、俺たちはタッグを組むことが無いかもしれんな」



そうなるかもしれない。


囮が前衛、その用心棒にさくらさんとヨーコさん。そして囮も鶴役も守るのが、この二人なのだ。



「かもね、だとしたらフジオカ先生。アタシたちに求められるのは、機敏な動きってことになるかな?」

「それだけでプロを語るかい? 広い視野と状況判断、そうした部分も必要になってくるさ」

「状況判断とはまた、頭を使う仕事ですな。俺はあまりお勉強のできる方じゃないんだが……」

「仲間が困っていたら手助けしてやれ。お前のようなおとこには、そっちの方が似合ってるだろう」



侠客、つまり『おとこ』というだけで飯の食わせてもらえる時代もあった。時代が時代であったならば、モンゴリアンもそれだけで食っていけただろう。


ただし、『長生きしすぎた二十五年』になっただろうが。何故ならおとこというものは、一宿一飯の恩義だけで命を投げ出すような戦いに身を投じなければならない、そんな宿命にあったからだ。


『漢』と書いて『おとこ』と読む風潮、ジョークが広まって久しいが俺からすればぬるいぬるい。やはり『おとこ』と読むのであれば、侠と書いてもらわなければ。


『土佐の大侠客』、かの坂本龍馬先生もそのように呼ばれていたとは、司馬遼太郎先生の記したところ。しかし龍馬先生もいざとなったとき、命を投げ捨てて仕事に身を投じた人物だ。『侠』と呼ばれるに相応しい人物であっただろう。




リュウ視点。


みんな頑張っているな。私だけ楽をして良いのだろうか。そんなことを考えていたら、さくらさんから催促される。



「あの、リュウ先生。私たちも稽古を……」

「お、そうだな。だけど君たちの仕事はひとつ。傭兵ズに好き勝手をさせないことだけだからな……」

「先手必勝、ですか?」



ヨーコさんが訊いてくる。



「その一面もある、しかし重要なことはやはり、敵に好き勝手させないことだよ」

「それはまた難しいですね」

「楽をしてプロを名乗れると思ったかい?」

「それを言われると弱いですねぇ」



とりあえずヨーコさんは調伏できた。あとはさくらさんだ。



「君たちの仕事は、やはり敵を近づけないこと、トラッピングの隙を与えないことだ。要約すると、敵に好き勝手させないこと。わかるね?」

「はい」

「だが敵は長距離間合いでもさりげなくトラッピングを仕掛けてくるだろう。それをさせないためにも、長得物の特性を活かすんだ」



敵に突破口を見出させない。それが長兵器の役割である。まあ、欲を言えば彼女たちがトラッピング技術を使って敵をきりきり舞いさせてくれれば、これに越したことはないのだが。……カエデさんたちを見る。まだ動画を眺めてはあーでもないこーでもない、を繰り返していた。


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