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YO−HEYS

さて、件のチームを分析する前に、少しお話をしておかなければならないだろう。日本古武道、あるいは中国武術の技術がゴッソリと海外に流出してるという話だ。これは本当の話である。


例えばとても有名な忍者の先生。忍者と言っても笑いを取っている訳ではない。本物の達人なのだ。


その先生の元には海外からお弟子さんが、我も我もと引っ切り無しに稽古に来るのである。そしてそのほとんどが、グリーンベレーを始めとした特殊部隊の隊員に隊長。あるいはSWATを筆頭にした武装警察、さらには要人警護のスペシャリストなど。『生き残る技術が必要な人間』が多数学んでいたりする。


中国武術に目を向けてみれば、アメリカなど武術がそのままビジネスに直結する国へと、達人が移住したりするのである。読者諸兄も動画サイトなどで白人のオヤジさんが忍者を名乗ったり、太極拳を演武している動画を見たことがあるのではなかろうか。とにかく、犯罪に対抗すべくテロリズムに屈せぬよう、あるいは戦場で生き延びるために。欧米諸国では東洋の武術を求めているのだ。


そして彼らは『より短期間で効率よく』技術を習得するために、あるいは『戦場でより役立つように』技術を編集するのである。それが私の言う軍隊格闘技なのである。


ちなみに人口が多い、あるいは技術が広まっているということは、玉石混淆となりやすいので名乗りを上げた人物の全部が全部達人という訳ではない。御注意を願いたいところである。


というような話をカエデさんにしたところで……。



「ふ〜〜む……」



カエデさんはなにか考え込みながら、動画に見入っていた。また、なにか始めるのだろうか。



「リュウ先生から見て、彼らの段位はどのくらいでしょうか?」

「そうだね、目録くらいは与えられるかな? 系統立てた技術じゃないから、免許は与えられない。指導も任せられない」

「編集技ではそんなものなんでしょうか?」


「技術の編集は、悪いことではないんだよ。そうだね、詠春拳の達人の映画があったと思うけど、あの達人が技術の編集を香港で大胆に行って、大陸系伝統派の先人からお叱りを受けるというストーリーだったかな?

つまり本質を見失わない編集ならばオーケイということさ」



この辺りに関しては、『中国武術では編集どころか個人個人に合わせて教え方まで変える』とか、『中国武術は四千年の歴史と言っていながら、時代や環境に合わせて技術編集を簡単に行う』などの意見もある。


そして『その点日本古武道は数百年前の技をそのまま残している』と繋がるのだが、これも御注意を。我が国の古武道もまた、新参が稽古しやすいようにとか、より高い技術へとたどり着けるようにとか、さまざまな編集がされていたりする。


場合によっては、技術が失伝していても復活したりする。こんなことを述べては夢もロマンも無いのだが、日本古武道はいかなる流派でも二度滅んでいるとも考えることもできよう。一度目は明治維新や廃刀令。二度目は戦後日本のGHQによる武道禁止令。それでも受け継がれ生き永らえてきた古武道を、活かすも殺すも私たち現代人によるものなのだ。


エヘンエヘン、どうかな? 私も偉いものでしょう?


まあ冗談はさておいて、今は動画の男たちだ。



「チーム名はYO−HEYSか……元へ傭兵だってんなら、漫才のネタにもなりゃしねぇぞ?」

「日本人の外人部隊とか元傭兵が、手持ちの技術で安全に稼ごうとしているのでは?」

「だとしたらお利口さんじゃのう。いつ死ぬかわからん戦場で稼ぐより、こっちでプロになった方が良い稼ぎになるじゃろうて」


私も翁の意見に賛成だ。いかに剣客、いかに剣術使いとはいえ、戦争を飯のタネなんぞにするものではない。


さて、本題は動画をじっくりと見詰めているカエデさんだ。



「勝てないでしょうか、ウチのプロチーム……」

「向こうが目録を技なら、W&Aは切り紙といったところかな? しかもあちらはフィジカルとえげつない技術でも上を行っている」

「が、しかし!」



翁に続きを奪われてしまった。



「なんぞ面白いことを考えとるんじゃろ、お嬢ちゃん?」

「えぇ、もしかしたら……確証はまだ持てないんですが……」



そこへ士郎さんが割って入ってくる。



「まあそうだな、俺ならまず右端の奴を真っ向からズバーーン! と……」



誰もお前の話なんざしてねーよ、黙ってろ。

大体にしてそこは左端の奴を突き技でズバーーン!! だろうが。



「リュウの字、お前ぇもやかましいよ」

「何も言ってませんが……」

「心の声がやかましいわい」



そんなとこまで聞き取ってんじゃねーよ、妖怪ジジイが。



「なんか言ったかえ?」

「いえ、何も……」



そして妖怪はカエデさんには優しい。



「で、お嬢ちゃんや。なにか思いついたかい?」

「はい、もしかしたら軍隊格闘技では達人にはなれないのではないかと……」

「ひょ、こりゃ面白いこと言うお嬢ちゃんじゃのう。軍隊格闘技では達人にはなれんかい?」


「はぁ、なんとなくでしかありませんが、彼らには先が無いとでも言いましょうか。ただ強いだけと言うか……。もしも伸び代があるのなら、えげつない技術なんて身につける必要が無いでしょうし……」



相変わらず見ているなぁ、カエデさんは。


そのものズバリ、カエデさんの言うとおりだ。武術と呼ばれるものには時間の積み重ね、あるいは歴史というものがある。数多の門下生による研鑽、あるいはたった一人の天才的ひらめきにより技術が積み重ねられたり、術理が考察されることによって、恐らく個人の寿命くらいではたどり着けないほどの高みまで築き上げられてしまっている。


かく言う私も、柳心無双流の宗家を名乗らせていただいてはいるが、果たして何合目まで登り詰められるやら、というのが本音だ。しかし『強ければいい』という彼らの格闘術、これには高みも無ければ深みも無い。


いや、軍隊格闘技全般を言っているのではない。『彼ら』に限定して言わせていただいている。彼らの技は、ダイレクトに言うと『その場しのぎ』でしかないのである。その場を生き延びられれば勝ち、死んだらそれまで。ただそれだけ。だから彼らの命はとても軽いし、技術も薄っぺらなのだ。


それでも「勝っているから、負けていないから軍隊格闘技の方を学びたい!」というのであれば、私としてはどうぞご自由にとしか言えない。ただし、手っ取り早く強さを求めたところで、その技術を個人が使いこなせるかどうか?

その点は古武道も軍隊格闘技も一緒なので、あらかじめご了承を。


で、カエデさんからチーム『ヨーヘーズ』対策の具体案だ。



「う〜〜ん、まだパッとしか見ていないから確証は得られないんですけど。鶴さん亀さん戦法はどうでしょうか?」

「なんだそりゃ?」



ヒロさんは疑問符、しかし私にはピンと来るものがあった。しかし解説は、カエデさんにおまかせしよう。



「つまり、守りは亀のように固く。攻めは鶴のように鋭く、一瞬だけ」

「なるほど、W&Aならば可能性のある戦法ですね」



ヤハラくんも賛成のようだ。



「しかしその戦法の鍵になるのは、『相手が焦れてくれるかどうか?』になりそうだな。その点はどうだろう?」



士郎さんの疑問には出雲鏡花が答える。



「半々ですわね、これまでトントン拍子に勝ち進んで来た点からは、『こんなところで躓いていられない』という焦りを導き出せますし。歴戦の傭兵とするならば、『この程度の困難は困難の数には入らない』という落ち着きが予測されますわ」

「焦らせてやりたいですなぁ」

「ではこういうのはいかがでしょう?」



カエデさんは仮想空間のキーボードにタッチ。仮想モニターに丸が六つ描き出された。



「防御円陣です。全員が背中合わせで防御態勢を取る」

「それはわかるが、それで敵が焦ってくれるかい?」

「この円陣のまま、敵に攻め込みます」



いや、カエデさん。それは絵面がシュールじゃないかね?


カエデさんの作製したアニメーションなのだろうか?六人の円型陣が敵の横陣に突っ込んでゆき、ドカーンと粉砕している動画を見せられてしまった。翁まで大笑いしている。



「ややや、悪かったなお嬢ちゃん。だがよ、そこまで凝るこたぁねぇぜ」



お詫びとばかり、提案をひとつ。



「見たところこの傭兵どもよ、律儀に二人一組を守ってくれてんのよ。つまり、こいつらが攻めることのできる箇所は、せいぜい三箇所。向こうは六人、こっちも六人すぐに増援ができるってもんさ」



しかし、二人対二人が三組できたところで敵の有利は覆せない。



「だからよ、ツルカメ戦法なんだろうよ。決定打をなかなか打ち込めないのは、敵も同じ。ところがこっちは、ハナっから防御重視だからよ。ひとっつも焦るこたぁ無いのさ」



そう、きっちりとした守りで焦らせ、ツルペタのひと突きで焦らせる。それが翁の言いたいところであった。



「敵味方は六人もいるんだ、焦ったやつから頂いていけばイイのよ」



ふむ、敵も手練れならばこちらにもさらなる熟練者がいる。何ひとつ無理することはないのだろう。そしてツルカメ戦法を成功させるには……。



「鉄壁の防御と牽制を使った駆け引き。それに的確な一撃。コイツを鍛えないとな」


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